恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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④:LIVE

 実はひまりの推しバンドである「ワンドル」というバンドのライブに誘われて一度断っていた。ちょうどましろのことがあった五月の半ばのことだったけど、その時に次は絶対に一緒に行くからねと強く言われていたんだった。補足するとつぐみもどうやらベーシストの人がいいとかで二人で話してたのを聞いていた。

 

「上手いの?」

「かなり上手いよ、後は明るいところかな」

「そうそう、リサ先輩っぽいよね」

「あーわかる気がする」

 

 ということらしい。リサ先輩とはロゼのベーシスト今井リサさんのことである。二人にとっては学校の先輩に当たる人物で真っ赤なベースがすごく似合うギャルっぽいけど真面目なおねーさんだ。

 そんなバンドだけど、去年ひまりとのデートで一度だけ聞いたことがある。けど、俺はなぁという感じだった。確かにベースの人はすごく情熱があるし、ボーカルの声もいいし、なによりバンド全体がいい雰囲気で成り立ってるのがよくわかるんだけど、こう、必死さがないっていうか、結局遊びなんだろうな〜みたいなテンションを感じていた。

 

「それは去年までのことらしいですよ、修斗様」

「……そうなの?」

「メンバー全員が三年生となった現在は、話し合い、もう少し真面目にやろうということになったらしいです」

「よく知ってるね」

「チュチュ様が、そうおっしゃっていましたから」

 

 そんなパレオの助言があったこともあり、そして最近パレオとましろに他の子に怒られるみたいなことを言われてたなぁというのも手伝ってひまりとつぐみに誘われていたワンドルのライブに行くことになった。

 待ち合わせ場所は羽沢珈琲店で、俺はパレオに見送られて少しだけ早足で向うが、集合場所が家であるつぐみはもちろん、ひまりも既に店の前で立っていた。

 

「あ、来た来た」

「ひまり、早いね」

「シュウがギリギリなんだけどね」

「ごめん」

 

 謝りつつ、まずは近くのライブハウスまで電車で移動する。電車はちょうど二人分の席が空いており、俺は二人の前に立つ形で道中の時間を雑談に使う。つぐみにはちょくちょく会ってたけど、ひまりとはなんだか随分久しぶりな気がする。そんな迂闊なことを言うとひまりは僅かにむっとしたような顔をしていた。

 

「ほんとだよ、LINEしても無視するし」

「無視は……してるや、ごめん」

「つぐからちょっとだけ聞いたけど、何があったの?」

「いや、それがさ──」

 

 パレオの一件をちょっとかいつまんで話す。体感にして五分ほどの話の最後に現状パレオはほぼ俺んちにいて、今日も見送ってもらったよと苦笑いをすると、ひまりはますます不機嫌そうな顔をしてしまった。あれ、なんか怒られてる。ましろもパレオもそんなようなことは確かに言ってたけど、まさか本当に不機嫌になるなんて思ってもいなかった。

 

「シュウってそういうとこあるよね」

「うん、あると思う」

「ええ、つぐみまで」

「でも修斗くんだから、わたしたちが忙しそうにしてたからって言い訳すると思うよ」

「だろーね」

 

 全く同じことを言おうとしてつぐみに先制される。ひまりも今度は呆れ気味だけど、前髪をしきりに触っていて、ちょっと不機嫌というか、拗ねてる感じのリアクションだった。女子二人に貶され、ちょっと凹んでいるとつぐみが俺の手に触れて引いてくる。

 

「あのね、連絡だけでもしてほしかったんだ」

「連絡だけ?」

「うん、今どうなってるかとか、お返事は忙しくてできないかもしれないけど……でも、わたしたちは友達でしょ?」

「そうそうっ」

「ひまりちゃんはすごく心配してたよ。動画投稿もずっとチェックしてたし」

「──つぐ、それは言わなくていいやつだから」

「そう? でも言わないと修斗くんにはわからないと思うな」

 

 おっしゃると通りですつぐみサン。ひまりはこう、性格がカラッとしてるからさ。俺も男女とかあんまり気にせずに一緒にいられる友達だって思ってるんだけど、それが逆になんて言ったらいいんだろうね──俺の比重が少ないって言うのかな? 俺がパレオのこんなことに巻き込まれててって言っても迷惑かなって思っちゃうんだよね。

 

「そんなわけないよ、そんな相談されてウザって思う人とデートは行かないもん」

「うん、もちろんわたしもだよ」

「……二人とも、ごめん」

「まぁ、今回の場合? 中学生をメイドどころかペットプレイで遊んでるから相談しにくいってのはあるよね?」

「人聞き悪いからそれ」

「ひまりちゃん、声おっきいから」

 

 やめてください。周囲から俺が女子中学生をメイド兼ペット扱いして遊んでる悪い人になってしまいます。でも確かにそうなんだよね、色々あってパレオが俺んちに転がり込んでメイドさんやってるんだけどどうしたらいいと思う? なんてひまりに相談したらどんなリアクションが来るんだろうって怖くなる。

 

「ましろもそれでちょっとトゲあってさ、いや本人とは仲良くできてるっぽいけど」

「そりゃね、お兄ちゃんが年下女子をメイドにして侍らせてたら妹的にはキモいわけですよ」

「……だよね」

 

 反省して、これからは積極的にひまりやつぐみにも頼ると約束をさせられて、話がつぐみのそういえばと別のものへと移行していくことで俺にとっての針のむしろタイムは終わりを告げた。

 

「モニカのドラムって、二葉つくしさん?」

「うん、ウチでバイトすることになったんだ」

「それは、いいね。最近若宮さんが忙しいんだっけ?」

「そうなんだよね〜、イヴちゃんアイドルだから」

 

 羽沢珈琲店のバイトは主に去年はパスパレの若宮イヴさんがいたけど、今年は人気急上昇っていうのも手伝って事務所の仕事に大忙しなんだとか、元々入ったばっかりの頃から部活とモデルとバイトを掛け持ちしてるすごい子だったらしいけど。

 そんな中、二葉さんの加入は助かることだろう。というかバイト募集なんてしたらあっという間に集まりそうな予感するけどね。

 

「でも求人は出さないんだってお父さん」

「つぐみも倒れないようにね、生徒会とバンドもあるんだから」

「そうそう、つぐはしかもすぐ無茶するんだから」

「うん、気をつけます」

 

 みんな去年よりも少しずつ変化してる。俺も、つぐみもひまりも。去年の今頃なんてこんな風に三人でライブに行くなんて想像もできなかったね。いやむしろこんな風に呼び捨てにして、友達として接することができるなんてことも想像してなかった。つぐみは兄ちゃんのことを好きな人で、ひまりはそんなつぐみの幼馴染、ただそれだけだったのに。

 

「わたしは、仲良くできたらなぁって思ってたよ」

「私なんて、つぐが好きな人の弟っていう遠い関係だったのにね」

「本当にね」

 

 俺とつぐみとひまりの関係は、そこから直接的で直線的な結びつきに変わった。今じゃ兄ちゃんを介さなくてもこうして三人で遊ぶくらいには、仲がいいと思えるまでになった。

 そう考えると、この電車に揺られるなんでもない時間は俺にとってかけがえのない大切なものになっているんだと強く実感した。

 

「まぁパレオちゃんに負ける友情だけど」

「あと、ましろちゃんにも」

「……本当に申し訳ないです、ここ最近は特に」

 

 頭を下げてうなだれると返事の代わりに二人はいたずらが成功したかのような笑顔で俺を見上げてきた。あざとい、でもかわいいんだよな二人とも。そんな二人を両手に華ってもしかしてすごく贅沢なことをしてるんじゃないかと俺は最近気づき始めた。

 

 

 

 


 

 

 

 ライブハウスを出て、俺はその熱気から開放されたように息を吐いた。つぐみはともかくひまりがカッコいいからってずっと言ってるから、どうせ演奏じゃなくて顔なんだろと思ってしまっていたけど、そうじゃなかった。ボーカルの力強くも繊細さも併せ持った声、リズム隊の安定感、なによりバンドとしての一体感はこれで元は同級生でテキトーに集まっただなんて信じられないような音楽だった。

 

「ね? びっくりしたでしょ?」

「いや本当に──実力のあるバンドなんだなって思った」

「だから言ったじゃん! ほら〜」

 

 興奮冷めやらぬ、という状態でひまりは俺に話し掛けてくる。ライブのひまりは基本的にテンション上がっちゃってるから慣れた感じなんだけど、今日は自分の最近のイチオシだったということもあり、普段の二割増しは元気だ。つぐみが一旦喉が乾いたから飲み物を買ってくると抜けて、ひまりのハイテンションを俺は一人で受け止めることになった。

 

「やっぱりカンベさんだよね、ベースの人」

「俺はドラムの人がカッコいいって思ったな」

「クールな人だよね、ちょっと実際に会うとびっくりしちゃうけど」

「確かにね」

 

 俺は大柄なドラムの人の躍動感がすごく印象に残っていた。後は演奏の割にはすごくMCの雰囲気が和気あいあいとしてたところかな。なんとなくAfterglowを思い出した。こう、バンドの印象とMCが違うなぁって部分だけだけど。ひまりも俺の言葉に頷いて壁にもたれるようにしゃがんだ。

 

「……パンツ見えるよ」

「そのくらいわかってるって」

「はい、パーカー」

「え〜、熱いじゃん」

 

 短めのスカートなのにしゃがんだらこう、真正面からのアングルが大変なことになるでしょ。ライブの熱気で脱いだままどうしようもなくて腰に巻いていたパーカーをひまりの膝に乗せると少し唇を尖らせていたが、妙に嬉しそうに立ったままの俺の膝に頭をぶつけてきた。

 

「なに?」

「シュウは、私のパンツ見えるの、嫌?」

「逆にひまりは嫌じゃないの?」

「そうだけど、シュウはどうなの?」

 

 なんでわざわざ俺の意見を訊いてくるんだこの子はと困惑していると、もう一度どうなの〜? と膝に頭をぶつけてくる。さっきより勢いがついて痛いんだけど。

 

「まぁ……いい気分はしない」

「そう?」

「ひまりだって、友達が知らない人に変な目で見られるのは嫌でしょ」

「そうだね」

 

 というか言葉にしなくてもパーカーを貸し出した時点で察知してほしい。見えそうだったし、なんなら改札から出てきたスーツの人に二度見されてたからね。それがひまりにどういう影響を与えたのか知らないけど、スマホをいじる横顔はなんだか機嫌が悪くなったということはないみたいだった。

 

「ごめん、お待たせ〜!」

「あ〜つぐ、おそ〜い」

「ごめん、トイレ混んでて……!」

 

 それから少しして、つぐみが戻ってきたことで俺たちは電車に乗り込んだ。立ち上がった際にさらりとひまりにパーカーを奪われ、そのまま羽織ってしまい俺は何も言えずにそれを追いかけた。あの、それ結構汗掻いてるからせめて手に持つとかにしてくれません?

 

「あれ、それ修斗くんの?」

「もらった」

「あげてないから」

「ちょっと暑いけど、車内は冷えてるしね〜」

「そうだよね」

 

 お前自分のパーカー持ってないのかと言うとさぁ? とか曖昧な反応をされてしまった。つぐみもパーカー持ってるはずだし、車内が冷えてるなら俺も寒い思いするんですが。

 ひまりはそれに対してひとまずは無視をしてつぐみとツーショットで自撮りをしてから返してきた。なんなんだよそれは。

 

「このまま着てたらうっかりそのまま帰りそうだし」

「あー、ひまりっぽい」

「ふふ、うっかりやさんだもんね、ひまりちゃん」

「ちょっと、否定してよ〜」

 

 それに対して俺とつぐみは顔を見合わせて笑った。

 帰りの電車も残念ながら二人分しか空いてなくて、つぐみは最初遠慮したが、俺とひまりの説得もあって二人が並んで座る眼の前に立つという行きと同じ状態になった。

 

「ん……」

「つぐみ、寝てていいよ。起こすから」

「……うん、ありがと」

 

 今回は結構疲れたしちょっと遅くなったことも重なり、既につぐみの肩ですやすや寝息を立ててるひまりの隣で船を漕いでいたつぐみに声を掛ける。限界なら、今なら俺はスタジオで寝ればいいから部屋も余ってるし──着替えとかは流石にコンビニ寄らないといけないけど。それもありだなとか考えながら俺も立ったままウトウトしていた。

 ──今日は楽しかったし、いい刺激にもなったな。そんなことを考えながら俺はつり革に掴まった手と車内アナウンスを頼りに少しだけ意識を手放した。

 

 

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