恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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前半は割りと全体の話、後半がかのちゃん


花音⑩:もしも

 ひまりから始まり、ましろ、花音さん、パレオ、つぐみと続き五人から告白されたこと、そしてちゃんと俺も結論を付けたいという気持ちを俺は五人全員に伝えた。

 兄ちゃんから明かされて直接知っていたつぐみを除いた四人も、この五人が俺のことを想うことを解っていたかのように驚くことなく事実を受け止めていた。

 

「考える時間をほしい。わがままなんだろうけど」

「ううん、大丈夫」

「シュウはあんまり考えてこなかったんだから、そりゃ待つくらいはするよ!」

 

 ひまりの言葉に感謝しつつ、だけどそう言ってずるずると先延ばしにしてしまいそうで俺は折衷案としてみんなに期限を決めてもらいたかった。

 いつまでに俺は答えを出せばいいのか、それともずっと待ってくれるのか、それを問いかけた。

 

「パレオはいつまでも、待ち続ける覚悟はありますが」

「……で、でもいつまでもってわけには……ちょっと不安になっちゃう」

「そうだね……ちゃんと決めたほうがいいかもね」

「じゃあ、いつにしよう」

「クリスマス」

「……はい?」

「私はクリスマスがいいなぁ」

 

 そう、真っ先に具体的な期日を口にしたのは花音さんだった。

 ふとカレンダーを見ればもう十一月も後半を迎えており、後一ヶ月もすればその日はやってくる。おそらく日本で最もカップルが出歩くであろう日、クリスマス。

 ──でもどうして花音さんはクリスマスを提案したんだろうか。

 

「付き合えても、そうじゃなくても……シュウくんとクリスマスデートするから」

「……え、私もするんですけど」

「ふ、ふたりとも気が早すぎる……ような」

「そもそも修斗くんに許可もらってる……?」

「ここは公平かつ厳正な抽選を行うか、修斗様のスケジュール管理をして五人がデート出来るようにすべきではないでしょうか」

 

 なんか、なんか急に全員でクリスマスの予定を取り合い始めてしまい、告白されたかつデートする本人のはずの俺が口を挟めなくなってしまう。

 ただでさえ勝手にダブル・ブッキングを組まされていたのに下手をすると二重どころか五重という悲劇が目の前に繰り広げられているのは現実味がなさすぎる。なんだクインティプル・ブッキングって。初めて聞いたよそんな単語、誰かにおすそわけしてあげたい。

 

「だいたい、今時はクリスマスシーズンで12月から散々イベントやってたりするし、みんなが一日ずつでいいんじゃないかな!」

「ひまりちゃん、さりげなく24日抑えようとしてる……?」

「悪いこと、か、考えてますね……」

「つぐ、気づいても言わないでよ!」

「言うよ、わたしだってデートしたいからっ」

 

 そして軽く修羅場が始まってしまって落ち込んでる。俺はなんてアホなことをしたんだろう、思わせぶりな態度を取ってしまったんだろうか。女性との付き合い方を考えるきっかけになったにしてはイベントがでかすぎて女性不信になりそう。女の子こわい。

 ──とまぁ、わいわいと盛り上がったのはいいが結論は出ないため俺が提案するしかない。俺が纏めないとこの子たちは止まらないということだけはわかった。見守るだけでありたかった。

 

「一度に全員とデートは俺の身がもたないのでごめんなさい……というかそもそもあなた達も24日は予定あるのでは?」

「アフグロはないよ」

「ハロハピはあるけど……夜には終わるし、ホテルでゆっくりディナーとか……ね?」

「ね、じゃないんですよ。何をしれっと高校生にあるまじき聖夜を過ごそうとしているんですか」

「RASも夕方からライブですが翌日はおやすみです。25日はちゃんと家族と過ごした方がいいとチュチュ様がおっしゃっていたので」

「感覚が日本と違う……あ、モニカは25日だけイベントあるよ」

 

 つまり、二十四日をちゃんと過ごせるのはつぐみかひまりってことだね、それじゃあその日は公平性を考慮してつぐみとひまりの三人でハロハピのイベントに行こう。夜ならきっとみんな揃うなら夜からクリスマスパーティをするってことにしたら、後は好きな日を各々埋めてくれたらそれでいいよ。

 返事はその後、冬休みの間に個別に言わせてもらうから。それなら文句ないよね? 

 

「シュウくんが決めてくれるなら、私も文句はないよ」

「まぁ、実質デートだし」

「ひまりちゃん……えっと、わたしもそれでいいよ」

「うん……シュウさんが決めたなら」

「RASには来てくださらないんですか!?」

「ハロハピがお昼までだから間に合うと思うよ〜」

 

 勝手に予定増やされたけど、まぁパレオがそれで納得するならそれでいいやと投げやりになった。まぁどのみち翌日はモニカのイベントに顔出そうっていうか事情を知ったらしい桐ヶ谷さんからの催促がうるさいため兄ちゃんと行くことになってたし。

 想像以上に大変な冬休みになりそうだ。なりそうだけど、俺はこの騒がしさが嫌いじゃないのが一番ダメなんだろうな。

 

 

 


 

 

 

 話し合い、きっとそう呼称してもいいだろうにぎやかな時間が終わり、俺は背中に温かく柔らかな感触にややドキドキしながら編集作業をしていた。

 背中で風呂上がりのぬくもりを余すことなく押し付けてくるのは花音さん、かなりリラックスされている。

 

「そういえば花音さんって進路大丈夫なんですか?」

「ん〜?」

「いや、ん〜? じゃなくてですね、一応先輩でしょう花音さん」

「一応じゃなくて先輩」

「だったら最初の質問に答えてくださいよ」

 

 実は居心地が悪くてなんとか会話をしようと捻出した話題だったが花音さんは都合が悪いのかはぐらかすような態度だ。

 まぁでも花音さんは迷子癖とぽわぽわとした雰囲気から想像つかないが俺なんかが心配しなくてもいいくらいには学業を修めていらっしゃるので杞憂だろうと思うけど。

 

「大丈夫だよ」

「ならいいんですけど」

「うん」

 

 いつもの花音さんの数百倍くらい素っ気ない返事が来て会話がそこで途切れてしまう。何かあったんだろうか、とやや後ろを振り返るとそこにいつもの明るくてまるで雲のような、ふわりとした花音さんはいなかった。

 悩みとか、不安とかそういうものを感じる表情に俺はもう一度だけ名前を呼んでしまう。

 

「花音さん?」

「……なぁに?」

「何か、あったんですか?」

「ううん……何もないよ、ただ」

「……それ、何かあった時のリアクションですよ」

「そうだね……あのね」

「はい」

「私、卒業したら家を出ようと思ってるんだ」

「それは、初耳です」

 

 驚いてしまったが、それも無理はなかった。どうやら白鷺さんとシェアハウスをする予定らしく、絶賛物件探しをしているようで、最近白鷺さんと一緒に出かけることが多かったのはその理由だったのかと納得した。

 だが、やはり実家から離れるということはまた違った問題が起こるわけで、それが()()()()()()()()()()()()()()()ということだった。

 

「……迷子、になりますよね」

「私も千聖ちゃんも、そんなに電車が得意じゃないし」

「そうなんですね」

 

 どうやら白鷺さんは白鷺さんで電車に縁のない生活を送ってきたのか乗り換えというものが苦手らしい。迷子と電車苦手のコンビって凶悪すぎると思うので俺も心配しました、大丈夫ですかそれで大学生活。しかも二人とも違う大学へ行くようで、俺の不安はさらに高まった。

 

「千聖ちゃんはね、毎日同じ駅で乗り換えて同じ駅で降りるのだから平気よって言ってたんだけど」

「慣れるまでは大変でしょうね」

「そう思う」

 

 俺だってコッチに来たての頃は電車乗るのに苦労させられた。慣れるまで何度も何度もスマホと案内表示に視線を移しては左右を見渡していたんだから。

 でも早く慣れることが出来たのは単に地元の方で電車の乗り換えに慣れ親しんでたからだ。幼少期からそういう体験をしてなければ電車の乗り換えがどういうものなのかなんて、想像すら出来ない。

 

「改めて、シュウくんと初めて会った時のことを思い出しちゃうなぁ」

「あの時は俺だって手一杯でしたよ」

「そう? なんだか余裕です、みたいな顔でひまりちゃんとおしゃべりしてたのに」

 

 いえ、それはひまりのテンションと明らかな陽キャですみたいなオーラに対して無になっていただけなので。

 まぁそこで花音さんが話しかけてきて、明らかなキラキラお姉さんがやってきて余計に無になったわけですが。

 ──でも、新しい環境にすぐ馴染んだって思われてたってことなら俺がすごいんじゃなくて兄ちゃんやつぐみ、ひまりみたいな周囲の人が俺を引っ張り上げてくれてたからであって、俺はただ流されてただけだ。

 

「もし、もしでいいんだけどね」

「はい」

「キミの恋人になれたら……迷子にならないように、いっぱい、一緒に居てほしい」

「迷子になられたら困りますからね、俺もできるだけ一緒に居ますよ」

「おうちにもいっぱいご招待したい」

「……そ、それは白鷺さんに申し訳ないのでは」

 

 シェアハウス開始早々にカレシ連れ込んでくるって想像するだけで白鷺さんの機嫌が悪くなりそうだけど。けど花音さんは落ち着いたらだからと俺の首に腕を回して、後ろから抱きついてくる。

 こ、これはこれで密着感がすごいというか、もう押し付けられてる。花音さんってこういう抜け駆けの仕方するのかと驚くばかりだ。

 

「──もし、でいいんですけど」

「ん……うん」

「俺が花音さん以外の人を恋人に選んでも、迷子になった時はちゃんと頼ってくださいね。助けに行きますから」

「……浮気しちゃうの?」

「なんで今の流れでそうなるんですか」

「だって……私はきっと抱きついちゃいそうだから」

 

 それは困りますね、と俺は苦笑いをする。

 だからって頼られずに迷子になって何かしらの事故や事件に巻き込まれました、じゃあ寝覚めが悪すぎる。幸い、贅沢にも俺に選ばれるのを待ってくれる女性はみんな知り合いだから、一緒に助けに行けば許してくれるんじゃないだろうかと思ってる。いやひまりあたりはきっちり嫉妬しそうだけど。

 

 




ちさかのシェアハウスは問題の匂いがすごい(ガルパ正史設定)
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