なだらかな山岳地帯、然程険しくない斜面にジムとブルーディスティニーはいた。
二人の格好は各部装甲やバックパック、武器類を装備したモビル娘としての姿であり、これより戦闘を行うことが見て取れた。視線の先には、それを裏付ける様に数体の敵性機械人形がいた。
「あれが私達の敵、というわけですか。準備はいいですか、ブルーさん」
「あぁ、問題ない。……それにしても、分類どころか名称すらないのがようやく理解できたよ」
「そうですね……、正に
ジムの言葉通り、ジャンクは正に継ぎ接ぎといった感じであった。数体と言う少ない数にもかかわらず、統一性と言う物が全く無かった。ガラクタの中から子供が適当につなぎ合わせたかのような見た目をしていた。
唯一共通しているのは、人型をしていることと、人類に対して敵性行動をとることだけ。
だが、二人がそのような存在に臆することはない。その為にここにいるのだから。
モビル娘としての建造理由、本能とも言うべき部分が、二人に静かな高揚をもたらしていく。
『――二人とも、準備はいいか』
無線から、ノイズ交じりの隊長の声が響く。
『あらかじめ決めた通り、ジムを後衛、ブルーディスティニーを前衛にあてる。周知のことだろうが、これがモビル娘を投入する初めての戦闘となる。どのような不備、アクシデントが発生するかわからん。敵は少数とはいえ、けして油断することがない様にな』
「了解しました、隊長」
380mmハイパーバズーカを左手に、90mmマシンガンを右手に持ったジムが、装備の手応えを確認しながら了解を示す。腰にはバズーカの予備マガジン、左腕の装甲のマウントラッチに装備したシールドの裏側にはマシンガンの予備マガジンを装備したその姿は、まさに現時点でのフル装備と言えるものだった。
その分機動力の低下が発生していらしく、その足取りは少し重たさを感じさせている。
「こちらも問題はありません、隊長。ブルーディスティニーの力、存分にご覧にいれて差し上げましょう」
対してブルーディスティニーの装備は、陸戦用の機体に多く配備されていた100mmマシンガンと、陸戦機体用の小型シールドのみと言うシンプルな装備だった。敵の矢面に立つために、火力よりも機動力を重視した武装だ。
とはいえ、ブルーディスティニー自体が固定兵装として、胸部アーマーに機関砲と有線誘導式ミサイルランチャーをそれぞれ二門備えているために、火力面でもジムに引けは取らないのだが。
『――よし、それでは戦闘開始っ!!』
「了解しましたっ!!」
「了解したっ!!」
戦端を告げる言葉に答えつつ、ジムとブルーディスティニーはバックパックに搭載されたメインスラスターを点火し、戦闘機動に移る。青白い炎を噴きだしつつ、あらかじめ決めておいた位置取りを行うべく、滑る様に山肌を駆け抜けていく。
その軌道は、ジムは円弧、ブルーディスティニーは直線を描いていた。敵集団に突撃するブルーディスティニーに対し、ジムがその側面を突く形だ。
「――捉えましたっ! これより攻撃を開始します」
敵味方の中で最大射程を持つジムのバズーカが、その声と共に榴弾を発射する。
響き渡る射出音と硝煙の匂い、それが戦端を告げる。
――モビル娘の戦闘は、大きく三つのフェイズに分けられる。
射撃戦・格闘戦・乱戦、この三つだ。
味方部隊の中で最長射程を有する機体が先制攻撃をかけ、それによる敵戦力の漸減と牽制を行い、それから格闘攻撃を行う機体が切り込みをかける。統制のとれた戦況はここまでであり、そこから先はあらゆる要素が入り混じった有機的な戦況になるのが常だ。
そうした一連の流れを大まかに分類したのが先にあげた三つのフェイズであり、モビル娘それぞれの特色によって、力を発揮できる場面が異なってくる。
ジムは原形機が主力量産機だっただけのことはあり、どの戦況でもある程度の働きが見込めるオールラウンダーだ。その分、それぞれの分野では特化型の機体や、ワンオフの高性能機に後れをとってしまうが。
今回はその汎用性を生かしての後方からの火力支援を行い、切り込みをかけるブルーディスティニーの援護を行うのがジムの役割だ。
そのような意図が込められた榴弾は、敵部隊のど真ん中に着弾し、爆炎と土煙を巻き起こす。
次いで、あまり狙いを付けずにばら撒かれた90mmマシンガンの弾丸が、更に敵部隊の足を鈍らせる。
その隙を突き、同様に100mmマシンガンをばら撒きながらビームサーベルによる格闘戦を行う、と言うのが事前に立てた戦術だった。
「お、おぉ――――!!」
そのプランに沿った形で、ブルーディスティニーが脚部アーマーの側面装甲から光刃を抜き放つ。唸り声と共にばら撒かれた弾丸の跡を追う形で、ブルーディスティニーも蒼き弾丸となって敵部隊に突撃をかける。
まずは一機、灼熱のビームが敵を斬り伏せる。
その光景を後方で視認していたジムは、少なからず安堵をおぼえた。少々性格に不安定な所があるブルーディスティニーが、さしたる動揺もなく戦闘をこなしているのだから。
建造当初に見せた醜態の様に、気負い過ぎて無謀な行動を取らなくて良かった。幸いにも敵の戦力は低い。こうして一機撃破したにもかかわらず反撃はひどく散発的で、自分たちをきちんと敵として認識できているかすら怪しいものだ。
「成程、これならば実戦演習としては申し分ないですね」
油断ではなく、冷静な分析に基づきジムはそう呟いた。これならば、順当な勝利報告を隊長に行うことができると、少しばかり喜びながら。
「う、がああああああああああぁっ!!」
――――EXAM system standby
狂乱の咆哮と、ブルーディスティニーのそれとは違う感情の色を排した無機質な機械音声が、その順当な予測を打ち砕いた。
元より赤いブルーディスティニーの瞳が、血の色の如き紅さを滲ませている。
明らかに、それは尋常ではない状態だった。
暴走、その一言でしか言い表せない。
それは事実であり。
「――壊れろ」
ビームサーベルを放り投げたブルーディスティニーの掌が、手近にいた敵機の頭部を鷲掴みにし、無造作に、全力で大地に叩きつける。
「――爆ぜろ」
衝撃手引きちぎれた頭部を放り捨て、今度は100mmマシンガンの銃口を叩きつけるように敵機にねじ込む。暴発すら考慮しない密着体制での射撃は、無論のこと敵機を盛大に破壊する。
「――――砕け散れぇっ!!」
それは正に蹂躙。
味方である筈のジムにすら戦慄を与えながら、ブルーディスティニーは戦場を縦横無尽に駆け巡っていく。
その光景にジムは生死の言葉一つ掛けられずに、ただぼうぜんと立ち尽くし、間をおかず、敵部隊は正真正銘ジャンクへと作り替えられた。
それは、わずか数分の出来事であった。
■■
悪夢の様なその光景からしばらくして、戦場から帰還したブルーディスティニーは隊長室の中央で、両足の向う脛を地面に密着させ、両膝を折り曲げ、その上で両手を床に付きつつ、深々と頭を下げていた。所謂、古代ヤーパンに伝わる最上級の謝罪体勢――DOGEZAである。
「済まない。如何様にでも処罰は受ける!!」
要するに、さんざん暴れ尽くしてから正気に戻ったブルーディスティニーが、必死こいて謝っているというわけだ。
「……できるわけがないだろう」
その体勢と、早速書面に書き起こされた今回の戦闘報告書(報告者・ジム)を見比べつつ、ドゥーエは頭を抱えていた。
仔細はどうあれモビル娘が二機いる現状ならば、小規模部隊に対し戦闘をかけることもできる、と考えたドゥーエは、ある程度の演習を行ってから、今回の実戦テストに踏み切ったのだが。
――これは拙い。まず過ぎる。
確かに敵部隊をさしたる損害を受けることなく撃破、殲滅したのは戦果として十二分だ。これまであのジャンク共に対し、さしたる反抗もできないままいいようにされ続けていた人類側にしてみれば、福音とも言うべき結果だろう。しかし、
「私のことを慮ってくれるのはありがたいが、それでは示しが――」
「全く焦点が違うっ!!」
「へっ!?」
ドゥーエからしてみればあまりにピントのはずれた反応に、思わず声を荒げてしまう。
「お前まさか今回のこれが、お前一人に処罰を与えれば終わる問題だとか勘違いしてないだろうな。それじゃあ済まないんだよこれはっ。――いいか、モビル娘は今、ようやく正規投入できるかどうかの瀬戸際だ。そこにモビル娘が暴走したなどと報告してみろ「RX-V」計画そのものが頓挫しかねないんだぞ」
「あっ――」
そのことにようやく思い至ったブルーディスティニーが、その名前以上に顔面蒼白になっていく。
「……た、隊長。私はどうすればいいんだ!?」
「少なくとも今回の一件を、ありのまま上にあげるわけにはいかん。ジム、戦闘報告書の改竄を頼む。今回のこれは恐怖心でブルーディスティニーが突出した結果、とでもしておいてくれ」
「……いいんですか? まずいと思いますけど」
「当たり前だ。越権行為を通り越して軍法会議物だ」
着々と進められていく眼前の状況に、最早ブルーディスティニーの精神は大破状況に陥っている。
「……ともかく、お前は一刻も早くそのEXAMとやらを使いこなせるように努力しろ」
「は、はいっ! わかりましたぁっ!」
「そしてジム、今回の戦闘で残骸から得た資源で、新たにモビル娘の建造を行うことは可能か?」
「そうですね、……ぎりぎり一機分回せます」
「そうか、ならば二機体制でブルーディスティニーのバックアップを行うようにしよう。不幸中の幸いともい言うべきか、あの状態のブルーディスティニーの戦闘能力の高さは既に証明されているからな」
「……援護向きなモビル娘が来てくれるといいんですけどね」
「まぁ、流石にブルーディスティニーのように尖ったモビル娘はこないだろう」
「そうですね」
「……私が言うのもなんだが、何か立ってないか?」
■■
「――――EMS-10ヅダだ。ガンガンぶっこんでいくんで夜露四苦ぅ!!」
活発さを抱かせるショートカットの髪型。白い特攻服の上からジムやブルーディスティニーとは違う、水色の曲線的なアーマーに身を包んだその少女は、開口一番そうのたまった。
「……あぁ、
その原因とも言うべき事件に心当たりがあるジムがそう呟き、
「……なぁ、ジム」
「はい、何でしょうか隊長?」
「直感でしかないが、あれ、援護とか無理だろ」
「……そうでもないですよ。だって背中に対艦用狙撃ライフル背負っていますし、援護も十分に可能ですよ」
「そうか? 絶対「長い砲身にはこういう使い方もあるんだっ!!」とかいって、射撃とは名ばかりの格闘攻撃を仕掛けそうなんだが」
「隊長、それ違う人です」
むしろ、長い砲身を「慈異駆慈恩」と綴られた旗差し物代わりにされているのを見て、誰が真っ当に射撃戦を繰り広げると思うのか。
「ともかく、ジム、お前だけが頼りだ」
「……うぅ、やっぱり私にしわ寄せが来ますよね」
「すまん。本当にすまん」
精神的により一層ひどくなるであろう未来を思い、ジムは泣きそうな表情を浮かべるのであった。合掌。
とりあえず謝っておきます。ヅダファンの人ごめんなさい。