恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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ひまり⑨:告白

 私は王子様に助けてほしかったわけじゃない。

 むしろ逆で、薫先輩に憧れたのは誰かの頼りになって、手を差し伸べられるカッコいい人だったから。そういう意味だと巴も自然と同じことができてるから、私にとっては憧れであり、自慢の幼馴染だと思う。

 でもそんな巴と薫先輩、どっちもおんなじで、女の子でありながら王子様みたいにキラキラできる二人の違いは天然かそうじゃないかだと思う。だから私は巴と今でも幼馴染として傍にいられるんじゃないかな。

 

「……なんの話だ?」

「シュウの話だよ」

「いや今のモノローグじみた言葉のどこにシュウの話があったんだ? アタシの聞き逃しか?」

「シュウは、違うって話」

「ん、まぁアタシが王子様ってのはよくわかんないけど、シュウが違うってのは頷けるな」

 

 身近に薫先輩いるし、シュウが王子様なんて似合わない男だっていうのは巴にも伝わったみたい。でもシュウは巴と同じようなところを持ってて、だから私もすごく、思わず踏み込んじゃうところがあるんじゃないかって分析してる。

 シュウに、磯村修斗に計画性って言葉は存在しない。欠点に思えるけど、常に自然体でいてくれるというのは私的にはプラスポイントでもある。

 

「つまりはひまりがシュウを好き、って恋バナなのか?」

「ぶっちゃけるとね」

「そっか、ひまりが──っえ?」

「どうしたの?」

「ひまり……お前、マジか!」

「巴は今まで私とシュウを見てきて何を思ってたの?」

「いや、フツーに仲良いなぁって」

 

 それはそれで私としては悔しいけど間違ってない。シュウはきっと仲のいい友達として私と接してるからそういう関係ではある。でも私は、私がシュウと一緒にいたいって思うのは友達だからじゃなくて、シュウが好きだから。

 どうやら巴はそれが意外だったというか、そういう真実だったとは思わなかったみたいで驚きのまま固まっていた。

 

「というかあれでシュウを好きじゃなかったら私、とんだ思わせぶり女じゃん」

「いや割とひまりってそういうところあるような……」

「なに?」

「なんでもない」

 

 時にはあざとく、時には自然な流れで、甘えてみたりわがまま言ってみたり。果てはデートして家にちょくちょく上がり込んでお泊りまでして、それで別に眼中にないですよって悪女だったつもりは一切ないんだけど。むしろそれを受け入れてるのに私に対して友情以上の感情を抱いてないシュウの方が異常だからね。

 

「……ラップか?」

「怒っていい?」

「いや、悪い……なんか頭が追いついてなくて」

「もう、巴は相変わらず恋バナ苦手なんだから!」

「知り合いのだと余計になんか、聞き流したくなるっていうか」

「最近後輩からそういう相談もされるでしょ?」

「まぁ……アタシだからありきたりなことしか言えてないけど」

「知ってる」

 

 ここが薫先輩と巴の大きな違いでもある。薫先輩が王子様であり、高いところからたくさんの人に慕われてるみたいなイメージがあるのに対して巴は姉御肌というか、もうちょっと身近で頼れる存在でもあるところ。だからファンが多いのは薫先輩だけど相談事とかされるのは巴の方が圧倒的だ。だからこそ薫先輩も頼られると嬉しくて張り切ってしまうってギャップを発見して私は悶え死にそうになったけど。かわいい薫先輩概念、ありすぎる。

 

「って、話が逸れたけど」

「おう、シュウが好き……って話な」

「うん、そうなんだけどさ」

「だけど?」

「シュウ……現状モテ期が来ててさ」

「そうなのか」

 

 そう、一番わかりやすいのがパレオちゃんと花音さんの二人。

 花音さんは私がデートした話をうっかりしたら夏休み終わった後から妙にシュウとデートに行きたがるし、実際何度か行ってるみたいだし。

 パレオちゃんは二人きりになったと思ったらシュウへのラブオーラがすごい。抱きついて離れないらしいことをシュウから聞いてる。

 

「後は、ましろちゃんもどうかなって感じ……つぐも、多分」

「その二人って、兄貴の方じゃなかったのか?」

「違うみたい、特につぐは」

 

 ましろちゃんはシュウと仲良くなってからどんどん、お兄さんへの依存というか執着がなくなっている気がしていた上に決定的だったのはそんなお兄さんにカノジョさんができたって知っても全然、取り乱したり泣いたりしてなかったところ。

 つぐは前から子どもの頃の憧れのお兄さんだったから厳密には恋じゃなかったって言ってる。そしてつぐもシュウとデートしてるし。

 

「というか……あいつはそんなに女子とデート頻繁に」

「それは私のせいだと思う」

「ひまりの?」

「私がデートのハードル下げすぎたからね」

「な、なるほどな」

 

 シュウに拒否されないように別に出かけるくらいどうってことない。デートに深い意味はないって刷り込み続けて一年以上二人ででかけたからね。そこは私はしょうがないなって思ってる。

 まぁなんなら最初のデートは私も別にシュウへ明確な恋心を抱いてたわけじゃないけど。

 

「自業自得か」

「ん〜、そう言われるとムカついちゃうね」

「まぁとにかく、アタシにできることがあるなら言ってくれよ」

「いいの? もしかしたらつぐに相談されちゃうかもよ?」

「そ、そうだな……確かにそうしたらなんて言えばいいんだろうな」

「なんてね、巴が恋愛事に疎いのはつぐもよく知ってるから、言わないと思うよ」

「それはそれで、なんか釈然としないけど」

 

 そんな話をしていたのがほんの数日前のことだった。その時はまさか週末の、お兄さんの誕生日会の最後にシュウから二人で話がしたいって言われるなんて思ってもいなかった。

 流石にね、シュウだからないとは思うけど、もしシュウから──告白とかされちゃうかもって思うと心臓が飛び出そうになる。可能性がゼロじゃない。違うと信じているからこそ、私の胸は期待と緊張でいつも通りとはいかなくなっちゃってて。

 そんな心臓を押さえつけるようにして、私はシュウが今日寝泊まりするスタジオの扉を開いて、ふたりきりの空間に踏み込んでいく。

 

「し、シュウ……」

「ごめんなひまり」

「ううん! それでどうしたの?」

「さっきの、ましろの告白のこと」

「えっ、あ、あああれね! 私もびっくりしちゃったよ!」

 

 でも期待とは裏腹に、シュウの口から出てきたのはましろちゃんの名前で胸が痛くなった。

 あの告白は衝撃だった。なにせあの場で振られるとわかってる告白をしただけじゃなくて、振られても平気そうに笑ってたんだもん。私には絶対に無理なことだから、逆に怖くなった。

 ──もし、シュウにカノジョができちゃったらましろちゃんみたいに笑えない。シュウに振られるとわかってる告白なんて怖くてできない。振られたら、笑顔なんて嘘でも作れない。

 

「それで、どうしたの? やっぱりましろちゃんがお兄さんのこと好きなのはショックだった、とか?」

「そうじゃなくて、というかそうならひまりをわざわざ呼び出さないよ」

「どうだろうね、不安で私に相談したくなったとかってパターンかもよ?」

「ひまりにそれはできないよ」

 

 その言葉にちょっとだけほっとした。どうやらシュウが実はましろちゃんのことが好きになっちゃって、それでお兄さんに告白して振られた姿がシュウのトラウマを呼び起こしたとかではないみたい。それはよかったと心から思った。

 よくよく考えればあの時のシュウの手は怖がってるとかじゃなかった。私が思わずシュウの手に触れた時にそっと開いて握ってくれた

 その手のひらは優しくて、あやしてくれるような感覚さえあったもん。

 

「あの時無自覚だったのかわかんないけど……ひまりだけ、すごく不安そうな顔してたよ」

「……そう、そっか」

「八潮さんでさえ、不安はちょっと感じてたみたいだけど……でも笑ってたのに、ひまりは」

「あはは……ごめん、ちょっと、感情移入しちゃって」

「それは……自分も同じになるかもしれないって思ったから?」

 

 シュウの質問に頷く。静かな空気に紅茶の香りとシュウの声が優しく響くと、緊張も不安も解けていく。あの時みたいに手を繋ごうと伸ばすとシュウも何も言わずに受け入れてくれて、緊張と不安に鳴っていた胸がシュウへの好きって気持ちに塗り替えられ、高鳴っていくのがわかった。

 

「ひまりはさ、前に──ってか何回か言ってたよね」

「ん?」

「俺は男友達じゃないって」

「言ったね、今もそう思うよ」

()()()()、そうなんだ」

「……ねぇ」

「どうした?」

「いつから、気付いてたの?」

「一週間前、しかも確信してなかった」

「よかった、思ってたよりずっと最近だった」

「今だからね、そうなんだなって思ったの」

 

 幾ら他人から好意を持たれることがなかったシュウでも、どうやら一年という時間があれば自力で気付いちゃうみたい。シュウは今日、この時の最後の質問で私の気持ちを完全に理解したみたいだ。

 ──そうだよ、私はシュウが好き。ずっとずっと好きだから、一緒にいたいってわがままたくさん言ったし、たくさん甘えたんだよ。

 

「だよな……そうなんだな」

「うん、好きだよ……あはは、なんかするっと言えちゃったね」

 

 笑うと微笑みで返してくれる。それだけで私はすごく、なんというか報われてるんだなぁって感じてしまった。嫌だなとか、興味ないとか思われてないだけで、私は嬉しくなるくらいシュウから送られる気持ちが大事だってことも同時に気付いた。

 シュウはゆっくりと、言葉を頑張って探してるみたいに静かに私に言葉を向けてくれる。

 

「俺さ、ひまりのこと嫌いじゃない……って言わなくてもわかるよね」

「そりゃね、こうして手を握ってくれちゃうし……もたれかかっても、突っぱねたりしないでしょ?」

「うん、でも……」

「言わなくても、大丈夫」

「ひまり?」

「私、振られちゃってるわけじゃないんでしょ?」

「……うん」

「なら、言わなくても大丈夫」

 

 一人に気づけば、一瞬なんだと思う。シュウの頭の中には嫌いじゃない、好きって言ってもらえて嬉しいって人は私だけじゃないことは私もよく知ってる。わかりやすい人はとりあえず身近に一人いるもんね。シュウが何人気付いてるのかは、わかんないから私は迂闊なことを言わないでおくね。

 

「……もしかしなくても俺って、結構悪いことやってる?」

「相当、女の敵間違いなし」

「だよね」

「ところでさ、私って一番乗りなんだよね?」

「なんの?」

「なんのって……告白?」

「まぁ……順番で言うならそうなるね」

「なら今のところシュウを明確に意識させられるのは私だけってことだね!」

「……そうなる?」

「私がなるって思ったからなる!」

「自由すぎるだろ」

 

 いつもの雰囲気に戻っていく。じゃれあうような、蘭やリサさんに「付き合ってないの?」と何度質問されたかわかんない私とシュウのやり取り。私が甘えるように振り回してシュウがツッコミ担当で、そういう雰囲気にシュウも緩んでいく。

 でも私はもう遠慮しないからね。気付いてくれたなら、気付いてくれたなりの態度で、シュウを独り占めするから。

 

「ふふん──で、どこまで許してくれる?」

「どこまで……?」

「キスしてもいい? それとも……触る?」

「そっ、そういうのはよくない……でしょ」

「気にならない?」

「なってるよずっと、初めて触れた時からずっと」

「へ〜、やっぱりシュウも男の子だね〜」

「ムカつく煽り方するけど、そこまで悪い男になりたくない」

 

 結局その日は羞恥心の限界が来たシュウによって追い出されてしまったけど、その前にたっぷりとハグをしてもらった。

 好きな人に真正面からぎゅってされるの、すごく嬉しくて、幸せで、でもこれで恋人になれてないのかぁという落胆も確かにあって。

 でもこれからも私はシュウを意識させていく。知らない間にライバルいっぱい増えてるいたいだけど、距離感だけなら絶対に負けない自信があるもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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