禁書厨な俺氏、チート勘違い系オリキャラになる -とある科学の物質誘導- 作:村ショウ
今回はわりと善行なのかもしれない。
その結果がどうであれ…。
渋々というか、ほとんど強引な交渉で9982号の引き抜きには成功したわけだが、その後のことをあまり考えていなかった。
初めて一方通行と対峙した時と同じく、那由他ちゃんを呼び捨てにしてしまったり、「すまない」なんて言葉を使ってしまったり……。思った以上に、俺の心に余裕はなかったのかもしれない。
正直、この件については原作通り上条が一方通行を倒して終わり、と想定していた。だが、もし彼が失敗した場合を考えると、この状況はあまり良くない。9982号の生存を隠蔽しているといっても、実験が続行されれば露呈するリスクは高まる。上条の介入が少し遅れるだけでも、原作からの乖離は起きうるのだ。
であれば、やることは一つ。上条が原作通りに近いタイミングで、事を解決してくれるよう誘導するしかない。
俺と那由他ちゃんは、離れた場所から映像を使って戦況を監視していた。流石にFive_Overの監視装置では一方通行にバレる可能性があるため、薬味久子に頼み込み、実験用の定点カメラを使わせてもらっている。
御坂美琴が実験施設を破壊してくれたおかげで、様々な機関が『
「離れろよ…今すぐ御坂妹から離れろってんだ…この三下!!」
モニターに映る上条当麻が、『御坂妹』ことミサカ10032号を庇い、一方通行の前に割って入る。
俺にも、9982号から10031号までを助けることはできたかもしれない。だが、それをすれば上条の介入が遅れる、あるいはなくなってしまうリスクがあった。理想を言えば、彼のように誰一人として犠牲にしたくはない。だが、俺はそこまでの
「ねぇ、誘導お兄ちゃん……。あの人って、前にシスター服の女の子を助けてた、お兄ちゃんの友達だよね……? なんで、この実験の場所に……」
「あぁ。上条当麻は、ここに辿り着くべき存在だから問題ない。彼の特異性は、那由他ちゃんもここで見ておいた方がいいだろう。一つ言えるのは……惚れちまうくらい、いい奴だよ」
那由他ちゃんが上条勢力入りしないか気が気でないが、とりあえず彼女の疑問には答えておく。惚れそうになるくらい、上条の行動は格好いいのだから。
「……っ!く、は、面白ェ、何なンだよその右手は!」
上条が一方通行にしっかりと、キツイ一撃をお見舞いしているようだ。乖離がなくて良かった。
「誘導お兄ちゃん。もしかして、あの人が……垣根帝督を襲撃した時に言ってた、『第一位よりも重要な人物』ってこと?」
そういえば、勢い余ってそんなことまで話してしまっていたか。
「ってことは、お兄ちゃんが言ってた『この実験は失敗する』っていうのは……」
「そう。『
「でも、なんで学園都市じゃなきゃダメなのかな?」
那由他ちゃんの疑問はもっともだ。目に見える『
「学園都市である理由、か。そうだな……あの右手は異能の力を打ち消す。ならば、異能の力がなければ、その価値すら証明できない。那由他ちゃんの能力が、AIM拡散力場が存在しなければ意味をなさないようにな」
俺は那由他ちゃんの能力を例に出しながら解説する。
「そして、そういった特別な力は、活躍できる場所にこそ現れるものさ。だから、この学園都市は上条当麻が活躍せざるを得ない『悲劇』に満ちている。いや……満ちさせられている、と言うべきか。あの変態統括理事長の手によってな」
説明になってるかは不安だが、上条の中の方はトップシークレットだ。あまり無闇に話せない。幻想殺しでも意味が通る説明に済ませる。
これで説明になっているかは不安だが、彼の力の核心はトップシークレットだ。無闇に話すわけにはいかない。『幻想殺し』だけでも意味が通るように説明を済ませる。
「そう……なんだね……」
那由他ちゃんは、どこか影を落としたように呟いた。
そうこうしているうちに、一方通行が周囲の空気を圧縮圧縮し始める。
「歯を食いしばれよ『
俺たちは、上条当麻が妹達の協力も得て、学園都市最強に勝利する瞬間を、最後まで見届けた。
─那由他 Side─
私は、誘導お兄ちゃんの説明を自分の中で噛み砕くように反芻する。
上条当麻。あの人が、誘導お兄ちゃんの本当の研究対象なのかもしれない。
だって、お兄ちゃんが元々研究していたのは、私由来のサイボーグ技術やAIM拡散力場じゃない。『
厳密にいえば、『木原』や『
誘導お兄ちゃんの本来の行動原理は、人々を適材適所へ配置することによる効率化──救われぬ者へより多くの手が届くようにする、そんな研究だったはずだ。だから、脳幹先生や加群おじさんがやっていた
そのために、複数の『木原』が所属する研究所を運営していたのだ。それも研究の一環だったし、私と誘導お兄ちゃんの出会いも、私のAIM拡散力場の観測能力がその研究に役立つからと、実験に立ち会ったのがきっかけだった。唯一お姉ちゃんとも、研究中に会ったと聞いている。
それを考えちゃうと、他の妹達も誘導お兄ちゃんが直接動くかは別として、何かしら手を打っていてもおかしくなかった。なのに、なぜ10032回目の実験まで静観していたんだろう。すでに行動していて、今やっと動けるようになったのかな。
誘導お兄ちゃんの行動を歪める、何かが裏にあるんじゃないか。
そもそも、この結末に導くための準備が整っていなかったのか、それとも、下手に動けばもっと大きな被害がどこかで起きてしまうとか……。
私は、誘導お兄ちゃんのことをもっと探っていく必要がある。
─翌日─
昨夜の一方通行敗北にまつわる裏の後始末を終え、俺は再び病院に来ていた。
あの実験は無事に失敗し、凍結された。失敗を喜ぶのはおかしな話だが、俺が介入したせいで原作以上の犠牲者が出ることを、何よりも恐れていたのだ。
「自由に生きて良いと、あなたは言っていましたよね? と、ミサカ9982号はあなたに確認を取ります」
ミサカ9982号が、俺に話しかけてきた。
自由、か。無茶な要求でなければ、叶えてやるつもりだ。
「あぁ、そう言ったが、何かしたいことでも?」
「はい。私はもう一度、お姉様に会いたいです、とミサカは自らの思いを吐露します」
「いいんじゃないか? ちょうど今頃、御坂美琴は上条のお見舞いに来ているだろう。この病院にいるはずだ」
俺は彼女の願いに軽く頷いたが、念のため、物陰から見守ることにした。
「お姉様……。と、ミサカは再び会うことができた
「アンタ……さっきも……」
御坂美琴は、目の前の相手を先ほどまで話していた10032号だと思ったのだろう。だが、彼女の腰につけられたゲコ太の缶バッジが目に入り、ハッとして言葉を止める。
「なんで……生きて……」
「それは……」
9982号が説明しようとするが、彼女は表向きはもう『存在しない』個体だ。どう説明すべきか、言葉に詰まっている。それに御坂美琴とは喧嘩別れではないが、姿を見せないでと言われた個体だったはずだ。
仕方ない。いっちょ、俺が助け舟を出してやるか
「それは、あそこにもう一人、彼女を助ける人間がいたからだよ。あの場には、君も一度戦った、うちの那由他ちゃんがいたからね」
「そう、あの子が……。って、なんでアンタが『妹達』と一緒にいるのよ!」
そりゃ、俺が突然出てきたらそう聞きたくもなるだろう。那由他ちゃんと違って、俺はただの不審人物だ。
「9982号を含め、『
ここで嘘をついても仕方ない。俺は正直に答える。
「アンタが何を考えてるか知らないけど、この子たちを利用するつもりなら容赦しないわよ!」
「おぉ、怖い怖い……。肝に銘じておくよ。そんなことをしたら、君だけじゃなく上条にも殴られそうだしな。彼女は、那由他ちゃんが使う義体のテスターをしてもらうだけだから、安心してくれ」
少し悪どさを出しすぎただろうか。ミサカネットワークに未接続の9982号は、あの上条と一方通行の戦いの結末を知らない。彼女の不安を和らげるためにも、御坂美琴から『妹達』を肯定する言葉を引き出したかったのだが。
「ま、この義体があれば、万が一実験みたいなことがまたあっても、一方通行に勝てちゃうかもだけどね」
「……アンタ、その義体は本当に安全なの?」
実験再開への安心材料のつもりだったが、別の意味で警戒されてしまったようだ。
「那由他ちゃん本人に使ってもらうものだからな。安全でなければ試したりしないさ。彼女も、他人の犠牲の上に成り立つ成果なんて望まないだろうし」
「それだと、アンタは他人の犠牲を肯定してそうに聞こえるんだけど?」
那由他ちゃんとは一度バトったからか、信頼があるようだが、俺には欠片もないらしい。
「まさか。できる限り、それは避けたいさ。ただ、この学園都市はそう単純にはできていない……という話でもある。……おっと、こんな話より、そこの9982号の話の方が大切じゃないか? お邪魔したね」
俺は言いたいことだけ言って、そそくさとその場を離れる。
「ちょ、待ちなさいよ……!」
「お姉様、やはり私と顔を合わせるのは嫌ですか? と、ミサカは不安そうに語りかけます」
「そんなわけ……! ……まぁ、さっきの奴のことは、またアイツと一緒に問い詰めればいっか」
逃げながら聞き耳を立てていたが、どうやらまた問い詰められることになりそうだ。9982号を置いていったことで、こちらを追いかけてこないのは幸いだが。
問い詰められる時は、上条にすべてを押し付けよう。
それこそが、『誘導』のあるべき形というものだ。
いつも誤字報告、感想ありがとうございます!