リドルは2年生になっていた。
2年生になり、彼を取り巻く環境で変わった事といえば、クィディッチの選手になった。それくらいだろう。
1年生の飛行訓練で誰よりも秀でた才能を見せつけ、見事2年生にしてクィディッチの花形であるシーカーを務める事となった。
勿論、リドルはクィディッチに興じ、スリザリンチームを勝利に導くため──というよりは、とりあえず前回よりは他者と共通の経験を積んでみよう、という彼なりの愛を理解するための行動で有り、スリザリンチームが勝とうが負けようがどうでもよかった。
「…週に、3回練習ですか?」
「そうだ。新しいメンバーが増えたからな、作戦を練り直さなければならない」
キャプテンである6年生の男子生徒が当然のように頷く。
ヴォルデモートは少し、安易に行動し過ぎたかと一瞬後悔したが後の祭りだ。今更やっぱりシーカーやめますだなんて、彼のプライドと、そしてトム・リドルとして積み上げてきた物が許さない。
「トム、一緒にがんばろうぜ!」
「試合は3ヶ月後だよね?僕たちで守るからさ!」
リドルの左からジュード・レストレンジが、右からテオ・エイブリーが肩を組み楽しげに笑った。
リドルにとって想定外だったのは2人の飛行術が優れていて、なおかつ選手に選ばれた事だろう。
ちょうど去年までいたビーターの2人が卒業してしまい、空きが出た。
リドルがシーカーに選ばれるらしいと聞いた元々クィディッチが好きで、選手になる事に憧れていた2人はビーター選出試験を受け、そして見事その座を勝ち取った。
2人の飛行術が優れていたのも勿論だが、常に共に居る2人は言葉を交わす事なくアイコンタクトで空を飛び交い、完璧なタイミングでブラッジャーを叩き落とす事ができた。
ビーターは、出来る限り息のあった者同士が良い。今後の練習である程度伸びるとはいえ、もう1人のビーターが何を考え行動するのか──それがはじめからわかっているテオとジュードが選ばれるのも、不思議ではない。
「…君たち、ただでさえ補習ばかりなのに。練習する暇なんてあるのか?」
「それはほら、トムがなんとかしてくれるだろ?」
「そうそう!」
「……」
馴れ馴れしく肩を組み、いっさい悪意のない笑顔を見せる
「…わかったよ。でも、僕も練習があるから…授業はせめて、真面目に受けてくれ」
仕方がないなぁ、と言うようにリドルが笑えば、テオとジュードは「勿論!」と答える。しかし、2人はそもそも勉強があまり好きではない。特に他の生徒と比べて劣っているわけでもないのだが──口では素直に頷きながら、全くもってやる気はなかった。
大好きなクィディッチの選手に選ばれたのだ。勉強など、二の次であるのはクィディッチ好きの12歳の少年なら当然だろう。
リドルは笑顔のまま固まる。
開心術で2人の心を見た時に、その2人の言葉が嘘であると知ってしまったのだ。
『勉強そっちのけでクィディッチに打ち込み、これからもトムに課題を手伝ってもらおう!』という思想を読み取ったヴォルデモートは、先ほど脳内に浮かんだ後悔をさらに強めた。
「じゃあ、早速…テオとジュードはブラッジャーを使って練習。トムはスニッチもどきを使って練習な。速さと大きさは本物と同じだけど、逃げ出さないように2時間で元の場所に戻ってくるようになってる。他の選手達も各々練習してるから、怪我には気をつけて」
「…わかりました」
「はい!」
「頑張ります!」
こうして第一回目のクィディッチの練習が始まった。
すぐにピッチに他の選手が現れ、それぞれ
箒に跨り空を飛ぶ。リドルは自分の箒を持っていなかったが、前任のシーカーが置いていったそこそこ優秀な箒を使用する事が出来た。──ちなみに、裕福な家系であるジュードは父親に最高級の箒をプレゼントしてもらっていた。
リドルはクィディッチの時に使用するゴーグルをつけ、箒に跨った。こくり、と頷けばキャプテンが箱の中から金色のスニッチもどきを解放する。しゅん、と小さな羽音を立ててスニッチは飛び上がり、太陽に向かって高く駆け上がった。
──週に3度も練習があるのは面倒くさい。…まぁ、今回は秘密の部屋や自分のルーツを探さずにすむ。…時間があるのも事実だ。…これは、愛についてより理解するためにきっと必要な経験なのだ。
前回に行わなかった事を、俺様はなるべく行わねばならん。全ては、愛とやらを理解する為に。
リドルは空を飛び、空高くから下を見下ろした。
選手達が飛び交い、言葉を出さずとも心が通じているような動きを見せる中で──この繋がりが、愛とでもいうのか?とヴォルデモートは考えた。
──いやしかし、思考を繋げるのであれば思念魔法で済む。なぜわざわざ交流し、仲を深める必要があるのだ。そもそも、ブラッジャーに魔法をかけて相手の選手を妨害すればいいのではないか?いや、前日に呪えば戦力を大幅に削減できる。真面目に練習する意味がわからん。しかし、どうやら…やはり、選手同士には特別な繋がりのようなものがあるように見えるな…服従魔法でもかけているのか?
ヴォルデモートは観察する。
普通の生徒たちの動きや、その表情を。
特に得たい能力ではなかったが──だとしても、きっと必要な事なのだ。
「──っ!?」
突然、すぐ顔のそばをブラッジャーが猛スピードで駆け抜け、リドルはギリギリで交わすと一回転し体勢を整える。
「トム!ぼーっとしてたら危ねぇぞ!」
後ろにいたジュードが大声で叫び、ブラッジャーをバッドで殴った。打ち返されたブラッジャーは、またリドルの元へ向かう。
「おい!──こっちに打ち返すな!」
「わぁ!トム、どいてー!」
「なっ!?」
リドルは再び猛進してきたブラッジャーをかわし空に飛び上がったが、ジュードを睨んでいたリドルはその先にテオがいた事に気がつかなかった。
テオの叫びを聞きすぐに互いに箒を引っ張り無理矢理進行方向を変えたが、僅かに箒の先が接触し、2人ともバランスを崩し大きく高度を下げた。
「くっ…!──邪魔だ!」
すぐに体勢を整えたリドルがテオに向かって吠えれば、テオはむっとしてすぐに噛みつき返す。
「僕のせいなの!?トムがその辺にいるからでしょ!シーカーはスニッチが見つかるまでは他の選手を邪魔しないで上空待機!常識だよ!?」
ぷりぷりと怒りながらテオがバッドを振り回し、また近くに来ていたブラッジャーを遠くに打ち返す。尤もな言葉にリドルはぐうの音も出ず、舌打ち一つ零すと柄をぐっと上げさらに上空に飛んだ。
テオとジュードはクィディッチが好きだ。
彼らはまじめに練習していただけで、そもそもこの場でまじめに練習していないのはリドルだけだった。
しかし、しかしだ。
2度目の人生ではじめて他人に、それも真っ当な理由で怒られたリドル──ヴォルデモートの心は屈辱と怒りで燃えていた。
ギラギラと目を赤く染め、リドルは怒りのままに素早くあたりを見渡しようやく選手として動いた。
スニッチがジュードの後方に飛んでいるのを見つけると、直ぐに槍のように急降下し、手を伸ばす。
「うわっ!?」
「邪魔だ!どけ!」
猛スピードで急降下するリドルに、ジュードは驚きながら飛び退く。追いかけられている事に気がついたスニッチは速いスピードで流星のように逃げ惑う。
だが、彼はヴォルデモート卿。一度狙った獲物はしつこく付き纏い、その首を捉えるまで離さない。
微塵もスピードを緩める事なく地面に向かって落下するリドルを見た他の選手たちは、ぶつかる、医務室の予約しなきゃ、トムの顔面が無事ならいいけど──と、本気でそう思った。
リドルは持ち前の長い腕を伸ばし、地面スレスレでスニッチを掴むと柄先を強く上げた、箒先がギャリギャリととんでもない音と土埃を上げながら地面と擦れ、芝生が捲れ剥き出しになる中、リドルは枝がばらばらと分解されていく箒を手放し、軽い足取りで地面に降りると何食わぬ顔で掴んだスニッチを掲げた。
「──すごい!!」
すぐに他のメンバーが駆け寄り、リドルの確かな才能を褒め称える。満更でもない表情を見せながら胸を逸らしていたリドルだったが、スニッチを取ることが出来た代償は大きい。
「凄い。けど…。そのファインプレーは試合で見せて欲しかったな…箒が木っ端微塵だ」
キャプテンは苦笑しながら地面の上に転がる無残な箒の残骸を指差す。
リドルの無理な飛行術により、箒の先は本来の長さの半分になり、至る所から枝がぴょんぴょんはみ出ていた。
「うーん。トムにはもっと優秀な箒が必要だな。乗り手が良くても箒が劣っていたらその能力を発揮できないだろう。スラグホーンにちょっと言ってみるか…」
キャプテンは無惨な姿になった箒を拾い上げ──ぽろぽろと枝が落ちた──真剣な表情で呟く。
リドルは一応、ちょっと申し訳なさそうな表情を浮かべてみた。
リドルがクィディッチをしているところを見てみたかっただけです。
絶対カッコいいですよね?