彼女と息子   作:Victor_oscar

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彼と街並み

人工音声の無機質なアナウンスが流れる。

『まもなく大宮、大宮。お忘れのないようご注意ください。』

景色を見るとそこは一変していた。住宅街がジャングル樹林のように無造作に乱立し、メガビルが光を放ちながら聳え立っている。青白い光が夜の闇を照らしている。オフィスは未だに稼働しているようだ。企業の電子広告がビルの壁を覆い尽くし、塔が幾重にも重なり合って空へと伸びている。空を飛ぶタクシーがビルの谷を縫うように飛んでいる。様々な建物から室外機が煙を上げネオンサインの広告が煌々と輝く。それらの隙間から見えるのは巨大な食肉工場プラント。

柵と荒野しかない基地周辺と違いこれらの光景はまるで別世界に来たかのようで、俺はその風景に見惚れてしまった。

「どうした?和人?」

相川は絶句している俺を不思議そうな顔をして言った。別角度から見たこけた頬は骸骨男を思わせた。寝不足によるクマとストレス疲れがありありと分かる。

「すげぇ...。これが普通なのか?」

「まぁそうかもな?ここは住宅都市だからビルはそこまでないし。まあまあ自然も多いけどな。」

「こんなに変わっていたのか。全然気づかなかった。」

「仕方ない。お前はずっと外国で戦っていたから。」

「ああまぁ。そうだが」

彼は街をただつまらないものを見るような目で見ていた。先ほどまでのテンションは既に消え去っていた。

「この街はすごいな。それに住みやすそうだ。」

友人がどんな生活をしているのか気になり街のことをほめた。俺の言葉は分かっていないといった形で言い返される。

「いや、そうでもねえよ。戦争が終わろうが関係なく金がない奴には厳しい。特にスラムはひどい。生活してるだけで命の危険がある。」

「どういうことだ?」

「貧富の差が激しいんだよ。金持ちなら関係ねえんだろうけどさ。ギャングとかマフィアが幅きかせてる。そら生きるためには仕方ないところあるんだけどさ。」

「...そうか。」

「ああ。ま、お前が襲われることはねえだろうし気にすんなって。」

不安にさせたくないのか手のひらをこちらに向けて心配ないとアピールしてきた。苦笑いはどことなく寂しさを感じさせる。

「相川。お前自身はどうなんだ?無理してないか?なんか困ってることがあるなら。助けになれることがあれば手伝う。」

俺は少しだけ踏み込んでみる。

「いや。大丈夫。今のところは。」

どこか悲しげに笑った。痩せこけた姿は俺のしってる彼ではなく過酷な企業働きをする男の顔つきだ。

「仕事忙しいんだろ。あんまり無茶はするな。」

「おう。ありがとな。どこも残業は80時間をゆうに超えてるさ。ほんとブラックな世の中だぜ。はっはっは。」

明るく努める彼の姿はとても痛々しかった。俺の親父は過労が祟って死んじまった。親父は最期の最期まで、家族のために働いて問題を自分で抱え込んだすえあの世に行っちまった。

相川も馬鹿で見栄っ張りで夢見がちな男だ。きっと誰かのために働いてるんだろう。じゃなきゃこんな無理はしない。

「.......辛かったら言えよ。力になる。」

「サンキュー!頼りにしてるわ!」

相川は気持ちのいい笑顔で答えた。心の底から親父を見ているように感じる。なんで今親父を思い出すんだ。

ガタゴトと電車が走る音が小刻みに響く。俺は少しだけ口を噛み締めて目を閉じた。苛立ちがなるべく早く過ぎ去ってくれと。

 

『次は赤羽。赤羽。お出口は左側です。』

アナウンスが流れてドアが開く。ごわつく手を握りしめていると彼から降りると声をかけられた。

「あー。ここで俺は降りるわ。和人はどうする?」

「いや。まだ乗ってるよ。」

残念そうに笑顔を崩さず相川は、そっか。残念。と言って降りていった。ドアが閉まり再び動き出す。

外を見ると相川の姿が見えた。相川はこちらを見て微笑み手を挙げる。俺も手を上げて応えると、次の瞬間にはもう見えなくなっていた。

今一度、一人となった。孤独に押しつぶされながら俺はまた目を閉じた。

 

赤羽から上野まで寝ていたようだ。のどの渇きとヤニを吸いたい欲求に逆うことが出来ず降りることにした。

標識を見ると改札口から少し出た先にあるらしい。自販機から水を購入しさっそく喫煙所に向かおうとした。

だが、道中人々からの奇異の視線に耐え切れずトイレに駆け込んだ。フェイスマスクを装着し顔や髪もすべて塗り替えることにした。

記憶から引っ張て来たものしか使えないが仕方がない。

個室から出て鏡を見る。そこには設定した通りの顔があった。20代後半といったところか。これで大丈夫なはずだ。

晴れ晴れした気持ちで人々が行き交う改札を抜けると、突然後ろから声をかけられ腕を引っ張られた。

「和也君だよね?」

振り返り確認するとパールのネックレスを首から下げた妙齢の女性がいた。

和也は俺の親父の名前だ。どう答えたものだろうか。俺はその息子の和人。漢字は一文字違い。

目の前の女は俺のことを和也と呼んだ。これはまずいことになった。

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