吾輩は幽霊である。名前は知らない
突然だった。気がつくは自分は闇夜の道端に突っ立っていた。それまでの記憶が一切なく自分のことさえ何も分からなかった。でもおかしいことは山程わかった。
先ず自分の体が変だ。見下ろしたら自分の体は白くボヤケて発光してて輪郭が辛うじてわかるような状態で心なしかフワフワしててまるで水の中にいるような浮遊感を感じた。そこで最初こそ何だ夢かよ、と思ったけど幾ら待てども覚める気配はないしかなり思考が冴えていた。体感で30分は過ぎたであろう頃から夢という案は保留にした。いつか目覚めるならそれはそれでいいさと我ながら気楽だなと思う。
あとこれもヤバいと思ったのが自分の見る景色だ。最初にも言ったが視界がおかしい。周囲の物や形からそれとなくここが日本のどこかの町ということは分かるけどそれを構成する色が全体的に黒というか暗い。まるで何色もの絵の具をかき混ぜたかのような形容し難い色だ。それぞれがそういう色をしているのではなくむしろ自分の目にフィルターをかけられているといったほうがいいだろう。たまたま見つけたコ○・コーラの自販機が黒紫色をしていることでそうなんだと思った。
他にも伝えきれないほどあるけど、自分の体も含めて考えて一つの答えに至る。
俺、幽霊になったんじゃね?ってさ
えぇー…。何、俺死んじゃったの?まだ若いしこれからやりたいこととかたくさんあったのに。まあ記憶がないから知らんけど。でもそうか俺って今タマスィーだけの状態なんだー。地縛霊て気はしないし記憶もないから何かに害する悪霊でも無いだろうから、取り敢えず浮遊霊ってことにしときましょう。
にしても人がいないと気づく。いい忘れていたが自分がいるのはどこか地方都市の住宅街。なのに人っ子一人すれ違わないがもしかしたら今って深夜?俺の見る景色じゃ朝も夜も判断がつかない。さすがに時計を見れば分かるだろうとたまたま目についた一軒家に忍び込むことにした。
フワフワ移動しながら(ほんとに飛べてた大発見)玄関を前にする。ついドアノブを掴もうとしたら触れることなく手がドアノブをすり抜けた。一瞬驚いたけど自分が霊体だと自覚してニヤリと笑う。そうだ、俺は幽霊なんだ。なら当然「壁抜け」が出来るはず。誰もが妄想の中で一度はしたであろう最早ロマンである。死んだ身でありながら少年みたいなワクワクが衝動が溢れる。いざいかん!
『セ○ムしてますかー?』
あまりにもあっさり自分はドアを通り抜けた。顔がドアに当たる(当たってない)瞬間ちょっとビビって目を瞑ってしまったが。
『うわっwww今モッてなったwww壁の中で体がモッてなったwww』
言葉通りである。薄いドアなので一瞬だったがドアの中にある体の表面に若干の圧迫感が生じていた。言うほど窮屈なものではなくまるで羽毛に包まれたかのような感触、感動のあまり玄関のドアを3往復も堪能してしまった。
ちょっと恥ずかしくなり咳払いをして家の中を見渡す。通路の先に階段と2つのドアが見受けられた。家の外観からしてリビングであろうドアを通過して部屋を見渡すと探していた時計を見つけその針が深夜の3時過ぎであることを確認した。そりゃ誰も居ないはずだ。時間を見たあとその家はすぐにでた。そりゃ当然他人の家の筈だし泥棒よろしく侵入して住人を見ることに若干の恐怖心があったからだ。いや、自分は幽霊だからバレないだろうけど幽霊が生きてる人を怖がるって逆じゃない?あとリビングとは別のドアから何か感じるものがあったけどもしかしたそっちに人います?
家を出るときにまた玄関のドアを数回往復したった。
side住人の息子(無職ニート)
俺は幽霊なんかいないと思ってた。テレビで心霊特集の番組をよく見たけどそれらは結局思い込みやヤラセが全ての道楽なんだと内申笑ってた。あの日も俺は夕方に起きてお袋の飯を食べ就活してるのかという嫌味を受け流し自室でゲームとネットにふけっていた。両親も寝静まり深夜を過ぎた頃、ゲームを中断し被っていたヘッドホンを外して伸びをしたまさにその時だった。
『フフッ……フフッ』
自室の隣、つまり玄関から笑い声がした。知らない声だった。ゲームは一時停止をかけているしその声は幻聴というにはあまりにはっきりしていた。家には二階で寝ている両親と一人っ子の俺以外に人はいない。まさかと思うと今度は先程よりテンションの上がった笑い声がした。また玄関から、今度は耳を済ませていた。確かに誰かが笑った
オイオイオイオイ!まじで!?これって心霊体験!?
見つかるとやばいと思ってそっとパソコンの電源を落とし机にゆっくり、音を立てないように突っ伏した。部屋の電気を消してて良かった。いや、見つかる可能性は下がるが怖さを思えばつけておけばよかったけれども後の祭りである。
くるなくるなくるな!!
数分しても変化がなくホッと息を吐くとまた玄関から笑い声がしてそこで俺の意識は落ちた。
次の日の朝珍しく朝食に顔を出した息子に両親は意外な顔をした。
「どうしたのアンタがこんな時間に起きてくるなんて珍しい」
「いや、まぁ…うん。夜寝落ちしたから」
「いい機会だ、これを気に生活習慣を正すように」
「そうね。また前みたいに起こしてあげようかしら?」
クスクス笑う両親に息子は言った。
「母さん、俺のリクルートスーツってまだあるよね?」
「そりゃ捨ててないからまだあるわよ」
「俺…就活するよ」
「あらっ」「おおっ」
喜色の声を上げる両親とは裏腹に息子は内心1日も早くこの家を出ることを決めたのだった
思い付き
幽霊関係の知識は皆無のため設定は作者の想像です。