山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
(Side:茶柱佐枝)
ペーパーシャッフルによる期末試験も終盤に差し掛かった頃、私は山内の真意を探るため教員室に呼び出した。
「山内、あの取引の件は今回の特別試験と関係あるのか?」
今回の試験では総合点次第では退学する恐れがある。
山内のパートナーは佐藤。一学期の山内のままなら退学になり得る組み合わせではある。
「いえ恐らく関係ないかと。占いだと1月から3月なので」
「ではこの取引はまだ継続するということだな。なんだったら契約書でも書くか?」
そう私は提案する。
山内は本当に占いを信じているのだろうか。そして契約書を書いてまで退学の取り消しが必要なのか私は確認したかった。
最近、堀北の指導により山内の学力が急速に伸びていることは把握している。
今ならもう、退学の危険性は一学期の山内ほど高くないはずである。
「はい。契約書お願いします」
しかし山内は悩むことなく笑顔で書面での手続きを希望した。
私は「わかった」と承諾する。
山内の狙いは全くわからないが生徒の希望を無下にするわけにもいかないだろう。
その後、前日までに1000万ptを支払ったら山内の退学は取り消しされることが明記された書類にお互いがサインした。
そして用はもうないとばかりに私は山内を帰した。
1000万pt。最初に私がそのポイントを提案したとき、山内には到底不可能だと思っていた。
干支試験では正解していたが、それも山内の誇張しがちな性格から来る当てずっぽうで回答し、10分の1の優待者を引き当てただけだと。
だが山内がもし本当に1000万ptを貯めて退学を取り消しするなら、それはDクラスにとってプラスになるだろう。
個人で1000万ptを獲得できる人物なら、2000万ptを貯めることも夢ではないからだ。
そうなると、そのままクラス移動に使われる可能性も高い。
1000万ptを集める実力があるなら”このクラス”で発揮してもらいたい。
だから私は1000万ptでこの契約を認めたという面もある。
綾小路を含め、やはり今年は期待できるのかもしれない。
私はまた一つ、微かな期待を発見した。
◇ ◇ ◇
特別試験に向けてオレが勉強をサポートするクラスメイトはまちまちだが、
よく面倒を見る生徒は、男は寛治や博士、女は佐藤、井の頭、篠原、森あたりの学力が下位の生徒だった。
学力的に言えば健もだが、アイツは堀北先生のところへ流れていくからな。
Dクラスの勉強会は2部に分かれていて、
部活動に参加してない堀北先生中心の1部と部活後に開始する洋介中心の2部に分けられている。
基本的に堀北先生の弟子扱いのオレは1部をメインにサポートしているが、
洋介との仲も悪くないので用事がないときは2部のサポートもほぼ参加している。
なぜクラスの中でも下位の生徒のサポートがメインなのかというと、
この前までは同じ位置にいたオレだからこそアドバイスしやすいというのが『表向きの理由』だ。
しかし本当はクラスで中堅の順位だった生徒にとってオレは、少し前まで頭が悪く使えないヤツ扱いだったのだ。それが急に教える側になっても気持ちを切り替えて質問しにくいという配慮もあるのだろう。
オレは最初にサポートに回った時、学力下位の生徒だけを集めてこう説明していた。
「今度の期末試験はみんなにとって、難しい問題も多くて苦しいことが予想される。
だから得意科目を重点的に対策しようと思っている。寛治それは何故かわかるか?」
「オレたちのペアの相手が満点でも、総合基準点を下回る可能性があるからだろ」
「正解だ。ということでみんなの得意科目を重視して対策していく。
だが苦手科目も勿論やるからな。
想定問題を回答してもらって、個別に理解してないと判断したところをオレが教えていく。
勿論みんなは成績上位者と組むから比較的安全だと思うが、それでも慢心せずに勉強会に参加してくれな」
そうして始まったオレによる勉強会。
初めは山内のヤツが生意気にと思っていたクラスメイトたちも、
流石に勉強量が違うことを悟ったのか、今では気軽に相談してくれるようになった。
まぁ最初から友好的な生徒もいたけどな。
「山内せんせっ! ここの選択肢について質問ー」
「春樹ー、この問題の解法の意味わかんねー、教えろ! じゃない、教えて下さい―」
佐藤と寛治である。
寛治は他の勉強サポートメンバーの中でもオレが一番気軽に質問できるからまぁわかるが、
佐藤は完全に『綾小路くん』ポジションにオレが収まったようである。
クリスマスイベントとかどうなるんだろ。いや、まさかな。
──あの山内だぞ。
でも腹くくる必要あるな……そういう状況になったら。
「山内くん、ここ分からないから教えてよ」
オレは洋介の勉強会の部で質問を受ける。
質問したのは松下である。これまで質問を受けたことはなかった。
洋介の部は比較的女子が多く佐藤や篠原たちもよく参加しているからか、参加率は高い方ではないが松下もたまに参加していた。
で、なんでお前質問してるの?
不要だろ。質問だとしても洋介か櫛田のところに行けよ。
すこしニヤついたように見える松下だが、
サポート役のオレが断るわけにもいかないのでいったん問題に目を通す。
「これ赤チャの問題じゃね―か」
「だから難しくて、わからないって言ってるじゃない」
「今回は難しい問題が想定されるからな。確かに悪くない勉強法なのかもしれない」
取っ付きにくく難しい問題だった。
ただ今回の試験範囲に限り、あらゆる問題を解いた自負もあるオレは解説をしていく。
松下が元々知ってるのか知らないのかはこの際無視である。
オレがきちんと問題を理解して解いていることに驚いているのか、
「へー山内くん凄いじゃない。ありがとう理解できたよ」
素直なお礼を言う松下をオレはここに来て初めてみた気がした。
「すごいね山内くん、あれ解いちゃったの?」
同じく勉強会のサポート役、櫛田だった。
最近、勉強ばかりしていたこともあり、話すのは久々かもしれない。
「ああ、一度解いたことあったからな!」
「私も質問受けたんだけど実はあの問題わからなかったんだっ! 助かっちゃったな」
笑う櫛田の内面は果たして、喜びなのか怒りなのだろうか……
「ま、まぁ今回の試験範囲だけだって。
他の箇所だったら櫛田ちゃんの方が絶対よく知ってるからさ。そんな煽てられても困るよ!」
そう言って謙遜する。櫛田にはご機嫌であってもらいたいのだ。いやホントに。
「堀北さんとの特訓──だよね。あれは見てたけど凄かったから」
そして櫛田は続ける。
「ところで山内くんって堀北さんのことどう思ってるの?」
この質問の回答はある意味、特別試験よりも重要だ。
さてなんて答えるべきなのだろうか。
好きなんて言ったら櫛田にマークされそうだし恨まれそうだし。嫌いと言っても綾小路くんに目を付けられたら殺されそうだ。
ここは……
「やっぱり先生って感じだな。もしくはボスと子分みたいな……」
「ふーん。嫌ってるわけじゃないんだね。勉強が嫌になったりとか」
「初めはそりゃいろいろあったさ。でも勉強も多少出来るようになった今は感謝してるよ。凄く厳しかったけど、オレに多少なりとも時間割いてくれたわけだしさ」
「そっか、そうだよね。ちなみに堀北さんならさっきの問題解けると思う?」
「出来るんじゃないかなぁ。同じじゃないけどあの辺りの問題を以前オレも質問したことあるし」
オレがそう回答すると、櫛田は「やっぱり正攻法じゃだめか」と独り言をし、
「ありがとね。お互いサポート役頑張ろうねっ」
質問を待つため、元の持ち場へと戻っていった。
堀北先生、櫛田と試験の点数で対決するんだったか。自分の退学を賭けて。
オレは全然関わってないので、無沙汰だった原作のストーリーの一部を思い返していた。
赤チャート難しいことだけは知ってる人です