禁書厨な俺氏、チート勘違い系オリキャラになる -とある科学の物質誘導-   作:村ショウ

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誤字報告、感想ありがとうございます!!
投稿間隔が空いてしまいましたが、何とか書けました。



12.夏休み初日②

 

「『横紙破り(ULエクスプローダー)』、うちの那由他ちゃんに何をしているのかなぁ。戦争でも起こすつもりかな、魔術師さん」

 

 つい、俺は神裂火織に対して啖呵を切ってしまった。正直、宇宙空間でも活動可能な聖人に勝てる気はしないが、殺しを覚悟しているステイルよりは聖人の神裂の方が幾分かマシだ。

 粉塵爆発で注意を引くことで、鋼糸(ワイヤー)で作られた魔術的記号を形づくろうとしていたのであろう模様を崩し、那由他ちゃんに向けられていた魔術をキャンセルした。

 しかし、その崩れた鋼糸は那由他ちゃんの頬を掠める。

 

 これもそれも全て俺の性だ。那由他ちゃんがなぜ今日ここに来たのか分からないが、俺という存在が無ければここに居るはずもないのだから。那由他ちゃんの頬から滴る血を見ながら俺は再び決意を決める。あらゆる手段を使ってでも那由他ちゃんを守ると。

 俺は物質誘導による浮遊を辞めて、那由他ちゃんの前に立つ。

 

「我々も彼女を回収出来れば、そちら側と争うつもりはありません」

 

 そんなことを言う神裂火織だが、聖人の彼女はその性格からしても、きっとこの場で引けば見逃してくれるだろう。しかし、ここで一戦交えることで魔術の知識を得たという既成事実が欲しかった。学園都市はいずれ崩壊に向かうし、科学と魔術の境界も曖昧になっていくのだから、魔術との邂逅は早い方が良い。

 それに、自分でも意外だが那由他ちゃんを傷つけられている事実に、八つ当たり的ではあるが実際に傷つけている神裂火織と自分への怒りが胸の底に湧いていたのもあるかもしれない。

 

「ほぅ…、回収ですか。俺達をあなたが口封じしないという保障はない。現にそこの那由他ちゃんやシスター服の少女を害している以上はね」

 

 俺は『物質誘導(サブスタンスインダクション)』を使い、学生寮へと繋がる電線を切断する。

 そして、それを輪っか状にすることである現象を引き起こすように仕掛ける。

 

「では、仕方ありません。強制的に引いてもらいます」

 

 神裂火織もこちらに対して仕掛けてきそうだが、こちらの仕掛けの方が早い。

 

「なっ!?」

 

 突如として、神裂火織が持つ七天七刀とその鞘の鯉口の鋼糸(ワイヤー)が熱を持つ。それは先程の仕掛けによるものに他ならない。

 誘導加熱──英語ではInduction Heatingと言われるものであり、日本では略称であるIHの方が馴染み深い。

 一般的には電磁誘導を利用して、ジュール熱を起こすことで金属などに加熱することを指す。主な利用例としてはIHクッキングヒーターなどのIH調理器であろうか。

 だが、これは家庭用での用途の話であり、工業用途ではさらに高出力な物が存在する。工業レベルになれば、溶接や溶解炉といった金属を溶かせるほどの熱を生み出すことが出来る。

 誘導加熱によってジュール熱が生み出される仕組みなどは省略させてもらうが、得意の誘導を利用すれば、この誘導加熱の範囲を神裂火織が持つ刀や鋼糸にピンポイントで集中させることも出来る。

 実際の工業的応用でも電流を高周波にするなど周波数を弄ることでピンポイントな加熱を実現している。今回の場合、対象までの距離はあるが、その程度の問題なら物質誘導を利用すればなんとかなる。

 

 付け加えるなら、この誘導加熱は基本的に透磁率というものが高いほど影響を受けやすくなる。透磁率とは物質の磁化されやすさを表すものであり、簡単に言えば磁石へのくっつきやすさだと考えてもらっても良い。小学生の時、磁石で砂鉄をくっつけたりしなかっただろうか。そして、金属でもアルミなど磁石にくっつかないものがあっただろう。それが透磁率の違いだ。

 これが大きければ大きいほど磁化されやすい。そして、日本刀に使われる鉄は磁石にくっつくほど透磁率が高い。実際、磁石をくっつければ模造刀か真剣か簡易的に判断することが出来たりもする。

 それを示すように、七天七刀やワイヤーは既に僅かに赤くなるほど加熱が進んでいる。衣服に熱が伝わり発火点まで到達すれば、人体発火現象の様なことが起きるのもすぐだろう。

 布に可燃物を染み込ませている訳じゃないので火の粉や焦げ付く程度にはなるかもしれないが。

 

「どうでしょうか。金属を高温に加熱する誘導加熱の威力は。発火君のような趣味はありませんし、降参するなら人体発火現象の様になる前に助けますが」

 

「この程度で私が倒せるとでもお思いですか」

 

 神裂火織は加熱されている筈のワイヤーを操った。アツアツなワイヤー程度ではビクともしないとは流石は聖人だ。そして、何らかの魔術を利用したのか、刀やワイヤーの温度が常温に近い温度で一定になる。

 ステイルと組んでいる以上、耐火や耐熱の魔術や霊装を持っていることは想定済みだったが、殆ど焦ることなく対処されるとは想定外だ。心理的な揺さぶりをかけたいものだが。

 

「学園都市外部の力がこれ程とは…ね。道理で那由他ちゃんのEqu.Darkmatterで対処出来ない訳です。

 しかし、訂正するならば別にあなたを倒す必要はないと考えています。あなたはそこに倒れている少女を回収すると言った。そう、抹殺ではなくです」

 

 勿論、こちらは原作知識として事情を知っているが、推測するように言い当てて神裂火織のメンタルを誘導する為の言葉を紡ぐ。

 

「彼女の怪我は致命傷に近いですが、その外部の力、魔術があれば何とかなるのではないでしょうか。あなたの力なら一撃で確実に命を奪うことが出来た筈です。そうとなれば、あなたは彼女に何を求めるのか。物品であれば、殺して奪えばよい。

 生かす意味があるとすれば、彼女が持つ記憶と言った所でしょうかね」

 

「だとしたら何ですか。あなたに勝機があるとでも」

 

 これだけではそこまで精神が揺れないようで、勇ましく返されてしまった。だが──

 

「いえ、彼女の衣服にはどうやらシスター服には似合わない異物、安全ピンがあるようですね。安全ピンには金属が含まれているのは見れば分かると思いますが、先程の誘導加熱と合わせればどうなるかはもうお分かりでしょう。

 それに、ヒラヒラしたシスター服自体もよく燃えそうですね。これは発火君の分野ですが、人体発火現象なんて称されるものの多くを解き明かせば、衣服の発火から起きていたりしますし」

 

 こんなことは言ったものの、ニッケルメッキなどがされたスチール製の安全ピンは、透磁率が低いものが多い。周波数を弄れば加熱がまったく不可能という訳でもないのだが。科学音痴な神裂ではそこまでの考えには至らないだろう。

 そして、わざわざ神裂に対してインデックスに害を与えるようなブラフを入れたのは、俺へのヘイトを高める為だ。あくまで治安維持の行為を行う那由他ちゃんと、守りたい存在を傷つけようとする外道な俺。

 どちらを優先的に対処するかは明白だ。それに神裂火織なら元々那由他ちゃんを見逃す可能性は高い。

 負けそうになったら、より那由他ちゃんの善性を際立たせるような誘導を行えば良い。対垣根帝督戦でも考えていた方法論だが、神裂火織ならばより有効だろう。

 

「貴方はそこの少女を守る為に現れたのでは無いですか」

 

 神裂火織は那由他ちゃんの方に視線を一瞬だけ移して、問いかけてくる。

 

「確かにそうです。実験体を無事に確保するのは当然ですからね。ですが、そこの少女は別ですよ。君らにとっては何らかのターゲットかもしれないが、こちらにとっては価値がないものです」

 

 俺を見ていた神裂火織の目付きが変わる。確実にヘイトを溜めているし、メンタルの誘導もしっかりと働いている。

 

「しかし、そうですね。半端に殺して脳だけでも生かしてしまえば、学園都市の精神系能力者にでも記憶を読ませるみたいなことが可能かも知れませんね…。誘電加熱、いわゆる電子レンジの原理の方で脳の水分を飛ばすとしましょう。

 後、知っているでしょうか? 学園都市が科学の街だということを」

 

 追い討ちをかける為に更なる言葉を投げかける。

 

「なにを今さら…」

 

 神裂火織はインデックスに向けられた脅威に警戒しながらも、こちらに対して呆れた様な言葉を吐き出す。

 

「数十年進んだ技術であらゆるインフラが整備された学園都市の建物には多くの電線が存在します。そして、『木原』にとっては誘電加熱や誘導加熱を行う装置を組み上げるなどの朝飯前だということですよ。地中、空中どこの電線でもね。

 そして、俺の能力が有効な間はそのスイッチがOFFになるような状況を作ることも」

 

「っ、貴方の目的はなんですか」

 

 神裂火織は依然として警戒態勢は変わらないが、こちらに有利な交渉に誘導することに成功した。

 

「俺の目的は──」

 

 俺が目的を話そうとした瞬間、その声は聞こえた。

 

我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)炎よ―(Kenaz)巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)

 

「ステイル、待って下さい!!」

 

 手すりのある横側から炎の剣が突如として襲いかかる。

 

「簡易版Equ.Darkmatter、起動」

 

 後ろに未元物質で作り上げた半球状のシールドを展開する。本来はこのような用途をしたかった訳では無いが、仕方がない。火炎は起動が間に合い、防ぐことに成功した。

 そして、未元物質のシールドを解除すると炎に乗じて飛び込んできたのか、神裂の後ろに男が立っていた。そう、ステイル=マグヌスという魔術師が。

 神裂火織もステイルが乱入してきた以上、仕方なしとヤケになっているのか、刀に手をかけており、いつでも避けられないレベルの速度の斬撃がこちらにきそうだ。

 

「仲間がいましたか、仕方がないですね。それじゃあ、こちらも殺るしかなさそうです」

 

 俺がそう言うと、今まで出来事の衝撃からか後ろで棒立ち状態になっていた那由他ちゃんが、インデックスの方に駆け寄ろうとする。

 神裂は先程の脅しもあってか那由他ちゃんを攻撃対象にしようとしていないし、ステイルの炎くらいなら那由他ちゃんに渡しているEqu.Darkmatterで対処可能だろう。

 しかし、これはまずいかも知れない。実際にインデックスを燃やす外道な仕掛けを作ってはいないが、金属パーツ満載の那由他ちゃんがいることで先程のブラフが無効になるかもしれない。物質誘導ならば那由他ちゃんを対象外にすることも不可能ではないが、神裂やステイルに使用できないと思われた時点でアウトなのだ。

 どこで誘導を間違えた? 

 いや、俺が見落としていたのかも知れない。何故、那由他ちゃんがインデックスを助けるために動かないと思っていたのだろうか。

 

「そこの少女はあなたにとって大切なのではないですか。それとも、あの子だけを的確に攻撃できるのでしょうか」

 

 俺の動揺や駆け寄ろうとしている那由他ちゃんの表情から読み取られたのか、一気にこちらが物理的にも心理的にも不利な体制に立たされた。ステイルの方は那由他に攻撃する様子がない。これは神裂火織の目配せによるものだろう。流石はプロ、状況判断能力が高い。

 

「答えが無いということは、どうやらそちらに手はなさそうですね。『唯閃(ゆいせん)』」

 

 那由他ちゃんがインデックスの近づいた瞬間、こちらに向けて刀を抜く動作を開始した神裂火織。ステイルの方は那由他ちゃんの方を警戒しているようだ。

 正面から不可視レベルの斬撃がくるのはもはや避けようが無い。唯閃を使われるのは想定外だったが、那由他ちゃんもEqu.Darkmatterを使っていたことを考えるに、通常の斬撃では防がれる可能性を考慮したか。

 だが、こちらも無策ではない。斬撃は物質誘導によるセンサーで捉えられないレベルだが、一つだけ切り抜ける策があった。

 

瞬間移動(テレポート)って知っているかな?」

 

 目の前にシスター服を着た少女、そうインデックスを出す。さらに、斬撃の調整を難しくするために物質誘導と電線を利用し、激しい閃光も発生させる。

 

「なっ!?」

 

 神裂火織の目にも血だらけの少女、インデックスが写ったのだろう。人体構造的に無理な体勢になりながらも斬撃を中断しようとする。だが、こちらから物質誘導を利用してインデックスの首を刀の方を近づける。

 唯閃は元々体への負担が大きいが故に、抜刀術という形を取っていた。これ以上の中断動作は難しいだろうし、中断に成功してもその体への負担は大きくなるはずだ。

 

 物質誘導による操作もあり、斬撃はインデックスの首に命中した。そして、絶望的なほどの血飛沫が上がる。神裂火織もその返り血で濡れる。

 

「私はなんてことを……」

 

 インデックスを切ってしまった絶望からか刀を落として、膝をつける神裂火織。さらに、次の手の為に俺はすぐに物質誘導を利用して、那由他ちゃんへある電気信号を発生させる。

 

「神裂、それは幻だ」

 

 ステイル=マグヌスがそんなことを叫ぶ。

 ステイルが言っているそれは正解だ。Equ.Darkmatterによって展開した半球状の磁性制御モニターにより血まみれのインデックスを表示したに過ぎない。

 実際問題、神裂火織の視点に調整しているので、視点がズレているステイルからは単なる映像である。

 血しぶきの方も電線と共に切断した水道管の水と磁性制御モニターにも利用した原色系の色をつけた微細な粒子を使ったものだ。元々、磁性制御モニターは超薄型の水槽にこの粒子を混ぜて磁力によって操ったものに過ぎないし、そう難しいものでもない。。

 

「確かにそうですね。そこの赤髪の方が言う通り、あれは単なる映像です。ですが、そちらの彼女は相当肉体に負担がかかったのではないでしょう。あえて付け加えるなら、私が瞬間移動を利用していたなら同様の光景が広がっていた事でしょう。

 貴方にどのような目的があるかは知りませんが、存外にそこの少女の安否は貴方に精神的な動揺を与えるものらしいですね」

 

 俺は精神的優位を取り直す、ステイルの横をすり抜けた那由他ちゃんは既にインデックスの前に立っていた。那由他ちゃんは応急処置をしようと、風紀委員用の止血剤などが入った対外傷キットを取り出している。

 

「神裂、君は一旦下がった方が良い。あれとは相性が良くないようだ」

 

 交代と言わんばかりに、神裂の前にステイルが立つ。

 そして、それと同時に待ちわびいていた階段を登ってくる1人分の足音も聞こえてくる。

 物質誘導で貼っていたセンサーの一部を打ち消けす存在。

 

「木原、これはどう言う状況なんだ」

 

 





今回は自分への苛立ちから八つ当たり気味に行動する誘導君でした。

誘導についての補足
 科学用語としての「誘導」は電磁気学だけでなく、生物学・発生学にも存在する。もともと同じ細胞を利用しているのに、目や耳などが適切な位置に形成され、しかも目の内部で水晶体がずれることなく神経作用によって正確に作られる──その仕組みの一端が誘導である。
 細胞分裂や発生の過程では、細胞自身が自律的に分化する能力を持つが、他の細胞や組織から作用を受けることで異なる方向へ分化することがある。この細胞間の()()()()()誘導と呼ぶ。
 誘導は“特定の細胞”から“特定の細胞”への働きかけであり、不特定の細胞間に成立するものではない。誘導を行う側の能力を()()()、誘導を受ける側の能力を応答能という。有名な例として、眼杯が接近すると表皮から水晶体が形成される現象がある。さらに水晶体は表皮に角膜を誘導する──このように、神経管による誘導を一次誘導、眼杯による水晶体の誘導を二次誘導、角膜の誘導を三次誘導と呼ぶことがあり、このような連鎖を誘導連鎖と言う。
 ちなみに、本作の誘導君の性質として個性が強い木原一族をまとめた研究所が体と見立てれば、誘導能そのものを体現している。
 なお、生物学の誘導(induction)という語は電磁気学の「電磁誘導」に由来するとも言われる。電磁誘導は発電機、誘導電動機、変圧器など、多くの電気機器の動作原理となる現象である。
 また、本作に登場する“誘導研究所”のオリ木原たちは、生物学や電磁気学、その派生分野に関する研究も行っている設定である。たとえば、磁性制御モニターの先行研究を担当した「色彩」と「光学」では、前者が人や生物の色覚、後者が電磁光学分野を扱う研究を行っている。伝導という名の研究者は、電磁気学における**電気伝導**が語源だ。
 今回は割愛するが、(電磁)誘導と伝導という関連項目を拡張すると、一方通行(アクセラレータ)の名前の元ネタでもある「加速器」の分野なども関わってくる。
 誘導が個性の強い木原をまとめる立ち位置にあるのは、研究領域が近いことに加え、生物学的誘導と同様、研究所を一つの“肉体”に見立て、木原同士の相互作用とその連鎖を意識の有無にかかわらず発生させているためである。──これが木原誘導の「誘導」である。

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