もびるすーつこれくしょん~もびこれ~   作:三段腹肉之介

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プロローグ

 

 

 

――――時は正暦2343年、ガリア大陸。

 

 

 

 

 この大陸では近年、内陸部において太古の高度な文明の遺産が眠る遺跡、「マウンテンサイクル」と呼ばれるそれから出没する、正体不明の自立機械による破壊活動に悩まされていた。

 鋼の体を持ち、炎をまき散らして進み、光る剣や銃で武装したそれに、近年、ようやく飛行機の開発に成功した程度のガリア大陸の技術レベルでは、それに対抗する術を持たなかった。

 蹂躙される居住区、寸断される物流網。座して待つばかりでは間違いなく滅亡がやってくるだろう。そう判断したガリア軍部は、一縷の望みをかけ、「マウンテンサイクル」の大々的な発掘を開始した。目には目を、歯には歯を、機械人形には機械人形を、ということである。

 そうして、有り金全てを上乗せした賭けの結果、人類は暴走する機械人形に対抗できる唯一の力を手に入れたのだ。

 

 

――太古の機械人形、モビルスーツの力を宿し、

 

――鋼の鎧に身を包んだ少女達。

 

――戦う為の力。

 

――人はそれを、モビル娘と呼んだ!

 

 

 これは、そんな少女たちを率いて戦う、一人の軍人の物語である。

 

 

 

 

 もびるすーつこれくしょん~もびこれ~始まります。

 

 

 

 

 とはいったものの、そんなものをどうやって運用すればいいのか、そんなものわかるわけがない。前例が無いのだ、手当たりしだいにおもちゃ箱をひっくり返して、そうして手に取った見たこともない代物をどうにかして使って見せろ、つまりはそういうことなのだ。

 民間人を守る軍人であるのだから、命令自体は必然の結果として異論はないが、どうしても気遅れと言うか、やる気がマイナス方向に傾いてしまっているのを自覚する。

 これではいかん、と思いつつ、着任と同時に配布された資料をもう一度熟読する。

 モビル娘――「マウンテンサイクル」から出土する技術の中で、限定的にとはいえこちらで運用可能となった兵器の総称。

 モビルスーツと呼ばれる太古の巨大人型機械の性質をもった兵器でありながら、一個の自立した人格を有する存在。しかし、そのメンタリティは人間と似通った性質を持っており、円滑なコミュニケーションの下、人類を守護する軍事力として有効活用できる可能性があるとされる。

 そうして計画されたのが、モビル娘主体による防衛部隊の設立計画――「RX-V計画」である。ちなみにこの名称は、遺跡から読み取ることのできた断片的な情報から肖ったものらしい。験担ぎと言うわけだ。

 

「着任予定地では既にモビル娘の一人が先行配属されている……、当面はその子を副官に据えての部隊の拡充に努めよ、か」

 

 資料の最後に綴られた方針を口に出して確認すると同時に、乗っていた車が着任予定地に辿り着く。長時間の長旅に固まった体を解しながらここまで運んでくれたドライバーに謝辞を告げる。

 そうして、車が少しだけ土煙を巻き上げながら走り去っていくのを見届けてから、これからの活動拠点となる施設へと目をやった。

 とはいっても、特に目を引く所は無い、軍事組織の施設らしく、飾り気のない質実剛健さを漂わせた四階建てほどの建物が鎮座しているだけだ。モビル娘とやらもサイズは我々人間と変わらないらしいから、外観からわかる程に特殊な施設など必要無いのかもしれない。

 全ては、先行配属されたモビル娘に会ってからだろう、願わくば、その娘と仲良くやっていけますようにと願いながら、施設の門をくぐる。

守衛に身分証明書を提示し、玄関近くに展示してあった案内板を頼りに隊長室へと向かう。それほど複雑な内部構造をしていなかったために、さして迷うこともなく順調に隊長室のドアの前へとたどり着く。

 

 

――この奥に、モビル娘がいるのか。

 

 

 軽い緊張を感じる。

 ここから先は前例の無い、未知の連続となるだろう。それでも、これより先の行動に、人類の未来がかかっているのだと思えばこそ、無様は晒せない。背筋を正し、身なりを整え、意を決してドアノブに手をかける。

 

「――失礼する!」

「うひゃあっ!?」

 

 開いた扉、その向こう側にいたのは驚き声を上げて床に転ぶ女性の姿だった。……しまった、ノックを忘れてしまうとは。ともかく、こちらの落ち度でこのような状況に遭ってしまったのだから、早く起こしてあげなければ。

 

「済まない、大丈夫か?」

「え……あ、はい。大丈夫です」

 

 どうやら怪我はないようだ。そのことに内心でホッとしつつ、転倒の拍子にばらまかれてしまった書類を拾い集める。ばらまかれていた書類はやはりというべきか、「RX-V計画」に関する書類ばかりであり、恐らくこの女性は、と内心であたりを付ける。

 

「これで全部かな?」

「どうも、ありがとうございます」

「いや、こちらの落ち度だからな、当然のことだよ。――それよりも自己紹介が遅れてしまったな、このたびこの部隊の隊長に任命されたドゥーエ・イスナーン少佐だ、よろしく頼む。君が、モビル娘なのだろう?」

 

 ロングの黒髪に、高くもなければ低くもない背丈。野暮ったい黒ぶち眼鏡と相まって、一言で言えば地味な印象を与える彼女は、私の自己紹介に改めて居住まいを正し、

 

「えぇ、その通りです。RGM-79ジムと申します、これからよろしくお願いしますね」

 

 にっこりと微笑み、私の予想を肯定してくれた。

 どうやら本当に、我々人間と変わらないメンタリティを持っているらしい、モビル娘と言う奴は。そう感じさせる表情だった。

 

「こちらこそ、よろしく頼む」

「はい、隊長の期待に、精一杯答えさせていただきますっ!」

 

 ただ、そうして拳を握りしめ決意表明してくれるのはありがたいのだが――

 

「……書類、落ちたぞ」

「え、ああっ!?」

 

 少しばかり、ドジな面もあるらしい。……ますます、兵器である印象が薄くなってきた。

 

 

                    ■■

 

 

「――――我々モビル娘は、遺跡から出土した専用プラントで生成された生体端末に、太古の機動兵器であるモビルスーツのデータがインプットされて作られます。その際に入力されたモビルスーツの性能及び戦闘データがモビル娘それぞれの記憶や人格の元となっているようです」

「ジムにもそういう物があるのか?」

「はい。しかし私の場合は大量生産された量産機ですから。そうした戦闘データの平均値から人格が決定付けられていますので、そうした意識は希薄ですね。むしろワンオフの高性能機や、試作実験機などの方が特定の個人の影響を受けやすく、悪い言い方をすれば、癖の強い性格になると思います」

 

 そんな感じの自己紹介を終わらせた直後、ジムから改めてモビル娘の概要を教授してもらうことにした。資料には全て目を通しているが、やはり、彼女当人から聞いた方が、これからの任務に役立つだろう。何より、未だ彼女たちは未知の存在だ、相互理解を深めるに越したことは無い。

 幸いにして、ジムは素直な子だった。かつて量産機として作られた結果だろう、こちらの質問にも変に噛みつくことはなく、要点を噛み砕いて説明してくれている。

 

「ふむ、性能や戦闘データをもとに人格が作られているのか」

 

――じゃあ、ジムの少しドジなところはどこから来ているんだろうか。

 

 失礼な疑問ではあったが、そうした要因が実戦の場でミスを誘発し、当人だけでなく他の仲間も危機に晒すかもしれないと思えば、看過できない疑問でもあった。しかし、そんなことを不躾に聞くのは失礼ではないのか、とも思う。

 

「……い、言っておきますが、私が少しドジなのは初期生産型の不具合までが反映されてしまった結果ですからねっ! 実働データを集めて改修作業を行えば、そんなものはすぐに消えるんですよッ!」

「そ、そうか……」

 

そんな思考が表情に出ていたのだろうか、ジムは消え入りそうな声で恥ずかしがりながら注釈を付けて来た。もしかしたら当人も自覚していて気にしているのだろうか。

 

「――と、まぁ、モビル娘の開発過程の説明はこれで終わりです」

「要点を纏めると、モビル娘の開発は出土した専用プラントに各種資材を投入して行う。プラントの完全解析に至っていないために、どのような機種が作られるかは運任せ。しかし、投入されるし材料を調整して、ある程度の方向性を付けることは可能、と言うところか」

「はい、その通りです」

「加えて必要な各種資材――装甲材・ヘリウム・エネルギーCAP・フレーム材、そのどれもが今の我々の技術では精製不可能。遺跡からの採掘か、敵性機械の残骸からの入手に頼るのみ。……聞けば聞く程に自転車操業と言う言葉しか出てこないな」

 

 加えて、ジムの言葉によると、彼女自身の戦闘能力はそれほど高くは無いらしい。一応、各種武装は一通りそろってはいるらしいが、原型が最初期に作られた機体と言うこともあって、基礎スペックは低いとのことだ。

 

「現状、できることと言えば演習によるモビル娘の戦術ドクトリンの制定と、近隣の遺跡からの採掘作業が主体になるな。無理をして戦場に出ても返り討ちにあうだけだ」

「すみません。私の力が至らないばかりに」

「君のせいじゃない。この計画は始まったばかりだ、至らぬ所などそれこそ無数に出てくるだろうし、それを洗い出し、後の者たちに伝えることこそが望まれていることだ。戦うことじゃなく、何よりも生き残ることこそがこの部隊の至上命令と思ってくれていい」

「……隊長。そうですね、泣き言なんか言っていたら始まりませんね」

「とはいえ、実働戦力が君一人だけと言うのはまずいな……、どうしたものか」

「あっ、そのことなんですが隊長、一回分の製造資源ならば備蓄があります」

「本当か?」

「はい、私と同じジム系列ができる分量ですが、どうされますか?」

「ふむ、ならば、モビル娘製造の実践テストを兼ねてやってみるか。早速その専用プラントに案内してくれ」

「了解しました」

 

 少なくともこれで、前衛と後衛を分担できるようになるだろう。

 その安堵を感じながらジムの案内で地下にある開発施設へと向かう。

 

 

                     ■■

 

 

 人間一人分ぐらいは内包できそうな、薬液の充填された円筒型の容器に、用途のわからない多種多様な機械が絡みついている、そのような外観だった。

 

「これが、モビル娘を作るのか……」

 

 ただ単純に、想像もつかない技術で作られていると実感させるその外観に圧倒される。

 

「隊長、各種資材の投入が完了いたしました」

「そうか、なら早速実行してくれ」

「了解しました、モビル娘の建造を開始します」

 

 小気味いい返事で、ジムはプラントの操作を行っている。その姿は先ほどまでとは違い、手足や頭部に緑がかった白色の、胸部に赤いアーマーを装備した姿になっている。左腕には六角形を引き延ばしたような形状のシールドを、右腰部にはプルバップ式とか言う、銃把の後方にマガジンが装着されているタイプの機関銃をマウントしている。

 これがジムの、モビル娘としての戦闘状態らしい。何故そんな物々しい格好をしているのかと言えば、モビル娘と言うのは製造直後が一番不安定な状況にあるらしく、万が一に備えるため、とのことだ。

 

「もっともジム系列は、そのどれもが信頼性を売りにしていますから、万が一の状況なんてそんなに起こりませんよ。連邦軍の主力量産機の肩書はだてじゃないです! ――――あ、でもカスタムさんが出て来た時にはそういったことを言わないでくださいね。特徴がない自分にコンプレックスを持っていますから」

 

 胸を張って不安を払拭してくれるジムに安心感をもらいながら、プラントの容器内部で形作られる新しい仲間に期待を寄せる。果たして、どんな娘が来てくれるのだろうか。容器内部の薬液が泡立っているので、ぼんやりとした影でしかその形を確認できないが、それが逆に期待感を膨らませていった。

 

「隊長、新しい機体が完成いたしました!」

「そうか、なら早速出してやってくれ」

「わかりました、カバーを開放しますね」

 

 薬液の排出と同時にプラントのカバーが開かれ、残留薬液が蒸気となって流れ出てくる。

 その薬臭い煙が散って、ようやく、新しい仲間の姿が鮮明になった。

 

 

――蒼。

 

 

 一言で表現するならばそれだろう。それほどまでに鮮明で、鮮烈な、蒼色の装甲を身に纏った少女がそこにいた。

 赤いバイザーの奥には、まるで血の色の様に赤い瞳が光り、その表情は一本の剣の様に引きしめられていた。

 正直に言おう、仲間である筈の彼女に、恐怖と戦慄を感じていた。これが量産機? そんな馬鹿な話があるか。これは信頼性とか量産性とか、そんな言葉の対極に位置する存在だろう。

 いや、恐らく、戦力として見るならばこれ以上に無い程の当たりなのだろうが。それにしたって言わば初心者である自分に対してこれは荷が重すぎるように感じてしまう。

 

「……おい、ジム」

「え、えっと……。誰なんでしょう、この方?」

「お前も知らないのか!?」

「だって私量産機ですから、極秘計画とかで作られた試作機とか全部知っているわけじゃないですよぅ……、絶対この方そういう類ですよ!」

 

 そんな間抜けなやり取りをジムと繰り広げていると、蒼いジムタイプは一歩踏み出すと、

 

「――済まない、自己紹介をさせてもらっても構わないだろうか」

「えっ、ああ、そうだな」

「では――」

 

 そして、数瞬の沈黙の後、

 

 

 

 

「――――(システム面だけは)ジオン生まれのブルーディスティニーデ~スッ!! よろしくネー、隊長さん!!」

 

 

 

 

 なんかもう色々と台無しだった。先ほどまでとは違う戦慄が場を包む。具体的に言うと、「――――うわ、盛大に滑りやがったコイツ」とかそんな感じだ。と言うかこいつはどっちが素の性格なんだ?

 

「……えっと、その」

「その、なんだ、この部隊の隊長を務めているドゥーエ・イスナーンだ。よろしく頼む」

「一応この部隊の副官扱いということになっています、RGM-79ジムです。よろしくお願いしますねブルーディスティニーさん」

「…………ぐすっ」

 

 こちらの、先程の失態を見なかったことにした優しさは、返ってブルーディスティニーの心を抉ったようだ。

 怜悧な見た目のくせして、かなり涙もろいらしい。泣き崩れかけている彼女に対して、ジムが必死になって宥めている姿を見て、これからの先行きを不安に感じるのだった。

 

「……ぐすっ、……ひっく」

「え? 気負い過ぎていつも失敗しちゃうんですか? 大丈夫ですって、それぐらい大したことありませんよ!!」

 

 

 

 

――――本当に、これから大丈夫だろうか。

 

 

 

 




 と言うわけで書いてしまったガンダム風艦これ。秘書艦がジムで、最初の建造任務でなぜか激レアを引いてしまった様な感じです。あと、主人公の名前に関しては、UCガンダム外伝漫画から引っ張ってきているだけですので、特に設定に絡んでいるわけではありません。最初名無しの隊長にしようと思ったぐらいですし。
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