吾輩は幽霊である   作:asikuma

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その5

 

幽霊になって…数えるのは辞めた。

 

取り敢えず映画は飽きたわ。あれってたまに行くからいいのであっていつも行くとワクワク感とか無くなってだるくなるんだ。新作が出る頻度もそれなりにかかるし数日もしたらそのシーズンの新作映画は殆ど網羅してしまった。本編開始前の映画○棒の動きは最早完コピ出来るくらいみたね、なんならパトランプ役もできる。急募『映画泥棒のパートナー』

 

あと人気作品の時はたまに、いやかなりカップルが来る。テメーら映画見に来たんだろうが何イチャ付いとんねん?肘置きで手繋いでるカップルにはもれなく放映中ずっと肩に手を置いてやった。ホラー映画だったから臨場感が半端なかったに違いない。何せガチモンの幽霊が付きっきりだったのだから。二人共時折後ろをチラ見してたから俺としては満足である。あれ?俺ってば悪霊化してない?大丈夫大丈夫、セウトセウト。

 

 

あっ。いい忘れてたけど今の自分はなんと『肉体』を持ってます。凄かろう?気になるやろう?

 

 

 

滑らかな黒毛

 

しなやかな体の曲線美

 

小顔に対して大きなお目々

 

ユラユラ揺れる魅惑のしっぽ

 

極めつけは手足に備えたプニップニのキュートな肉球

 

 

 

そう、吾輩は…猫である!

 

 

ふぅ…人型のときと違い視線が低くて物が大きく見えるのは幽霊になったときとは別の新鮮さである。視界も幽霊フィルターがないのは良い…といいたいところだが、なんかボヤケてるんだよ。てっきり猫の視力って良いもんだと思ったけどそうでもないのね。ちょっと期待外れだがそれでも幽霊だったときの見え方では天地の差だ。文句を言うのは贅沢というものだろう。

それに何より他人が自分を認識してくれることが何より嬉しい。そりゃあ今の俺って畜生ですけど?生者からは認識されず同類からもガン無視されてたら荒んでくるってもんですよ。しかも猫ってことてちょっと愛らしく振る舞ってたら向こうから来てチヤホヤしてくれるんだぜ?いやぁ人ってチョロいわー、猫が人間に対して不遜な理由がわかった気がするね。

 

それはそうと俺がどうして猫になってるのかだが、まぁ問題にするまでもない。『憑依』できたって話だわ。最初こそどうすれば人に憑依出来るかと模索していたが結局うまくいかなかった。性別や年齢を変えてトライしては肉体の壁を超えられずお手上げ状態だったとき、たまたま近くにこの猫がいたわけ。しかも都合よく寝てた。で、ものは試しってこと感じにその猫をつついて見たら指が猫体に入り込んだからまあびっくり!触られた側の感覚はわからないけど自分の感覚としてはゴム風船を割らずに貫いたって感じ。グググ…ズボッ!!みたいな?人間相手の時は全くどうしょうもなかったのが嘘みたいに干渉することが出来たんだよ。

 

猫と人間じゃ生物学的に全く違うけど今回注目する点はやはり魂となる。俺(幽霊)から見た人と猫(その他動物)の違いというと魂の明瞭さだ。どういうことかというと、生物の肉体はガラスみたいに枠だけ見えて魂の色形がその中から湧いてる様に見えるのね。で、人間の魂って各所強弱はあっても肉体の枠に綺麗に収まってるの。肉体の形=魂の形って言えばわかる?そして他の動物はそうでもなくて、肉体の形に対して小さめの魂が収まってるんだよね。断言は出来ないけどおそらく人間の自己認識力の強さが影響してるんだと思う。例として上げると赤ちゃんや幼児の魂は動物よりの見え方だった。つまりそういうことじゃね?

 

まぁそんなわけで、入れるってわかったらすぐ実行に移した。入ったあとどうやって出るんだろうとか後のこと一切考えてなかったけどあのときは勢いで行ったね。猫の体に指が全部入って次に掌、腕が収まっていく時点でいや四次元○ケットかよ!てツッコミそうになった途端全身がすごい勢いで猫の体に吸い込まれた。一瞬のことで驚く暇さえなくて、気づけば俺in猫になってました。

 

人型から四足歩行の生き物になると最初は歩くことも難しかった。つーか頭の中パニックになった。しゃーないやん、いきなり猫ですもん。耳と手と足が違う生え方してて尻尾とか自分の体ながらナニコレ状態。歩こうとして右の手足が同時に出てバランス崩すとか卒業式かよ…

そのまま数十分猫の体に悪戦苦闘してたけどそのうち『考えるな、動け』って結論が出た。変に動くことを意識しなけりゃ意外とすんなり動き回れるようになった。慣れたというより猫の体が覚えてるってことかな。

まだ慣れないことが多いが何やかんや結構楽しんでる俺、ほれほれ今もこうして戯れてくれる通勤中のOLおねーさんが屈んだことで見える桃源郷のような三角州…の向こうから感じる何これプレッシャー?

 

 

はっ、貴様は何時ぞやの落ち武者!?なぜここに!?

 

 

刀を揺らし獲物を判別する守護霊を前に、ただの野良猫を演じきる俺であった。

 

 

 

とある猫の1日

 

いつからだったか、とある住宅街に一匹の黒猫が現れた。おそらくは住民達も以前から認識していたが意識するほどのものではなかった。それが意識するようになったのいつからかはわからない。気づけばその黒猫は住人達から注目をあびるようになっていた。

 

朝の通学時間、道行く学生を黒猫はいつも同じ塀の上から見下ろしている。普通なら人々は次回の片隅に流して通り過ぎるが黒猫は決まって一声鳴いてまるで挨拶をしているようだと住民達は言う。

ある時はバス停のベンチ上に黒猫はまるで特等席のように座り込む。人が寄っても逃げ出さず、好奇心に駆られた少年少女の手を嫌がることもしない。勿論中には黒猫を邪魔とみて追い立てようとする者もいるのだが、そういうときはあっさりベンチから飛び退いて場所を譲るというものわかりの良さを見せる。しかし逃げないのだから日を重ねれば人々も愛着が湧いてくるというものだ。

そうしていくうちに、食い物を手に黒猫を餌付けしようとする者が現れるのは必然と言えよう。

 

「さーて猫さん猫さん。今日は朝ごはんからくすねてきた鮭の塩焼きでございますよー」

「ニャニャ!」

 

どこぞの女子高生がタッパーの中から数切れの焼き魚を取り出して黒猫に差し出す。すると黒猫はなんの迷いも見せずにむしゃぶりつく。のら猫であれば匂いを嗅ぐなり警戒するがこの猫はそれがない。飼い主とペットくらいの関係性を感じるがこの猫、餌をくれる相手なら誰でもこんな感じである。

そうして供物を捧げた女子高生は黒猫が餌を食べ終えたのを確認するといざと抑えていた欲望を解き放つ。

 

「うりゃりゃりゃ」

「ニャニャニャ!」

 

撫で回す、抱きかかえる、モフる、そして猫といえば…

 

「はぁ、このプニプニ…至高の感触」

 

前脚の肉球を何度も指で堪能する。ここまでされるがままの黒猫、本当に野良なのかと怪しむ人は多い。

 

「そろそろ行かないと遅刻しちゃうかぁ。名残り惜しいけど…猫さん、また今度ね!」

「ニャ!」『肉でもええんやで!』

 

手を振って走り去る女子高生を送るように黒猫は尻尾を振って返す。そうして女子高生が道の角を曲がったのを確認すると黒猫は腰を上げて次なる目的地へ歩みを進める。

 

「ニャァ…」『次はー、3丁目の山西婆ちゃんの家ー。3丁目の山西婆ちゃんの家ー』

 

気分は『突撃!お宅の○ご飯』だそうな

 

 

 

 





守護霊『ギルティ(変態)?』
主「ニャニャ!」『猫!猫!』

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