恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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⑤:連休の終わり

 男女二人ずつの四人で水族館、そんな中学時代には考えられなかったイベントの当日、だが俺は特に緊張することなく兄ちゃんと駅まで歩いていく。駅までやってくると既に二人は待っていて、俺と兄ちゃんを見かけるなり、明るい顔で近寄ってきた。

 上原ひまりと松原花音さん、見目麗しい二人といわばダブルデートだ。少し気分が高揚してきた。

 

「おはよ」

「おはようございます!」

「ふふ、おはようございます」

「おはようございます、花音さんニコニコしてますね」

「ふえぇ……そ、そう?」

 

 そうなんだよとひまりも同意すると花音さんが頬を染めつつ両手で触っていた。かわいい。

 デートとは言いつつ、暇なやつで遊びに行こうぜって感じだった。本来ならつぐみも来たがっていたが、店番があり行けないってことで残念がっていた。お土産と土産話に期待してほしいと約束したけどちょっとかわいそうだったな。

 

「大丈夫、その分オレたちが楽しんで、それをつぐみに教えてあげればいいさ」

「うん、そうですね」

「つぐのためにも、楽しもうよ!」

「……わかった」

 

 それにしても女子二人、きゃっきゃとはしゃぐ姿が麗しい、最近あったかくなってきたから清涼剤としてすごくいい。ひまりも花音さんもおしゃれだし、兄ちゃんに指導してもらった服で大丈夫だろうか。心配になっていたが、そんな心配を悟った兄ちゃんが親指を上げてくれた。

 

「あ、そうそう! 花音さんとお話してたんですけど、せっかくなんでダブルデートっぽく男女ペアに別れませんか?」

「男女ペア?」

「ひまりちゃんが言うには、基本的には四人だけどイルカショーの席とか、それこそ電車とかは男女ペアがいいんだって」

 

 いいんだって、って俺としては普通に分離する場合は兄ちゃんといるつもりだったんだけど。するとひまりは腕を組んで鼻を鳴らした。なに、なんなの一体その顔は。

 ひまりは俺の困惑に対して呆れ顔で解説してくれる。なんか呆れ顔なのが妙にむかつくな。

 

「ナンパとか、色々あるでしょ? 」

「まぁ……兄ちゃんと花音さんがいいならいいけど」

「私は、大丈夫」

「組み合わせはどうするんだ? ランダムか?」

「それでもいいかなって思ったんですけど、デート経験上、お兄さんは花音さんの方がいいかなって」

「ふえぇ……わ、私?」

「万が一迷子になったことも考えると、花音はオレがフォローしたほうが良さそうだな?」

「ですよね、だから私とシュウ、お兄さんと花音さんで!」

 

 なんか、ポンポンと話がまとまっていく。確かに俺は花音さんとデートとかしたことないけど、ひまりとはライブとか二人で行くし、逆にひまりは兄ちゃんとの面識が実はそこまでない。いつも家来る時は兄ちゃんいないこと多いし。そうするとその組み合わせがベストかも。それに花音さんと兄ちゃんの関係が進展? 花音さんが兄ちゃん好き疑惑もあるから、チャンス作りやすそうだしね。

 

「じゃあ決まりね!」

「おっけー、じゃあ行こうか」

 

 そこから電車に揺られ、乗り換えてそれなりにすぐ、目的の水族館にやってきた。ここで早速分かれた意味が出てきた。花音さんと兄ちゃんは暇さえあればこの場所に来るから定期券を持ってるらしい。常連客ってすごいよね、それに対して俺とひまりは当日券を買うために二人で並んでいた。

 

「でさ〜、ちゃんとファンサしててさ、薫先輩ってやっぱりカッコいいんだよね〜!」

「すごいよね、イケメンってだけじゃなくてちゃんとファンにアプローチしてるから人気なんだよね」

「そう! ってかハロハピのファンサは神だよね! こころんもはぐみも、花音さんもすごいし」

「なによりミッシェルだよね」

「そう! あの子すごいよね〜、普段はなんかそんな感じないのにさ」

 

 雑談をしながらいつもよりも少し長い列を進んでいく。

 ミッシェルって中の人女子高生だったんだっていう新しい知見というか、まぁガールズバンドだし他のメンバー女子高生だしそんなもんか。どうやらひまりとは学校は違うけどテニス部同士で少し交流があるらしい。そんな雑談はジャブだったようで、本題として恋バナを持ち込んでくる。

 

「シュウはさ、花音さんとお兄さんの関係どう思う?」

「どう、とは?」

「付き合いそう、もしくはもう付き合ってる、とか?」

「ひまりってつぐみの応援してるんじゃなかったっけ?」

「だって、つぐは違うって言ってたもん」

 

 違うし、もう過去の恋だとは言ったけどなんか積極的に関わろうとしてるフシあるし、この間のましろちゃんの件でも率先して怒ってたし、俺としては実はまだ引きずってて、なんなら好き説もあるけど。ひまりとしてはそうでもないって見解らしい。うーん、幼馴染目線のが正しいのか、兄弟目線のが正しいのか。

 

「俺としては、ましろちゃんは確定として、花音さん、つぐみ、パレオと怪しさ順で並べられるな」

「私は花音さん、パレオちゃん、つぐかなぁ。花音さんとましろちゃん以外はあんまりって感じ」

「そうなんだ」

 

 パレオも除外か、まぁでもひまりは普段のパレオを知らないっていうのもあるけどね、ここGWはずっと三人だったからね、俺の方がパレオの視線には詳しいんだ。そんなことをドヤるとひまりがほうほうと目を光らせてくる。本当に他人の恋バナが好きだねひまりは。

 

「なんだかんだで、シュウも恋バナ好きじゃない?」

「まぁ確かにそうかもね」

 

 俺としては、中学時代には存在しなかった会話のジャンルだから、ちょっと楽しいだけ。あんまり他人の話とかすることなかったからね、誰かが誰かを好きっていうの、流行しなかったし。誰がエロいとか、ヌけるとかはしょっちゅうあるけど。

 

「中学生男子ーって感じだね」

「ホントに」

「女子校と男子校ってそこまで違うものなんだね〜、羽丘はみんな恋バナすごく噂早いんだよね」

 

 それが男女差なのかもしれない。女子は恋バナ好きってイメージあるけど本当なんだなぁ。二人で生産性もなんもない会話を繰り返しているとすぐに受付の前に来た。大人二人で頼んで、先に俺がまとめて払ってチケットを渡しつつ兄ちゃんたちに合流した。二人も俺たちに気づく前に楽しそうに会話してたし、やっぱり兄ちゃんと花音さんって見た感じいいカップルだよな、なんてことを考えていた。

 

「混んでるみたいだな」

「花音さん、人混み大丈夫ですか?」

「う、うん……たぶん」

「それならお兄さんに手でも繋いでもらったらどうですか?」

「あんまり花音を子ども扱いしてあげないでやってくれ、迷子癖も本人は気にしてるんだから」

 

 そういう意味じゃないけどねと俺とひまりが同時に思ったに違いない。顔を見合わせて苦笑いする俺たちに対して、花音さんと兄ちゃんは二人揃って首を傾げていた。そういうところもテンポ的には合うのかもしれない。俺に対して好意を明言しているましろちゃんには申し訳ないけど、俺は兄ちゃん✕花音さんを推してるよ。

 

「やっぱり水族館っていいね」

「だろう、落ち着くんだよな」

「うん……じっと見てるとすごく癒やされるんだよ」

「私としては、もっとはしゃぎたい気持ちもありますけど」

 

 少し暗がりの中で水槽を隔てて、まるで海の中のような空間が広がっている。ひまりは早速スマホのカメラを起動させて色々撮影し始めており、やっぱりじっとできないんだなと思う。何枚か普通に撮ったあとは自撮りもしており、俺が寄っていくと、腕を掴まれてフレームの中に無理やり押し込まれた。

 

「いいね、いい感じ」

「いや見切れてるよ、これ」

「見切れてるのがいいんだよ」

「え……なにそれ、わからん」

「むしろ見切れてるからいいまである!」

「……全然わからん」

 

 見切れてるからいいって一体どういうことなんだ、考えても全然わからん。わからんから考えるのをやめることにした。まぁほら、当の本人すごくご満悦だし、いいかなって。

 スルーしているとひまりがちょいちょいと加工して俺に見せてきた。なんかSNSで女子が載せてそうな画像に変身しててびっくりだ。

 

「まぁアップしないけどこれは」

「しないのか、よかった」

「匂わせ風? 一回撮ってみたかったんだよね」

「巴とやってくれ」

「ダメ、巴って以外と細いから女の子ってバレちゃうんだよね」

 

 いいじゃん女子とデートで匂わせ、そういう世界もありだと思うよ俺は。ふわっとした知識でジェンダー問題に切り込むとおそらく薮から蛇が飛び出してくる可能性が高いのでそんな言い方はしないけど。

 花音さんと兄ちゃんは二人で何やら落ち着いた感じでデートを楽しんでいるらしい。ひまりの言う通りダブルデートっぽい雰囲気を味わえているねこれ。

 

「我ながらいい組み合わせでしょ?」

「そうだね、完璧って言ってもいいよ──俺がひまりに振り回されるってことを除けばね」

「いつもじゃん」

「自覚あったんだ」

「まぁそうじゃなくても、流石にお兄さんにこのノリは無理だよ」

 

 そりゃそうか、デート気分を味わいつつ最大限楽しめる組み合わせというか、ひまりが最大限楽しめる組み合わせだったってことね。女子同士は本人も電車に乗る前言った通りナンパとかの危険性がないわけじゃない。麻痺してきているがひまりと花音さんはあざとい仕草があざといけど許せるかわいさを兼ね備えている。二人で手持ち無沙汰にしていれば間違いなく声を掛けられるだろう。それに、ひまりがこのノリを出せるのはこの中だと俺しかいないってのも大きな理由だろう。

 

「俺も花音さんが隣だとドキドキして水族館どころじゃなくなりそうだし、いいけどね」

「私じゃドキドキしないってこと?」

「ってこと」

「ムカついた」

「なんで?」

 

 花音さんと水族館でデートだなんて緊張するけど、ひまりと水族館ってなんかもう緊張する要素がなくない? 実際にトキメキを感じるような関係でもないし、それでドキドキしてたらライブ二人で行く度に心臓の音を気にしないといけなくなるよ。

 

「それこそ初めて二人でライブ行った時はドキドキしたけどね」

「そ、そっか……実は私もなんだよね」

「誘ったのひまりなのに」

「誘った時は平気だったんだけどいざ待ち合わせてたら、変に意識しちゃって……」

「なんか、思い出したらぶり返した……」

 

 そんなちょっとしたエピソードはさておき、ダブルデートを満喫する。クラゲのエリアでじっと固まる花音さんと隣で迷子にならないようで待ってて、話し掛けてあげる兄ちゃんのモテる男のイケメンムーブを後ろで感心したり、ペンギンの泳ぐ速さに驚いたり、イルカショーは濡れるって言ったのに前に行きたがるひまりに付き合ったせいでもうちょっとで大変なことになるところだったりと、明日からまた学校ということもあり思いっきり楽しんだ。

 

「う〜、ずるい! わたしも行きたかった」

「ごめんねつぐみ、今度は店番無い時に誘うから」

「絶対だからねっ」

「わかってるって」

 

 帰りは羽沢珈琲店に寄って、つぐみに約束通りお土産と土産話を届けに行った。やっぱり一人置いてかれたせいで少し不機嫌そうだったけど、土産話は笑顔で聴いてくれた。五人でわいわいとおしゃべりして、みんなでファミレスに行って。連休は終わりを告げた。

 バンドを結成して以来、色々とあったらしいましろちゃんが俺と兄ちゃんに悩みを打ち明けるのはそれからすぐのことだった。

 

 

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