山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
(Side 椎名ひより)
「ひより。鈴音との交渉中、確かにアイツは意識を失っていたんだな。
ってことはアイツが謎の存在Xの可能性は確かに低いな」
龍園くんは彼が裏で暗躍していたのかを気にかけているようです。
しかし最初の堀北さんの取引中に同じ場所で意識を失っていた彼にそこまで詳細を把握する時間は無かったでしょう。
それは龍園くんも、確認済みのハズですが……。
「確かにあの時彼は眠っていました。それに彼の性格からして脅すような取引は好まないでしょうから」
「ククッ、随分とヤツがお気に入りじゃね―か。──ホレたか?」
「龍園くんが考えているのとは趣旨が異なると思いますが……。
龍園くんが探している謎の方よりは今のところ気になりますね」
確かに不思議ですね。
『彼』を初めて見た時は、気にも止めていなかったのに。
あれは確か一学期の中間テスト前のこと。
図書館の自習フロアで誰かが口論する場面をたまたま目撃してしまった私は、また静かな時間が失われたのかと、少しげんなりしていました。
しかし、今回はすぐに1人仲裁に入ったようです。
Bクラスのリーダー『一之瀬帆波』さんでした。お話したことはありませんが、噂に違わぬ良識人のようでした。
そんな時、彼に気づいたのです。
一之瀬さんの女性的な特徴を凝視する『彼』に……。
私ですら男の人のそういった視線を向けられることはありましたが、きっと彼女はその比ではないのでしょうね。
静かな時間を取り戻してくれた一之瀬さんに私は感謝とそして同情をしたのでした。
それから時が経ち、
船上での特別試験が開始され、再び『彼』と出会いました。
ただ試験初日は、あの時の『彼』とは全く一致せず思い出せませんでした。
『彼』はあの時とは、視線が、そして気配も異なっていたのですから。
Dクラスという一度落ちこぼれとなったクラスのはずなのに、色々な手法で試験の優待者を見つけようとする『彼』は、あの時間、完全に場を支配していました。
もしかして、あれが本来の姿なのでしょうか?
そう思っていつも側にいる彼のクラスメイトの様子を窺うと、彼女も同じく彼を見つめて不思議そうな表情を浮かべていました。
”何かある”
私はその時、まだ知らない物語を見つけたような、そんな高揚を感じました。
◇ ◇ ◇
体育祭も負傷してしまったが何とか終了。そろそろ傷も癒えてきたオレは今、佐藤を観察している。
長谷部と談笑する佐藤。
篠原たちとファッション誌を交換している佐藤。
そして、
オレと目が合う佐藤。
「なになにっ、何か用なの? 山内くん!」と満面の笑みを浮かべる佐藤。
「な、なんでもない。佐藤、本当になんでもない」
明らかに観察しているのがバレているため、「ふーん」と不可解な表情をしているがそれでも無理やり誤魔化した。
どうなってるんだ?
綾小路くんを全然気にしてないぞ?
オレは少し焦りを感じていた。
そして教室に入ってきた茶柱先生が慌ただしくも次の特別試験を知らせる。
まずは中間テストの結果発表を始めると、全体を観察する茶柱先生。
皆緊張しつつも、赤点は回避した自信があるようで頼もしい顔つきをしていた。
中間結果発表は原作通りとはいかず、最下位は寛治、あとはいつもの面々。
そして下から11番目と健闘した健と一学期と様相を少し変えていた。
「そんな中、今回の中間テストで山内は17位だ。よくやったな」
三バカと呼ばれ蔑まれた中で、唯一、60点台を叩き出し、
ついにクラスの半分より上の順位になったオレを茶柱先生は名指しで褒めてくれた。
「まっ、オレが本気出せばこんなもんですよっ! サエちゃん先生!」
と返答しつつ、
平均でこんだけ褒められるってどういうこっちゃと心で叫んでいた。
しかし先生の発表で教室も本日一の騒がしさとなっていて、健や寛治なんてまるで幽霊でも目撃したような表情をしていた。
どうやら周りの反応を見るに本当に60点台に”抑えて”正解だったらしい。
そう思い松下を見ると、彼女は「それみたことか」という表情をしていた。
中間テスト前、
「なぁ松下。山内って中間テスト何点までなら取っていいと思う? けっこう勉強してるし80点は取れると思うのだが」という質問に、
『
と助言をいただく。そして今に至る。
佐藤に目を向けると、オレがどんな魔法を使ったのかとキラキラとした目でこちらを見ていた。
オレは改めて山内という人物の『ヤバさ』を再確認した瞬間だった。
そして茶柱先生が次の特別試験ペーパーシャッフルについて説明をしている。
ペーパーシャッフルとは、他のクラスと期末テストで争う特別試験だ。
ちなみに原作通り進むだろうから答えを言うと、DクラスはCクラスと直接対戦することになる。
今回の肝となるのは、クラスごとに試験問題を作成し、それを相手クラスに解かせるという点だ。
たまに試験前に友人が作ってくれた問題を解いたことはないだろうか?
それの特別試験バージョンだと思ってもらえたら良い。
さらにクラス内で2人1組のペアを作り基準点を超えないと退学の可能性もあるわけだが……。
しかし今回の特別試験。
オレは別に何をしててもDクラスの勝利で終わることを知っている。
なんたって堀北先生が機転を利かせて勝利するからな。
だからオレはクラスメイトには申し訳ないが、そろそろ本気で1000万ptを集める戦略について詳細を詰めようとしていた。
そう思っていたのだが、
同じ日、なぜかオレは『堀北先生の部屋』に軟禁されていた。
始まりは唐突だった。
放課後、Dクラスの主要なリーダー陣は特別試験に向けての対策会議を控えている。
他の生徒たちも各々の放課後の活動へ動き出そうとしたそんな瞬間である。
「山内くん。17時に私の部屋に来なさい」
堀北先生の突然の言葉だった。
オレは急すぎて反応できなかった。
帰り支度をしているはずの周りの生徒も、この直後だけ一瞬時が止まったような静寂を見せていた。
脳の処理が追いつかずフリーズしていると健が怒鳴りつける。
「おい春樹っ! てめ──どういうことだよ!」
どういうことなのかオレが知りたい。切実に。
「あら須藤くん。あなたも来ていいわよ。付いてこられるなら」
と先生は含みのある言葉を告げる。
すると健は、鈴音もついに認めてくれたか……と極上の笑みを浮かべてオレも行くぜとその場を後にした。
「山内くん、あなたはどうする? ちなみに拒否権なんてないのだけど。
なぜなら私は先生なのだから。ねぇ、そうでしょ山内くん」
「はい先生」
そして今に至る。
堀北先生に迎えられたオレたちは、
今度の期末テスト範囲にあたるだろう問題を無限に解いていた。
科目は問わず、休みも殆ど与えられず、ひたすらループするように問題と向き合っていた。
人間の感覚が抜け落ちていき、ロボットになりそうだった。
やっとのことで出された課題を終えて、
そろそろ『問』の文字がゲシュタルト崩壊しそうになったとき、
一緒にいたはずの健がいなくなっていたことに気づく。
「彼はもう、だいぶ前に逃げ出したわ」
その言葉を聞いてゾッとした。
そういえば最初の頃は元気だった健の声が、知らぬ間に消え失せていた気がする。
堀北先生の部屋にあるシンプルな置き時計は22時を指していた。
どうやらオレは5時間ほどぶっ続けで勉強していたらしい。
オレの自己採点した答案を眺めつつ、
「初日にしては思ったよりはマシね。今日のところはこれくらいにしてあげる。
じゃあ明日は朝6時までに教室にちゃんと来るように」
それだけ告げられ、オレは部屋を追い出された。
そして地獄の勉強特訓が幕を開けた。
主人公強化イベント(強制)