山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
体育祭が始まった。
Dクラスもどうやら最初は調子が良かったらしく、
健や堀北先生を初め、多くの有力選手が1位を獲得する幸先の良いスタートだった。
だが、原作通りならこの後Dクラスはボロボロになる予定である。
一方のオレは
100メートル走 5位
ハードル走 3位
組み合わせ運にも恵まれ、なんとハードル走で3位という上位を獲得した。
原作の山内の順位は不明だが、ハードル走3位は健闘したと思うんだ。
足が速くないからこそ、テクニックで巻き返せそうな種目だけ重点的に練習したのは正解だったようだ。
そうした中で男子にとって初の団体戦、棒倒しが始まる。
Cクラスが棒倒しの攻撃中に暴行するという手段をとってくる。
こういう時に無駄に健に殴られているのが功を奏したのか、割りとオレの体は丈夫みたいだ。
今回もしかして平和に終わるかもな。
そう思っていたら、健が龍園から直接妨害行為を受けたらしい。
「あのヤロー、絶対に許さね―!」と息巻いていた。
いつまで平静だったか忘れたがフォローは必要か……。
「健、冷静にな。大丈夫勝てるぞ」というと、「おう! でもお前が言うな」と殴られた。
なんでだ酷い……。
ただCクラスは止まらなかった。
綱引きは結局、Cクラスが本気を出さず最後に縄を離して勝負を捨てただけで済んだ。
しかしその後の障害物競走で、ついに原作通り堀北先生が転んでしまい、『足を痛めた』ようだ。
始まったか……。
オレは松下を見る。
松下もこちらの視線に気づき無言で頷いていた。
堀北先生の例の件は綾小路くんが最終的にカバーするだろうし、
オレは出来ることをやるだけか。
そんな暗い気配が漂いそうなDクラスの中で、明るい話題が1つ軽やかに舞い降りてきた。
「山内くん見てくれた! 私たち1位だったよー」
佐藤松下コンビの二人三脚が1位を獲得したらしい。
松下の事情を知ってると、裏で実力出した可能性あるな……。
「見てた見てた。おめでとう! でも羨ましいな。オレ、最高でも今のところ3位だよ」
「ありがとねっ。山内くんも少しでも貢献できてるんだから、いいんじゃない?」
と明るく笑う佐藤に癒やされていた。
一方でケガで苦しんでいる堀北先生の結果は、二人三脚で最下位に沈んでいた。
……この挫折は必要なんだ。綾小路くんがそう言ってたんだ堀北先生。
ここはいっちょオレが騎馬戦で挽回するかな。
そしてオレが騎手となる騎馬戦がやってきた。
記憶が正しければ、Cクラスはハチマキに油のようなものを付けて奪われないようにする、なんとも意地悪いイタズラを仕掛けていたよな。
注視して反対側を見るとなんか怪しい動きしてるし。
オレは洋介にひっそりと、なんかCクラスの動きが怪しいからハチマキに異常がないか先生に確認とってもらってよいか進言した。
先生がチェックすると、Cクラスの生徒達は慌ててハチマキを入れ替えているようだった。
「よく気づいたね。春樹くん」
「実は裏でこそこそ細工してるところ目撃しちゃってさ。
悩んだけど報告しておいて良かったみたいだな。ありがとな洋介」
「こちらこそ。頑張ろうね春樹くん!」
そうして洋介と別れたオレは同じ騎馬のメンバーのところへ向かう。
フィジカルが強くないオレたちが騎馬戦でとる戦法は限られてるだろう。
サイドから狙うか、1対1で争っているところにフォローして隙を突いて奪うか。この2択くらいだと思う。
もしフィジカルが強い場合は、正面からぶつかって騎馬を壊すことも出来るかもしれないが、オレには現実的ではない。
そういうのは健に任せるべきだな。
そして騎馬戦が始まる。
騎馬を組む仲間たちには事前に正面からではなく、横からかすめ取るように姑息にいこうぜとみんなと共有している。
健が男らしくないとか言ってるが知るか。そんなのでは勝てぬのだ。
試合開始し数十秒後、いい感じで一騎孤立しているCクラスの騎馬を発見したオレたちは、横のポジションを奪い取り、つかみ合いになる前にハチマキを”取った”。
「よしっ」
そう叫んだ直後、後ろから肩に殴られたような衝撃が走る。
気配からもう一騎、敵クラスの別の騎馬が俺達に襲いかかってきたらしい。
てか、今、絶対殴っただろ。
相手は殴ることを優先してたのだろう。
少しバランスを崩しつつもオレは運良くハチマキは奪われず、すぐ騎馬の立て直しに成功した。
殴ってきた騎馬の方へ方向転換したと同時に、オレは自ら倒れる覚悟で前傾姿勢で相手に近づく。そしてハチマキに触り、確かに”掴み取った”。これで2つ目だ!
喜んでいるのも束の間、ハチマキを奪われた相手は何故かニヤリと笑っていた。
嫌な予感する。オレは視線だけは外さずにいると相手の騎手は握りこぶし作り、そのままオレの顔めがけて拳を飛ばす。
(あっ、やっぱこれ龍園の仕業だわ)
避けようとするも無理な体勢でハチマキを取ったオレは、上から振り下すようなグーパンをもろに食らってしまい、その衝撃に逆らえず俺達の騎馬はそのまま崩れ落ちるのだった。
落ちたけど、ハチマキ2つも取ったし充分だろ。
健、あとは頑張れや。
って、あれ?
正面を向くと横たわっているオレの場所に向かって、対戦していたCクラスの騎馬が崩れだし、そのままオレに向かって落ちてきそうな状況。
えええ、このままだとオレに4人分の体重が乗るんですが!!
そこまでやります?
嘘でしょ……死ぬぞ?
避けようとするも、オレの足が何かに”引っかかり”動かせない。
走馬灯のようにスローモーションで崩れる相手の騎馬を見ながら、なんとか顔だけはとっさに左腕で庇い、4人分の衝撃を全身で受けた後にオレは意識を失ったのであった。
◇ ◇ ◇
『おい! ──!!』
『早く────!!』
(あれ、ここって……)
「知らない天井だ」
そして知ってる顔が正面にアップされる。
椎名ひよりがいた。
「椎名さん? あれ──ここ保健室」
「そうですねここは保健室です山内くん。
山内くんは騎馬戦で意識を失ったこと覚えていますか?」
騎馬戦で落下して、その後思っきり腕にエルボー食らったっぽいんだよなぁ。
記憶が曖昧だが。なんとか顔は防いだはずなのに、口は鉄の味がして痛いし。染みるぜ……。
「落ちた衝撃で気を失ったようですが骨に異常はないとのことです。
念のため病院で頭部に問題がないか精密検査した方が良いとのことでしたが、山内くんって思いの外、丈夫な方のようですね」
「そっか。ところで体育祭ってどうなってる?」
体育祭の結果を椎名に急かすように聞いた。
「今は推薦参加種目の終盤かと。それがどうかしました?」
「ならいいんだ。椎名さんは戻らなくて大丈夫なの?」
「ええ。私はもう参加する種目はありませんから」
そして椎名は続ける。
「山内くん……。今回の怪我は、あなたが騎手になったことを知った龍園くんが予め計画していたことのようです。Cクラスの一員として謝りたいと思います。事前に防ぐことができず本当にごめんなさい」
悪いのは龍園なのに、自分のことのように謝る彼女を当然責める気にはなれなかった。
「悪いのは龍園だから。気にしてないし謝る必要はないよ。椎名さん」
「そうですか。ただ私が謝らないと気がすまなかったので。許していただけるなら嬉しいです」
そういって微笑んだ椎名は、これ以上はお体に障るでしょうからと保健室を後にした。
その10分後。
全身が痛む体を無理やり奮い立たせ起き上がったオレは、Dクラスの待機所まで戻ることにした。
せっかくの主人公の見せ場、やっぱり見ておきたいしな。
◇ ◇ ◇
「おいっ春樹! 大丈夫なのかお前!」
寛治が慌てて近寄ってきた。
「おう、骨には異常ないらしい。健に鍛えられたおかげかもしれないな」
と冗談をかわしていると、
その場に佐藤も飛んできて、泥まみれで傷だらけなオレを見て「無理しちゃダメだよ。大丈夫?」と心配してくれた。
佐藤だけでなくリレーに参加しない他のクラスメイトも温かく迎えてくれていて、存外、山内も愛されていたのかもしれない。
なぜ退学したんだろうな。山内よ……。
そろそろ3学年合同1200メートルリレーがスタートするらしい。
疲労と泥まみれで汚いからと、オレはグラウンド横の坂を上り、人のいないベンチに一人腰掛けて遠目でリレーの様子を観戦することにした。
もう終わりか……。
今回は本当に何も出来なかったな。でも、山内だったらそんなもんか。
コツッ、コツッ、コツッ
と、木製の規則正しい音が校舎から近づいてくる。
そしてふわりと甘い香りがして少し間を置いてオレの隣に『誰か』がゆったりと腰掛けた。
まさかな。そう思い一瞬だけ右を向くと、
『坂柳有栖』が隣にいた。
心臓の鼓動が激しくなった。
言っておくが決して恋ではない。言葉にするならこれは間違いなく『恐怖』である。
オレはリレーに集中するよう努めて正面を向いた。
そろそろリレーもアンカーの番が近づく。南雲パイセンと堀北生徒会長が次の走者として待機してるもんな。
この世界にきて初めて綾小路くんが活躍するシーンが観戦できる。この試験のクライマックス見届けようではないか。
「こんにちはDクラスの山内春樹さんですよね。お怪我は大丈夫ですか?」
あ、無言で押し通せなかった……。
「ああ、なんとか──坂柳さんもリレー観戦するの?」
ひとまずオレは世間話風に会話することに決めた。なぜ名前を知ってるんだろう……。
ちなみに怖いので坂柳の顔をちらっとしか見てない。
「ええ、きっと面白いものが見れますから」
そう語る坂柳は愉快そうだった。
「えーと、そっか……それは楽しみだな集中しよう」
オレたちは無言でリレー観戦をしていた。
あとは原作通りだった。
バトンを受け取り櫛田が綾小路くんにバトンを繋ぐまで、律儀に彼を待つ堀北生徒会長。
そして同時にスタートし、尋常ではない速さで競り合う2人。
2人と比べると周りが遅いように見える。ただそれは錯覚なのだ。だって彼らも学年代表のアンカーなのだから。あの2人が特別オカシイだけなのだ。
ゴール前のコーナー付近で2人の前を走る生徒が転んだ、それを避けるため少しスピードが遅くなる綾小路くん。これも原作通りだ。
そして堀北生徒会長が先にゴールしてリレーが終わった。
「はやっ──」
知ってはいたものの、オレは思わず声に出す。
オリンピック決勝を生で観戦してたらこんな感じなのだろうか。
坂柳は興味深げに聞いてきた。
「ふふっ。彼、綾小路くんの足の速さを山内くんはご存知でしたか?」
(知ってますけどね)
「知らないな。アイツあんなに速かったんだな……」
それだけ聞いて満足したのか
「それでは」と坂柳はゆっくりと去っていった。
1000万pt。もしかしたら彼女の力も必要かもしれない。
そんなことを思いながら、振り返ることなくゆっくりと遠ざかる坂柳をオレは見送っていた。
◇ ◇ ◇
体育祭のプログラムが全て終了して、オレたちは各々寮に戻る。
「正直、当たるかは半々だと思ってたんだよね」
通話相手の松下はそう切り出した。
「でも話した通りだっただろ?」
「そうね……。協力すればいいってことよね。”あなたが退学しないように”」
「ああ。悪いがな」
「面倒だけど、そういう約束だからね。でも2年生になったら山内くん、頼んだからね」
「分かってる。『2年生』になったらな」
オレは同意する。その頃には松下は綾小路くんの能力に執着しているかもしれないけど。
「それで──佐藤さんには言わないの? あなたのこと」
通話越しでもわかるくらい、松下は楽しげな様子だった。
帰り道のオレたちの様子を見ていたからな……松下。
体育祭が終わった学校からの帰り道、
なぜか佐藤は寮までオレの荷物を持ってくれたり、傷で口が痛むオレにとゼリー飲料を差し入れしてくれたりと、驚くほど献身的に対応してくれた。
恋に落ちてそれどころでないはずなのに。
想定外である。
原作だと佐藤の恋が芽吹くのは、リレーだけじゃなくてペーパーシャッフルで同じペアになる必要あるんだっけ? でもペア前から佐藤って綾小路くんにアタックかけてた気もするんだが……オレは、確信を持てなかった。
「佐藤に言ったほうがいいと思うか?」
「そんなこと自分で考えなさいよ」
協力者になったはずの松下の言葉は、どこかオレに棘がある気がした。
佐藤についてはこれから要観察だな。
こうしてボロボロになったオレの体育祭は終わった。
次回以降、山内くんにはそろそろ頑張ってもらわないと