恋するバンドガールと見守るバンドマン   作:黒マメファナ

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第二章:ましろ編その1
①:変わらないようで変わった日常


 新学期になり、俺は無事に高校二年生になった。特に進級しただけで変わらない日常が始まる──のは確かにそうなんだが、それでも俺には去年の春とは違ったことがあった。

 始業式もつつがなく終了し、家の前に来たところでおやつでも買おうとスルーしてコンビニに向かっていたところで、すっかり顔なじみになった羽沢つぐみが笑顔でこっちに向かって手を振っていた。

 

「修斗くん!」

「つぐみ、始業式終わったの?」

「うん、修斗くんも?」

「そうそう、コンビニで買い食いして帰ろうかと思って」

「わたしも一緒に行っていい?」

「まさか、奢らせるつもり?」

「えぇ!? そんなつもりじゃないよっ」

「はは、冗談冗談」

 

 去年の今頃は知り合いがおらず、ちょっと中学とは違う空気感に戸惑っていたものの、今年は学校では挨拶をして世間話をする程度の友達はいるし、なによりこうして顔なじみとなった近所の同級生と仲良くなれている。たったそれだけだが、見知らぬ土地という気分じゃないことが大事なんだ。

 

「今日は練習?」

「うん、後でCiRCLEに集まるよ」

「そっか」

「見学しますか?」

「しないしない、俺美竹さん苦手だし、怖いし」

「全然怖くなんて──」

 

 雑談をしながらコンビニの前まで来ると、なにやら真剣な顔で雑誌を読んでる知り合いがいて、俺もつぐみも一瞬フリーズした。なにしてんだこいつと思いつつ、気づく様子がないため俺たちは店の中に入っていった。立ち読みなんてしてるのか、しかもここ、確か幼馴染が働いてるところじゃなかったっけ? 

 

「モカちゃんね、うん」

「そこで立ち読みとは……ひまり」

 

 近くまで来てるのにまだ気づかないのは上原ひまり、今日同じ始業式だったんだよね? 俺が訊ねるとつぐみは苦笑い気味に肯定して、コンビニ寄って行くからと別れたことを話してくれた。練習遅刻するんじゃないかなこのまま放置してたら。

 

「それは困るから、申し訳ない気分だけど話かけよっか」

「そうしな、俺おやつ選ぶから」

「はーい」

 

 それから少ししてスパイシーな感じのスナック菓子とかを選んでいると、大きな声がした。どうやらオーバーリアクションで驚いたようで会話が丸聞こえである。二人の店員さんがすごく怪訝な顔していらっしゃるが、ヒソヒソ会話によるとあなた常連で幼馴染の話題になっているらしいですよ、ひーちゃんさん。

 

「え、シュウもいるの……!?」

「なに?」

「シュウ、あ……見てた?」

「見てたって真剣に立ち読みしてるところなら前を通り過ぎたけど」

「──っ! そ、そんなぁ〜」

「いやなに読んでたとかは知らないけど、なに読んでたの?」

「へ、あ〜いやっ! ちょっとしたマンガ的な!」

 

 それこそ買いなよと思うが、まぁ雑誌掲載のマンガ一つだけなら確かに買うのは勿体ない気がするけど、つぐみの話によると結構前からいるみたいだから、やっぱり買った方が後で落ち着いて読める気がするんだけどなぁ。

 

「そうだ、シュウも一緒にCiRCLE来る?」

「あのね、ひまり」

「蘭ちゃんが怖いんだって」

「蘭が……怖い……?」

 

 そりゃ幼馴染のキミたちにはそう思えないかもしれないけど、ツリ目でツンツンしてて強気な感じでぶっきらぼうなあの子が俺は苦手なの。このコンビニでバイトしているらしい、タレ目というかいつも眠そうな方のキミたちの幼馴染も割と苦手だけど。それに忘れてると思うし、俺もつい忘れそうになるけど実は初対面の女の子苦手なんです。それこそつぐみとかひまりみたいなきっかけ掴むのに苦労しちゃうから。

 

「シュウ、学校でもそんな感じ?」

「……未だに女の子とロクに話せてないよ」

「まだ男子校出身引っ張ってるの?」

「現時点で女子校通いのひまりが言うセリフじゃないね」

「確かに、共学ってなんだか想像できないなぁ」

 

 この辺近所に女子校が何故か三つもあるせいで道歩いてるのも制服女子比率高いからね。俺なんて結構珍しがられるタイプだと思う。兄ちゃんも電車乗る時間ミスると女子中高生ばっかで逆に満員電車より乗るのためらいそうになるって言ってたからね、二年前は。今はそんなこと一言も聞いたことがないけど。

 立ち話からおやつを買って──結局ひまりに押し切られてスイーツ買わされたせいでつぐみにも奢ることになって、イートインスペースでのんびりしていると、店員のいらっしゃいませ〜という言葉が響き、珍しい月ノ森の制服の子が入ってきた。キレイな白髪だなと思ったら、あいつか。

 

「……あ」

「おっす、ましろちゃん」

「こんにちは」

「……っ」

「あ……逃げた」

 

 逃げられた。月ノ森からましろちゃんの家って電車使わなきゃだから通り道じゃないはずなのに、どうしたんだろうと思っているとスマホが鳴ってLINEが届いていた。今、逃げていった倉田ましろちゃんから。

 

『もしかしてもう学校終わったんですか』

 

 そりゃもう終わるでしょ、ましろちゃんだって始業式終わってすぐ帰ってきたクチでしょうと返事をするとどうやらましろちゃんは兄ちゃんに会いたくて、でも家に誰もいなかったからコンビニで時間潰そうと思ってきたらしい。俺は多少の意地悪で、今からひまりたちに着いて行ってCiRCLEってライブハウス行こうと思ってたと送ると、返事が来なくなった。

 

「シュウ、いじめっ子?」

「ダメだよ修斗くん」

「来る気なかったクセに」

「……あの」

「うるさいなぁ……って、ましろちゃん?」

 

 LINEは既読無視かと思いきや直接言葉で来た。このまま話かけてすらこないと思っていただけにその行動には少しだけ驚かされたが、俺はあくまでにこやかに、敵対する意志はないよという気持ちを込めてどうしたの? と言葉の続きを待った。

 

「CiRCLEって……?」

「商店街の近所にあるやつだよ」

「……バンド」

「うん? どうしたの?」

「ううん、なんでもない、です」

 

 どうかしたんだろうか。というか入学したてなんだから兄ちゃんよりも友達作りとか、部活とかの方に目を向けた方がいいんじゃなかろうかと思うんだけど、それは去年の俺のことを思うとなんとも言えないのでやめておいた。ましろちゃんは確かにこの春から憧れの月ノ森生に外部から入学したらしいけど、兄ちゃんが言うにはお嬢様ではないらしい。少なくとも兄ちゃん知る倉田さんは平凡な家庭だと言っていた。

 

「バンドって、やっぱり面白い……‥んですか?」

「まぁ流行りだし」

「はやり……そっか流行りなんだ」

「数年前からね」

「学校じゃそんなこと言ってる人、いなかったから」

 

 訊くところによると割と閉鎖空間だから仕方ないのかもね。俺がそう言うとましろちゃんはちょっと興味があるみたいだった。そりゃ兄ちゃんは昔から音楽一筋だし、そんな兄ちゃんを見てれば気になるのは当然か。ただし人見知りで友達付き合いもそこまで上手じゃないましろちゃんには厳しいようで、結局CiRCLEに行くのはなくなった。

 

「それじゃあ、奢ってくれてありがとう修斗くん」

「じゃ、ましろちゃんもまたね〜!」

「は……はい」

「ひまり?」

「わかってるよ〜、ありがとねシュウ!」

 

 そのまま解散して、俺はましろちゃんを家に上げた。兄ちゃんは地方局の音楽系テレビに出演する打ち合わせで、夕方には帰ってくるからと教えると待ちたいと言った。俺としては気まずいんだけど、まぁここは我慢しよう。こうやってこれから何度か足を運んでくる以上、コミュニケーションは取っておかないと。

 

「ねぇねぇ」

「なに?」

「どっちと付き合ってるの?」

「……どっちとも付き合ってないけど?」

「そうなんだ」

 

 どうやら俺には敬語は無駄だと感じたのはおそらく三回目に一緒にご飯を食べた時だろうか。というか表向きだけでも仲良くしていた方が兄ちゃんも喜んでくれているからその関係のような気がする。ただソファに座って、すぐ近くまできて袖を引かれながらの「ねぇねぇ」はちょっとかわいいと思ってしまった。ちょろいな俺。

 

「こうなったら、私決めたの」

「何を?」

「もうバレてる気がするから……お兄ちゃんを惚れさせる作戦、シュウさんも協力してもらうから」

「……俺が?」

「だって、いいじゃん別に、お兄ちゃんはどんなになってもシュウさんのお兄ちゃんなんだから」

 

 確かにと頷くとちょっとだけ不敵な笑みを浮かべてじゃあ決まりねと言ってきた。ここまでわかりやすく兄ちゃん狙いな女の子というのは珍しい気がする。つぐみや花音さん、パレオにとっては強力なライバルかもしれないと思ってしまうね。いやホントにその三人が兄ちゃんのこと好きなのかなんて知らないけど。

 

「まず、お兄ちゃんの好きなタイプは?」

「うーん、前のカノジョとかから把握しなきゃだなそれ」

「……元カノさん?」

「うん、俺としてもあんまり思い出したくないけど」

 

 元カノさんは派手めだった。ギャルって程じゃないけど、こう一番近いとパレオかひまりみたいな表情筋の仕事量が多そうな人だったな。その他は、でもつぐみみたいな素朴かわいいタイプの子とはかなり仲良かったし、花音さんみたいな清楚系でかつ男を惹きつける色気みたいなのを出してそうな人も部屋でなにやらふたりきりになってた。

 

「……なんか、ストーカーみたいで気持ち悪い」

「おいこら、ましろちゃんが知りたいって言うから情報提供してあげてるんだけど?」

「でも、思ったより詳しくて、なんか……うん」

「兄弟なんだから当然でしょ!」

「多分……違うと思う」

 

 結論としては、やっぱり兄ちゃんの目に留まるには音楽系かもしれないということだった。仲良い女子みんな音楽やってたからね。そう言うとましろちゃんは、音楽かぁとちょっと諦め気味というか、落ち込んでいた。音楽なんて楽器できなくても歌とかどうなの? 誰でも使えるし、音痴じゃなきゃ伸びしろはあると思う。そんなアドバイスをすると、ましろちゃんは膝を抱えて顔を伏せてしまった。

 

「お兄ちゃんはプロなんだよ? カラオケでちょっと良い点なるくらいの私の歌なんて……」

「わかんないよ」

「わかるもん」

「……もったいないなぁ」

 

 挑戦してみればいいのに。俺はそう言ったけど、ましろちゃんはそれ以上は何も言わずに顔を伏せているだけだった。やがて兄ちゃんが帰ってきた時にはいつものような甘えん坊でボディタッチ多めの強かな妹に戻っているんだからある意味、前向きな気もするけど。俺はあの後ろ向きなましろちゃんのことが少し心配になり始めていた。やっぱ俺ってちょろいな。気をつけよ。

 

 

 

 

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