TS魔法少女がまぁまぁ優しくない世界で頑張るハナシ   作:のへてみこそ

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アンティリル それが俺の名だ。
 私はつぐみ。他称女のコってところかな。まだあなたの事を信用してはいない。まぁ、人助けは好きだからね。協力はするよ。
 もしも、あなたが私の信念に牙をむいた時。私はいったいどんな感情を抱いているのかな?


優しくない部分

 

 

 

 初めて彼女の事を意識したのは、いつのことだったっけ?

 いわゆる、一目惚れというやつだね。

 そのころの自分は今よりももっと、この世界について厭世的な人生感を抱いていた。

 まぁ、子供の器と環境の中に大人の価値観がサンドイッチになっていたんだ。想像に難くないだろう。

 

 そういうわけで、私は授業をボイコットしていたわけだ。居眠り。読書。エトセトラ。漫画とかゲームとかしなかった。

 先生は注意していたけれど、積み上がっていく満点のテストとあまりにも早熟にみえた自分に少しだけ、恐怖を抱いていた気がする。そして、それに気づくと失望を感じてしまっていた自分がいたことに、呆然としたね。うん、懐かしい。

 そんなときのことだった。彼女=かな ちゃんのことなんだけどね。

 夕陽が教室の中に差し込んできていて、黒板や机が暗い憂いの色を帯びていた時のお話。

 私がいつもと同じように船をこいでいた時、いきなり頬をつままれたんだ。

 正直、びっくりしたね。

 距離感覚がバグっているように感じたよ。

 あの時の私は教室の中でもかなり浮いていたから。

 ふわん、ふわん。していたから、まるで友達に話かけるように、こちらの顔を見ていたんだ。彼女の黒髪は夕焼けをうけて、輝いていたんだ。

 

 そして、今こうして退屈な授業を少し工夫して受けているというわけです。まあ、退屈なことには変わらないけど。

 

 そんな時に、スマホが振動した。

正直珍しいなって思った。

だって、電話とかショートメッセージを送ってくれるような友達なんて、私には片手の指でも余ってしまうから。つまり、そういうことです。

 先生に見えないように、机の下で確認すると、今朝入れていた、魔法少女アプリの通知が来ていた。

 曰く、

 「モンスターが発生しました。周辺にいる、魔法少女に伝えています。担当の妖精さんと相談して出撃するか、決めてください」

 なるほど、こんな感じで決めるんだな。

一人納得すると、クラスの中の一人が手を上げて、保健室に行ってくると先生に告げて教室の外に出て行った。

 こんなタイミングで、わざわざ。

 そういえば、思い返して見ると、彼女はよく、こうして授業を欠席している。

 もしかすると。

とりあえず、いったん教室から出てみようかな。

 

 「先生、私もお腹が痛くなったので保健室行っていいですか?」

 「つぐみさん。いいですよ」

 先生は私の方を見ると、少し困ったような表情を浮かべていた。

 そういえば私、彼女と違って、全然真面目に授業を受けていなかったわ。

 ごめんなさい。

そう思いながら、人目につかない場所で妖精さんを引っ張り出した。

 「ねぇ、妖精さん。魔法少女って、学校に通っている子も多いんでしょ。その子達ってどうしているの?」

 

 「魔法少女の専門の学校があって、そこに通っている。中学からだね」

 

 「小学校の頃は?」

 

 「担任とあと責任者に知らされているらしい」

 

 「が、詳しくはこちらにも知らされていない」

 

 「どういうこと?」

 

 「俺ら、妖精たちと政府とでは別組織だとういうことだ」

 

 「仲は良くないのか…」

 

 「そもそも、人間から見たら、俺らは、モンスターと五十歩百歩らしいな」

 

 「お疲れさまです」

私は妖精へ敬礼をした。少し場の雰囲気を壊そうとしたんだ。妖精さんも私たちとあまり違わない価値観をもっていたら、嬉しいな。

 色んな人、色んな妖精。それで充分。

 

 現場に向かっていくにつれて、空気が重くなっていく。体が重くなっているように感じる。先ほどから電波が届かなくなり、スマートフォンの電源が突然切れた。

 そこはその領域だった。

 それがそこを支配しているのだ。

  

 

 「ねぇ、妖精。あれがモンスターなの」

その巨体はビルの如き大きさで、日に反射して光る鱗は黒く鈍く美しい。その翼は風を切り裂き粉塵を吹き飛ばす。その目は黒曜石のように鋭い。

 それは叙事詩、神話、に登場する生物。黒龍はつまらなそうに、足元の魔法少女をいたぶっていた。

 

「ねえ、妖精さん。モンスターっていったい何者なの」

「それは詳しくは分かっていない。異世界からの侵略者の場合もあるし、この世界ので生まれたものもいる」

「そう」

 

「ねえ、私は実は隠していたことがあるんだ、何だと思う」

「なぜ、キミは」

「時間切れだね、では行ってきまーす」

 

ビルの隙間から壁を蹴り上げ登り、屋上へ、そこから、龍と相対する。

 直視してわかる、その強大さを。

「これは、どうしよもなさそう」

それは、魔法少女を使い終わった玩具のように地べたに放り投げ、大きな翼を広げて空へ、飛ぶ。

 風がこちらにも伝わってくる。

 大きな咆哮を天へと放つ。

「どう考えても、新人が戦う相手じゃないでしょ。我ながら損する性格しているなぁ」

 

 手元の棒手裏剣を遊ばす。目を閉じて、体に流れている魔力を意識。

 飛龍が大きく息を吸い込んだ。

 とっさに、地面を強く蹴る。斜め向かいのマンションに飛び移る。

 火球が渦巻きて、さっきまで足場にしていたビルを溶かす。ガラスが割れる音がビル群に響きわたる。

 立ち止まっている場合じゃない。

 飛龍の動きを見ながら、足を動かす。

 

 龍はこちらへ急降下してきた。風切る音が爆弾のように聞こえる。

 マンションから飛び降り、龍の死角に入るために、マンションで龍の視界を遮ろうとした、時。

 マンションが崩れた。

 龍の鉤爪が迫りくる。

 手に持つ棒手裏剣を龍の関節部に放る。

 しなやかで硬い鱗は刃を弾き、爪は私の体を吹き飛ばした。

 

 銀行の中に吹き飛ばされた。窓ガラスを突き破り、ATMへと衝突した。

 「野球ボールの気分だな。ハハ、おかしい」

 あぁ、ちゃかしてないと、やってらんねー。

 

 銀行の中は静かで誰もいなかった。

 不思議な感覚。

 そこへ、火球が放たれた。

 「マズ」

 

 灼熱の炎はガラスすら溶かし、焦げた匂いが辺りに充満する。

 スプリンクラーが反応して、騒がしい警報音と共に水がまかれた。

 幸い、直撃は避けたが皮膚の一部が、ひどい火傷を負っている。

 

 水びたしの体で外へ飛び出す。

 龍は空で踊り、体についた汚れをはらっている。

 

 「どうしよう、手がない」

 「手なら一つだけある」

 気がつくと後ろに妖精が、いやアンティリルがいた。

 「あれ、どうしたのこんなとろにまできて」

 「なんで、俺をおいていこうとしたの?」

 

 「なんでって、キミは足手まといじゃん、現に先日の魔法少女さんも、妖精は近くにいなかったじゃん」

 

 「足手まといでなければいいんだろ、現に今、つぐみは困っているじゃないか」

 

 「そう、ありがとね。一応言っとくは。それで」

 

 「必殺技だ」

 

 「必殺技?」

 

 「つぐみの中に渦巻いている、魔力に一つの方向性を与えるんだ。つまり、変身した時と同じ要領だよ。チャンスは一回。いま、あの龍はこちらの動きをまっている」

 

 「あれは、なめているの?」

 

 「違う。学んでいるんだ。魔法少女のことを。だから、油断はしていない。同じ攻撃は二度は通用しないだろう」

 

 「了解。さてと」

 私は体の中の魔力を一点に集める。

 手元にある、棒手裏剣と同じように、でも、威力をどんどん大きくしていく。

 

 「俺は、一度だけ、奴の火球を防ぐバリアを張る。その時が狙い目だ」

 

 「了解」

 とっとと、逃げればいいのに。そんなことも考えてしまったり、集中しなきゃ。

 

 ねじり、空気を切り裂き、その鱗を突き刺き、貫くように、鋭く。

 

 龍がこちらの異変に気づき、火球を放ってきた。

 渦巻く火球は炎を広げて、焼き尽くす。

 私たちは火球に包まれた。

 

 その中で槍を構える。

 視界が開けた。槍を投げようとした。

 けど、

 いない。

 

 「うしろだ!」

 アンティリルの叫び声が聞こえる。

 

 

 槍を放った。

 槍は空気をそして、龍の鱗を貫いた。

 

 けれど、龍の尻尾が、私のからだを襲った。

 いくつもの棘が体に傷を与えた。

 これは、だめ…か。

 槍は龍の片翼を貫いたが。その瞳には闘志が満ちていた。

 ボロボロな体を奮い立たせて、また、棒手裏剣を握る。

 「あと、どれくらいかな」

 なんて、気丈なフリをして、そんな自分が少しだけ誇らしい。それでも、終わりの時はすぐそこに。

 

 

 

 

 私がその知らせを聞いたとき、もう手遅れだと思ってしまった。

 そして、すぐにそんな自分に嫌気がさしてしまった。

 気を取り直す。

 ここらの有名な魔法少女が集まっている。

 目的はモンスターの討伐。どうやら、地元の魔法少女がモンスターの足を止めているらしい。

 びっくりした。

 だって、そのモンスターは最上位、S級の区分がなされているらしい。

 地元の魔法少女なんて、勝てっこないのに。

 最悪の事態を頭に浮かべながら、私たちは目的地へと向かう。

 

 そこには、ボロボロの魔法少女がいた。

 なんで、そんなに頑張れるだろう。

 幾つものビルは倒壊して、その場所は砂漠のような暑さだった。

 空を片翼のみで飛んでいる龍はこちらを見ると喋ったんだ。

 そのモンスターが発する威圧はとても重く、思うように息ができない。

 体が重い。

 そうそして、喋ったんだ。

 知恵のあるモンスターだったんだ。

 倒せるのだろうか、こんな化け物を。

「潮時か、楽しかったよ、童。名を聞いておこう」

彼女の声は小さくて、私には届かなかった。

「なるほど、そう申すのか。覚えておこう。いつか、また、な」

 

そう言って、龍はこの場所から飛び去った。

後に残された魔法少女は電池が切れたかのように、バタンと地面倒れた。

 「ひどい怪我をしている。はやく、医務室に連れて行かないと」

 

 私たちは協力して、彼女を運んだ。

 自分たちの無力にさいなまれながら。




メモメモ
龍は人が住んでいない領域へと飛び去った。魔法少女の管轄外である。
主人公はまあまあ、とても、強い。が、それ以上にモンスターも強い。
モンスター、それは人以外の人を害する、とされるもののこと。その区分はてきとうにつけている。
 つまり、モンスターの中には、協力的なものもいる。
スマホだと、書きにくい。

 

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