黒猫に憑依して数週間、いつの間にやら俺に名前が付けられたらしい。ズバリ…
クロちゃんです!!(裏声)
いや安直すぎぃ!?まんまですやん。まぁ覚えやすく親しみ安さで言えば妥当っちゃ妥当か?
人に媚びへつらい各地を周回俺も名前を貰うほど有名になったらしい。そんなに可愛がってくれるなら一人くらい(美人女性希望)飼い主を買って出てくれてもいいと思うんだが、どうやら八方美人しすぎたせいでみんなのアイドルだから個人で飼うことはしないという暗黙の了解みたいなのが共通意識として認識されてるようだ。いやぁかわいいって罪だわー。仕方ないからあいも変わらず毎日挨拶回りして胡麻すりする俺であった。その習慣も功を奏して食い扶持には困っていない。この体雑食だから基本何でも食えるけど、中身は人の心だからね。狩りは出来ないこともないけどネズミや鳥とか食い殺すなんて出切るわけないじゃん…
晩飯の残りとかなら最高だけど最低ラインとしてはキャットフードだな、意外と悪くない。
え?人としての尊厳?知りまへん、今の俺猫だから。
あと猫の本能ってやつ?あれには困惑する。下校途中の子供と戯れてたらやっぱりアレを持ってくる子がいる。
そう、『マタタビ』である。
目の前で揺らされる毛玉。はいはい、いつかは来ると思ってたけど俺はただの猫じゃないんだぜ?俺の気を引きたk…あれ?くそぅ目が離せない!つい体が反応して飛びつき、猫パンチを連打した。目指せ!フルコンボ〜
手な感じで自制が聞かない場面が偶にある。ネズミとか突然遭遇したら条件反射で狩りそうになってな、お口でキャッチする直前に理性が全力ブレーキをかけた。あれは危なかったな、流石に小動物を噛み殺すとか生理的に許容出来ない。
あと、猫相手に芸求めてくる奴なんなん。お手?伏せ?待て?犬じゃないんだから…いや出来るけど、してやったけど!この野良スゲー!って中学生がはしゃいで更に要求してきたけどスンと虚無って拒否した。詰まるところお布施(食い物)がいるってこと、おわかりぃ?
とまぁ猫生活を満喫している俺だが、ときには住民の生活に貢献している。人気のなくなった昼間の住宅街を巡回し空き巣がいないかセルフパトロールしているのだ。2回は遭遇した。未遂もあるけど被害が出るのはやはり一戸建て。玄関に鍵がかけてあっても他の窓や勝手口の戸締まりがおざなりになってるところを狙われて侵入されるようだ。一部の例外を除いて各家の住人の顔を覚えてるはずもないがサングラス・マスク・ニット帽と泥棒三種の神器を装備してたからね。最早自己紹介してるよねあれって。ときに大声で泣き喚き、或いは近所のオバちゃん(顔見知り)を誘導して通報させるという頭脳プレーを発揮し俺の名声は更に上がったことであろう。お布施のグレードアップを所望するネ。
そんでもって、最近気になることがある。近くの高校に通う男子学生の1人なんだが、なんか憑かれてるっぽいだわ。いつものようにバス停で住人の見送りしてたらいつも見る学生の左肩に何やら黒いモヤみたいなものが見えた。誰もそれに気づいてないから汚れや埃ではないだろうと観察していたのだが、日に日に学生の顔が気落ちしていってこれは『そっち系』のトラブルだろうと悟った。個人的に思い入れはない人物だが彼も自分に何度か食い物をくれたことがあったのを覚えている。
ここは猫の恩返しというものを見せねばならんようだな。
悩みを抱えた男子高校生
通勤と通学で人が行き交う道を肩を落として歩く少年がいた。彼は近くの高校に通う2年の男子学生だ。学校では中学からの友達や熱の入った部活動を満喫し順風満帆の生活を送っていたのはつい最近までの話。
ことの始まりは3日前の夜、少年は部活動の終わり仲の良い先輩や部活仲間と共に帰宅していると先輩の1人が突然「今から肝試しに行かないか?」と言い出した。今は夏の手前であり若干の季節外れもあり周囲も何でいきなり?と返す。興味はなくもないがそういうのは夏休みのイベントが定番じゃないのか、それに何より部活帰りもあり女子が1人もいない。肝試しは男気を試すものではあるがそれを見せたいと思う相手がいなけりゃ醍醐味も半減というものだ。しかし先輩が言うには目星を付けていたアパートがあるのだが、そこが来週には取り壊し工事があるらしい。場所もこのまま歩いて20分程だし肝試しの内容もアパートの一部屋ずつにノックしていくだけという。正直「えっ、それだけ?」と拍子抜けの内容だったが先輩が手を擦り合わせてお願いしてくるものだから周りが根負けして寄り道していくことになった。
例のアパートは木造二階建てのボロ屋だった。裏手に雑木林、表にある1本だけの街頭が時折点滅を繰り返しそれらしい雰囲気を醸し出していた。一見どの街にもいくつかありそうなボロ屋、神社でなければ墓場でもない。どうしてここで肝試しをしようとしたのか尋ねれば、何年も前(いつかは全くわからないらしい)にアパートの住人の一人娘が交通事故で亡くなった事件があったという。ではここにその娘の幽霊がいるのか、それは違うと先輩は続ける。その悲劇に娘をとても可愛がっていた母親が精神を病み一年も待たずに部屋の中で首を釣り後を追った。娘と妻を亡くし家庭を失った夫は耐えられずそのアパートを引っ越した。そして空き部屋になったのだが後々その空き部屋からうめき声や騒音が鳴り出すという苦情が出始めた。そしていつしか住民も居なくなり空き家となったが夜な夜な帰り道で通った人がアパートの一室から件の声を聞くのだとか…
いつしかそれが地元の都市伝説になっていたらしく、俺達のような興味本位で訪れる輩はたまにいるらしく先輩も友人から聞いて試したくなったそうだ。
そしていざ肝試しとなったわけだがその時点では正直あまり怖くなかった。アパートの前には電灯があったし、やることも各部屋のノックをするだけだ。誰もいない部屋にノックするなんてわけないしなんならピンポンダッシュのほうが緊張感があるだろう。
6人いたメンバーでジャンケンをして運がいいのか悪いのか俺が最後を引いた。アパートは二階建てで例の声は二階のどれかからするというのでノックするのは二階の部屋のみで決まった。先輩や友達は各々何事もなく終えてなんとも無かったと豪語する。内何人かは階段で駆け足していたのは足音でわかったから冷やかされていた。そんなこんなで俺もすぐ終わるだろうと2階に登る。何てことはない、8部屋あるドアを順にノックしても結局返答はなかった。内心ほっとしながら階段に足を下ろした瞬間だった
ガチャ
それはドアが開く音だった。総毛立つというのはこのときの俺のを言うのだろう。
えっ、は、えっ?どっか開いた?ノックが返ってくるんじゃなかったの?
頭が体が心臓が逃げろと警報を鳴らす。しかし馬鹿な俺。ここで走ったら下で待つ連中に弄り倒されることも恐れた。ほんとに、今思えばなりふり構わず全力で逃げるべきだったんだ。ひくついていたであろう顔に無理やりポーカーフェイスを貼り付けて何食わぬ顔で階段を折り続けた。幸いなことに追ってくるような足音はしない。聞き間違いだった、そうに違いないと必死に思い込む。登るときはすぐだった階段がこのときばかりは一歩一歩が果てしない時間に感じた。
なんとか階段を降りきった俺は若干早足で先輩達のもとに向かう。案の定それをからかわれたが逆に救われる思いだった。もし俺を残してその場を離れていたら一生許さない自身がある。
「やっぱり何もなかったなー」
「いやぁ、でもちょっと怖かったっす」
「お前階段小走りで降りてたもんな笑」
「先輩、ブーメラン刺さってますよ」
「えっ」
人の気も知らずに談笑し踵を返す先輩方を他所に俺は勇気を出し振り返ってアパートを見た。電灯に照らされた二階のドアはどれも開いてるようには見えない。ほっと息をつく。あれは雰囲気に当てられて幻聴が聞こえたんだと、そう思い先を行く集団を追いかけようとしたその時、肩を叩かれた
「…ぉあぇ…かぁ?」
そして俺の『影』に怯える日々が始まった。
言い訳はしません。忘れてた