恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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②:異性としての意識

 俺はひまりのことをいつも異性としての認識とか足りてないって自覚があるし、つぐみと兄ちゃんの恋を応援するって共通の目標のために一年色んな場所に出かけて、話して、共感し合ったり逆に言い争いになったり。そうやって友達付き合いをしているが、彼女がモテることを俺は知っている。

 

「磯村ってさ、Afterglowってバンド知ってる?」

「……知ってるけど」

 

 それは夏休みにはいる少し前のこと、前の席にいてバンドが趣味の男子生徒と軽い雑談をしているところだった。どうやらその男子生徒は聴くのは最近もっぱらガールズバンドにハマってるらしく、その中でもメディアなどの露出が少ないものの界隈の中では確かな実力があるとして知られる『Afterglow』に惚れ込んだらしい。

 

「特にリーダーの、えっと」

「上原ひまり」

「そうそうあの子のファンになっちゃってさ、てかやっぱ磯村詳しいな」

「まぁ、俺もよく聴きに行くからねアフグロ」

 

 正確に言うとそのリーダーの子に半分くらい無理やりチケット渡されて、暇でしょ! なんて言われて観に行くんですけどね。最近は一人ではなくましろが一緒に来てくれるのだけが救いだ。ボッチ参加って案外奇異の目で見られるんですよ、小さいハコだとなおさら。幸い顔が薄めなのか常連さんに覚えられてるくらいで済んでるけど。

 

「いやぁ、ガチ恋だよこれは!」

「……ガチ恋?」

「お近づきになりたい! でもカレシとかいんのかなやっぱ」

「さぁ?」

「あんだけかわいいし……なんならおっぱいでけーし、っかー、あれを好き放題できる男がいるとか許せねー!」

「……あはは」

 

 カレシはいないのはよく知ってるよ、なんてバカなことは言わない。そして事実としてひまりはバンドでもそこそこ有名だし、顔はかわいいし、スタイルもいいから男子受け抜群だってことに改めて別方面から突きつけられることになった。他にも、二葉さんが休憩しているところに遭遇し、こんな雑談を聞いたことがあった。

 

「実は私ひとつ上の幼馴染がいるんですけど……これが厄介な男で」

「厄介、とは」

「──胸が好きなんです、女の子の」

「どストレートすぎて確かに厄介だね」

 

 二葉さんにとっては小学生の時は鼓笛隊として音楽を一緒にやってきた仲間でもあり、現在も楽器を趣味でやってるのだが、困ったことに女性の豊満な双丘が好きで溜まらないと幼馴染の自分に公言しているらしい。俺は一瞬そりゃ厄介だなと二葉さんを見て思ってしまって反省していると、奇跡的に気づかれなかったようで続きにまた爆弾を置いていった。

 

「それで、最近アフグロのライブで揺れる上原さんの、胸に……」

「あー」

「私がうっかりこのバイトの常連だって明かしちゃって、来たら連絡しろとか無駄にいい感じのスマイルで言ってきて」

「随分愉快な幼馴染なんだね?」

「不快な時もありますけど……あの、うっかり突撃してきたらなんとか対処してもらえませんか?」

「俺に?」

「きっと磯村さんをみれば諦めると思うから」

 

 ──これはまた特殊な例だとは思うけど、ひまりはこのように女子校にいるからそうでもないだけで本来は男子から持て囃される系の女子なのだ。これを本人に、いや二葉さんの幼馴染は置いといてクラスメイトがそんなこと言ってたよと苦笑いしながら話すとひまりはそうだねーと相槌を打ってさらに情報を追加した。

 

「よく連絡先の書いた紙とか、バイト中にもらうよ」

「……え!」

「バイト終わるまで待ってて告られたこともあるし」

「そ、そうなんだ」

「キョーミないけどねっ」

「あ、なにするんだよ」

 

 去年から追加された新メニュー、山盛りポテトを注文したのに眼の前のカゴからではなく俺が拾い上げたポテトを口でインターセプトしながらひまりはつまんなさそうな顔をしていた。多分、こうイマドキな女子になりたいという願望はあっても男にモテたい、カレシがほしいって欲は薄いんだよな。よく女子のカレシほしいは自販機前でジュースを選ぶ様と表現されるが、つまり喉が乾いていなければそもそも小銭を投入すらしないってことだもんな。

 

「シュウは、そういうの気になるの?」

「いや……気になるっていうか、なんか不思議だなと思っただけ」

 

 不思議というか、向こうがまるですごく手の届かない有名人みたいなリアクションをするもんだから。俺からすると山盛りポテトを食べようとするとそれが奪われるような距離にいる存在だからさ。それにひまりならバイト先に男友達とかたくさんいそうだから紹介してもらう方法とかもありそうなのに。

 

「え、私男友達なんていないよ?」

「いないの?」

「シュウも違うし」

「おい」

 

 一瞬びっくりしたけどそういうことね。異性としての意識がない、だから同性異性関係なくひまりはひまりなんだろうなと感じる。

 俺が納得しているとひまりはいたずらっ子のような笑みを見せつつ、それよりさ〜と話題を変えてきた。

 ──今日まで、そんな関係が続いている。ふとした時に女の子なんだなあとか考えつつも決定的にそれを意識することなく俺とひまりは友達だ。

 

「シュウ〜」

「まさか……限界とか言うの?」

「だ、だってこれ……絶対量間違ってるって」

「え、ええ……」

 

 件のパンケーキの専門店で俺とひまりは五枚重ねのパンケーキを食していた。最初こそ写真を撮ってご機嫌で口に運んでいたひまりも、三枚目で手が止まっていた。確かに、女子に五枚のパンケーキに更にクリームやらを乗せたカロリー爆弾は厳しい気がする。お腹にたまるし。ただ俺だって余裕があるわけじゃない。というか女性が主な客層で五枚ってなんなんだ絶対すぐに潰れるぞこんなお店。

 

「私の食べて、残すの勿体ないし」

「ええっと、一枚だけね」

「う……もう一枚……」

 

 というかパンケーキはお腹にたまるからお腹減らしていかなきゃって昨日元気に言ってたのはひまりじゃんか。そして通り道にタピオカ抹茶ラテ買った人が一番おバカさんだと思うんだよね。それさえなければその一枚に泣くことはきっとなかったんじゃなかろうか。俺の負担は変わらなかった疑惑はあるとして。

 

「ごめん……結局二枚も」

「いいよ、うん大丈夫」

 

 謝罪をされるけど、別に俺は悪いことされたなんて思ってもいない。しかもひまりも半分食べたんだから正確に言うと一枚と半分だ。肩を落とす彼女に俺は駅のベンチに座ってお茶を飲みながら笑って返す。確かにお腹は苦しいけど、怒るようなことじゃないし、気にする必要もない。それになんだかんだ楽しかったからね。

 

「……楽しかった?」

「え、なんか変なこと言った?」

「私は楽しかったよ? 写真撮って、かわいいってテンション上がったし」

「うん」

「でも、シュウはお腹苦しくなるまで食べただけじゃない? 楽しかったの?」

「だってひまりが楽しそうだったし」

 

 ひまりが楽しそうだった。本当にその一言に尽きる。本当に、ひまりは感受性豊かって言うのかな、表情とかがコロコロ変わるのが特徴的だ。笑ったり泣いたり、拗ねたり怒ったりすることもあるけど、それが一緒にいて楽しいって思える要因なんだと思う。ひまりと一緒に同じものを食べて、同じものを見て、同じものを感じる。そしてその時の気持ちとかをひまりが表現してくれるのが、楽しいというか──ううんと、うまく言葉が見つからないけど、一緒の時間を過ごしてよかったって思えるんだよね。

 

「なにそれ、変なの」

「え、変だった?」

「うん、変だった」

 

 そんなズバリと言われて俺は狼狽えてしまう。一体どこが変なんだろうと必死に考えているとひまりは、俺との距離をさらに少しつめて、すごく楽しくて嬉しい、みたいな笑顔を向けてきた。

 

「シュウは変だけど、変だから楽しい」

「それ、俺で遊んでるってこと?」

「そうかもね、あはは──そんな悲しそうな顔しないでよ、冗談だからさ」

「酷いって」

「ごめんごめん……はぁ、そっか。楽しかったのか」

 

 そこにさっきまで落ち込んでたひまりはいなくなってた。いつも立ち直りが早いという印象はあるけど、今回はもう引きずってないどころか、それすらも笑い話みたいにパンケーキのことを振り返っていく。スマホに収まった写真を片手に、そしてまたインスタを見ながらひまりはすごくキラキラと笑顔で()の話をし始める。

 

「ひまりは後から後から尽きないね」

「尽きないよ、シュウと遊べるだけ遊んどかないとだもん」

「俺で、じゃなくて?」

「それもある」

「ちょっと」

 

 そうツッコミを入れると、ひまりは立ち上がって俺に手を伸ばしてくる。思わず手を伸ばし返すと引っ張ってくれて、ちょっと前まではお腹が苦しいなと感じて休憩していたはずなのに、俺はもうひまりと並んで歩けるようになっていた。

 そのまま、電車に揺られて俺んちでゆっくりとすることになった。帰るとまだ誰もいなくて、俺がひまりの分のアイスティーを淹れるとひまりは息を吐いた。

 

「暑かったね〜」

「夕方でももう歩くと汗かいちゃう」

「そうそう! 胸のところとか……ってごめん」

「あ、いや、大丈夫」

「それはそれで、なんかムカっとするけど」

「理不尽じゃないそれ?」

 

 胸のところが汗溜まるとかちょっと理解のできない世界だった。ただ俺もよっぽどじゃなきゃひまりのことを意識せずに済むため距離を少し離して首を横に振る。リラックスできてるならそれでいいって思ってるし。というか汗がヤバいならシャワー浴びていいよと提案した。うちのスタジオで自主練してる時とかにも使うから、今更って感じだし。

 

「じゃあシュウ先でいいよ」

「いやいや、冷房で風邪引いちゃうよ?」

「それはシュウも一緒でしょ?」

「俺は大丈夫」

 

 なんか家の空調って他の空調よりも「合ってる」って感じあるよね。わからないかもしれないけど、ひまりは結構寒がりでもあったから、先にさっぱりしといた方がいいと思って先にシャワーを浴びてもらった。ふと、ひまりにガチ恋したって言ってたクラスメイトからしたら、これってとんでもなくドキドキする、もしくは健全で不健全な妄想をするのだろうか。というかひまりが家に来てふたりきり、そしてシャワーを浴びてるってシチュエーションで何も感じない俺は実は健全な男子高校生ではないのか? 

 ──なんかちょっと考え込んでしまっていると、ひまりがシャワーありがと、と出てきた。とんでもなくラフな格好、いやキャミソールに俺のパーカー羽織ってた。

 

「……どうしたの?」

「なんで俺のパーカーを」

「用意してくれたのシュウでしょ?」

「え、俺なんにもしてないけど」

「……ちょ、ちょっと変なこと言わないでよ! だっていつの間にか脱衣所に……!」

 

 突然の怪奇現象にひまりの顔が青ざめる。ホットパンツもひまりが前にシャワー浴びた時に持ち込んでそのまま忘れてったものだ。それも用意した覚えはない。そんなの気を回すこともできてなかったし。じゃあ一体誰が、と口にするとひまりが急に抱きついてくる。ちょっとひまりさん? 

 

「いや……おばけってこと?」

「随分親切なおばけだね、ひまりの着替えを用意してくれるなんて」

「で、でも今、シュウと私しか家にいないんだよね?」

 

 だったら──とますます俺の服を握って震えるひまり、ホラーは大の苦手なようで去年は羽丘でうっかり忘れ物をして夜の学校を探索した時に酷い目にあったらしい。学校はそういうの多いって言うよねと俺は他人事だったが。

 そして、ひまりのシュウと私しか──のくだりで俺はその怪奇現象の答えにたどり着いていた。

 

「いるよ、まだ一人」

「えええ、シュウって視えるひと!?」

「いやそうじゃなくて、()()()()()()とか()()()()()の都合上、早く終わる可能性があるんだよ、ね、パレオ?」

「──はい、ですがまさかそんなに驚かれると思いませんでした、おばけさんにしては気が利きすぎかと」

「ぱ、パレオちゃんかぁ……よかったぁ」

 

 そう、パレオがいる可能性があることをすっかり忘れていた。当のパレオはひまりに抱きつかれてよしよしと頭を撫でていた。どっちが年上かわかんなくなるからやめてほしい。というか中学生に縋り付いて怖がるなよ。あとパレオだって意図的に隠れてたからそうなったんでしょと目線で訴えるとパレオはにっこりと微笑んで謝罪の言葉を口にした。

 

「すみません、シチュエーション的にふたりきりの方がよろしいかと思いまして」

「余計な気の利くおばけさんですね」

「メイドですよ、修斗様♡」

 

 つまりは男女のアレコレをパレオの方が感じ取っていたらしい。どうやら俺はひまりに関しては女子中学生以下の対異性への意識らしい。つまり小学生だ、そりゃこうなる。そもそも健全な友達関係なのでそんなことは起きません。

 

「はぁ……もうなんでもいいよ、おばけじゃなきゃなんでも」

「ビビリすぎ、俺もシャワー浴びてくるね」

「それではその間はひまりさんと女子トークでもしておきますね」

「そうしといて」

 

 俺はパレオにそう言い残し、シャワーを浴びた。パレオによって中断されたけど、また一人になってさっきの仮説が頭の中でぐるぐると回っていた。俺はひまりのことを異性としてあんまり認識してないけど、他の人から見たら今さっきのシチュエーションはすごく不健全な場面だとわかる。だったらひまりは、相手はどう思ってたんだろうか。俺は全然意識してなかったとして、ひまりは俺のこと、どの程度異性として意識してるんだろう? 考えてもしょうがないことが──いやだからこそ、俺はそれが何度も頭に響いていた。

 

 

 

 

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