恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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④:ピーグリーン・フラワー

 GWになり、俺は長期旅行──なんてことはせず、基本的には動画投稿に向けた準備と時折パレオたちの手伝いをしつつ、最終日の方になっていた。

 そんな連休の終わり際俺は兄ちゃんと二人でつぐみの愚痴というか悩み? を聴いていた。どうやら、ミニイベント関連のことで、大成功だったんだよとひまりが興奮気味に言われていた俺はその愚痴というか失敗だったみたいな言い方に疑問を抱いた。

 

「何があったの?」

「ライブ自体は盛り上がったんだけどね、その後が──」

「その後?」

 

 どうやらそこでバンドに興味を持ってくれた子たちにステージに立ってもらおうってイベントを催す予定だったらしい。だけどそれは失敗というか難航しているらしい。誰もライブのオファーに頷いてくれない、どころか少し雲行きまで怪しくなっているという状況のようだ。

 

「有咲ちゃんが言うには、パートがいなくてライブまで漕ぎつけないとかそもそも組んだけど活動してないとか、そういうのばっかりだって」

「まぁ、バンドが成功する確率は極わずか──しかもそれが友達同士の仲良しグループなら余計にな」

「兄ちゃん」

「音楽って、そんなに優しいもんじゃない。それは、つぐみもよく知ってることだろう?」

「それは……そうだけど」

 

 兄ちゃんはすごく言葉が厳しい。いつもの優しい感じじゃなくて、俺はちょっとだけ戸惑ってしまう。でも、それは多分俺の知るプライベートであり、家族に接する時の兄ちゃんじゃなくて、一人のプロのバンドマンである山本浩介としての姿であることを示していた。それだけ、この話に兄ちゃんとしても思うところはあるみたい。

 

「実は、そのライブ、ましろが見に行ってたんだと、友達に誘われて」

「友達……友達いたんだ」

 

 いつもまっすぐ家にやってくるし、本人の言葉的にも完全なボッチだと思ってた。まぁそれはさておき、どうやらましろちゃんもその被害者──って言ったらあまりにもつぐみたちが可哀想だけど、バンド活動がうまくいってない、どうやら躓いた側になってしまったらしい。俺としてはこれで完全にましろちゃんがボーカルやってくれる計画破綻したよと別の意味でショックを受けていたけど。道理で最近来てないと思ったよ。

 

「つぐみたちの周囲には成功したやつらが多すぎるから、麻痺してるかもしれねぇけどさ。あんまり、バンドの楽しい面ばっかり見せようとしすぎるのも、オレはよくねーと思うんだ」

「う……ごめんなさい」

「つぐみ、兄ちゃんは怒ってるんじゃないんだよ。バンドを勧めるってことに対して、覚悟を持ってほしいってだけで」

「大丈夫、うん……わかってる」

 

 バンドは楽しいって気持ちはつぐみたちを見てれば痛いほどよくわかる。そんな姿を見てると自然に、バンドってこんなに楽しいんだって憧れる気持ちも。

 でも、兄ちゃんの挫折も俺はよく知ってる。もちろん俺も躓いた側だから。いわば負け犬の理屈だけどさ、このバンドが飽和してるからこそ、ちゃんと伝えていかなきゃいけないことなんだと思う。

 

「……って、兄ちゃん。これはつぐみに言うんじゃなくて、主催のCiRCLEとか、もっと言うなら中心でやってるポピパに言うべきことだと思うよ」

「ん、まぁそうだな……ごめんなつぐみ」

「でも、わたしたちがバンド歴一番長いから」

 

 つぐみはめげてはないようだけど、俺としてはちょっと心配だ。確かにAfterglowは他の4つのバンドと違ってキャリアが長い。4つ全てのバンドが二年目、もしくはもうすぐ二年目というところだから。いい意味でも一番メンバー同士の衝突は経験してるよね、後はそれをどう伝えられるか、かな。

 

「というか、ましろちゃんも相談してくれればいいのに」

「本人なりに、気まずいんだろ」

「しかも修斗くんは絶賛前向いてる最中だもんね」

「そういうもんか」

 

 それにしても、兄ちゃんの言葉でましろちゃんがバンドを組んだことを知って調べてみたけど、結構酷評されていた。普通、平凡だって、ふふんわかってねーな──じゃなくて、ここでマウント取ってもしょうがない。けど、平凡に聞こえる理由はやっぱり、バランスがよくないからなんじゃいかな。

 その相談はやっぱり音楽系でプロデューサーをしている彼女に相談してみるに限るということで、俺はチュチュさんにその動画を見せていた。

 

「フン、突っ走りすぎねバランス悪いってレベルじゃないわ!」

「チュチュ様、さすがです」

「でもギターのこのガンガン前に出る感じは嫌いじゃないわね、スカウトしようかしら?」

「チュチュ様〜、ギタリストはマッスーさんが今勧誘中だって言ってるじゃないですか〜」

 

 マッスーさん、ことドラマーのマスキングさんは実家がライブハウスで、そこで今年から働き始めたバイトの子がギター弾いてるのをたまたま発見して熱烈に勧誘してる。現在二週間ほど交渉中でGW中は俺も手伝わされた。なんだかおどおどした子だったけど、大丈夫なのかな、ここにいたら寿命が縮まりそうだったよ。

 

「でももったいないわね」

「そうなんだよね、ましろちゃんはあんまり前に出てってタイプじゃないから」

「そうね、でもだったらそれなりの戦略ってのがあるもんじゃない? テンポキーパーを前に一人配置できれば周囲の音を聴く才能はあるわよ、彼女」

「テンポキーパー?」

「普段はドラムがしているけど、流石にボーカルがドラムとアイコンタクトで連携は取りにくいわ」

「配置的に後ろでございますからね、ボーカルが後ろを向くのは演出上ノーかと」

「オフコース! でもRASの場合はパレオがいるわ」

 

 パレオはキーボードだから一定のリズムを一定のテンポで弾くことが多い。派手なサウンドながらキーボードが暴れん坊なドラムとボーカルを兼任してるベースに代わって全体のテンポをDJのチュチュさんと一緒に制御してる。ここに派手なパフォーマンスができるギタリストが合わさることで完成するってことで只今勧誘中ってことだ。

 

「そっか、このバンドは現在四人でドラムと連携が取れるパートがないから」

「ええ、今は前に三人、後ろに一人でしょう?」

「それならキーボードを後ろに配置して音でベースとドラムのコンタクトを助けるか、DJなどで全体の音を制圧するか、といったところでしょうか」

「イエス! さすがはパレオね!」

「お褒めに預かり光栄でございます〜♪」

 

 なるほど、俺は全部一人でやって編集で繋げるだけだから、そういうのまでは頭が回らなかったけど、さすがはプロデューサーを名乗るだけはある。

 ボーカルがぐいぐい引っ張っていけるタイプ、それこそRoseliaの湊友希那さんとか、パスパレの丸山彩さんとかならいいんだけど、ましろちゃんはそういうタイプじゃないからね。

 

「きっと、周囲の音を聴きたい彼女にとって、現状は一人ぼっちで広いステージの上で歌わされてるようなものです」

「そうなんだろうね」

「理解したところでなんともしてあげられませんが」

 

 アドバイスも、逆効果でしかない。ましろちゃんから見たら兄ちゃんもパレオも、もしかしたら俺ですら「持ってる者」で自分は「持たざる者」という壁を作っている以上、何かしてあげられることなんてない。首を突っ込んで余計に思い悩ませるのもよくない。歯がゆいけどね。

 

「修斗さんは彼女のことが──苦手かと思っておりましたが、存外に気を遣って、優しく振る舞っていらっしゃいますね」

「そりゃ、最初は嫌な女の子だなって思ったよ、兄ちゃんをお兄ちゃんとか呼びながら内心で色目使って、独占しようとする、まるで悪女だ」

「ですが、今では想われています」

「いや俺チョロいからさ、よく家来て、兄ちゃんの話で盛り上がってるとさ、悪い子じゃないって思えちゃったんだよな」

 

 兄ちゃんをお兄ちゃんとして慕い──つつも男として見ているけど、ちゃんと話せるようになったら俺にとってもまるでかわいい妹ができたみたいな気分になった。俺はあんなブラコンな感じじゃないけど? 兄ちゃんのことが大好きって同士、気が合わないわけがないんだよね。

 

「いえ、修斗さんはブラコンですよ、同族嫌悪から類友にクラスアップしているだけですよ?」

「毒舌系メイドってそこそこ見かけるよね」

「テンプレでございますねっ♡」

「そこで一番かわいい笑顔するのやめてください」

 

 それはさておき、俺は陰ながら応援することしかできないけど、もし愚痴られたらましろちゃんの好物でも作って、兄ちゃんと三人でほっとできる時間を作ってあげたいと思う。確かビーフシチューが好きなんだっけ。

 パレオは俺の言葉が面白かったのか、なんなのか、それともイジメどころを見つけたのか、すごくニコニコしていた。

 

「今日はそちらでご飯をご一緒してもよろしいですか?」

「もちろん──って、かなりの頻度で一緒に食べてるんだから確認取らなくていいよ」

「そうでした、お昼はチュチュ様のキーボードメイド、夜は修斗さんと浩介さんのお世話をするのが、パレオの生活ですね」

「うん言い方なんとかしよ、家政婦的なことしてないよね」

「お料理、手伝ってるじゃないですか〜」

 

 別に俺と兄ちゃんはパレオを雇ってるわけじゃなくて、お隣で知らない仲じゃないから交流があるってだけで。というか、キミさては変な妄想してません? 夜のお世話とかそういう文字通りの下世話なこと考えてないよね? こうやって一緒にいると忘れがちだけどまだ女子中学生ですよね? 

 

「はい、思春期まっさかりですよ〜」

「自分で言わないで」

「正直なところ、今の生活を誇張して脚色すればネットで小説の一つでも上げられそうな気分です」

「どう脚色するのか訊ねていいやつ?」

「お昼は学園生活、帰ってくるとお金持ち兄弟の色々なお世話をするメイド、うふふ……リアリティあるものが書けそうです」

「それ、全年齢?」

「知ってます? R指定作品って、あくまで読む年齢設定であって書くのは自由なんですよ?」

 

 それ以上はいけない。パレオは毒舌系メイドもできるし、ドルオタだし、そのくせマゾ的な思考回路も持ち合わせてる。恐ろしい女子中学生がいたものだと俺は戦慄した。

 兄ちゃんが帰ってきてからも喜々として妄想を語るせいでナスとモッツァレラチーズをふんだんにつかったトマトソースパスタはとっても美味しくて、タバスコを掛けるのを想定しておりましてということで俺と兄ちゃんは大満足だったものの、その、恥ずかしい話だけどパレオの妄想に近い内容のものが夢に出てきてしまった。

 

「大丈夫だ、オレなんてマジで寝てるところにパレオが来たらヤバいって恐怖してたから、一種のホラーだ」

「まぁ、最初に兄ちゃんに来るから俺は平気か」

「おいこら、盾にしようとしてねぇか?」

「イケメンはバリアになるんだよ」

「シュウ……今のお前、最高に最悪な顔してるからな」

 

 GW最終日は兄ちゃんも休みだったので最後にそれっぽいことをしようと花音さんとひまりと四人で水族館に出掛けることになっていた。ましろちゃんのことも気になるけど、今は楽しまないとなという兄ちゃんに頷いて、このダブルデートへと望むことになったのだった。何があっても、バンドを辞めるって選択肢はなくしてほしい、その願いを傍にいない妹に送りつつ。

 

 

 

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