山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
体育祭の参加種目を確定させたオレたちは、日々本番に向けての練習に励んでいる。
「山内 7.7秒ー」
こんにちは皆さん。50メートル走なんとか8秒切る男山内です。
もうちょっと早いタイム出せないのかな。何が駄目なんだろうか。
根本が駄目なんだろうか。やっぱり諦めようかな。
だいたいこの高校に集められた奴らオカシイだろ。
100メートル走10秒出せそうなやつが何人もいそうな環境とか陸上部も泣くぞ。こんな簡単に記録出したら。
「春樹! もっと気合い入れろ!」
須藤健リーダーから喝が入る。オレは健のところまで駆け寄りアドバイスをもらう。
「健コーチ。足早くなるにはどうしたらいいでしょうか!」
「おう。まずは足をもっと高く上げろ。そしてそのまま次の足へ移動する時もきちんと連動させるんだ。
あとはトップスピードに乗るまでは低い姿勢を意識しつつ、ただ足を早く動かすんじゃなくて蹴るときのバネを意識したほうがいいぞ」
「ありがとうございます! ちなみにコーチは走る時、そのあたり常に意識して走ってるのでしょうか」
「俺様の域までくると無意識に出来るぜ。お前も早くこい『この域』にな。ははは!」
「はい。頑張ります! コーチ」
健の機嫌は損なってはならぬ。これ絶対。
健の意見から足のバネが弱々なのでは? という着想のもと
ジャンプで跳躍力を鍛えてみたり、足を高く歩幅が遠くになるように意識したり、体をほぐしてみたりしてみた。
まぁ本番までに効果がでるかは不明だが。
本日のタイム測定も終了し、洋介や健を中心に皆チーム競技の練習へと進んでいた。
周りを見ると佐藤と松下が楽しそうに二人三脚している。
楽しそうでいいな……。
◇ ◇ ◇
そんなこんなで大したことも出来ず、ただ真面目に体育祭の練習をする日々。
体育祭でも山内は期待されていないことから大した役回りもなく気軽に参加するだけだ。そう思っていた。
しかし神様のイタズラとやらで意外と重要そうな役割、騎馬戦の上に乗る騎手役になってしまった。
嫌な予感するな……と廊下でぼんやりしていると、
松下がひそひそと耳打ちしてくる。
「ねぇ、リレーのアンカー堀北さんらしいじゃない」
「『今のところ』な」
「ふーん。じゃあこれも物語通りってわけね」
「ああ、今のところは大きな違いは無いと思う」
なら当日を楽しみにしてる、と松下は佐藤たちのところへ去っていった。
その日の昼休み、オレはある人物をお昼に誘うことにした。
『綾小路くん』である。
「なぁ綾小路! 昼になったわけだが『わかるよな』」
いじめっ子のようにニヤニヤするオレ。昼飯を奢ってもらうので、あながち間違いでもないが。
「山内くん。何かよからぬこと考えてないわよね」
何故か堀北先生からの牽制が入る。体育祭も近いからか少しピリピリしているようだ。
「いや体育祭のことじゃなくてな。前に綾小路を手伝ったお礼の件なんだよ」
「ああ。あの件か。オレも問題無いぞ」
「今日でいいか?」
「ああ、特に誰と食べる予定もないからな。食堂でいいか」
そういうことならと食堂へ向かうオレたち。
他の誰かを誘うことも考えたが、
せっかくなので二人きりで話すのもありだとオレは思っていた。
「じゃあ、とりあえず一番高い高級Aセットで。ああ、他人の金で食べる昼は最高だな」
とりあえず週替りランチの中で、和牛セットと思われる高校生に似つかわしくない料理をオレは問答無用で注文する。
「よ、容赦ないな。山内」
「ただあの件はそれくらいヤバかっただろ……」
「確かにな」
頷きつつ、オレの代わりに注文してくれる綾小路くん。
オレは、『山内が堀北先生に泥をかけたのも堀北先生の策略だ』ということは知っている。
しかし、綾小路くんはその事実を知らないはずだ。
更に真実を言うなら、オレも綾小路くんもこの件の黒幕は実は『綾小路くん』だと知っている。
嘘に嘘を重ね、何が本当か分からなくなってくる。謎の読み合いである。
「で、そういえば綾小路は堀北先生と進展あるのか? 健も気にしてるぞ」
二人で話す話題の共通点はそう多くない。とりあえず堀北先生から入る。
「何度も言うがオレたちはそういう関係じゃない。それを言うなら山内も佐藤と仲がよさそうじゃないか」
ほう、綾小路くんにも情報流れてるのか。
そういえば干支試験の最後にオレと佐藤が一緒にいたの見てるしな。
「やっぱそう見えちゃう? っていうのは冗談で……。
まあ仲いいけどそういう感じではないな。いい友人関係ではあると思うぜ」
「そうなのか。それと佐倉の件、無しで良かったのか?」
「こうやってお昼奢ってもらってるしな。そりゃ仲良くなりたいとは思ってるけど。
ただ最近さ──オレの立場ってのを考えると、それどころじゃない気がしてな。だからここのところ勉強が恋人になりつつある」
「悪いが信じられないくらいの変わりぶりだな。あれだけ勉強嫌いだったのに」
相変わらず表情の変化は乏しいが、綾小路くんはどこかオレの心境の変化を気にしていそうだった。
「ムッ、無礼な発言だが許してやろう。綾小路。
ただ今までは『勉強を理解できなかった』せいなのかもしれないな。最近やっと堀北先生のお陰で少しずつ分かるようになってきたら、意外とゲーム感覚で楽しくなってきてさ。綾小路もそういう経験ないか?」
嘘である。オレに入れ替わったからである。
「ああ、あるかもしれないな」
無表情で頷く綾小路くん。
”一般人はそんなもんなのか”とか思ってそうだな。
「しかしなー。せっかく夏休み勉強を頑張ってきたのに、初っ端が体育祭とはな。
運動やっておけばよかったぜ。順位悪いと健に殺されそうだしな」
ただ勉強と違って身体能力は劇的な改善は難しそうだからな。せめて球技系なら慣れもあるんだろうが……。
オレは朝のランニングでもすべきだろうかと今後の長期プランを考え始める。家で軽い筋トレはやってるんだけどな……これでも。
「確かに体育祭までクラスポイントに影響するとは思わなかったな。山内は何に出場するんだ?」
「オレは全員出場のやつだけだな。綾小路は……何か出場してたよな」
「ああ、借り物競走に出場予定だ」
「運次第で勝てそうじゃんか」「ああ」
興味なさげに返す綾小路くん。こうしてみると本当にロボットみたいだな。
「じゃあ、綾小路が勝ったらまたお昼奢ってもらおうかなー」
「それとこれとは話が変わるな」
「チッ、乗せられなかったか」
そんな冗談ばかりで時間を潰す。
山内はダメ人間だったが、最近は真面目になって成長中だと綾小路くんに思わせたい。
今日の昼食だって、そう思わせることが目的である。
「そういえば綾小路ってけっこう体格いいし、今からスポーツ取り組んだらいい線行けないのか? 握力だって健に次いでクラスで2位だったろ」
「いや、どうだろうな。握力は生まれつき良いみたいだが、それだけじゃな」
「そういうもんなのか」と知ってて綾小路くんをイジっていると、これ以上突かれたくないのか、綾小路くんが露骨に話題を変えてきた。
「そういえば最近、山内は平田とも仲がいいようだな」
「あー、イケメンで愛想よくてモテ男という男の理想を手にいれてる点に目を瞑れば、洋介はいいヤツだからな。お前だって仲は悪くないだろ」
「……そうだな」
なんだこの微妙な間は。
あれか? 実際のところ洋介との距離測りかねてるのか。綾小路くん……。
本当はもっと綾小路くんに色々と聞いてみたかったんだ。
将来本当にやりたいことは何なのか。
今注目していることは何なのか。
最も得意なことは何なのか。
でもオレたちは今、どちらも演じているのだ。
きっと本音は出ない。
だからきっと演じるだけで十分なのだ。
食事が終わる頃には、1000万ptを集めるために綾小路くんを頼るという薄かった線をオレは完全に消していた。
そうしてオレたちの”嘘まみれの”昼食は終わり、体育祭が始まるのだった。