山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します!   作:あまざらし

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【1年生】混合合宿編 その3

 混合合宿 試験前日

 

 たしか試験前日の深夜に南雲パイセンや堀北先輩、それに龍園や橋本あたりが密会しつつ、さらにその裏でひっそり綾小路くんが忍び込み会話を盗み聞きしてるんだよな。

 

 そして『賭け』の提案をしていたはずだ。

 その賭けに参加できたら南雲パイセンから100万ptを無条件で奪えることを知っている。だからオレはとても賭けに参加したかった。

 しかし龍園や橋本あたりならともかく、山内がしゃしゃり出たら”絶対”怪しまれるよな。

 

 あの深夜の賭け騒動の場にいるメンバーは、

 龍園、橋本、綾小路くん、堀北先輩、南雲パイセン。

 

 うん。実に面倒事になりそうな奴らしかいない。そのメンツの中に飛び込むのは危険だな。

 慎重に検討して、オレは泣く泣く南雲パイセンからのポイント強奪を諦めた。

 

「『例のあの人』とのお話終わったんですか先輩」

 噂をすれば深夜の密会を終えた堀北先輩がグループの部屋まで戻ってきた。そして堀北先輩の提案で誰もいない場所へ移動することになる。

 

「既にだいたいは把握しているが、裏で相当積極的に動いたようだな山内。全て俺の指示となっているから問題ないはずだが、アイツはどこで橘の件を『確信したか』、それを特に気にしていた」

 

 堀北先輩と南雲パイセンとの会話。

 詳細は不明だが、オレのことはできる限り内緒にするように言い含めているので、暫くの間は見つからないはずだ。

 

 南雲パイセンが疑うのは恐らくこの3パターンだろう。

 1つ目は、堀北先輩が自力で勘づいた。

 2つ目は、先輩に一目置かれている綾小路くんだと勘違いする。

 3つ目は、自陣の中に内通者がいる。

 ただ南雲パイセンも内心では、堀北先輩を尊敬してるからな。

 恐らく1つ目を主軸に考えていそうだ。

 

 南雲パイセンに目を付けられるのは勘弁願いたい。

 しかし仮にオレを疑う段階になっても、最後まで南雲パイセンはオレだと断定できないと思う。

 

 なぜならオレは実際にその密会シーンは聞いていないのだし、オレの直感では南雲パイセンは意外と”リアリスト”だと思うからだ。

 

 ”未知”に対して正面からは受け取らないだろう。

 必ず何か理屈がある、現実的な裏があると信じる。

 なんとなくそんな性格だと思っているからだ。

 

 才覚によって磨かれた感性は、オレという真相の妨げとなる。

 己の才に対する自信から、まさかの圧倒的格下による策という真実には辿り着けないだろう。

 

「橘もお前に感謝していた。それに報酬のポイントだったな。合宿後だったらいつでも調整しよう」

「ありがとうございます。恐らく3月初めに伺うかと」

 

 1000万ptという大量のポイントを受け取る時期。

 

 仮に合宿直後にオレが1000万ptという大量ポイントを抱えた場合、あるいはポイントで契約して追加特別試験を迎えた場合のことを考える。

 

 月城代理は恐らく追加試験の頃にはもう行動開始していたはずだ。

 その時、月城代理はCクラスのポイント量やオレの契約を察知して、例えば試験の退学者を『2名に変更する』可能性もあるからな。

 

 だから追加試験の内容発表までは、大量ポイントを持ちたくなかった。

 

「山内、お前は何者なんだ?」

「えっ……でも、そうですよね。先輩だけはそう思っているはずですね」

 

 一度は驚いたフリをするが、オレも堀北先輩”だけ”は、その質問が至極真っ当に思えた。

 

 未来から見てきたような、そんな先回りの知識を堀北先輩だけには披露しているのだから。

 別に本当の事を話してもさほど問題はない。

 しかし話したところで、何が変わるわけでもない気がした。

 さてどうしようかな。

 

「いや……なんでもない山内。とても不可解な点は多い。だが俺は今回助けられた立場だからな。詳しくは聞かないでおこう」

 オレが迷っていると堀北先輩が質問を取り下げる。

 それはオレにとっても有り難かった。

 

「ところでお前は生徒会には興味ないのか」

「──バカなオレに向いているわけないですよ。先輩」

 

 少し間をおいて断ったオレを見る堀北先輩は、初めて見るようなどこか後輩を思いやる優しい表情をしていた。

「お前は自分のためだけでなく、他人のために行動できる人間だ。

 お前の気持ちは分からないが、その『資質』は生徒会に向いていることだけは俺が保証しよう」

 

 堀北先輩からの超高評価だが、オレは原作知識という『裏技』を使っている卑怯者なのだ。

 その評価を全くのバイアスなしで受け取れそうにはなかった。

 

「それは先輩の過大評価ですよ。オレは出来る範囲でしか動けませんし動きません。

 それに先輩が勧誘すると、南雲先輩対策に聞こえちゃいますからね」

 

 オレの発言に先輩は意外にも少し笑う。

「俺がいつだってアイツへの対策だけで行動してると思わないことだな山内。

 お前が生徒会に入ることは学校のためになる。オレがそう判断したまでだ。

 お前にその気がないのなら、生徒会は重荷になるだけだろう。忘れてくれ」

 

 その発言を聞いてオレは思っていたことを確認する。

「そうですか。確かにそうですね。

 それに堀北先輩も実はこう思っていませんか? 

 どんなに南雲先輩に権力を集中させようとも、今の南雲先輩のやり方はいつか『破綻』するって」

 

「ほう、なぜそう思った」

 堀北先輩は興味深そうにこちらをじっと見つめる。

 

「そうですね。この学校のシステムのバランスがよく出来ているからでしょうか。それに、恐らくそのバランスは失敗の歴史によって改善されていったものに思えたから──なんですかね」

 先輩はまだ続けろと促すのでオレは話を続ける。

 

「南雲先輩が会長になり恐らく特別試験はより過激化するはずです。

 今回のような『即退学』は勿論のこと。大量の退学者を補填するように、優秀な成績者には特典を用意するはず。

 それがポイントが多少増加するだけなら影響は軽微でしょう。

 だが今後もっと別格の制度が出てくるはずです。

 例えば『退学を無効にする』だったり、『クラスを移動できる』だったり。あるいは他の何かだったり。

 しかしそんな急激な変化によって、今まで積み重ねてきた制度に歪が生じるはずです。

 だから遅かれ早かれいつか崩壊し見直される。オレはそんな気がしてるんです」

 

 奇跡的な調整で順調に運営が行われるかもしれない。

 しかし長い学校の歴史の中で個人で2000万ptを貯めたものが今までゼロだったと茶柱先生が説明していたように。

 

 この学校はプライベートポイントやそれに相当する特典について、これまで綿密に管理してきたはずだ。

 

 オレは常に大量のポイントを追い求めていたからこそ感じることができた。

 その絶妙なバランス。

 学校は簡単には大量のポイントを入手させないように徹底管理している。

 

 生徒に配るポイント総量が多い場合は少なく調整を、またはその逆を。

 長い歴史の中で学校の管理者たちは、そのバランス調整を常に計算しつつ運営していたはずだ。

 

 そのバランスが恐らく南雲と月城代理のせいで一時的にだが確実に『崩れる』。

 

 だがその崩れたものは、いつか形となって生徒や教員、あるいは南雲に、それとも未来の学校に襲い来る気がする。

 崩れた後でも南雲パイセンの施策が一つでも残せたら、それは学校にとっては成功なのかもな。オレはそんなことを考えていた。

 

「なるほど興味深い意見だ。そんな事を考えている学生はお前くらいかもしれないな山内」

「大量のポイントが欲しかったので、見えてきたものがあるのかもしれません。堀北先輩も似たような感覚はお持ちなのでは」

 

 オレがそう問うと、

 

「そこまで長期的な視座で見てなかったが……。いや、あるいは案外早いのかもしれない」

 

 そろそろ遅いから終わりにしようと堀北先輩と別れる。

 

 最後の先輩の言葉は、綾小路くんの存在で崩れるのは一瞬かもしれないと言ってるのだろうか。

 

 オレはそんな事を思い眠りについた。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 そして結果発表を迎える。

 

 男子の大グループ優勝は、堀北先輩の率いるグループ。

 女子の大グループ優勝も、橘先輩の率いるグループが。

 

(坂柳は仕掛けなかったか。あー命拾いした……)

 

 オレは真面目に試験に取り組む1年Aクラスの姿を見て安心してはいたが、開始前までは正直、不安だった。

 原作と同じだからと深く考えず、迂闊にもAクラス(敵陣)に飛び込んだ小グループ決めの時の自分を殴りたくなる。

 

 そしてオレがもう一つ気にしていた、問題の猪狩先輩の大グループは最下位になっていた。

 基準点を下回った小グループ代表の猪狩先輩は強引にも3年Aクラスの女子生徒を道連れにしようとする。

 

 しかし万全の対策を期した連合チームにより道連れ否決に追い込まれる。

 Bクラスはなんとかポイントを支払うことで、猪狩先輩の自滅を回避する流れとなる。

 

 南雲とBクラスの契約内容をオレは実際には知らない。

 しかしBクラスの動きから推察すると、契約上この流れは避けられなかったのかもしれない。

 計画失敗に終わったことが表面化したBクラスはどこか険悪な雰囲気だ。

 

 これで3年のAクラスとBクラスの差は600クラスポイント以上広がり逆転は絶望的に。

 3年BクラスはAクラスどころかBクラス維持も危うい状況となる。

 

 ああ、歴史が変わったな……。

 

『大きな事』を成し遂げたのに、オレはそんなどこか他人事な感想しか出てこなかった。

 

 オレは知識を使って少し動いただけだ。

 本当に頑張ったのは他の『みんな』だからなのかもしれない。

 

 どこか達成できるとは思っていなくて、まだ現実を受け止めきれないのかもしれない。

 

「堀北先輩、俺の作戦を『完全に』読み切るなんて感服しましたよ。

 そんな事ができる人は先輩だろうと学校には誰もいない。そう思っていたのに正直完敗です。

 ですが尊敬する堀北先輩のままでいてくれて、俺はどこか嬉しくもあるんですよ」

 

「南雲。今回は俺だけではなく『チーム』による勝利だ。

 それと一つだけ忠告だ。俺が卒業しても精々気を抜かないことだ。

 学校をより良くすること、それに全力を注ぐことだな。でないと、いつか足をすくわれるぞ」

 

「ご忠告痛み入りますよ堀北先輩。ええ勿論、俺の思う最高の学校を創り上げます」

 

 そうして混合合宿は終了した。

 

 ミッション成功という、大きな目標達成をもたらして。




1日1話更新して週末頃には終わりそうです。
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