山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
オレは今、思わぬ人物と対面している。
堀北『元』生徒会長である。つい口癖で『堀北生徒会長』と言いそうになる。
本人なら兎も角、まかり間違って南雲パイセンに聞かれたら「イラつくから潰す」とか、
そういう理不尽な理由で目を付けられそうなので、以後、堀北先輩と呼ぶことにする。
さてそんな堀北先輩がオレを誰もいない特別棟に呼び出した。
知らないアドレスから堀北学という者だがと突然のアポイントメントが来た時はそれはもう驚愕だった。最後まで偽物かと疑いつつここに来たくらいである。
綾小路くん絡みか? 全く読めない。
「山内。来たようだな」
「はい堀北先輩。その──いったいどのようなご用件でしょうか?」
別に変なことやってないしな。『まだ』。
「手短に聞こう。鈴音、クラスメイトの堀北鈴音とはどういう関係だ?」
堀北先生? 先生絡みでなんかあったか?
「えっと、堀北せ──堀北さんとは、良き友人で、あとはオレの頭が不出来なのでよく勉強を教えてもらっている。いわば先生と生徒みたいな関係です」
「そうか」
そういって遠くを見つめる堀北先輩。
なんだ、なんの依頼が来るんだ。
「では恋人の間柄ではないと」
「ええ。えっ? なんですって!?」
「鈴音が部屋に連れ込んだと聞いてな」
(そういうこと!?)
いろいろと見えてきた。あれですか。
お兄さん的に彼氏候補みたいだから、どんなもんかと探り入れてきてる感じか。これ。
そういえば書記ちゃんもここにいないしな。
あれれー、このお兄さん。
もしかしなくても実は妹大好き説が急浮上するオレ。
「あの件は次の特別試験がクラス内の学力が問われる試験ということもありまして。
簡潔に言えば、缶詰にされて演習問題をずっと解かされておりました。はい」
そう言ってあの地獄の日々を思い出して遠い目をするオレ。
ちなみに堀北先生の家にお邪魔したのは初日だけである。
「なるほど。そういうことか。つまり橘の早とちりということか……」
ボヤく堀北先輩。これ、書記ちゃんやらかしたのかもな……。
「山内、すまないな。別に鈴音が誰と付き合おうが自由だとは思ってるが、良からぬ噂を耳にしてな。直接、お前と話したくなっただけだ」
どんな噂が飛んでるんでしょう。怖くなってきたよ、オレ。
「い、いえ。その噂の内容は気になるところですが……。堀北先輩のご用はそれだけですか?」
「ああ、山内。わざわざありがとう。もう行っても問題ない」
どこでオレを白確判定したのかは不明だが、もう話すことはないという表情をする堀北先輩。
だがオレも実は相談があったので帰ることはせず、堀北先輩に尋ねる。
「オレからも『他ならぬ』堀北先輩に相談したいことがあるんです。いいでしょうか?」
「わかった。受けよう」
「すごい突拍子もない質問で申し訳ないのですが、
もし先輩の所属する3年Aクラスがピンチになった時、それをオレが救ったら報酬をいただけないでしょうか?」
少し間を置き、堀北先輩が言葉を返す。
「ピンチというのは具体的には」
「そうですね。例えば──南雲雅の策略によってクラスメイトに危機が訪れるとか」
予想外の回答だったのか堀北先輩が疑惑の目をこちらに向ける。
オレは話を続けた。
「オレは”偶然”にも堀北先輩と南雲先輩の確執について少し情報があるんです。
個人的には堀北先輩の考え方はとても『好感』が持てるのですが、別に南雲先輩が『嫌い』というわけでもありません。
だからお二人がどうなろうと、そこまで干渉するつもりはありませんでした」
「なら、なぜ俺にその話をしている?」
「ただ、オレはどうしても欲しい物があるんです。
プライベートポイント1000万pt。1000万ptをどうしても集める必要があります。
堀北先輩、もしオレが動くことで3年Aクラスを救って1000万pt以上の価値を生み出した時、その報酬をあなたは私に支払っていただけますか?」
堀北先輩は淀みなく確認する。
「南雲が今後、何か仕掛けるということだな」
「オレの予測ではそうなります」
「そうか」そう首を縦に振ってオレの方に近づき、
「これは鈴音の面倒事に付き合ってくれた礼と前払いだ」
端末を取り出して先輩はオレに『100万』プライベートポイントを送った。
「もしお前がそれ以上の『働き』をしたら、訪ねてこい」
そう一言告げて、堀北先輩は颯爽とその場を後にした。
堀北生徒会長カッコ良すぎる……。
その場に1人残されたオレは、堀北生徒会長信者になりそうだった。てかなった。
◇ ◇ ◇
勉強会が本日も無事終了し、試験前の最後の週末ということもあり、
近くのオープンカフェで今日参加した学力下位組たちとお茶をしようということになった。
サポートの毎日だったオレは久々にくつろいでいる。
「ククッ、金魚のフンたちがいるじゃねーか」
言葉だけで誰かもう分かる。龍園の登場である。
くつろぎとは一体何だったのだろうか。
その横には椎名もいた。小さく手を振っている。かわいい。
「椎名さんこんにちは。あと龍園も」
面倒になることは確定なので、龍園にだけぶっきら棒に挨拶する。
「ハッ、山内。そんなシケた面するなよ」
「体育祭でオレに対してあんなことをやったんだ、わかるだろ」
オレに怪我をさせた首謀者なのだ龍園は。恨みつらみで爆発寸前である。
嘘です。怖いからさっさと帰ってほしいと思ってます。
龍園は愉快に笑いながら、
「クククッ、オレがやったって証拠はあるのかよ」
「ないけど実質的なリーダーなんだから、客観的に見たらわかるだろ」
「あの時、お前が騎馬戦で無様に転げ落ちたせいでCクラスの騎馬も崩れ落ちたんだぜ。
本当はポイントを請求してもいいくらいだ。寛大な処置に感謝してほしいくらいだな」
と、まぁ濡れ衣を着せる戦法か。堀北先生と同じとは芸がないな。龍園よ。
「はいはい」
そう言ってオレは龍園に動画を見せる。
Cクラスの生徒が殴ったことでオレが騎馬から落ちる瞬間の動画だ。
「これ見ても同じこと言えるの?」
オレはこうなるんじゃないかと思い、松下に事前に騎馬戦の撮影依頼をしておいた。
まだ協力前だったのに優しいことで。
勿論、報酬は発生したがな……。
今更龍園が脅しに来るとは思わなかったが。
オレへの対応が遅くなったのは、恐らく堀北先生を先に虐めたかったのと、その後発覚した謎の存在Xつまり綾小路くんが誰なのかを追い求めていたからだろうか。
「山内、お前が謎の存在Xなのか?」
そういって龍園はオレを鋭く睨む。
「なんだよそれ。オレは山内だぞ。
事前に危ない目に遭いそうだから気をつけて下さいって警告をもらっただけだよ。
心優しい『友達』にね。
堀北先生が障害物競争で転んだのを見て、きな臭かったからクラスメイトに撮影を頼んだ。それだけだ」
その話を聞いた龍園は椎名の方を見つつ、
「ひよりのお気に入りっていうのも面倒だな。だがあの時お前に意識がなかったのは確認済みだ。
それに謎の存在Xなら”わざわざ”撮影もしないだろうからな。やはりシロか……」
と一人で納得した龍園は先に去っていった。
なんだお気に入りって……。
椎名のお気に入りはお前の探してる謎の存在Xな綾小路くんだろ。
「山内くん。お久しぶりですね」
「こんにちは椎名さん。
分かってると思うけど付き合う相手は選んだほうがいいぞ。いや本当に」
「ええ。ですが監視も必要ですから。
今はお互いのクラスの立場上会いづらいですが、試験が落ち着いたらまた図書館で」
そういって椎名も龍園の後を追うように去っていった。
「山内くん。椎名さんじゃん! あ、あの時のっ!」
佐藤からのツッコミである。ああ、そうですね。その椎名さんですよ。
佐藤にとっては龍園よりも椎名のほうが重要人物のようだ。
「図書館でたまに話してな。それなりに仲良くなったんだよ」
そういうと佐藤は「ふーん」と一言返し別の話題になった。
龍園のせいで一時微妙な空気になってしまった集まりも、その後は和気あいあいと期末試験に向けての意気込みを語り合いオレたちは解散となった。
その後、オレが消耗品を買いに別行動をしようとしたら佐藤も同行し、その道すがら2人で黙って歩いている。
「ねぇ山内くんってさ、やっぱり椎名さんや堀北さんみたいに頭がいい人がタイプなの?」
「まあ嫌いではないけど、それだけで好きになることもないな」
「へー、じゃあどういう子がタイプなの?」
「頭がいい人は確かに頼りになると思うけど……佐藤みたいな子もオレは好きだけどな」
「へっ! ちょっ、何言ってっ……」
自分の名前が挙がるとは思っていなかったのか、暗くてよく見えないが街灯に照らされた佐藤の様子は少し焦っているようで可愛かった。
「なんだろうな。今はみんな優しいけどさ、最初からオレに対して温かったのは佐藤くらいなもんだしな」
「そっ、そうなんだ。最初はそうでもなかった気がするけどね……」
最初っていうのは『オレ』になってからの話だから、佐藤にとっては意味不明だろうけど。
「それはそれとして、佐藤も『勉強』はできたほうがいいな」
「ゔっ、やっぱりそうだよねー」
「他の学校だったらともかくこの学校だと色々とツライからな」
「はい……頑張りますー」
12月に入り急に寒くなってきた夜道。
2人とも特に話すこともなく、黙って目的地に向かって歩いていた。
そんな時間もオレは心地よいと思ったが、唐突に思いついたことがあったので提案する。
「そうだっ! 今回のテストで佐藤がいい点取ったらさ、オレから何かご褒美あげるよ!」
急な提案だが佐藤の顔は明るくなっている。
「えっ、ホントに! 何っ、何くれるの?」
「それは秘密だ」
「えー、何だろうっ!」
想像以上に嬉しそうな反応している佐藤。そんな期待するようなものでもないんだけどな。
それとも何か欲しい物とかあるのかな?
「あーでも何か欲しい物でもあるのか? せっかくだし要望があれば先に聞くけど」
すると少し悩んだ後、佐藤はどこか意を決したようにオレに声をかける。
「あ、あのさ──山内くん。
もしも次の期末試験で私がクラスの平均点以上だったらさ。クリスマスイヴに……私と、デートしてくれないかな?」
「わかった」
オレは短くそう答えた。
そして、ペーパーシャッフル試験は開始されDクラスの勝利で終わった。
テスト結果も返却され、
オレは全教科で80点以上、しかし残念ながら佐藤はクラス平均点を少し『下回って』いた。
前回の中間テストに比べたら佐藤もだいぶ伸びていたが約束には届かなかった。
しかし特別試験の基準点は超えており、誰一人退学処分にはなることはなく特別試験を終了することが出来たのだった。