恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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⑤:レモンティーとモンブラン

 色んなことと勢いがあって、つぐみとデートをすることになった。しかもつぐみが家に泊まった次の日にデートだからまた雰囲気が違うわけだ。パレオの部屋で支度をする間、俺はましろに髪の毛が跳ねてないかとかを見てもらっていた。なんかラフな格好でおはよって言葉を交わした相手とデートってまたなんだか特殊すぎて緊張してるんだよな。

 

「シュウさんってもっと女の子慣れしてそうなのにね」

「どこが」

「ひまりさんとしょっちゅう出かけてるし、かと思えば花音さんなんてすごく幸せそうにデートの話してくれたし」

「……花音さん」

「そしたら今度はつぐみさんでしょ? 普通じゃないと思うよ」

「それは……そうかもしれないけど」

 

 デートなんて大仰な言葉を使って、一応相手に失礼な格好とかにならないようにしてるだけで、別に誰かが恋人ってわけでもないからなぁと思ってしまう。だから女性慣れはいつまで経ってもしないと思う。そんなことを言うとましろはふぅんと相槌を打ってからパッと明るい笑顔をした。

 

「じゃあ私もデートしたいって言ったら連れてってくれる?」

「そりゃあもちろん」

「やった、じゃあ私ともデートしてね」

「予定立ててからね」

「わかってるよ」

 

 そんな予定を立てているとパレオとつぐみがやってきた。服装としては急に決まったデートだからかそれほど違いはなかったけれど、明確に印象が違うのは耳についたアクセサリーか、それとも控えめながらいつもとは違うと主張する薄桃色のリップやチークなどの化粧が施されているからだろうか。

 

「ど、どうかな……?」

「え、かわいい……すごく、かわいいというか、ドキっとした」

「どきっと……ドキっとした?」

「う、うん」

「そ、そっかぁ……ふふ、そっか」

 

 なんだか口の中が甘酸っぱい感じがする。しかも甘酸っぱいの、あんまり得意じゃないのになんだろう、これはすごく恥ずかしい気もしつつ、嫌いじゃない。得意ではないけど、決して嫌いじゃない。

 ──その雰囲気が嫌だったのか、なんなのか、ましろが俺の背中を押してきた。

 

「はいはい、後は二人で存分ドキドキしてきて!」

「パレオちゃん、ありがとうね」

「はい〜、つぐみさんのかわいいを引き出すことができたようで安心しております」

「じゃあ行ってくるね、兄ちゃんによろしく言っといて」

「かしこまりました、行ってらっしゃいませ」

 

 二人に見送られて俺はつぐみと家を出た。一年前にはなかった緊張感があって、これは花音さんと二度目の水族館デートの際にかわいらしい格好してきた時とか、ひまりのファッションショーでかわいいと思った服をそのまま着てく時に似ている気がする。なんだかんだでましろもそうだし、パレオなんて自分の「かわいい」の探求者だから、ファッションセンスあるんだよな。俺に分けてほしい。

 

「ひまり辺りなら楽しそうに着せ替え人形にしてくれそうだけどな」

「ふふ、ひまりちゃんそういうの好きだもんね」

「後はましろが、あれがいいこれがいいって意外と口出してくるんだよ」

「もしかして今日の服も?」

「そう、俺はあんまり顔が派手じゃないからって……派手じゃないってなんだよって思ったけど」

「あはは、でも似合ってると思うよ」

「そっか、ならちょっとは自信もてるよ」

 

 トレンドと言うならましろの好みで固めた服装だけど、つぐみも似合うと言ってくれたようだしこのままでいいかと思わなくはない。バンドが主とはいえひまりは俺の服がダサいとかこれがいいとかはあんまり言ってこなくて、そういうのにあんまり口出してこなさそうなましろが口出してネットで言われた通りのもの購入した過去があるんだよな。印象が逆だなって俺はいつも感じしていた。

 

「それにしても、メイクってすごいんだなってのを再確認したよ」

「そ、そんなに……?」

「大人っぽくてびっくりした、こんなに変わるんだって」

「パレオちゃんってすごいよね、わたしに似合うのはこれってアクセサリーもメイクも一瞬で決めて、プロの人かと思っちゃった」

「あいつは常に誰にとってもかわいいって思われる自分を作るのが上手だからね」

「うん、でも前みたいな距離を作ってる感じはなくなったね」

「言われてみれば」

「ふふ、修斗くんなんてご主人様、だもんね」

「できれば呼び方前に戻してほしいんだけど、譲らないからなぁ」

 

 でもそういう自己主張してくれるところもパレオが距離を取ってない理由でもあるんだろうな。本人には絶対に秘密にしてと言われているが、最近ではウィッグ取るとメイドから飼い犬にジョブチェンジするようになってきた。なにがって普段はこう、お世話しますみたいな感じなのにくっついて離れなくなるからな下手すると。

 

「そうだ」

「どうしたの?」

「リサ先輩のこと、ごめんね」

「ああ、大丈夫。早とちりなんでしょ?」

「うん、花音さんが説明してくれて納得したみたいで、今度はちゃんと修斗くんと話したいって」

「それはそれで緊張するけどね……」

 

 ギャルっぽいけど、ガールズバンド界隈ではトップクラスの実力派バンド『Roselia』でベースをしている人だ。大なり小なりバンドを生業にしてる俺からすれば明らかな格上相手であり、実績が違いすぎる。バンド自体は結成されて一年半程のアマチュアなのに、兄ちゃんが目指しているFWF出演確実って言われてるバンドなんだから。RASの時もそうだけど、演奏聴いて鳥肌立つレベルのバンドなんてそうそうあるもんじゃないよ。

 

「本当だったら花音さんとかつぐみもそうなんだけどね」

「ふふ、わたしたちはバンドとは別だもんね」

「そうなんだよね」

 

 というか未だにバンド繋がりでできた友達は同性しかいない。兄ちゃん関連か友達の友達って形が多すぎる。その友達も全員バンドが俺より上手ってだけだ。器用貧乏なんだから当たり前なんだけどさ。ただ、器用貧乏なのは変わらないって思ってるけどちょっとした自信みたいなのもついてきた。ひまりや花音さん、つぐみとパレオもそうだけどエキスパートとも言えるメンバーに教われる機会が増えて、前に兄ちゃんに聴かせた時はすごくよくなったって言ってもらえるくらいだった。

 

「そうだよね、四つのパート全部やってるんだもんね、すごいなぁ」

「前からすごいことをやってるって自覚というか、それが強みなんだって思ってたけど、それと上手は違うからね」

「でも、上手にもなった」

「なってるって思えるようになったよ」

 

 そんな会話をしているうちに電車に乗って、ちょうど二人分の席があって空いてたおかげで座ることができた。電車に揺られている間も絶え間なく話していたけど、やがてキーボードの話になった時に、つぐみがふと俺の手を見つめていた。なんなんだろうと思っているとこっちに向けてかわいいらしい手のひらを見せてきた。

 

「ねぇ修斗くん、手出して」

「う、うん、こう?」

「ん……やっぱり、大きいなぁ」

「つ、つぐみ?」

「メイクしてもらってる時にもパレオちゃんの手を見てて思ったんだけどね……やっぱりキーボードをキレイに弾くには手がおっきくないとなぁって思うんだ」

「……そう、なのかな」

 

 つぐみも細くてキレイな指をしているけど、決して手が大きいという印象はない。パレオは確かに甘えている時の手がすごくキレイで大きくて、この指が繊細でパワフルで、RASを支えるキーボードメイドの真骨頂なんだなと感じたことがあるため、否定はできなかった。でも、肯定したくないのも事実で、それはもう努力ではどうしても覆すことのできない「才能」以外の何物でもないから。

 

「ベースもそうだから、ひまりちゃんとかリサ先輩とかも……」

「ああ、ひまりの手も大きいよね」

「うん……だからね、修斗くんは絶対、絶対わたしよりも上手になれるよ」

「それは、違うよ」

「……え?」

「手の大きさで上手になれるんじゃない、俺がつぐみよりも上手くなる時は、つぐみよりも練習した時で、つぐみよりも必死になってキーボードに熱中した時なんだ」

「しゅ、修斗くん」

 

 小さくてかわいらしい手を包むように握って俺はそれで隠れていたつぐみの寂しそうな顔をまっすぐに見つめた。

 才能だって言うんだったら俺は、つぐみの頑張り屋で印象よりもずっと負けず嫌いなところが才能だと思う。普通だってことに悩むつぐみにとってそれが一番の強みだ。

 

「負けず嫌い」

「だって、つぐみ、手の大きさで悔しいって思ったでしょ? 俺に抜かれるかもって思った時に、悔しいって感じたんでしょ?」

「……うん、だからもっと頑張らなきゃって」

「俺はそんなつぐみを尊敬してるし、すごいと思うよ」

「あ、ありがとう……あの」

「ん?」

 

 熱弁してちょっと恥ずかしいな、なんて思ってたらつぐみがもっともっと真っ赤になっていた。なにやらつぐみの握力がちょっと強くなって弱くなってて、何かを伝えたいような感じだ。

 ──そこでようやく違和感を覚えた。なぜ俺につぐみの握力が伝わっているのだろうか、それは勢いで手を握ってしまっていたからだった。それに気づいた瞬間、パッと慌てて手を離した。

 

「ご、ごめんつぐみ」

「う、ううんっ……えっと、嫌ってわけじゃなくて、ちょっとだけびっくりしたのと、は、恥ずかしかっただけだからっ」

「ごめん」

「謝ることじゃないよ……ほ、ほら! だって手を重ねたのはわたしからだしっ!」

 

 そして二人揃ってピタリと止まる。きっと思考がシンクロしたんだろう、ここは電車内だったと。周囲をチラリと見て、ちょっとだけ注目されていたことに気付いて、余計に恥ずかしくなる。そこにちょうど電車に乗り込んだおばあさんがやってきたことで二人揃って立ち上がった。これ以上ここに座っていると顔から火が出そうなくらいに恥ずかしくて、ついつい利用してしまった。

 

「ふふ」

「ど、どうしたの?」

「わたしって負けず嫌いなんだなって」

「……うん」

「だったら、もうちょっとだけ……欲張りになってもいいのかな」

「いいと思う。つぐみはいつも遠慮がちだから」

「……それ、取り消しちゃダメだからね」

 

 つぐみの言葉の真意の全部はわからなかったけど、頷いた。何かにつけて遠慮して、一歩離れてしまうつぐみよりも頑張り屋で思わず一歩前に、更に一歩前に足を踏み出すつぐみを見てる方が俺は好きだから。そりゃあ、パレオのように一歩どころか全身全霊で俺に抱きつく勢いで来いとか、花音さんのようにいつの間にかするりと一歩距離を詰めてくるような上手な感じとか、ひまりのように気軽な一歩とか、ましろのような俺から一歩踏み出させるような感じとかとは言わない。

 

「つぐみはつぐみなりの一歩が大事だと思う」

「うん、じゃあそうするね」

「それで、降りたらまずどうする?」

「あのね、駅前に喫茶店があるんだけど、実はちょっと気になってて……ほら、ひまりちゃんと前に行ってたでしょ?」

「あそこね、確かにあそこのレモンケーキすごい美味しかったな……今は季節違うからないような気がするけど」

「柑橘系か、わたしもそんな気分だなぁ」

「じゃあレモンティーとか?」

「それいいねっ、じゃあ案内、してくれるよね修斗くんっ」

「もちろん」

 

 伸ばされた手を繋いで、俺はつぐみを案内する。残念ながら本当にレモンケーキは季節限定だったみたいでなくなっていたけれど、今のイチオシらしいモンブランを注文して、つぐみはレモンティーを頼んだ。

 やっぱり正面から見るといつもよりも大人っぽさの漂うつぐみとのティータイムはすごく緊張してしまったけど、話している時はいつも通りで安心したよ。これで仕草まで変わっていたら俺の心臓はもうダメになるところだったよ。

 

 

 

 

 

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