恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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④:フェスティバル

 サマーフェス当日、俺は兄ちゃんとましろの三人で待ち合わせ場所にやってきた。ましろは特に久々に兄ちゃんに会えてすごく嬉しそうに兄ちゃんと腕を組んでいた。あの、ましろさん? そうなるとすごく疎外感があるんですけど。

 俺の嘆きは聞こえたのか、ましろはこっちを見て首を傾げてきた。

 

「どうしたの?」

「どうしたのって言えるんだこの状況で」

「お兄ちゃんとのデートに付いてきて」

「いつからデートになったんだ」

 

 お前は後から便乗してきただけだろ、しかも二葉さんのおかげで! ましろにそんなことを言っても通用しないようで、俺は待ち合わせまで気まずい空気を味わうことになった。何が気まずいって兄ちゃんは兄ちゃんでデートのつもりはないから話し掛けてくることなんだよな。

 

「おーい、シロ〜」

「おまたせしました、磯村……修斗さん、浩介さん」

「いや待ってねーよ」

「おはようございます〜、つーちゃんが出掛ける直前で忘れ物しちゃって〜」

「ほんとごめんなさい!」

「まーまー、それも織り込み済みで予定組んだから大丈夫だったでしょ!」

「今回ばかりは桐ケ谷さんの判断が正しいと思わざるを得ないわね」

 

 やがて騒がしいメンバーがやってきた。相変わらずお嬢様軍団とは思えないほどに一人(やしおさん)を除いて騒がしいメンバーだ。するとましろはするりと兄ちゃんから離れてまるで最初から独立してましたよとでも言わんばかりの澄まし顔だった。ましろってこういうところあるんだよな。

 

「そういえばるいるいはお兄さんに会ったことあるの〜?」

「ええ」

「そうなのお兄ちゃん?」

「ちょっと前にスタジオでな」

 

 そうなんだ、八潮さんと兄ちゃんに接点があったなんて知らなかったよ。意外すぎる組み合わせだ。兄ちゃんが誰かと知り合いになるのはそんなに変じゃないけど、八潮さんと出逢って仲良くなる、もしくは知り合いになるという流れがうまく思い浮かばなくて変な顔をしてしまった。

 

「どうかしましたか?」

「いや、どういう出会いだったのかなぁって」

「スタジオで出会いました──これ以上の説明が必要ですか?」

「え、いやないけど」

 

 当の八潮さんはばっさりと一言、それ以上は必要ないとばかりに桐ケ谷さんの言葉も無視していた。兄ちゃんの方を見てもそんな特別なことじゃないよと苦笑いしていただけだった。

 やがて、今度は花音さんたちもやってきた。そしてその友達というのが、俺としては直接ははじめましての人物だった。

 

「おはようっ!」

「こ、こころさん」

「あら、ましろ! それにみんなもう集まっていたのね!」

「つ、弦巻こころさん……!」

「はじめまして! あたしは弦巻こころ! ハロハピで世界を笑顔にする活動をしているわ!」

 

 名乗った通り、花音さんが連れてきた友達というのは弦巻こころさんのことだった。花音さん曰く、話を聞きつけて興味があったから来た、とのことだったが、まさかの人物に驚きは隠せなかった。そして間近で見るとステージ上にいる以上にパワフルだ。

 花音さんはチラリと兄ちゃんの方を見てから俺に話し掛けてきた。

 

「シュウくん、おはよう」

「おはようございます」

「ふふ、なんだか賑やかになりそうだね」

「本当に」

 

 桐ケ谷さんと弦巻さんがすごく楽しいそうに会話をしていた。二人の髪色のせいか金色のオーラが出ているような気がする。近づきにくいのか二葉さんが何かを言おうとして諦めていた。どんまい、多分あれに何か口出しできるのは不思議ちゃんな感じのする広町さん、そういう空気とか読まない八潮さん、そして弦巻さんの扱いに慣れてる花音さんくらいだろう。ただし広町さんはましろと話していてスルー、兄ちゃんと雑談をしていた八潮さんはチラリと伺ったものの無視、花音さんは楽しそうにニコニコしているだけだった。

 

「ひまりちゃん、吹っ切れてからどう?」

「ああ、ひまりですね。なんか吹っ切れてからむしろ上達してるレベルですよ」

「そっか、シュウくんが教えてあげた成果ってことかな?」

「いやいや、なんにも教えてないですから」

 

 手を振って否定するけど、花音さんはむしろ温かい目をしてきた。ただ単純にひまりはごちゃごちゃ考えずに感じたまま、聴いた時や弾いた時の気持ちのままに演奏してるほうがしっくりくるってだけのことなんだ。だからひまりの気持ち悪い、しっくり来ないって部分を微調整して弾いたくらいしかやってない。むしろそれでなるほどと言って演奏がよくなるひまりって実は天才なんじゃと疑ったよ。

 

「踏み出すきっかけとか、勇気とか、そういうのってくれた人は重要だと思ってないものだと思うよ」

「そんなもんですかね」

「ふふ、シュウくんにもいつかわかると思うな」

「……もしかして実体験ですか?」

「どうでしょう……なんちゃって」

 

 かわいいねこの人、本当にこれが計算じゃないなんてことはあり得るのだろうか。いやこれが計算じゃないからこそ松原花音さんなんだよなぁ。これで実は正しい意味での計算されつくされたあざと系だって言われたら俺は花音さんへの見る目が変わっちゃうよ。大変だよそれ。

 

「シュウ! 花音さんとつくしちゃんも」

「ど、どうも」

「今日は楽しみにしているね」

「ありがとうございます!」

 

 電車に揺られ、しばらくして最寄りについた頃には『Afterglow』始まるよりも随分前の時間だった。名前の通り少し日が傾いてからだそうだ。その間に俺はリハ終わりのひまりと会っていた。

 最初は会うつもりはなかったんだけど、どうしても本番前に会いたいと言われて時間を作ったのだった。

 

「それじゃあ、私とつくしちゃんはみんなと合流してくるね」

「はい」

「はい……え?」

 

 三人で来てたのに、そのうちの二人がさっさといなくなってしまった。なんで、と思う間もなくなんの疑問もなく返事をしたひまりは俺の腕を捕まえてきて、いつもよりも更にキラキラの笑顔をしながら、引っ張ってくる。

 

「ひ、ひまり?」

「行くよ!」

「行くって」

「フェス! このままお昼まで一緒にデートするの!」

「するのって、え、そんなことして大丈夫?」

「もうみんな解散してるよ?」

 

 どうやらお昼過ぎに集合するからそれまで自由行動らしい。いいのかそれでと思ったけどひまりがいいと言ってるんだからいいんだろうと納得しておく。そのままひまりについていって、何故か予想もしない状況でデートをすることになっていた。

 出演者と二人でデートってなんか、変な気分だ。ファンの人に何か言われないのだろうかと緊張する。

 

「ふっふふふ、甘いねシュウ!」

「何が?」

「帽子とメガネがあるからね!」

 

 そう言ってつばのついた帽子と大きな丸いメガネを取り出して、ドヤ顔をしながら装備した。それに呆れているとひまりは笑顔で自分が持っているものと同じ帽子とタオルを手渡してくる。首を傾げると必要でしょ、と言ってくるけど俺だって一応タオルと帽子くらいは持ってきてるんだけど。

 

「いいの! それにここで買ったものじゃないでしょ?」

「確かにそうだけど」

「じゃあ、はい!」

「ありがとう?」

「どういたしましてっ!」

 

 ぱっと花が咲くようなひまりの笑顔に俺は、思わずドキっとしてしまう。いつもと違う格好のせいか、ひまりの雰囲気も違っているせいか、わかんないけど。

 色んなバンドをちょっと遠くで眺めつつ、ひまりは俺に色んなことを話してくれる。

 

「でさ、パレオちゃんって誰にでも丁寧に対応するじゃん?」

「するね」

「かわいいじゃん?」

「確かに……ってもしかして」

「それで結構男の人に話し掛けられてたよ」

「やっぱりか」

「ふふ、まぁ私も、ちょこっと掛けられたけど!」

 

 自慢げに言うひまり。俺はそれに対しては意外とかなんて気持ちはなくて、逆にそうだろうねと納得してしまった。ひまりが人気があってかわいいからすぐモテるってのはちょっと前に気づいたことだし。ただ、そんな俺のリアクションがちょっと不満だったのかまた腕を組んで頬を膨らませながらむくれていた。

 

「な、なに?」

「なんでもない」

「なんで怒るの」

「いいもんいいもん、ナンパされてシュウとの時間なんて減らしてやるんだから」

「それはいいんだけどさ」

「よくない!」

 

 自分から言い出したのによくないってどういうことだよ。ツッコミを入れるものの、ひまりはちょっとの間、俺のことを無視していたが急激に立ち上がり、怒ったような、それでいても決定的な怒りを感じない表情をしていた。そしてちょっとだけ目を閉じてそれから大きな声で、そしていつもの笑顔で俺に向かって宣言した。

 

「お腹へった!」

「え、あ……なんか食べる?」

「うん、シュウ奢ってね」

「わかった、さっきの──ごめん」

「まぁシュウがそういうやつだって知ってるし」

「どういうこと?」

「いいから、なにがいいかな〜!」

 

 ひまりはそう言って、屋台を眺めて指を差す。牛串を奢らされて、やっぱりひまりはひまりらしくご飯を食べてる時は常に幸せそうだ。少なくとも俺はひまりが何かを食べてる時に怒ってるのは見たことがない。苦しそうな顔してるのは見たことあるけど。俺は、なんだかんだでそんなひまりの顔を見るのが好きなことに気づいてしまった。

 

「……やっぱり、困るかな」

「ん〜、なにが〜?」

「ひまりがナンパされて時間が減るの」

「な……んっ! 急に、なに、どうしたの?」

「いや、ひまりとご飯食べに行くの、すごい楽しいからさ」

「……それ、どういう意味?」

「どういう意味とかなくストレートなんだけど」

 

 俺は何も変なことを言った記憶がないんだけど。ナンパで、もしカレシなんかにでもできれば、こうやって出掛けることも減るわけで、必然的にご飯を食べることも減ってしまう、どころかなくなってしまうこともあると考えると嫌だな、困るなと考えたんだけど。ひまりが訝しげな顔をしていた。

 

「バカ」

「なんで?」

「いいから」

 

 よくないんだけど、ひまりが機嫌よさそうだから考えるのをやめておこうと思う。それからひまりと別れて、俺はRASを観に行くためにみんなと合流していった。桐ケ谷さんがやけにニヤニヤしていてどうしたのかと訊ねるとひまりとのデートを根掘り葉掘り聞かれた。別に何にも面白いことなんてないけど、花音さんにまで色々と訊かれた。

 

「本当にシュウさんとひまりさんって仲良しだよね」

「まぁ仲良しじゃないかな、わかんないけど」

「いやー、わかるっしょふつー」

「わかるもんなのか?」

 

 そこからイジられつつ、その日のフェスは楽しい時間を過ごすことができた。

 ──ひまりの実力が高まったことが原因なのか、当初彼女が心配していたような格がなんて関係ないような盛り上がりを見せた。そしてやっぱり、ひまりにはいつだって楽しそうな表情が一番なんだなと弦を弾くひまりを見て思ったのだった。

 

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