ヴォルデモート卿、人生をやり直す。   作:八重歯

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09 ヴォルデモート卿、怒りを見せる。

 

 

 

リドルははじめてのクィディッチの試合で当然のようにスニッチを掴み、チームを勝利に導いた。スラグホーンにより与えられた箒はコメット180という、当時作られた箒の中では優秀な箒であり──ジュードも同じ箒を使用していた。

 

勿論リドルだけの力ではないが、シーカーがスニッチを掴めば150点もの大幅得点であり、その時点で試合が終了するというゲームの性質上、最も貢献したとも、言えるだろう。

 

 

スニッチを手に持ったまま地面に降りたてば、すぐに他の選手たちが集まりリドルに駆け寄る。

 

 

「凄いぞトム!」

 

 

キャプテンがリドルの頭をぐりぐりと撫で、他の選手たちが抱き着き背を叩く。揉みくちゃにされているリドルは「はい!勝てて嬉しいです!」と口では言いながら、土埃で汚れている選手達が馴れ馴れしく自分の体に触れる事に耐えられずストレス値はどんどん上昇していた。

 

 

──試合には勝った。つまらん、スニッチを得ることが出来れば簡単に勝利するこのゲームの何が面白いんだ。特に達成感も何もない。それに、結局愛の何たるかなんぞわからなかったな。

 

 

勝利に盛り上がるチームメイトをよそに、リドルの心はちっとも動かなかった。

その日はスリザリン寮で一試合目の勝利を祝う宴が催され、上級生が厨房にいるハウスエルフに飲み物やケーキ、チキンなどを頼みこっそり寮に持ち込んでいた。

 

口々にリドルの高い能力を誉め、今年はクィディッチ優勝杯はいただきだと歓声をあげパンプキンジュースの入ったゴブレットをかかげる。

リドルは最も貢献した選手だとして無理矢理その宴の中央に座らされ、目の前に数々のお菓子や料理が出されていた。パンプキンジュースの入った大きなゴブレットを両手で持ちながら、リドルはニコニコと人の良い笑みを浮かべて、勝利に湧く生徒たちを見渡す。

 

 

──試合で勝てただけでこれ程嬉しいものなのか。わからぬ。理解が出来ん。敵を殺したわけでもあるまいに…。

 

 

この賑やかな宴の中、ヴォルデモートただ1人が冷めきった目をしていたが、勝利の楽しげな熱に浮かされた彼らはちっとも気がつかない。

 

 

 

その宴は夜遅くまで続き、談話室の時計が12時を指した頃にようやく欠伸を噛み殺しながらパラパラと生徒たちは自分の寝床に戻った。

 

リドルもようやく鬱陶しさから解放されたか、とため息をつきながらテオとジュードと共に自室に戻る事が出来た。

リドルが服を着替え、明日の授業に使う教科書を鞄の中にいれていると、後方からジュードの「あ、やべ」と小さな事で呟きが聞こえ──リドルは嫌な予感がした為、無視をした。

 

 

「あー、どうしようかなぁ」

「……」

「やばいなー」

「……」

「うっかりしてたなー」

 

 

リドルはチラチラと背中にジュードの突き刺さる視線と察してくれとばかりの台詞を聞いていたが、もちろん無視をした。

 

 

「あ、僕もやばいなー」

「……」

「どうしようかなー」

「……」

「徹夜かなー」

 

 

その声にテオの声も加わった。しかし、リドルはやはり無視をした。

 

 

「テオもか?やっぱり徹夜だな。トムが」

「──何故そうなる!!」

 

 

さらりと言われたジュードの言葉に、リドルは思わず振り返って叫んだ。

ジュードとテオは手にまっさらな魔法薬学のレポートを手にし、リドルに向けながら肩をすくめた。

 

 

「そのレポートは、もう終わったと言っていただろ!」

「いやー終わったと思ってたんだけど」

「うん、レポートした記憶があるから、たぶん夢でやってたんだね」

「──馬鹿か貴様ら!!」

 

 

ちっとも悪びれた様子がないテオとジュードに、リドルは…いや、ヴォルデモートは今までつけていた優等生で優しいトム・リドルの仮面を少し、脱ぎ去り叫んだ。

 

 

「クィディッチの練習前に課題を終える約束だっただろ!?どうするんだ!この期限は明日までだ!」

 

 

初めて見る怒ったリドルにテオとジュードは少し驚いていたが、気にする事なく怒りで震えるリドルの肩をぽん、と叩いた。

 

 

「うん、わかってるさ。だから、徹夜だ!」

「一緒に頑張ろう!」

「ク──」

 

 

 

──クルーシオ!!

 

 

 

と、ぎりぎり叫ぶのをなんとか堪えたヴォルデモートは、まさに人生で一番努力したと言えるだろう。実際ヴォルデモートはかなり沸点が低い。すぐに苛立ちクルーシオを放ち部下を苦しめる事でストレスの発散をしていた。

なんとか堪えられたのも、今まで彼らに──不本意だが、振り回されていたおかげだと言えるだろう。

 

何度も深呼吸をし、なんとか心の奥から湧き上がってくる怒りを抑え、脳内で存分にクルーシオをかけたのち──リドルは今まで通りにっこりと笑った。

 

 

「もう、仕方ないな…」

「ありがとうトム!最高の友人だよ!」

「頑張って終わらせようね!」

「じゃあ一緒に──」

 

 

──しよう。そう言う決心はついていた。

 

何故ならトム・リドルだからだ。

優しき彼らの友人であるのなら、こんな馬鹿なこいつらの事も受け入れなければならん。そうヴォルデモートは思ったが。

 

テオとジュードのニヤリとした意地悪げな笑みを見たヴォルデモートは、その裏に隠された2人の思考を読んだ。

 

 

──トムってマジでちょろい。

 

 

 

びしりと固まったリドルは、その目を瞬時に真っ赤に染めた。目の色が赤く染まったリドルを見て、テオとジュードは驚き息を飲む。

 

 

胸の中を占めるのは怒りとこんな奴等に下に見られている屈辱。ヴォルデモートとして耐えられるわけもなく──そもそもかなり限界だった、むしろよく今まで耐えてきた方だろう。

 

しかし、僅かに残る冷静な部分で『何があってもダンブルドアを騙し切る事が先決、こんな奴らのせいで台無しにされてたまるものか!』いう思考と意地が、なんとか杖に手を伸ばす事を止めていた。

手はピクピクと動き杖を求めていたし、何の心配事もないのならすぐにクルーシオ!と叫んでいた事だろう。

 

 

優しき優等生の仮面を()()脱いだリドルはその表情を歪め2人の手から真っ白なレポートを勢いよく奪うと床に叩きつけた。

 

 

「喜べ。僕が監督してやろう。さあ、すぐにその羊皮紙を拾い上げ教科書を開け」

「トム…?」

「ど、どうしたの?…お、怒った?」

 

 

その言葉使いはいつもの優しく温和なリドルとは想像もつかない程、粗暴で上から目線だった。

確かにクィディッチの練習をしている時にはよく「馬鹿が!」「邪魔をするな!どけ!」と言われていたが、クィディッチに熱中する少年にはよくありがちな暴言だと2人は受け止めていた。

あまりに態度の違うリドルに、テオとジュードは「やばい」と思ったが、もう全て遅い。

 

 

リドルはベッドの上に勢いよく座り、足を組み、呆然とする2人を見下した。

 

 

「返事はYES以外認めない。つべこべ言わず早くしろ!教科書185ページ、質問は許さない。頭の中に叩き込め、ない脳を絞って正解を導き出せ」

「…イ、イエッサー!」

「わかりました!」

 

 

2人はすぐに頷き、どうやらさすがの優しいトムもブチギレてしまったようだと顔を引き攣らせながら課題に取り掛かった。

 

とはいえ、なんだかんだ教えてくれるトムってやっぱり優しい、とは思っていたが。

 

 

その後2人はかなり真面目に課題に取り組んだ。

手を止めてしまえばリドルが盛大な舌打ちを漏らし苛々とした雰囲気を隠す事なくぶちまけていたせいもあるだろう。

いつもなら4時間はかかるレポートだったが、なんとか2時間で終えることが出来、テオとジュードは机に突っ伏し「で、出来ました…」とリドルにレポートを見せた。

 

無言で受け取ったリドルは2人のレポートに目を通し、まぁ2人にしてはそこそこ見れる形になっていると頷くと、ようやく険しかった表情を緩めた。

 

 

「…ふん。まあ…君たちにしては、よく出来ているんじゃないかな」

「…うん…あの、もう怒ってない?」

 

 

テオがおずおずと聞けば、リドルはふっと笑い手に持っていたレポートを瞬時に燃やし消し炭にした。

 

 

「ああーーっ!?」

「な、何するんだよ!」

 

 

リドルの凶行に、テオとジュードは絶望感のある悲鳴を上げ立ち上がったが、リドルはにっこりと笑みを深める。

目はちっとも笑ってなかったし、赤いままだったが。

 

 

「オブリビエイト!」

 

 

リドルは杖先を2人に向け、忘却魔法をかけた。

絶望していた2人の表情はすぐにぼんやりとして、静かに椅子に座り直す。

 

 

──うむ、やはり絶望に染まった顔と悲鳴は良いものだ。本来ならクルーシオをかけてやりたいところだが、今の俺様のクルーシオは間違いなくこいつらを壊す。俺様の力が強大である事に感謝するが良い。

 

 

ヴォルデモートはわざわざ彼らの絶望の表情を見るために、時間をかけてレポートを完成させ目の前で燃やすという手段に出た。

彼らの悲鳴と絶望を見て。ようやく、少しは胸の怒りが晴れたヴォルデモートは新しい羊皮紙を2人の目の前に置くと、ゆっくりと低い声で囁いた。

 

 

「テオ、ジュード。レポートを早く終わらせろ」

「ああ…うん、そうだな」

「そうだね…」

 

 

ぼんやりとしたまま、一度完成させたと言う事実を忘れた2人は羽ペンを掴み、またカリカリとレポートを作成していった。

 

 

 

ヴォルデモートは少し満足げだったが。

結局これはさらにレポートが完成する時間が伸び、睡眠時間が減るだけで自分の首も苦しめていると言う事に、ヴォルデモートはまだ気が付かなかった。

そんな事よりも、この2人の絶望を見る事がなによりも大切だったのだから──仕方がない。

 

 

そして、この日を境にヴォルデモートはそこそこ2人を叱責する場面が見られるようになり、むしろあの完璧な聖人君子なリドルもやっぱりそれなりに人間らしく怒ったりするんだな、と生徒たちは肯定的に温かい目で受け止めていたという。

 

 

 

 






クィディッチをしたところで、ヴォルデモートには友情!努力!勝利!なんて気持ちには微塵もならなさそうですよね。

馬鹿コンビが学生時代にやらかせばやらかすほど、死喰い人になった時に危険な任務にばかり向かわされる運命にあります。
それも、仕方がないですね…。


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