山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
「山内くん。ここ、またケアレスミスしてるわよ。やり直して持ってきて」
「はい、すみません先生」
勉強特訓というべきか、堀北先生の謎の特訓が始まり早くも3日目。
そろそろ茶柱先生がやってきて、朝の勉強時間も終了になるという頃である。
最初は興味本位で二人の関係性を疑っていたクラスメイトも、オレがひたすら演習を解いては、堀北先生に怒られるシーンを数え切れないほど目撃してからは何も言ってこなくなった。
二人に何があったのか瞬時に状況把握し、巻き込まれては敵わないと近づいてこなかった。
オレに同情的だと信じたいところである。
ちなみに堀北先生は割と怒りっぽい。静かに怒るから怖いんだよな……。
オレを叱る堀北先生を、
「鈴音は今日もカッコいいぜ……」と特訓から逃げ出した健は他人事のように眺めている。
いくらオレと堀北先生が急接近したとしても、
初日のような勢いで介入するつもりは、毛ほどもなさそうだ。
堀北先生はDクラスで作った問題の壁打ち役もオレに兼ねているのかは不明だが、
最初は基本的だった問題も、知らずに一筋縄でいかず、応用力が試されるようになっていった。
朝6時に学校に来て演習問題。
お昼を食べて、演習問題。
放課後勉強会に参加しつつ演習問題。
夕方部屋に戻り深夜まで演習問題。22時までなら不明点がある場合は堀北先生に質問可。
そんな毎日を繰り返し一週間が過ぎて。
オレは期末テスト範囲ならば、どんな問題が来ても対応できる自信がついてきていた。
明らかに勉強量が今までと桁違いだったのか学力も急上昇した。
”戦力になるか確認する”と秘密裏にDクラスの誰かが作成した仮問題を解き、昔から苦手な英語で少しミスした以外は満点を叩き出したオレは、
堀北先生から一言「合格」という言葉をもらい、ついに勉強地獄から解放された。
その後、堀北先生と洋介から勉強会のサポートに回ることと、堀北先生が主体となって動くDクラスの問題作成についてもサポートすることを頼まれ今ここに至る。
「春樹くん最後までよく頑張ったね。お疲れさま」
洋介の労いの言葉で泣きそうになった。ほんとに。
(ツラかったよ──────)
オレは心で泣いていた。
あの松下ですら流石に今回はオレに同情的だったのか「おつかれさま」とメッセージが届く。
それほど周りから見ても壮絶な特訓だったのだろう。
推測なんだけど一学期の山内をよく知ってる堀北先生は、コイツ叩けば伸びるぞって思ったんだろうな。
中間テストの結果みて。
実際合格もらえたからよかったけど、駄目だったら一生続いていたのだろうか……。
オレは怖くて堀北先生に確認出来なかった。
ただ堀北先生も最後までオレが脱落しなかったことをそれなりに評価してくれていたのか、
「やっぱりやればできるじゃない」そう一言だけ褒めてくれた。
これが原作ヒロインのデレ……。本音を言えばもうちょっと欲しかったな。
そしてオレはペーパーシャッフルのペアを決める小テストでも特例で高得点を取る側に配置される。
「はい! 山内くんっ! ここ問題の解き方わかんないー!」
「おう、どれどれ。ここはどの公式を使えばいいかを知ってるだけで問題が簡単になるな」
今は勉強会のサポートに徹する毎日だ。
過去一、特別試験と真摯に向き合ってる気がする。
◇ ◇ ◇
ペーパーシャッフル試験も中盤を迎えた頃。
「あらこんばんは山内先生。彼女との勉強会はもういいの?
この電話がバレて、あなたとペアになった佐藤さんに嫉妬されても困るのですけど」
そういって開口一番の通話で茶化す松下。
たしかにオレがここまでペーパーシャッフルに深く関わることになるのは想像の範疇外だった。
ペーパーシャッフル試験ではクラス内で二人一組のペアになる。
本来綾小路くんと組む筈だった佐藤の相手はオレ、山内春樹となった。
山内の学力が原作と大きく異なることから予想できていたことではあったが、オレ以外の事柄でも原作とは明確に変わってきている。
しかし運が良かったことに他の目立ったところでは大きくズレていないようだ。
例えば、三宅と長谷部ペアのような。無事、綾小路グループ設立しそうである。
ちなみに綾小路くんのペアは軽井沢だった。作為的な何かを感じる。
一方で佐藤の動きは明らかに原作と異なっていた。
堀北先生の特訓が終わった後、しばらく観察を再開させたが佐藤は綾小路くんへアタックする様子が欠片もなかった。
というより客観的にみて本来綾小路くんだったポジションに今いるのはオレだった。
──ペアということもあり勉強会でもほぼ毎日、佐藤と顔を突き合わせては勉強のサポートをしているし……何というか最近、前よりも距離が近いんだよな。物理的に。
もしかしたら裏であるのかもしれないと松下に聞いてみたが、
「残念ですが私の知る限り何もありませんでしたー」
と嬉しそうに答える。
「さっさと話せばいいじゃない。あなた山内春樹は実は別人で、未来を知ることが出来るってさ。
でも佐藤さんの件は外したみたいね。彼女を綾小路くんに取られたくないからって裏で何かやったなーこのー」
そんなにオレをいじめて楽しいのだろうか……。
「オレの事情を話すかは未定だが、協力はお願いするかもしれない。
秘密を知るのは正直、松下がいればなんとかなると思っている」
こうなった以上、綾小路くんとの接点も少なくなった佐藤には手軽な協力をお願いするのはありだと思っている。
しかし佐藤にオレの秘密を明かすことは”まだ”避けたかった。
「なぁ松下。ところでお前がもし1000万pt集めるならどうする?」
オレは話題を変えるため、松下に思考実験的な質問をする。
「そうね──可能ならAクラスのリーダーである坂柳さんか、Bクラスの一之瀬さんに相談するんじゃないかしら」
「確かにそれも一つの手だな。しかし坂柳は不明だが、一之瀬クラスはある事情が重なって実現性が低い」
坂柳は恐らく取引次第で1000万ptを借りることは可能だから、候補として残り続けるだろう。
ただ一之瀬は今この瞬間に借りるならともかく、全くの同タイミングで2000万ptを必要とするため恐らく不可能だ。
「あとは『皆から広く』集めるっていうのも一つの手よね。
1学年40人で4クラス。一人当たり62,500ptを回収出来たら達成できるわね」
フラッシュ暗算経験者の松下。計算も速いことで。
「ちなみにその皆から集めること、オレに出来ると思うか?」
「それは──無理なんじゃない? 分からないけど」
と曖昧な回答だが、実現可能そうなのはこの学年なら一之瀬だけだろうな。
ああ山内シンドイ……。
「となると、やっぱり『あの手』しか思いつかないな。松下に協力してもらわないと」
「──なんか面倒事な予感がするわね。断っていい?」
「まぁ聞いてくれ」
そうしてオレは、この後起こるいくつかの出来事を掻い摘んで説明した。
「なるほどね。この話を私にしたってことは、『その人』に接触しろってことでいいんだよね」
「ああ、最終的には『その人』と連携したいんだ。
松下が親密になれたら最高だとは思うが、まずは繋がりを作ってもらいたい。
ただし連絡先は『櫛田を経由しない』で知りたい。理由は言えない」
「はぁやっぱり面倒事だ。佐藤さん早く気づいてくれないかな」
そうしてオレは松下に一つの依頼をした。
中間テストで佐藤は下位から数えて5番目くらいだったのに原作では綾小路くんとペアになったという謎