恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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⑦:そして季節は始まりへ

 俺んちの前にいて、兄ちゃんに招かれたお嬢様学校の制服姿の女子高生の正体は概ね、俺が状況から想像した通りの人物だった。

 ──倉田ましろ。この春から月ノ森に編入することになった新入生で、兄ちゃんの小さい頃からの知り合い。そして、まぁ見るからに兄ちゃんのことを兄として見てるとは思えない子だった。これはつぐみの時のような勘違いは絶対にないと確信を持って言える。

 

「あなたが……お兄ちゃんの、弟」

「うん、磯村修斗です、よろしく」

「よくよく訊くとおかしなセリフだね、お兄ちゃんの弟って」

「た、確かに……」

「なんで……こっちにいる、んですか……?」

「まぁ色々あってね」

「悪いな、ましろは極度の人見知りでな。というかシュウには会ったことあるんだけどな」

「ほとんど覚えてないけどね、俺も」

「わ、私も……いたっけ、こんな人」

 

 ちょいちょい失礼だなこの子。というか明らかに俺に対して棘を隠す気がないんだけど、本当にこんな子いた? 俺のちょっとした記憶にあるのは──ああいや、確かなんか失礼な子だなと子どもながらに思った記憶があった。大丈夫、この子変わってない。

 

「よろしくね、ましろちゃん」

「……はい、磯村さん」

「おいおい、いつもは山本名乗ってるけど、本来ならオレも磯村なんだぜ?」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだもん……」

「その理屈ならシュウもお前のお兄ちゃんだ」

「絶対無理」

 

 聞こえてますけど。パレオやつぐみに宥められてなかったら許してないんですけど。というか兄ちゃんの隣で引っ付いてるのすらなんとなくムカつくんだけど。兄ちゃんは俺の兄ちゃんだっての。キミはせいぜい近所の年下くらいのポジションだろうが。

 

「どうどうですよ、修斗さん」

「シュウがかっかしてるの珍しいよね」

「修斗くん割とブラコンだから」

「つぐみさん、それフォローじゃなくて後ろから刺してます」

「ブラコンじゃないよ?」

「えっ」

「それは自己分析がなってないと思います」

「シュウ、無理あるよ」

「ねぇ一瞬で敵が三人増えたんだけど?」

 

 ボソリとパレオがこれじゃ狢でございますねって言ったの聴こえたからな。ましろちゃんと比べたな今、どっこいだって言いたいのか、義理とは言え俺は兄ちゃんとは正式な兄弟で、自称妹でしかないましろちゃんと同列に語られることすら嫌なんだけど。そう思っているとましろちゃんがコチラを睨みつけていた。

 

「ったく、シュウもましろも仲良くしろって」

「まぁ同族嫌悪なのでしばらくは無理かと」

「はは、取り合わなくてもお前らの兄貴は逃げないけどな」

「兄ちゃん……」

「お兄ちゃん……好き」

「やっぱ同レベルじゃん」

「あ、あはは……」

 

 なんかしれっと告白めいたことした気がしたけど兄ちゃんがスルーしているため追求せず、また兄ちゃんがロリコンになったわけでも、ファンの子を家に連れこんだわけでもなかったため、ましろちゃんを兄ちゃんが送っていく間にご飯の準備をすることになった。ましろちゃんも兄ちゃんと一緒にご飯を──あくまで俺たちはガン無視して兄ちゃんとご飯を食べたがっていたけど、門限とかそこそこ厳しいらしく送っていった。

 

「……お兄ちゃんとバイバイしたら、もう会えなくなるかも……そうなったら、う、恨むから……」

「なんでそんな後ろ向きなん?」

「恨み積極的に向けてる分、逆に前向きなんじゃない?」

「ネガティブではありますね〜」

 

 別れ際の不穏な言葉こそあったが、兄ちゃんが逃げないって言っただろとフォローして解決した。腕を組みたがるましろちゃんをあしらいつつ一緒に歩いていく二人を見送って、俺たちは少しだけ安堵の息を吐き出す。

 ──でもなんとなーく、めんどくさいことになりそうだな。その予測を持っていたのは俺だけじゃなかったようで、つぐみが俺の隣のソファに腰掛けてきた。

 

「なんか、疲れちゃったね」

「そうだね、びっくりしたり、怒ったりしたから」

「本当に……でも、あの子のこと、嫌いとは思えなかったな」

「そう?」

「うん」

 

 つぐみは優しいな、俺は顔合わせたくないよ。

 そんなげんなりとした気持ちが伝わったのかつぐみはくすくす笑ってくる。ひまりには散々似たもの同士だの、同族嫌悪だの言われたし、俺は普段あんなに兄離れできてないのか。

 

「……よし」

「どうしたの?」

「今年の目標はブラコンと言われなくすることにしよう」

「そうだね、もしかしたら修斗くんもプロになるかもしれないし。そうしたら独り立ちしなきゃだもんね」

「プロ? 俺が?」

「うん──あれ、ならないの?」

 

 プロってなれると思ってなれるもんじゃないでしょ。今の俺なんて兄ちゃんの金で気まぐれにスタジオで演奏して、時々つぐみやひまり誘ってセッションして、東京に来る理由であり去年の目標だった動画投稿も配信もできてない。そんな俺がプロになれたら、苦労なんてしない。ましてや天才的な音楽センスがあるわけでもないし。

 

「なれないと思ったら、なれないよ」

「……そりゃ、そうだけど」

 

 俺は兄ちゃんより器用かもしれない。兄ちゃんに教えてもらったギターとは別に、兄ちゃんの友達から色んな楽器を習って、それをどれもそこそこものにできるようになった。

 ──だとしても、一点突破でギターに一途だった兄ちゃんはその努力でプロになれた。プロになるまでの過程を近くで見てきたからこそ、俺はなれるとかなれないとか考える以前の問題だって知ってる。

 

「俺は、兄ちゃんみたいにはなれないよ」

「修斗くんっ、今年の目標」

「え?」

「もう忘れてる」

 

 つぐみは後ろ向きな俺の頬を両手でサンドして、優しい笑顔をくれる。兄離れっていう目標にはまず兄ちゃんと比べて落ち込むことを減らすのが必要だってことを、教えてくれる。つぐみの手は暖かくて、なんかちょっと柔らかくていい匂いもして、不意にドキドキしてしまう。目線を下に向けると、そこには結構近くにつぐみの笑顔があって。

 

「キスするんですか?」

「わっ、ぱ、パレオちゃん……!」

「パレオ、いつから……」

「なんか疲れちゃったね、の前あたりからです」

「最初からいたんかい」

 

 気配消してやがったな、ひまりが気合入れたのか俺とつぐみに気を遣ってくれたのか一人で作るからと息巻いていたけど。パレオは手伝います〜とか言ってなかった? 俺の不満と文句を一緒に込めた目線だけの問いかけに、パレオは恐ろしいことに満面の笑みで答えてくれた。

 

「なにやらロマンスの香りが致しましたので〜♪」

「鼻が利くのか利かないのかわからないね」

「パレオのことは気にせず、思う存分いちゃついてくださって構いませんよ!」

「か、構うよ!」

「そもそも、いちゃついてないからね」

 

 確かに、あの一瞬はちょっとドキドキする空間だったからロマンスの匂いが出てたかもしれないけど、それを前もって嗅ぎ分けるのはすごいと思う。能力の無駄遣いがすごいけどね。パレオは満足したのか、それでは〜と満面の笑みでひまりの手伝いに戻っていった。あの子って確かつぐみやひまりとは初対面だよね? 

 

「う、うん……修斗くんの話で聞いただけ」

「すごいな、初対面であの近距離って」

「……でも」

「でも?」

「不思議と、近いとも感じなかったなぁって。ほら、新しい会長になった日菜先輩のこと、話したでしょ?」

「ああ、うんしたね」

「初対面の距離が近かったのは、日菜先輩の他には香澄ちゃんと、こころちゃんかな」

 

 日菜先輩は羽丘の新会長さんで、俺もパスパレのライブに行ったから知っている人だ。こころちゃんはおそらく花音さんが所属するバンドのボーカルである弦巻こころのこと、香澄ちゃんは知らない子だなぁと思ったら最近話題のポピパのギターボーカル、戸山香澄のことらしい。ガールズバンドの知り合いがポンポン出てくるなぁ。

 

「それは、その人たちが特殊なんじゃ」

「それは──まぁそうだけどね」

「やっぱりそうなんだ」

「うん、でも……あの子は、()()()()()()()って測ってる感じだった」

「そうなんだ」

「距離感測るの上手なのかも」

 

 測ってる、か。つぐみの人を見る目は確かな力だと思う。ちょっと善人に信じ過ぎちゃうきらいもあるだろうけど、いつも羽沢珈琲店で接客しているから、本質を捉えていけるんだろう。

 ──でも、きっとあの子のその本質を暴いたところで、俺たちに何かあるわけでもないし、つぐみも悪い子じゃないよと確信を持っていたからそのことは頭から外へと追い出した。

 

「今日はホワイトシチューを作りました〜!」

「おお、辛くないものです……!」

「感動しないで」

「ですが、お二人の料理は胃腸に悪いものばかりですから」

「好みの味が一緒だからな、でもたまにはこういうのもいいな」

「舌がピリピリしないものだ……!」

「つぐみまで」

 

 その日はワイワイとみんなで食卓を囲んで、ましろちゃんの過去話とどういう子なのかみたいなことを話してもらった。内気だったましろちゃんは、いつも兄ちゃんの後ろにくっついていたらしい。でも再婚で離れた時に、すごく嫌がるくらい兄ちゃんのことを本当の兄のように慕い、またそんなましろちゃんのことを兄ちゃんも妹のように思っていたらしい。

 

「つかシュウと一緒になった時に対応できたのは、ましろがいたからだな」

「年下の扱いはお手のものだったと」

「言い方がなパレオ、悪意がある」

「おや、パレオも実感しておりますよ♡」

「……勘弁しろって」

 

 両手を挙げて降参のポーズをする兄ちゃんに全員の笑い声が響く。おや、パレオももしや兄ちゃんのイケメンオーラにやられているのか、とも思ったけれど、つぐみがパレオに対して距離感を測るのが上手だって言ってたから、もしかしたら笑いが出るってわかってて踏み込んだのかもしれないしな。

 

「なんか……私抜きで楽しそうだったんだね」

「花音さん、むくれてもかわ──いいはかわいいんですけど、あざといんでやめてもらえます?」

「ひまりちゃんはいいのに?」

「ひまりはいいんですよ、ああいうキャラなんで」

「私はダメなの?」

「俺の中での花音さんは清楚かわいいお姉さんなので」

「……よくわかんないけど、そうなんだ」

 

 翌日、俺は花音さんとお茶をしていた。約束してたわけじゃなくていつものように突発的な出会いをしただけだけど。

 つぐみがちょっと苦笑いをしながら、それでもフォローはしてくれない。あれ、助け舟くらい出してくれてもいいのでは? そんなヘルプもつぐみさんはお仕事だからと去っていった。

 

「私もシュウくんちでお話したいなぁ」

「……え、花音さんが? なにこれドッキリ?」

「ふえぇ、なんでびっくりしてるの……?」

 

 ひまりもつぐみもなんだかんだで毎週のレベルで俺んちに上がり込んでご飯食べてのんびりしてるのが羨ましいらしい。隣のパレオはもちろん、ひまつぐはいいとして花音さんがうちでご飯を食べて、下手するとお風呂まで入るのか──花音さんがかぁ。俺のそんな僅かなつぶやきを花音さんは見逃さなかった。

 

「お風呂……?」

「あ、そうなんです。ひまりがほとんどで、スタジオでのセッション後で汗流したいからって」

「……そういうことしてるんだ」

 

 でも花音さんはなぁ。なんでだろう、すごく抵抗感がある。つぐみやひまりと一緒の行動を花音さんに追いかけるとなんだかいけないことをしているような気分になるのはなぜだろう。うぅん、謎だ。

 ──とりあえずご飯の件は持ち帰って兄ちゃんと検討させていただきますと返答をして、不満げな花音さんから逃げるように家へと戻っていった。

 様々な理由で知り合った、三人のかわいいバンドガールたち。そんな彼女たちとの日常は、二人ほど個性的な子が増えて、二年目を迎えることになる。

 そしてそれは、新しくて、色んな感情が混じり合う恋愛であり青春へと発展していく。

 

 

 

 

 

 




これにて第一章は終わりです! 次回からは火曜と金曜の0時から週二投稿です!
つまり明日投稿されます()
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