山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
通常の筆記試験となった学年末試験の終了後
呼び出されたオレは、坂柳と秘密裏に会っていた。
「こんにちは山内さん」
「ああ、言っておくけどオレは何もしてないからな」
「勿論承知しております。想定より一之瀬さんが精神的に強かった。そういうことなのでしょう」
坂柳は原作通り自分の策が失敗したのに、どこか嬉しさを隠しきれていない様子だ。
まぁ坂柳も一之瀬救出の裏に綾小路くんがいることを知っているしな。
自分の作戦に彼が対応した。その事実が嬉しいのだろう。多分。
一方のオレはというと、地味にツライ一ヶ月だった。
結論から言えば、坂柳の読み通りひよりからも依頼された。
『解決策は思いつかない。思いついたら提案するよ』
と相談には消極的な同意しかできずに、胸を痛めた。
それにひよりだけではなく、堀北先生や更にBクラスの白波千尋もオレに解決策は何かないか軽く相談を持ちかけていた。
たまに突拍子もない提案をするオレは、飛び道具的な扱いを受けているのかもしれない。解決策を知っているのに断るのはやはり苦だった。
原作があるとは言え、坂柳の頼みがなかったら介入していたかもしれない。
とするなら坂柳の要求は実に真っ当だったということか。
改めて坂柳は敵に回したくはないなと再認識する。
「例の件のお返しはまだお願いする段階にはないけれど、いずれ頼むことになると思う」
「ええ。楽しみにお待ちしています。
ただ次の特別試験で私に手を抜けというのは、ご遠慮いただきたいのですが」
そういえば綾小路くんと本気で戦う約束してるんだったな。坂柳。
妨害みたいなことしたら根に持ちそうだから勿論やらないけど。
まぁ直接対決は、追加特別試験が差し込まれて延期するはずなのだが。
「分かった。オレがピンチになったら助けてもらう。そんなお願いになると思う」
「それは南雲会長にあなたのことを告げ口するなということでしょうか?」
その言葉を待っていたのか、なぜか坂柳は今オレが最も気にしていることを的確に付く。
何で南雲パイセンに見つかりたくないこと知ってるんだろ。
「別に詳しくは知りませんからご安心を。あなたと堀北元生徒会長が2人で何かを話していたとAクラスの男子が証言してましてね。隠し事でもあるのかと思ったまでです」
混合合宿中、堀北先輩とは他愛も無い話から2人だけにしか通じない戦略の話まで、ごくたまにだが会話していた。
それを小グループの多数派であるAクラス男子がたまたま目撃していてもおかしくはないだろう。
「まぁオレは堀北先輩のファンというか、尊敬する先輩なのは事実ですからね。
それで南雲先輩から逆恨みを買うのは勘弁願いたいけど、口止めはしないですよ」
「それはどうしてです」
「強いて言うなら、オレは坂柳さんの方が『怖い』から──なのかな。お願いは取っておきたい」
仮に実力は同じでも、同学年の方が仕掛けやすいのは間違いないからな。
あと原作でオレを退学させた原因の一人は坂柳なのだ。
警戒すべきはやはり彼女だろう。
オレの言葉を聞いてどこか嬉しそうな坂柳。
別に南雲と仲が良いわけじゃないからな。この人も。
暗に自分の方が上だと言われて嬉しいのかもしれない。
「ふふふ。それはとても賢明なご判断ですよ山内くん。
いいでしょう。南雲会長にはそこまで義理もありませんし話すことも致しません。私、山内くんを好ましく思いましたから」
坂柳がなぜオレをそこまで気にかけていたのかは謎だったが、堀北先輩との繋がりを僅かだが掴んでいたのか。それなら納得できる。
『──多少強引に駒にするのも悪くないですね』
最後に小さくそう呟いたように聞こえたオレは、坂柳に気に入られたみたいだが、何故かあまり嬉しくはないのだった。
◇ ◇ ◇
学年末の筆記試験の結果が発表される。
1位は啓誠、2位は高円寺、3位は堀北先生で
オレは前回と変わらずの4位をキープすることができた。
流石に前回ほどの衝撃はなさそう。
自分の成績より嬉しいのが、学年末試験ではクラス全体16位と麻耶が前回よりも好成績を収め、クラス平均点も超えていたことだ。
様子を窺うとこちらに気づき、小さくピースサインをしていた。かわいい。
勉強会でよくサポートする寛治や博士など他のメンバーも、順位こそ麻耶ほどの変動はないが、着実に平均点を上げていた。
寛治も総得点では最下位を脱していて、三バカ以外の生徒がクラス最下位になるという、ある意味偉業を成し遂げていた。
オレや健に一番触発されたのは、寛治だったのかもしれない。
そんなわけで結果的に、今回は教える側として一番嬉しい試験となった。
そして翌日の3月2日。ついに追加特別試験を迎える。
一番の課題と思われた学年末試験を乗り越えたクラスメイトも、
既に目標となるプライベートポイント1000万ptを入手見込みのオレも弛緩していた。
しかし入室した茶柱先生はピリ付いた様子だった。
先生は一瞬、オレを見る。
ふふふ、先生気づきましたか。
1000万ptで退学を取り消しできるオレの渾身の秘策に……
得意気な様子のオレとは対称的に、先生の様子から不穏な空気を悟ったクラスは重い空気に包まれている。
「──お前たちに伝えなければならないことがある」
そして茶柱先生は、次の追加特別試験、クラス内投票の概要を説明する。
説明された特別試験のルールを大まかにまとめる。
・クラス内の生徒へ3人称賛票を、3人批判票をそれぞれ投票する。(投票は本人以外に限られる)
・クラス外の生徒へ1人称賛票を投票する。
・称賛票1票につき+1点。批判票1票につき-1点が与えられる。
・投票された点数の合計が最下位のものは『退学』。首位だったものには退学を一度阻止できる『プロテクトポイント』が与えられる。
よし、原作通り最下位の『1名だけ』が退学。
オレは退学者が1人であることに安心していた。
仮に2人だったら誰か一人は確実にいなくなってしまうからだ。
「称賛票3人、批判票を3人選べるということは、クラス全員が団結して投票をコントロールすることさえ出来れば、称賛だけされる生徒も批判だけされる生徒も0にできる。そうすれば、誰かが最下位になってしまうことはない。違う?」
そんな中、発表されたルールの中で堀北先生は最下位を決めないための案を出す。
しかしそれを茶柱先生は無意味なものと否定する。
なぜなら『首位と最下位』を必ずクラス内で決めなくてはならないからと。
そして茶柱先生は退学を回避するための策を伝授する。
「2000万ポイント。その額を用意できるのであれば、こちらとしては退学を取り消さないわけにはいかないだろう」
クラス内でポイントをかき集めたとしても2000万ptという高い目標には届かない。
直感で理解しているのだろう。
皆が疑心暗鬼になりながら批判しあう。
『オレを批判票に入れるつもりなんだろう!』とか『そっちこそ』とか争い、高円寺が優雅に皆をバカにしている。
ふふふ、さてさて、そろそろオレが手をあげようかな。
そんなタイミングを見計らってなのか、茶柱先生は衝撃の内容を口にする。
「そして、更にCクラスにだけ特別な追加ルールが設定された。
これは異例中の異例な内容で、私としても非常に心苦しいが学校側からの通達により受け入れるしかなかった」
そして茶柱先生はオレを一点に見つめる。
何かがおかしい。
こんな追加ルールは存在していなかったはずだ。
追加ルール、
『1年Cクラス山内春樹は今回の試験を免除(強制的に不参加)とする。次の試験に向けて待機すること』
”オレだけ”が試験を免除されるというルールだった。
「先生──どういうことでしょうか? 全員参加の特別試験で免除されることなんてないと思いますが!」
オレは声を荒らげ抗議する。
「山内お前ならわかっているだろう。あの契約の優位性に。
今回このような決定に至ったのは、お前が以前行った私との契約が影響している。
皆にも伝えておくが、山内が悪いわけでない。
『たまたま』山内と私の間で行われた契約が、今回の試験で非常に有利に働いてしまったこと。それを学校側としても重く受け、今回のルール追加となった。
心情的に納得できないかもしれないが、皆も山内のことを悪くは言わないよう注意しろ」
オレは周りの視線など気にならなかった。
(月城代理のせいか)
代理め──1000万ptくらいなら綾小路くんだったら何とかできると思って、強引にオレを除外しやがったな。
茶柱先生は追加ルールの説明が終わるとすぐに教室を出る。
オレもすぐ先生を追いかけ再度追求する。
「先生、オレを特別試験に参加させて下さい!」
「山内それは出来ない相談だ。お前はこの試験をスキップできる。退学にもならない。それは嬉しいことだろ」
挑戦的な物言いだがそれが先生の本心とも思えない。
「本当にそう思っているのですか? 茶柱先生」
「──すまない。今回の処置は私だってまだ納得できてはいないんだ」
先生の姿は珍しいことに弱々しく映った。
「明日伝える予定だったが丁度いい。
明日の放課後、山内本人が納得出来ない場合のみ今回の件について直接説明する場が予定されている。
交渉次第では追加ルールは取り消され、お前も参加できるかもしれない。希望するか?」
まだ可能性はあるのか?
「ええ勿論。明日ですね。参加しますよ当然でしょ」
望みは明日に繋げるしかないのか。
オレは不条理に苛立ちつつも、割り切って次に向けて思索していた。
もう一波乱
ひそかに個人目標だった10万文字到達。