禁書厨な俺氏、チート勘違い系オリキャラになる -とある科学の物質誘導- 作:村ショウ
今回は筆が乗ったのでちょい長めです!
ピリリ♪
那由他ちゃんと遊園地を満喫し、帰宅したところだった。
せっかくの楽しい癒やしの余韻に浸っていたというのに、研究・暗部用の携帯端末がけたたましく鳴る。
「薬味先生、どうかなさいましたか、こんな時間に」
「あなたが上げてきた報告メールに気になるところがあって、少し聞きたいのだけど…」
心の中では薬味久子と呼び捨てにしているが、相手は学園都市統括理事にして医師だ。敬称はつけておくべきだろう。
それにしても、この声の主が七十歳超えのBBAとは到底思えない。もっとも、学園都市の再生医療技術のおかげで、実際の見た目もそうは見えないのだが。
「えぇ、なんでしょうか」
「あなたがスカウトしてきた『木原』の件だけど、それでどれくらい
「
「それは楽しみですね。……それと、もう一つ。
「あぁ、それですか。アレのための予備計画として、
「それで何故、そこから照会をかけられてるのかしら?」
「向こうの隊長も『木原』ですからね。その被験者を使いたいのは、こちらだけではなかったという話ですよ。もっとも、行き詰まった能力体結晶で足掻いているだけの木原ですけどね。無駄な足掻きで被験者を壊されるより、うちの方がよほど信頼できるでしょう? 薬味先生のお力で、うまく妨害していただけませんか」
「えぇ、それは構わないわ。というより、うちの関連施設に運び込まれた時点で、既に妨害済みよ。それで、貴方はその実験でどんな成果を上げてくれるのかしら?」
「AIM拡散力場の集合と思念体に関する、必要パラメータの抽出くらいは可能かと。それでご満足いただけますか?」
「そこまでできるなら上出来ね。期待してるわ」
薬味久子は統括理事だ。狡猾で汚い闇の面も当然あるだろう。だが、本来の彼女は「十人中九人しか救えない状況」への別解を提示できる、善性を備えた人間だった。
しかし、原作登場時には唯一姉さんによって好奇心を植え付けられ、その本質を歪められていた。その技術は『暗闇の五月計画』の応用によるものなので、もしすでに彼女に好奇心が植え付けられていたとしても、まだ時間は経っていないはず。誘導次第で、いくらでもこちらの望む方向に持っていける可能性がある。
好奇心の対象をずらせば悲劇は減らせるだろうし、こちらの研究に全面的なバックアップを取り付けることすら不可能ではない。
ただ、唯一姉さんが薬味久子に与えた影響の大きさが測れていないのは痛い。唯一姉さんの仕込みは何が出るか分からなくて恐ろしいし、迂闊に手が出せない。どこかのタイミングで確認できればいいのだが。
ひとまず、薬味久子との会話は無事に切り上げることができた。
─────
俺は『置き去り』の子らを移送した施設で、ある確認作業を行っていた。万が一、ファーストサンプルの獲得に失敗した場合の代替案だ。科学や超能力だけでなく、魔術的なアプローチも模索していた。かつてエリザリーナ独立国同盟で、滝壺理后が魔術によって能力体結晶を取り除くことに成功したように。
そうして一息つこうとコーヒーメーカーに手を伸ばした、その時だった。この施設に設置されたセキュリティシステムが、けたたましくアラートを鳴らす。ここのシステムのセキュリティを任せていた弟の伝導曰く、このアラートが鳴ることは滅多にないとのことだったが。
いや、まだ慌てる時間じゃない。何らかの誤作動という可能性もある。
このシステムはウイルスを直接検知するのではなく、ネットワークのトラフィック量の異常を検知するものだ。ネットワークが不安定でリクエストが繰り返されれば、輻輳を起こしてアラートが鳴ることもある。
……そう、ただのシステム異常だと思いたかった。だが、能力の探知範囲を最大限に広げると、ビルとビルの間の暗がりに潜む人影を見つけてしまった。
おそらく、閉じられたネットワークに侵入するため、ビル間を繋ぐ光ケーブルに細工をしているのだろう。
探知に映ったのは、頭の上の花の髪飾りが特徴的な少女。
俺は能力を使い、急いでそちらへ向かう。置き去り関連のデータだけなら良いが、それ以外には見られたら不味いデータもあるのだ。
「風紀委員のお嬢さん、ここで何をしているのかな?」
相手は初春飾利だ。いきなり能力を使うのは憚られる。かといって、施設のセキュリティはすでにハッキングで止められているだろうし、スタンドアローン式の防衛設備は対・御坂美琴を想定したもので、火力が過剰すぎる。下手に使えば彼女を傷つけ、御坂美琴や白井黒子と敵対しかねない。面倒だが、話し合いでうまく誘導するしかないか。
「あ、あなたは確か木山春美の知り合いの…!」
「俺を知っていて侵入したわけでは……なさそうだな」
初春飾利の俺に対する認識がその程度のものであることには一安心だが…。
「わ、私は、テレスティーナという女性を追ってここに来ただけです!」
「だとしても、風紀委員が不法侵入はまずいんじゃないか?」
「そ、それはそうですけど……春上さんが…」
「なるほど。彼女が誘拐でもされた、と」
俺はテレスティーナ姉さんがやりそうなことを推測して、口に出す。
「な、んでそれを……。あなたも関わっているんですか!?」
「だとしたら、まずいな…!」
──さっき言ったよな。テレスティーナ姉さんを追ってきたと。
「はい、そうですけど…」
初春飾利からその言葉を聞いた、瞬間だった。
ドッゴォォン! という轟音とともに、壁が爆砕される。
現れたのは、駆動鎧に身を包んだテレスティーナ=木原=ライフラインとその部下たち。部下たちは何やら音響設備を運び込んでいる。
「探したわよ、誘導くん。あなた、私に協力してくれるかしら? さっさと被験体の居場所を教えてくれると嬉しいのだけど」
「テレスティーナ姉さん、お久しぶりです。……お断りします」
「そうよね、あなたは協力しない。でも──ガキが舐めてっと、潰すぞ」
口調を豹変させたテレスティーナを睨みつけながら、俺は初春飾利に退避するよう目線で促す。
「テレスティーナ姉さんこそ。ここが学園都市統括理事、薬味久子の関連施設だと知っての狼藉ですか?」
「あぁ? 知っての狼藉だぁ? テメェや統括理事会の一人なんざ、レベル6さえ作りゃあ、どうとでもなるんだよ!」
「そうですか。……なら、戦わなければならないようですね」
俺は速攻でキャパシティダウンと思しき音響設備を破壊する。
そして、テレスティーナ姉さんを物質誘導で捕縛しようとした。
だが──
「やっぱり、テメェか。モルモットのクズ共に渡していたキャパシティダウンを壊していたのは。だが、それが油断になったな?」
俺の物質誘導が、突如として襲ってきた頭痛によって霧散する。
「これは……まさかキャパシティダウン!?」
しかし、壊したはずだ。能力が使えない。立っているのですら、やっとだ。
「テメェがこれに気づいてるなら、真っ先に壊しに来ることはわかってた。だから、応急処置でこの駆動鎧に指向性スピーカーを搭載しておいたのよ。まんまと引っかかりやがったな。……おい、立て」
奇しくも、かつて俺が垣根帝督に使った指向性スピーカーを、逆に使用されるとは。いや、警戒すべきだった。俺が不良集団を叩いたことが、バタフライエフェクト的にこんな対策を講じさせるなんて。
この施設の防衛システムが動いていれば、テレスティーナ姉さんくらいどうにかなったかもしれない。だが、それも
「おいおい、潰しちまうぞ?」
テレスティーナが駆動鎧の足を、俺の背中に軽く乗せてくる。
……万事休すか。
さっきのアラートで伝導が気づき、応援が間に合うなどという奇跡でも起きない限り。
だが、それでも。少しでも時間を稼ぐため、『置き去り』の子たちの居場所だけは、絶対に吐くものか。
─那由他 Side─
あのデートは本当に楽しかった。でも、お兄ちゃんはそれからずっと忙しそうで、なかなか会えなかった。
木山先生から、お兄ちゃんがいるという『置き去り』の子たちが移送された施設を教えてもらい、私はそこへ向かっていた。
お兄ちゃんは食事もろくに取っていないらしい、と先生から聞いていたので、夜食も持ってきた。ちゃんと食べてくれるかな。
施設の前に着いた時、私はある違和感に気づいた。
お兄ちゃんのAIM拡散力場の歪みだ。最近、誘導お兄ちゃんの能力を借りる練習をしていたからか、一種の能力の成長か、少し離れていても誘導お兄ちゃんの力場だけは識別できる。それが、今、酷く歪んでいる。
「誘導お兄ちゃん…!?」
お兄ちゃんのいる方向へ、サイボーグの体をフル稼働させて急ぐ。
目の前に広がっていたのは、テレスティーナお姉ちゃんに踏みつけられ、痛めつけられているお兄ちゃんの姿だった。
「はやく吐けよ。……オマエらも、さっさとガキどもを探せ」
お兄ちゃんを尋問しながら、部下に『置き去り』の子たちを探させているようだ。
「誘導お兄ちゃん……! 大丈夫……?」
そのあまりに痛々しい光景に、私は思わず声を上げてしまう。
「テメェは確か…」
「Equ.DarkMatter、展開! 今助けるからね、誘導お兄ちゃん!」
私は未元物質の翼を展開し、サイボーグの体が軋むのも構わず跳躍する。そして地面すれすれを滑空するように突っ込み、お兄ちゃんの体を奪い返した。
「二人揃ってモルモットに執心とはな。それでも『木原』かよ」
「誘導お兄ちゃんや、あの子たちを悪く言うのは許さない!」
「で、テメェに何ができるってんだぁ?」
誘導お兄ちゃんを苦しめていたのは、以前、お兄ちゃんが第二位に使っていたものと同じだった。
その不快な音が、今度は私にも向けられる。能力の使用を抑え、お兄ちゃんを抱えて逃げるが、テレスティーナお姉ちゃんも駆動鎧を装備している。このままでは確実に追いつかれる。
行き止まりを避けながら、とにかくランダムに、がむしゃらに逃げた。
それなのに、まるで誘導されるかのように、私はある部屋に辿り着いた。
「
キャパシティダウンの頭痛に耐えながら辿り着いたそこには、理解不能な装置が保管されていた。かつて私の体を吹き飛ばした
「ユーザー認証を開始します。対象:木原那由他…承認。能力者使用モードでの起動を実施。地脈との接続…オールグリーン…、周囲の状況を把握します。敵対魔術反応…なし。物理的脅威、能力者の反応あり。対象:テレスティーナ=木原=ライフラインの排除の為、対抗術式を構築します。魔術的にも用いられる
「──『書庫』内の一〇万三〇〇〇冊により、
その駆動鎧は、私の体に巻き付くように自動で装着されていく。まるで生き物のような動きに、不気味さすら感じた。サイボーグ部分とこの駆動鎧の境目が、徐々に曖昧になっていく感覚がする。
「何してやがんだぁ? 玩具箱から出したオモチャ程度で、私に対抗できるとでも思ったか?」
「玩具箱、ですか。……まぁ、あながち間違いでもないですが」
テレスティーナお姉ちゃんの言葉に、苦しんでいるはずのお兄ちゃんが反応する。
「対抗術式の構築に成功。巫女の予言の書、第十九節。特定魔術『ヘイムダルの角笛』を発動、妨害を除去します」
幻影なのか、神々しい光を放つ大樹が出現し、そこから水が湧き出る角笛が現れた。
その水が私とお兄ちゃんに触れた瞬間、頭に響いていた不快な音が嘘のように消え去る。
ふと誘導お兄ちゃんの方を見ると、辛そうにしていたはずの彼の口元が、少しだけニヤついているように見えた。きっと、キャパシティダウンが弱まったからに違いない。私はそう自分に言い聞かせ、思考を中断した。
同時に、私の頭にも情報が流れ込んでくる。
これは、曲解した北欧神話を用いた術式…ヘイムダルの角笛…通称:ギャラルホルン、その神話の一説では、オーディンはミーミルの知恵の泉の水を飲む代償に、自らの眼球とヘイムダルの耳を担保に捧げたとも言われる。
すなわち、神の知恵を得る代わりに眼球と耳を捧げるという逸話を、逆用した盲目と難聴の術式。
よく見ると、お兄ちゃんの目に黒いモヤのようなものがかかっている。推測だけど、私には難聴が、お兄ちゃんには盲目に類する効果が発動しているのかもしれない。
だが、今は気にしている場合ではない。テレスティーナお姉ちゃんはまだこちらがキャパシティダウンの影響下にあると思っている。今が、倒す絶好のチャンスだ。
私はお兄ちゃんの物質誘導を借りて、能力を行使する。
テレスティーナお姉ちゃんとその部下の駆動鎧を念入りに破壊し、キャパシティダウンそのものを完全に無力化した。
「なっ……!? なんで能力が使えやがんだ……!?」
「玩具箱にも、ロマンがあるでしょう? 脳幹先生の開発したものと比べれば原理も違いますし、見劣りするので
「クソがッ……! これでも食らいやがれ!」
テレスティーナが、部下が運び込んでいたコンテナから、まだ破壊されていなかった超電磁砲のような兵器を取り出し、こちらに撃ち放つ。
「お終いですよ、テレスティーナ姉さん。あなたの研究は、実験体を使い潰すだけの哀れな悪あがきに過ぎなかった」
Equ.DarkMatterの自動防御が、その閃光を寸分の狂いもなく防ぎきる。
その時、この前戦った超電磁砲のお姉さんが、同じ常盤台の制服を着た風紀委員の少女と共に、瞬間移動で現れた。
どうやら、お兄ちゃんが逃がした、頭に花飾りをつけた人が呼んでくれたらしい。
直ぐに、二人によってテレスティーナお姉ちゃんは取り押さえられた。
「敵対対象の無力化を確認。A.A.A. O.Sのリンクを切断し、プロセスを終了します」
お兄ちゃんの目にかかっていた黒いモヤが、すうっと消えていく。
テレスティーナお姉ちゃんと戦っている時は気にしていなかったけれど、お兄ちゃんに掛かったのは盲目で、キャパシティダウンの影響下にあったはず。だとしたら、あの時のニヤつきは、一体なんだったんだろう……。
そんなことを考えていると、ふと、鼻から生温かい赤い液体が垂れてくるのに気づいた。
けれど、その不調すらも、「でも、これを使いこなせれば、誘導お兄ちゃんの期待に応えられる、超えられる!」という高揚感に押し流されていく──
感想、誤字報告ありがとうございます!
新約4巻で『木原』の可能性と表現された那由他ちゃんはともかく、木原誘導は所詮は『木原』なんですよね…。