恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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⑥:新しい朝

 よくわからない夜の出来事もありつつ翌朝のこと、ひまりとの出逢ってから、二度目の彼女の誕生日を迎える日がやってきた。

 自然と目覚めてリビングにやってくるとそれまで女子会めいた華やかな雰囲気を醸し出していた三者三様の反応が返ってくる。つぐみはにこやかに、ひまりはパンを食べながらフラットに、パレオは笑顔ではあるが少し残念そうに。

 

「おはよーシュウ」

「おはようっ」

「おはようございます……起こして差し上げるつもりだったのですが」

「おはよう、自分で起きれる」

「いえ、メイドなので〜」

 

 流石の俺といえども、そして流石のパレオ相手といえども、自室に入られるのはなんとなく抵抗があるためなるべく自分で起きているつもりだ。特にパレオは時折身の危険を感じることもあるため、自室には入るなと言いつけてあった。本人には完全無視されてるのはどうしようもないけど。

 

「修斗様、朝ごはんでございます」

「あ、ありがとう」

 

 ひまりの隣に俺が手伝うよりも素早く準備がされていく。俺に譲れないものがあるようにパレオはパレオにしかわからない譲れないものがあるようで、それは俺に家事をやらせないということでもある。俺は別に苦じゃないから偶にはゆっくりソファに座ってスマホなりテレビ見るなり、本読むとかそういうのんびりとしてほしいと思うんだけどね。

 

「いえ、メイドたるパレオが休んでいてご主人様が働かれているところを見たら発狂してしまいます」

「そ、そこまでなんだ……」

「あれだよね、アイデンティティの崩壊ってやつ」

「ひまりさんの言う通りでございます。ご奉仕することでしか表せられない自己というものがございますから」

「……よくわかんないけど」

「シュウがどんだけ無理って言われても音楽しに上京してるみたいなもんだよ」

「そうなのかな」

 

 確かにそれは俺が俺であるのに大事な要素ではあるね。パレオにとってはメイドとして家事をすること、俺を手持ち無沙汰にすることがそうらしい。まだ微妙に納得はできてないけどパレオが頷いているのでそういうことだ、と言い聞かせることでなんとか飲み込むことができた。

 

「それにしても朝からご機嫌だね、ひまりは」

「誕生日だからね」

「ふふ、誕生日の朝ってなんだかそわそわしちゃうよね」

「それに──」

「ん?」

 

 そこでひまりは俺の方へチラリと顔を向けた。何が言いたいのかと俺も目を向けるとしまりのない笑みを浮かべてきた。スイーツを前にして幸せ前回という時の笑顔に近いが、その中でもここまでというのは見たことない、という感覚だ。行き先が何なのかとかはよくわかってないけど、もしかしてそこまで楽しみなスイーツでもあるのだろうか。

 

「正直に申しますと、羨ましいです〜」

「いいじゃん、パレオちゃんって誕生日三月なんでしょ?」

「はい、ですが……羨ましい一方で負い目というか……いざ直面すると遠慮してしまうので」

「あはは、パレオちゃんらしいね」

「気にする必要ないと思うな!」

 

 女子三人でトークしているが、なんの話かよくわからずに首をかしげる。というかここには俺もいるんだからあんまり疎外感のある会話はよくないと思うんだけど。一人だけ蚊帳の外ってすごく寂しいよ。

 そんな文句を口に出すか出さないかと考えてるうちに、だが話題は俺もわかるものへと戻っていく。

 

「そういえばこの間、お兄さんと彼女さんが歩いてるの見かけたよ」

「八潮さんかな?」

「うんそうそう、モニカのバイオリンの人」

「八潮さんだね」

 

 どうやら俺が家にいて迷惑かと思いきや割と暇さえあれば二人でデートを繰り返しているらしいことがひまりの口から明かされた。すごく無表情というか、ましろが最初はロボットみたいって感想を抱いたというのが頷けるほどには表情筋があまり動かない八潮さんだけど、ちょっとしゃべったイメージとしては優しさとか、割と他人のことを見ている人という印象があった。

 

「あれは……あれだね」

「どれだよ」

「こう、なんというか、他人の目があるとそうでもないけど、ふたりきりだとバカップルみたいな感じ! 誰も見てないと甘々と見た!」

「……はぁ」

「そうなんだー」

「へぇ」

「なんで三人揃ってそんなテキトーな反応なの?」

「いや、えっと……ねぇ修斗くん」

「ひまりの恋愛の勘、当たった試しないからね」

 

 パレオにまで塩対応からの頷かれてもどうやらピンとはきてないようで、そうかなと首を傾げてきやがった。最初の勘違いはつぐみの好きな人は兄ちゃんというもので、そこから花音さん、パレオもちょっと兄ちゃんのこと好きかもよみたいなことも言ってたし。そんなひまりの外れすぎる予言を当てにするほうがおかしいでしょ。

 

「う……た、確かに」

「そもそもひまりちゃんって基本的に少女マンガ知識だし」

「つぐ〜!」

 

 まさかのつぐみに刺されてひまりは項垂れた。どうやらつぐみはつぐみで結構その勘違いに腹を立ててる、というよりは恨んでるみたいな感じのようで。勘違いされたせいでなにか不都合を被ったのだろうか。いやひまりから気遣いとかされたら確かに嫌かもな。その片棒を俺が担いでたって事実からはとりあえず目を逸らさせてもらう。

 

「……そんなに、怒ってる?」

「そのせいで修斗くんが距離取ってくるからね、わたしはもっと仲良くしたかったのに」

「ご、ごめんなさい」

「……なんてね、もう怒ってないから」

「つ、つぐ……さすがつぐ〜」

「もう、ということは当時は結構怒っていたんですね……」

「まぁ……その時と今は違うからっ」

 

 こう観察しているとひまりはあんまり俺と居る時との違いを感じることはないけど、つぐみは幼なじみたちと居る時っていうのは普段俺が知ってる羽沢つぐみとは違うんだなぁという気持ちになる。それは彼女の言葉を借りるならその人その人にとって適切な距離を測ってるからってことなんだろう。割と意地悪なこと言って、冗談だって笑うつぐみはきっと、幼なじみの中でも特にひまりにしか見せない顔なんだろうってことも。

 

「どうしたの?」

「いや、前に八潮さんに言われたことを他の人でも当てはめれば、またましろのことを知れるのかなと思ってさ」

「修斗様から見たましろさんだけでは、バンドメンバーとしては不十分、といったニュアンスのことですね」

「そうそう。だからつぐみとひまりの会話は、俺から見るとそういうものの連続だからさ」

「な、なんかそう観察されてるって思うと……ぎこちなくなっちゃうねっ」

「確かに、シュウにえっちな目で見られてるの、なんかやだね」

「見てないです」

「ぱ、パレオなら……」

「見ません」

 

 その目線一つでパレオの頭の中のご主人様がより中学生のパレオを性的対象にするというなら俺は断固として拒否させてもらうから。そういうのよくない。例え三つしか違わなくてもパレオは中学生だから。というかそもそもえっちな目でとか言わないで。朝からとんでもないこと言ってる自覚はあるんでしょうか。そんな中でつぐみはひまりの言ったことがちょっと引っかかっているのか俺との目線は外して、頬を赤らめて恥ずかしそうにしつつも応援してくれる。

 

「わたしは、修斗くんに知ってもらえるのは、ちょっと嬉しい……かな」

「つぐみ」

「うん、だからきっと、ましろちゃんも知ってもらえるのは嬉しいと思うよ」

「そうかな」

「パレオも、ましろさんはそういうのを知ってもらえて喜ぶタイプだと思われます、もちろんパレオも!」

「最後の一言はいらなかったかな」

「そんなっ!」

「私は、うーん……正直シュウに新しく伝えるような側面持ってる気がしないんだよね」

「それは俺も感じてた、でもひまりがそう言うってことは本当にそうなんだろうね」

 

 つぐみも首肯したことでどうやらひまりは俺に見せてない側面とかいうのが大きくあるわけじゃないってことがよくわかった。まぁそもそも裏表もなくフレンドリーかつ人懐っこめの性格してるもんな、ひまりは。

 そうじゃくても、一緒に過ごす時間という観点でいくとつぐみやパレオよりも格段に長いひまりだもんな。今更って感じはする。それに反応が早かったのはパレオだった。

 

「……カップルみたいな言い方ですね」

「それは言い過ぎでしょ」

「みなさん言わないだけで、ひまりさんと修斗様は恋人同士、というわけでもないのにデートする頻度が高すぎると思っておりますよ」

「……そうなの?」

「え、あ……あはは」

「まぁ花音さんとかは言ってそうだなぁって感じだよね」

「そんな開き直ることだったこれ?」

「違うの?」

「違わないんだ……」

 

 俺はこれが一般的な異性友達の適切な距離感だって誤解しているわけじゃないことは名誉のために言っておく。そんなことを呑気に考えて、これが普通じゃないのとか間抜けなことを言うわけがない。ひまりと俺は異性友達というには距離が近いというのはちゃんと理解してる。理解してるけど、その普通にとらわれて距離を離そうとしても俺とひまりってあんまり上手くいかないんだよな。意識して距離を作ってもぎこちなくなるだけで、それだったらなんにも考えなくてもいい距離感にいてくれた方が俺もひまりも楽しいでしょって考えで今まで過ごしてるんだよな。

 

「なんにも考えなくていい距離感……熟年カップルでございますね」

「わざとからかっても、これは変えられないんだな」

「ふーん、シュウってそういうこと考えてたんだ」

「まぁね。最初はなんでこんなデート誘ってくるんだって困惑したもんだけどね」

 

 最初はつぐみと兄ちゃんをくっつける作戦会議として密会をしていた俺とひまりだったけど、それが勘違いだったことがわかったのが去年のこと。だというのにこの一年で数え切れないくらい買い物やらライブやらで一緒に過ごしているのは、普通じゃないってことくらいは感じてたよ。でも、普通じゃなくてもひまりと俺にとってはこれがちょうどいいんだったらこれでいいやって開き直ったんだよな。それは花音さんも、ましろもパレオもつぐみも、みんなに言えることだけど。

 

「……私は、シュウのことまだ全部は知らなかったんだね」

「それはお互い様じゃないかな」

「それもそっか、パレオちゃんごちそうさま」

「はい、今日は素敵な誕生日を過ごしてくださいね」

「うん」

「修斗くんは、ひまりちゃんを楽しませてあげてね」

「言われなくても」

 

 朝ごはんを食べ終わって、俺とひまりは二人に手を振って出掛けていく。扉を閉めると左腕にひまりがくっついてきてふふふと既にご機嫌そうな笑みを浮かべてくる。これもまた、恋人っぽいけどそうじゃなくてひまりにとってはちょうどいい距離感なんだろう。俺としては流石に近くないかと焦ってしまう時もあるけど。特に知り合いに見られた時に。

 

「それじゃあレッツゴー!」

「行き先は?」

「買い物して〜、スイーツ食べて〜、夕方にハロハピのハロウィンライブ!」

「なるほど……了解した」

 

 普段と少しも変わらないコースだなと内心で苦笑いしつつも、そこもまたひまりらしいといえばひまりらしいのかもしれない。誕生日祝いは帰ってくるまでにつぐみとパレオ、それからましろも参加して準備するって言ってた。誕生日らしさはそっちに任せて、変わらないけど特別なデートをする、というのがひまりの狙いなんだろうな。

 俺はいつもの三割増しくらい笑顔を輝かせるひまりに振り回されすぎないように、歩幅を合わせて歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

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