さて、後日談的だが俺はましろにほぼ強引に引きずられる形で第二回ガールズバンドパーティのライブを観に行くことになった。最初は断っていただけに、やっぱり文句を言うのはひまりやつぐみだった。誘ってくれてたけど、一回断ったんだよな。たまたま居合わせた花音さんにも散々いじられるハメになる。
「ブラコンの次はシスコンなんだね、シュウくん」
「花音さん、流石に一応ましろは他人なんでシスコンって言われると厳しい」
「でも私たちが来てって言っても来ないのにましろちゃんの言葉でコロっと行く気になっちゃうんだもん合ってるじゃん」
「そんなこと言われても」
「修斗くん、二人でお店来た時もデレデレしてたよ」
「してない! なんでそんなこと言うのつぐみ!」
余計なプライド持ったせいで俺は女子三人に詰られるというドMならきっと大喜びで俺と変わってくれるに違いない状態になった。誰か本当に変わってほしい。後でパレオに妄想小説の参考にするので実際のところはSとMどっちですかと訊ねられた。もうそっちは好きにしてくれ。
「つぐみちゃん、最近ましろちゃんばっかり構ってるから怒ってるんだって」
「怒ってはいません」
「妬いてるんだって」
「そっちでも……ないです」
焼いてるってなにを? と一瞬思って脳が誤変換に気づく前にひまりに怒られた。ひまり曰くこれは嫉妬だよと言われた。友達関係で嫉妬することある?
「え、あるよ?」
「……え、それはわかんない」
「私はわかっちゃうな……」
「わかっちゃうんですか」
どうやら俺の方が少数派だったらしい。けどこれはもしかして男女差というやつじゃないかな。花音さんにとっての親友、白鷺千聖さんの優しさというか素の部分を他の人が知ることに対しても俺が親友だったらモヤモヤしないし、ひまりにとっての巴が後輩にとっての頼れる先輩になっても、別に。
「修斗くんって薄情な人だったの……?」
「それは違うくない?」
「シュウは結構そういうとこあるよ」
「なんでひまりが?」
思ってもないところからの攻撃に俺は疑問を抱くが、ひまり曰く前から自分に対する扱いが冷たい気がする、ということらしい。いやいや、そんなことなくない? 俺、ひまりになんか酷い扱いしたっけ?
「花音さんは、すごい異性って感じで接するじゃん」
「異性だし」
「ふえぇ……私、女だよ?」
「そうじゃなくてですね──それで、つぐには優しい!」
「うん、修斗くんはいっつも優しいよ」
さっき薄情な人だったのとか言ってた人の発言とは思えませんが。まぁ確かにひまりの言わんとすることはわかった気がした。花音さんはすごく、なんというか年上の女性という意識が強くて、一歩引いてる気がするし、つぐみには兄ちゃんのことがあったからそういう接し方をしてた。
「それでさ、最近のパレオちゃんとかましろちゃんにも結構優しかったり、甘かったりするじゃん?」
「そうだよね、ましろちゃんは妹って気持ちが最初からあったからっていうのもあるけど、パレオちゃんは違うよね?」
「え、つぐみまで参戦してくるの?」
「ふふ、大変だねぇ」
他人事じゃないんですよ花音さん。助けてください。花音さんはニコニコしてるだけで手助けはしてくれない。ましろはそうかもね。兄ちゃんが妹として接してるから自然と俺も、自分の中では違うと思いつつ妹って距離感だったと思う。なんなら多分最近の距離感のが間違ってる。
パレオは、なんだろう。パレオこそ近所のかわいい年下の女の子って感じ? いやでもな、うーん……近所の人懐っこいわんこ?
「私はわんこ以下の扱いなの!?」
「なに怒ってるの……?」
「ひまりちゃん……女の子扱いしてもらいたいんだって」
「う……そ、そこまでは言ってませんけどっ」
なんか腕組んでそっぽを向かれてしまった。頬を膨らませて拗ねてますムーブだ。本当にひまりとましろって同種の生物だな。でも決定的に違うのは、ましろは俺と兄ちゃんの妹でひまりは、そうだな。なんて呼び表したらいいんだろう。確かに特別異性として意識してるわけじゃない。顔がかわいいし性格も悪いわけじゃない、むしろカレシいたことないことに疑問を感じるくらいだ。
「ひまりって、ダチって感じなんだよね」
「ダチ……?」
「今更明かしてもなんにもならないことだけど、仲良くなった原因も、兄ちゃんとつぐみの恋を応援するって目的の一致だったし」
「そ、そうだったんだ」
「この中で一番共通の話題が多いのもひまりだし」
「そうだよね、よくバンドの話とか恋愛の話とかしてるもんね〜」
「ライブも二人で行ってるんだよね?」
つぐみの問いに頷く。そういうところもあって、気の置けない友人みたいな扱いだったんだと思う。異性としてとか関係なく、一緒にいて楽しいっていうか、ついつい時間忘れそうになるっていうか。
──とにかく、そのせいで扱いが雑になってたっていうんなら謝るよ。
「あ……う、別に……いいけど」
「ふふ、よかったねひまりちゃん」
「か、からかってますか花音さん!」
「……気の置けない友達かぁ」
これは言わないことだけど、俺の異性の知り合いって全員兄ちゃんを経由してるんだよね。つぐみは兄ちゃんに紹介された喫茶店で知り合いだった女の子で、兄ちゃんのことを好きだった人。花音さんは兄ちゃんが帰り道に寄るファストフードの店員さんで、迷子になったのを送っていったこともある人。パレオは兄ちゃんが事務所の偉い人の知り合いだったチュチュさんとの相談で押し付け、じゃなくて預けられた。ましろは兄ちゃんが兄ちゃんになる前に懐いていた近所の妹的存在。でも、そうじゃないのがひまりなんだよ。兄ちゃんとつぐみの関係を知って、っていうことはそうなんだけど、兄ちゃんに紹介されずに逆に兄ちゃんに紹介した知り合いは、ひまりだけなんだ。
「ケーキ」
「は?」
「ケーキ奢ってくれたら、許す」
「……わかったよ」
「あとは、ステージ終わったら私のところに来て感想言いに来ること!」
「はいはい」
随分理不尽だなと思ったが、なんにもわからずにひまりは機嫌が直ってしまった。しかも何がよくないって、わかってないのは俺だけってところ、花音さんやつぐみはわかっているようで、二人とも表情は違ったけど、納得をしていた。こういう時に女子勢に結託されることの方がよっぽどひどい扱いされてると思うんだけど。
「そういえば修斗くん、動画の収録の方はどうなってるの?」
「今のところは順調かな、でもましろは声の好不調の波が激しいんだよね」
「そうなんだ」
「うん、ダメな時は本人の気持ちの下がりも相まってさ」
それもこれからって感じが強い。とにかくましろの音楽活動はこれからなんだよ。そこで願わくばこれまでの後ろ向きで諦めてきた自分だけのアイデンティティ、本人の言葉を借りるなら「特別」なものを見つけていってほしい。
そして第二回ガールズバンドパーティの当日、CiRCLEにはたくさんのお客さんがいた。平日の夕方からという条件だからかかなり制服の、しかも花咲川、羽丘の学生が多いように感じた。俺は着替える暇があったし、しかも男だしでちょっと空気が薄い。そんなところで他とは違う月ノ森という珍しい制服姿の女子が俺に向かって手を振ってくれる。
「シュウさん、こっちこっち」
ましろは明るい笑顔で俺の傍にやってきて手を握ってくる。こういうのにドキっとさせられてるのはなんというか、負けてる気がするけど、悪いのは距離感を著しくミスってるましろの方だろう。そういうことにしておく。
「えっと、磯村修斗です」
「シュウさんは、私の下のお兄ちゃん的な人で、動画投稿する予定で──」
紹介をしてもらいつつ、俺は紺色のセーラー服のよりによって美人美少女揃いのメンバーを前に緊張していた。なにせましろ曰く、相手は自分とは違って本物のお嬢様四人だとか。
全員ライブで顔合わせた時はましろも知らないことばっかりだったけど、こんな感じの四人である。
「桐ヶ谷透子ですっ! 倉田のお兄さんっていうからもっと似てると思ってたけど」
「あ、いや本当の兄妹ってわけじゃなくて」
「的な人、だから」
ギター、桐ヶ谷透子さん。SNSで万バズ当たり前のインフルエンサー「TOKO」であり、老舗の呉服屋の娘。つまりクソ金持ち。自社ブランドのデザイナーもやってる才能アリの金持ちの娘、無敵である。黒塗装のフライングVも一括だそうで、高校生がやっていいことじゃないんだよな。
「広町七深です、作曲のアドバイスしてくれてありがとうございました」
「ああ、最初の作曲はキミが?」
「はい、でもやっぱり上手くいかなかったみたいですね〜」
「なんで嬉しそう……?」
ベース、広町七深さん。父は彫刻家、母は画家の芸術家一家の娘として生まれ、非凡な才能を発揮してきたが、あまりに非凡が過ぎたため周囲に馴染みたい一心で少しズレた解釈で本人の考える普通を演じている。テストで全部真ん中の点数取ったら目立つと思うよ逆に。
「ふっ、二葉つくしですっ、えっとえっと、倉田さんのクラスの委員長で、ドラムで」
「二葉、自己紹介長いって」
「だ、だって」
「落ち着いていいよ、ましろから大体のことは聴いてるし、よろしくね」
「あ、よろしくおねがいします!」
ドラム、二葉つくしさん。父は大手食品メーカーを経営している。営業の関係で多くのコネがあり、チケットやらなんやらはだいたいここの懐から飛び出してくる。一応バンドのリーダー。おっちょこちょいで一番庶民感が強いためましろもすぐに馴染んだ一人だけど金持ちに変わりはない。
「八潮瑠唯です」
「えっと……先輩?」
「同級生だよ」
「……え」
「何か?」
「いえ! あ、スコア見させてもらったけど、すごかったよ」
「あのくらいは」
バイオリン、八潮瑠唯さん。よくわかってないけど、マルチな才能とお金を持ってる。特に音楽関係は目を見張るところがある。作曲とかね。後はクセの強い月ノ森の生徒をまとめることができる力がある。眼力とも言う。というか雰囲気がましろと、そして二葉さんと一緒と同じ歳とは到底思えない。兄ちゃんと並んでも同じ歳に見える風格がある。
「パレオはパレオです〜」
「……なんでいるの?」
「パスパレあるところにパレオありです〜♡」
「いや、そうじゃなくて……学校は?」
「終わって全てを無視してダッシュ致しまして──電車ギリギリでした、おかげで電車で汗だくでした」
キーボード、パレオってこいつは月ノ森のバンドじゃない。自他ともに認める体力おばけなパレオにかかれば学校から電車までのタイムアタックなんて朝飯前らしい。しかも着替えてきたのか、並大抵のことじゃないよねそれ。
誘ってもらったけど、ましろは月ノ森の友達と見ているためボッチだったがパレオがいたか。そういえばパレオとライブ一緒になるの始めてだな。
「うふふ、それでは、パレオの華麗なペンライト捌きを見せて差し上げましょう!」
「どこから出した」
──そんな第二回ガールズバンドパーティは大いに盛り上がりを見せた。そして、そのねらい通り、身体が早く弾きたがっている感覚がするようなライブだった。それはましろもそうだったようで、今日は親に無理を言ってでもウチに泊まるつもりらしい。パレオも今日は流石に遅くなるからと隣でキーボード弾いてから泊まると言っていた。
「それで、どうだった?」
「いやすごかったよ、めちゃくちゃ血が沸騰するかと思った。早く動画完成させたい」
「そっか! そっちも楽しみにしとく」
「あと」
「あと?」
「──パレオと絶対にパスパレ行かない方がいいってことがよくわかった」
あのオタク怖い。めちゃ興奮して叫びまくってた。そりゃライブだから声出したり、盛り上がって興奮することはあるけどさ、あんなに発狂することある? 人格が崩壊したかと思ったよ。パレオは先に戻る際に、別れ際に羞恥心なんて再出発のライブの時に捨ててきたんだとか。怖いって。