山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
この世界に来て初めての夏休みが数日過ぎた頃、
「健、春樹! 博士から特注品のカメラ借りてきたぞ!」
(あっ……これヤバいやつだ)
オレは退学の危険が迫っていたことを忘れていた。
原作ではこの夏、三バカたちは複合施設のプールにてラジコンにカメラを仕込み、通気孔から女子更衣室を覗く犯罪に手を染めようとしていた。
もう一度言おう。
犯罪に手を染めようとしていた。
さて、断固拒否して計画を潰さねば……。
これ綾小路くんに証拠押収されて下手したら退学だし。そもそも犯罪だし。
「オレは反対だ。寛治」
とりあえずその場から手を引こうと思った。
「春樹お前カッコつけやがって!
わかった。お前は佐藤とイイ感じなんだろーこんのっ裏切り者め! 断罪だぞ健!」
「おうよっ! 裏切り者には鉄槌だぜ!」
まずい。どのルートでも死にそう。
健に腕を取られ、あわや関節技が決まりかけたとき、オレは健に小さな声で警告する。
「健。お前、これを堀北先生が聞いたらどう思うだろうな」
健がピクリと反応する。
「そういえばオレ『数A』でわからないことがあるんだった。
堀北先生に質問しにいこうかな。そうしようかな。
今あったことペロッと話してしまうかもな。あー関節が痛いな―」
「お、おい……」
「それにだな。健。もしプール計画に堀北先生が参加してた場合、
他のやつに堀北先生の無防備な姿を晒すことになるがそれでいいのか。
おいっ健! お前は本当にそれでいいのか?」
畳み掛けるように言葉でオレは健を追い込む。
固定された力がスッと抜け、びくともしなかったオレの腕が外れる。よし詰みだな。
「寛治……。悪いがオレも降りる」
健を味方につけることに成功っと。
「健! 春樹! この裏切りリア充どもめ。こうなったらオレだけでも実行してやるからな!」
さて最後、この自暴自棄になった漢どうするかだ。
うーん、とりあえず篠原を……。
篠原?
そういや篠原って佐藤と仲いいよな。
仕方ない。
「寛治ちょっと来い」ひそひそとオレはある計画を告げる。
「ほ、ほう。なるほどな。まぁ悪くはないな」
できればいいけど。
どうだろうな。最悪あの人を頼るか。
◇ ◇ ◇
「おいっ春樹! 平田がいるってどういうことだよ。聞いてないぞ!」
寛治の悲鳴が聞こえるがまぁ無視だ。
篠原と夫婦漫才かデュエットでもしててくれ。
オレは寛治のご機嫌を取るため女子を遊びに誘うことにした。
というか篠原を呼ぶことにした。
ただこの時期はまだお互い男女を意識する仲でもなく、仲の良い普通の友達のようだ。
今回遊ぶメンバーは、篠原と仲の良い女子たち。
佐藤、篠原、松下の3人である。
三バカはこの3人ともそれなりに交流があったようでラクにセッティングできた。
ま、スペシャルゲストがいるからだろうけど。
ただ寛治も内心では喜んでいるはずだ。
特別試験の後、女の子と遊ぶ機会もあまりなかったからな。
うんうん、寛治どうした? 俺は平田のお供えだって?
悲鳴が心地良いなー。
オレは聞こえなかったことにした。
健は堀北先生がいないこと。そもそもバスケ部のレギュラー扱いの健は、夏休みの大半はバスケ部の練習時間に割かれるため残念ながら不参加だった。
その代役として寛治の嘆きのメンバー紹介で察する通り、我らが平田洋介である。残りの男子はついでにオレと寛治だ。
洋介には『池寛治の犯罪未然防止のため力をお貸しください』と連絡したら二つ返事でOKだった。
女子チームは言わずもがなである。
篠原さんなんか、『平田くんも来るの!』とそれはもうご満悦な様子で。
「寛治が落ち込んでるんで、すみませんが持ち上げてくれたら……フォローお願いします」という要望も「仕方ないわね」と快く了承してくれた。
念のため洋介にも、軽井沢から許し得ておいてくださいと事前に伝えておく。ま、偽装してる恋人関係なのは当然、知ってるけどな。
洋介が来るなら軽井沢も今回来るかなと思ったが、軽井沢は不参加。
忘れていたが前回の特別試験の影響で関係も変わって、二人は少し険悪なムードだったか。
さて、カラオケでも歌わせておけばストレス発散するだろうと寛治に歌わせつつ、
寛治の太鼓持ちを篠原が、
篠原の太鼓持ちを洋介がしつつ3人で楽しそうにしている。
じゃあ洋介のテンションは誰が上げるんだよ。
オレじゃ──無理か。綾小路くん呼ぶべきだった?
「ねぇポイント貯めるんじゃないの?」
そんなこと考えてたら、オレの隣りにいた佐藤がコソコソと聞いてくる。
「親友が犯罪に手を染めそうだったからな。今回は必要経費なんだ。
あと佐藤も今日フォローありがとな」
「そう、別にいいんだけどさー!」
佐藤は納得してない様子だが、ひとまず頷く。
「仲いいねー。やっぱり二人なんか進展あったの?」
向かいに座る、松下千秋だ。
今日、松下との会話は初めてだな。
松下は俺達をからかってはいるが、歳の割に落ち着いてて育ちの良さが隠しきれていない。カラオケらしからぬ綺麗な所作でドリンクを置いているしな。
「特別試験が一緒だった、戦友みたいなもんよ」
「それだけって感じじゃなさそうだけど……あっ、少しごめん」
震えだした端末を持って慌てて松下が外に出る。
「皆に茶化されちゃうね。なんかごめんね山内くん」
それはこちらのセリフなんだが。
オレは山内だぞ?
そういえば今日来た女子3人は豪華客船の昼食でも一緒だったもんな。
あれ聞かれたら冷やかしもするか……。
オレは「全然問題ない」と返すと佐藤はぱっと明るくなり、遠慮が無くなったのか、ある願い事をしてきた。
(あー、そういえば)
佐藤から詳細を聞くとそういえばあのイベント。そんな条件が確かにあったな。
「それくらいならいいぜ! だいたい空いてると思うし今度行こう」
「うんっ。後で連絡するね!」
「すまん佐藤、オレもちょっと席外すな」
オレは一言断って外に出ると、ちょうど戻ってきた松下とすれ違うところだった。タイミングとしては狙い通り。
「なぁ松下。佐藤に関係することで、後で相談のってくれないか」
松下を呼び止めたオレは、拒否されないための嘘を付いた。
こうして池くん上手い! かっこいい! と女子たちにいつもより少しヨイショされた寛治はご満悦のようで、ひとまず犯罪実行は踏み留まることとなり、オレたち6人は解散したのだった。
◇ ◇ ◇
「で、改めて相談ってなんなの山内くん」
その数時間後、オレは別の場所で松下と2人で再び向かい合う形で座っている。
他人に漏れることなく落ち着いて話せそうな場所を知ってるかと松下に尋ねると、高級そうな和テイストの喫茶店を勧められる。
現在その個室でゆったりしている状況だ。
「ここなら確かに大丈夫そうだな。
松下。佐藤の件で相談あるって言ったな。あれ9割嘘なんだ」
「えっどういうこと」
「悪いな。相談内容は、ほぼオレのことについてだ」
露骨に不機嫌になり、話が見えないという表情をする松下。
そう。
オレはこれから一つ賭けに出ようと思っている。
1000万ptの獲得、つまり退学回避のためにオレは松下の全面協力を得たいのだ。
そのためならば松下にはある程度、オレの事情を話してもいいとさえ思っている。
目の前に座る松下千秋。
原作『よう実』でまだ実力が未知数の人物ではある。
しかし作中では実力は学内上位10%にあると自負するように、今はあえて力を抜いて過ごしているのだ。三バカにも合わせて。
つまり目の前の松下は、今も周りに合わせ凡人のフリをしている最中というわけだ。
山内の交友関係で、ある程度の”実力”を持ちつつ関わりが深い相手。
綾小路くんや堀北をはじめとするメインストーリーに深く関わってない人物。
それを吟味した結果、相談するならと選んだのが”松下千秋”だった。
オレの知る限り、原作で他人を陥れる戦略を取っていない。
綾小路くんを影ながらサポートするような有能さを持ちつつ、実力を隠し前に出たがらない。こう考えると色々と力を借りたい要素が多い人だよな。
実力だけなら櫛田とか綾小路くんも該当する。
だがメインキャラクターと関わることで原作との乖離が大きくなることは極力避けたい。(あと怖いし)
とは言え、比較的良好な関係の松下でも、山内が突然、協力を申し出ても断られるだろう。
なにせ松下には、今のオレは三バカの『山内春樹』という認識なのだ。
何を言っても、オオカミ少年と同じ扱いになることは目に見えている。
恐らく今も『うわー、これって多分面倒な告白タイムだ』と心の中ではオレを小馬鹿にしているんだろうな。
ま、松下の想像よりもぶっ飛んだ告白が始まるから、あながち間違っていないかもな。
「そうだな。手っ取り速く済ませるか。
松下の『本当の実力』。その力を借りたい。そのお願いだ」
松下が一瞬、強張った表情に変わる。
が、すぐに彼女は「何のこと?」としらを切り、無言でこちらを探るように見てくる。
オレは話を続けることにした。
「上手に説明できるかわからない。
他人に聞かれたくない場所にしたことも理由があるんだ。
ここからは他言無用でお願いしたい。松下頼めるか?」
「ええ。でも内容によるわよ? 山内くん」
軽く呼吸を整える。
そして警戒心を強めた松下に向かって、オレはつらつらと原作知識を披露した。
「そうか。そうだな。まず松下。
お前は普段から佐藤や篠原たちに合わせている。
ただ本当は裕福な家庭で育てられ、習い事やスポーツも堪能で、本気を出せばこの学校でも上位10%の学力も持っているお嬢様なんだろ。
ただ周りの友人と自分の能力が釣り合わなくて、仕方なく今は実力を隠している。違うか?」
「何を言って……」
「松下。お前は本当はDクラスではなくてAクラスで卒業したい。
だが現状のクラスメイトの惨状を目の当たりにして半ば諦めているんだろ」
この情報は誰にも話していないはずだ。恐らく櫛田にも。
松下も明らかに動揺していた。
「な、なぜっ──」
「なんで知ってるか。それはオレの核心に触れる部分だ。改めて他言無用でお願いしたい」
「ええ。……わかったわ。続けて」
「その前に一筆もらえるか。
すまないがそれほど、これ以降の話は慎重にしたい」
松下が今日の集まりに参加すると知ってから、オレは書面を事前に用意していた。
内容は、今回の秘密を他人に話したことが発覚した場合の違反措置について。
それはオレが松下のことを他人に話した場合も含んでいる。
違反が発覚した場合に『プライベートポイント50万pt』をお互いに払うよう設定している。
ポイントにしたのは退学等の条件だと松下が了承してくれないと思ったから。
松下は渋々ながらも同意してくれて、書面でのやり取りも完了した。
自分の秘密を暴露され脅すようなやり方だ。彼女は半ば強制的だから不服だろう。
期限はオレたちの卒業までと一応なっている。
卒業までこの学校に残ってるのかなオレって……。
「じゃあ松下。オレは訳あって1年後から来た山内春樹だとしたらどうする。だからお前が本当の実力を隠していることも知っていると言ったら」
「SF小説でも読んだの? 山内くん。
それに本当の私の実力って言うけどさ。さっきは驚いて否定出来なかっただけ。私は常に全力で望んでいるつもりよ」
松下はふざけたことを言うオレを小馬鹿にしつつ、自分のことも認めない。
そうなるか。
やっぱり未来はダメね。でもなんて言えばいいだよ……。転生よりマシだろ。
「まぁ信じないか。だったら一つ賭けをしようぜ、松下。
これから次回の特別試験で、オレは印象的な出来事について話す。未来を知っていないと到底、当てることは不可能な出来事だ。
もしこれをズバリ言い当てたらオレを一度信じてくれないか。どうしても松下の力を借りたい」
「ねえ山内くん。その賭けって私に何かメリットってあるの?」
「痛いところつくな。実のところあまりない。
賭けに応じなくてもオレはお前のことを言うつもりなんて無いからな。最初に言ったろ、これはオレの相談でありお願いなんだよ松下」
「じゃあ……」
断る気配の松下をオレは遮る。
「ただそうだな。2年生になって、もしオレが退学していなかったら、
松下がAクラスに行けるようにサポートするよ。少ししか役に立てないと思うけど約束する。
オレはお前の力が絶対に必要になる。そう思ってるんだ。
だからこうして今、お願いしてる。頼むよ松下」
真剣にお願いするが松下に返事はない。
お互い見つめ合ったまま、時だけが過ぎていった。
駄目か……。
「未来とか、変なこと言ってすまなかったな。松下」
協力は諦めることにしたオレは、会計を済ませようと書面を回収する。
すると松下が鋭い目つきで、静止するようにオレの腕を掴んだ。
「山内くん。やっぱり、あなた嘘を付いているでしょ。
未来の山内くんって話。あなたは『本当に』1年後の山内くんなの?
私の知ってる山内くんってさ。失礼だけど1年後だろうがそんな賢いことはできない。
思い返せば、今日のカラオケの約束だって、驚くほどスムーズだった。
事前準備や当日の周りへの気配りも別人みたいにしっかりしてる。
そう、あなたって本当は──二重人格とか、そういう別の人なんじゃないの?」
(えっ!? なんで分かったの?)
オレがほぼ正解を言い当てられてそのまま表情に出てしまったのか。
今日の相談で初めて松下が声に出して笑う。気持ちの良い笑顔で。
「ふふっ。ごめんなさい。
もしかしてこの前の特別試験で優待者を当てたのも関係ある?
山内くんが”本当のこと”を話してくれるなら、私、賭けにのってあげてもいいよ。
でももし嘘ついたら、もう相談受けないから」
「本当か?」「ええ」
「本当の本当に?」「本当だって」
そういう事ならとオレは話すことにした。
無人島試験の終盤あたりで転生したらしいこと、
元の世界ではこの世界はフィクションな物語だということ、
特別試験もその知識で解いてしまったこと、
そしてオレは退学する未来にあること、
それを防ぎたいことをポツポツと話しはじめた。
あれ、なんか立場逆転してない?
どんだけ交渉下手なの……オレ。
「転生? っていうの、ごめん、いや信じられないかも……」
松下にとっても想定外の怪奇現象だったのだろう。
到底信じられないという表情をしていた。
立場が同じだったら、オレも同様の反応だっただろうし。
「だから未来の山内ってことにした方がまだ信じられただろ?」
松下はすかさず笑って否定した。
「いやそっちの方が無理無理。だってオカシイもの。
いつもの山内くんだったら何年経っても書面での取引きなんてしないって。佐藤さんも不思議がってなかった?」
はい。それはもう。
数々の思い当たる出来事がフラッシュバックしてくる。
「なるほどね理解”は”した。
『誰にも言ってない』私のことを把握していることも。一応、筋は通るね。
じゃあ賭けのこと、次の特別試験のことを教えてよ。”山内くんに転生した人さん”」
オレの言葉を待つ松下は、珍しく年相応に楽しそうだ。
珍獣でも見てるつもりなのだろう。
「実力のこと認めるんだな。あと何でそんな楽しそうなの?」
「だってほら。今、私って物語の主人公みたいじゃない?」
実際にはサブヒロイン的なポジションなんですよね松下さん。
「えーと。じゃあ次の特別試験で起こることを教えるけど……。
ちなみに今、松下はどれくらい信じてる? この話」
「そうだね……全くかな?」
頬杖をついてニコニコしながらこちらを見る松下。
想定外だがもうコイツ、ある程度信じてないか?
多分、山内が別人格になっていることは余り疑いを持ってなさそうだった。
「受け入れつつあるだろ! お前」
「やだな。そんなことないって。
次の特別試験の出来事を山内くんに当ててもらわないと、私、協力できないかなー」
可愛く言えば、何でも話すと思うなよ。
話すよ。
「次の特別試験は体育祭。そこでは様々な事件が起こるわけだが、クラスの皆の記憶に残るのは最後の競技、3学年合同リレーだろうな。
3年A組のアンカーは堀北生徒会長で1年Dクラスのアンカーは綾小路。2人のアンカーによる名勝負に周りは白熱し、そして綾小路は一躍、時の人になる」
オレが話したのは原作通りの筋書きである。
「次の試験は体育祭なんだね。学力だけじゃなくて運動能力も必要ってわけか。
それで同じクラスの綾小路くん?
悪いけど、全然そんな風には見えない。うちのクラスでアンカーを選ぶなら須藤くんでしょ。確かにそんな展開だったら私も驚くかな」
「ああ。松下は同じ結末になることを確かめてくれ」
そうして長い間話していたからか、オレたちは一息ついてお茶を飲んだ。
はぁやっと落ち着いた。
オレ山内。全部話しちゃったし、もう怖いものは何もないや。
「ところで、このことを佐藤さんは知ってるの?」
松下が質問してきた。
「いや知らない。オレの状況を知ってるのは今は松下だけだ。だって他人に話せることでもないだろ。そういえば佐藤が少し関係するって言ったよな」
「ええ。そうね。それがどうかした?」
他言無用で頼むぞと前置きし、
『佐藤はこの体育祭のリレーをキッカケに綾小路のことが好きになる』
オレは佐藤の未来について触れた。
悩んだ末に生み出されたお助けキャラ松下
強引すぎたかと少し反省している。