山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
「綾小路っ! 頼む。鈴音をプールに誘えるのはお前しかいない!」
健が綾小路くんに懇願していた。
そろそろプールイベントか。とりあえず犯罪回避できたから楽しみだなー。
「と言われてもな。オレもそんな確実に誘えるかはわからない。やるだけのことはやる」
綾小路くんが堀北先生と取引してプールに誘うんですよね。知ってます。
原作だと佐倉もいたけど、どうなんだろう。
でも今のオレって、全然佐倉にこだわってないからな。
あれ? 原作だと告白して玉砕もうしてるんだっけか。
やったな山内。トラウマ回避したぞ。
佐倉もどうやら綾小路くんが直接誘ったことで来ることになるらしく、
原作通りのメンバーでプールを楽しむこととなった。
そういえば綾小路くんから佐倉の連絡先について続報ないな。
オレからもう断りの連絡しておくか。
『綾小路! 佐倉の連絡先だけど、もう無理しなくてもいいぞ。
学校が始まったら今度飯でも奢ってくれ! 豪勢なやつで頼んだぜ』
女子よりポイント(食)を取るオレであった。
いや佐倉の連絡先知りたくなったら自分で頼むからな。
交換してくれるとは思ってないけど。
『わかった。正直助かった!』
という簡潔な綾小路くんのメッセージから、オレはいろいろ察していた。
やはり山内だと難航するよな。オレはちょっと悲しかった。
◇ ◇ ◇
そして当日。
カメラという大掛かりな荷物を持たずに出発できたオレは、晴れやかな気持ちで綾小路くんたちとプールで涼んでいた。
「やー、これは凄い人だかりだね!」
一之瀬帆波である。
綾小路くんとスキンシップ中である。
そしてその少し先に、なんか凄い圧を感じる。
なんとなく察してるけど白波さんである。
なんでこちらを睨んでるんでしょうか!
あなたの一之瀬さん、主人公の綾小路くんと、めちゃめちゃイチャイチャしてますけど!?
違うっ! 違うっ!
コイツコイツと綾小路くんの方を指さしていると、
「あれーっキミは一度会ったことあるよね! えーっとそう、山内くんだ!」
「えっ山内で合ってるけど……よく覚えてるな。一之瀬さん」
「まぁ同じ学年の仲間だし、覚えているといろいろオトクだしね。特にこの学校は」
と何やら神妙な顔をする。特別試験のことだろうな。
「それに山内は干支試験のときも正解していたからな」
「あの時の正解者くんなんだね! うーむ。堀北さんもいるし思ったより強敵なのかも……Dクラス」
綾小路くん目立ちたくないからこっちに注目させたろ。絶対そうだろ!
「ふふふ。まっ、Dクラスのリーサル・ウェポン山内春樹をよろしくってことで!」
山内なら言う。間違いねぇ。これくらいのバカなこと言う。
「にゃはは。けっこう面白い人なんだね! 山内くんって。
そういえば自己紹介してなかったよ。一之瀬帆波っていうんだ。改めてよろしくね山内くん」
そういって手を差し出され、オレたちは握手した。
握った手は小さくてめちゃめちゃ柔らかくて可愛かったです。
(ギロッ)
(ヒエッ)
一之瀬の後ろから凄い圧を感じた。
怖い怖い。そろそろ離れるか。
そして周りをみると、なにやら沢山のギャラリーが出来ていた。
ああ、南雲パイセンの紹介イベントか。
南雲雅。現在2年生の次期生徒会長である。
そしてこちら現場では、一之瀬の客観的な褒め言葉と、堀北先生の主観的な南雲ディスが現在応酬している。
原作で言う敵役だし、コイツのせいで山内が退学した可能性もゼロではないからな。
そんな好きでもないが意外と憎めない人物でもある。
ただ今日は絡むこともないだろう。まだ副会長だしなこの人。
そして一之瀬企画によるビーチバレー対決が始まり、健のワンマンプレーによるDクラスの勝利となる。
やはりスポーツはこの体では無理なのか……。
オレは体育祭を諦めつつあった。
疲れた。
オレはプールサイドで一人で休んでいると声をかけられる。
「山内くんお疲れさま」
誰だろうと思って振り返ると、
”
あれプールイベントってこんな死を感じるイベントだったっけ。
「櫛田ちゃんどうしたの?」
桔梗ちゃん呼びは三バカ間だけだった気がした。桔梗ちゃんかもしれない。
でも馴れ馴れしいとか原作の回想でおっしゃってた気もするので櫛田ちゃん呼びとしたい。
「ちょっと私も疲れちゃったから休憩しようかなって」
そして流れるように手を上に伸ばす動作をし、それに伴って強調される胸。
しかし色々知りすぎてるオレは怖くて見ることは出来るはずもなく、相手が何を考えているのかだけを思考していた。
思えば久々の会話だな櫛田とは。
「櫛田ちゃんと話すのもなんか久しぶりって感じだな! そう考えると、夏休みも早く終わってほしいぜ」
「えーそれは喜んでいいんだよねっ。そうだね船の時以来だもんねー。
あの時の山内くんホント凄かったね! まるでそう……別人みたいに」
寒気がした。
周囲の空気が変わったのはオレの気のせいだろうか。
何か勘づいている──のか?
「あの程度、造作もないってことですよ。この山内にとってはね! ははは!」
オレは何事も無かったように演技する。
「それは頼もしいねっ。あっ、あのね山内くんにねっ、聞きたいことあるんだっ!」
「ん? なんだろ?」
「山内くんってさ。いま好きな人とかって……いるのかな? よかったら教えてくれない?」
意外と軽い質問だったな。
好きな人で弱みを握ろうパターンか。
「それって友達とかじゃなくて恋愛って意味でいいの?」
「うん。もちろん♪」
「じゃあ、いないかな」
「えっ、そうなんだ」
どこか意外そうな表情をする櫛田に追加で演技する。
「特別試験を重ねてさ、オレ、──恋愛よりもっとやらなくちゃいけないことあるって気づいてさ。櫛田ちゃんにもきっと迷惑かけてるし……」
そろそろオレに主演男優賞いただけませんかね。
「全然そんなことないけど……。じゃあもし仮に佐藤さんに告白されても断っちゃうの?」
……その質問やめてくれません?
「あー……どうなんだろ。考えたこと無かったわ。
でも、保留が許されないならOKすると思うよ。
でもさ、やっぱり今の佐藤は一緒に頑張った仲間って感じだからな!
ただ好きでもあるし変な回答で悪いな。今は必死で頑張らないとって思ってるんだよ!」
(退学したくない的な意味で)
「うん。わかる気がするから大丈夫だよ」
そう答えて遠くを見る櫛田は天使でも悪魔でもないようで、それでいて初めて見せる表情だった。
オレはその表情を嫌いになれず、この世界にきて初めて櫛田が綺麗に見えて、これが本来の櫛田だったらいいなと素直に思った。
「櫛田ちゃんも絶対よく告白されるよな! 特に友達からだと悩まない?」
会話を止めるのも不自然だと思ったのでオレからも質問してみる。
果たして櫛田の中に友達がいるのかは疑問であるが。
「そんな告白は多くないけど……。
私も悩んでやっぱり恋愛の対象にならなかったら断っちゃうかな」
「そっか。やっぱりそうだよな。参考になったよ」
そうして一通り満足したのか、櫛田は去っていた。
台風が通り過ぎた後の晴れた日のように、さっきまで消え失せていた周囲の楽しそうな音が蘇る。
ああ、もう夏も終わりだな。
そして二学期が始まる。