山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
「堀北先輩。これ前払い分忘れてます。100万pt多いです」
オレは堀北先輩から約束の大量ポイントを受け取っていた。
「だが入り用なんだろ。おまけだ山内。もし不足しているならもう少し融通してやってもいい」
「ありがとうございます。これだけ支払っていただけて本当に感謝しています。残りはクラスで協力して乗り越えますよ」
堀北先輩のことだからポイント支払いを渋ることはないと予想していた。
しかしオレの予想を遥かに上回る羽振りのよさで恐縮する。
原作とは異なり、3年Aクラス維持がほぼ確実な情勢なのも影響していそうだ。
ただ堀北先輩だけにポイントを依存することは、後々問題が生じるだろうからな。
「そうか、ところで山内。あの件は『クラスの代表』として感謝している。だがお前なら理解していると思うが、『鈴音』にはやり過ぎるな」
それは一見曖昧な言葉だが、オレの事を『分かっている人』にしか出来ない言い回しだった。
まるでオレが知識を使って動きすぎると、クラスや彼女の成長を阻害させる。そう確信した言い回しでオレを諭す。
「あなたは──いえ、なんでもありません。承知してますとも。
ただ自分のため、クラスのためになるなら行動させていただきます」
「それは構わない。この学校にいる限りそうすべきだからな。あとはこれを渡しておこう」
受け取ったのは、堀北先輩と橘書記の卒業後の連絡先が書かれたメモだった。
「お前の卒業後に、また会えることを俺は楽しみにしている」
そして前払いを含む総額『1100万pt』を受け取ったオレは、
堀北先輩と別れて節目の一日を終えたのだった。
なんとなくおまけの100万ptが将来高く付くことになる。
そんな気がするのだった。
◇ ◇ ◇
追加特別試験発表から3日目
朝、オレが教室に入っても誰も挨拶はしてこなかった。
ああ、また疎まれ者の山内に戻っちゃったかな。
今のオレと遠慮なく話をするのは寛治と健。
それと後1人、麻耶がオレに話かける。
「おはよっ春樹くん。昨日とは全然雰囲気違うね。何かいいことでもあったの?」
「ああ、少しだけ希望が見えたところ。
それにしても麻耶。今の状況でオレと話していたら絶対マイナスだろ。それくらいお前にも分かってるだろ?」
「うんそれはね……でもさー春樹くん、全然悪く無いじゃん。
たまたま先生との契約がクラスに超有利だったから除け者にされたんでしょっ。
それって本来はクラスにとってプラスだったのに何で悪者になるのって思わない?
先生だって山内くんは悪くないって断言してたじゃん」
「まぁそうなんだけどな。今回はそう簡単に事情を酌めないものなんだよ。
でもさ麻耶……ありがとな」
「いいよ別に。当然のことだもんっ!」
麻耶がニカッと笑うと、時間が経過していたのか茶柱先生が入ってくる。
先生は間違いなくオレに一瞬だけ視線を向けた。
あの件について説明するのだろう。
「まず追加特別試験の変更点を伝達する。山内の件だ」
茶柱先生の言葉の後、誇張抜きで全員がオレに注目した。
人気者で照れるわ。へへへ。
そうやって内心でとぼけて心を落ち着ける。
「昨日、山内から契約を破棄する相談を受けそれを受理することとなった。それにともなって追加ルールが削除され、山内も追加特別試験の参加者となる。以上だ」
そうするとザワザワと周りが騒ぎ出す。
ちょっと動くか。
「先生、少しみんなに提案する時間をいただけないでしょうか?」
「わかった」
立ち上がり教室を見渡すと、皆がオレに注目している。
驚きが8割、疑いが2割といったところだろうか。
麻耶は何か期待した目をしてるがあれは特殊だろう。
「あー、皆に1つ提案がある。時間がないから詳細は放課後伝える。
その内容は皆にとっても悪くないと思う。勿論条件も付けるが。全員参加でお願いしたい。高円寺できるか?」
「ふむ。あまり時間を使わないでくれよ。『ミスター山内』」
「ああ、分かってる。みんなもいいな」
そうしてクラス全員の承諾を得てどこか落ち着かない雰囲気を漂わせたまま放課後になる。
「で、どういうことなの山内くん」
放課後になったと同時に堀北先生から追求される。
「オッケー、時間もないことだし説明しよう。今回の追加特別試験、みんなはどうやって過ごすつもりだ。そうだな寛治。グループでも作って誰かを標的にして退学にさせよう。そんな動きになってるのか?」
オレが指摘すると寛治がギクリと図星な表情をする。
「まぁ寛治だけじゃなく仲の良いみんなで退学にならないように調整する。そんな約束は各自していることと思う。だがオレからの提案は少し違う。
堀北先生が最初に言ってた投票先を調整する。その案が一番近い」
「でもそれは無理って先生も言ってたじゃない」
と軽井沢から指摘される。
「ああ。堀北先生は皆平等になるように投票するだからな。
オレの案は『批判票を必ず山内春樹』に投票することだ」
まさか自分で退学を買って出ると思ってなかったのか、クラスが騒然とする。
「春樹くん! それはダメだよ!」
洋介が必死な形相でオレを見る。堀北先生も何か言いたそうだ。
「洋介、分かってる。これにはまだ続きがあるから。もう少し話を聞いてくれ」
そう言って洋介を一旦黙らせる。
洋介はどこか余裕もなくて体調も悪そうだ。
「勿論タダとは言わない。端的に言えば”クラス全員”からプライベートポイントが欲しい」
「春樹! でもオレもそこそこ貯めてるけどよ。多分2000万ptには届かないと思うぜ」
健の声が響く。アイツもオレが退学することを心配しているのだろうか。
優しいな。
「その額については、これから皆と相談しようと思ってる。
みんなに問いたい。クラス全員が批判票をオレに1票入れる。その代わりクラス全員がオレにプライベートポイントを支払うなら、一人最低いくらは出せる? そうだな高円寺に聞いていいか?」
「ミスター山内。ナンセンスな相談だね。だって私は退学しないのだから」
「その可能性はゼロじゃないだろ? この契約でその可能性をゼロに出来るんだ。悪くないと思わないか?」
「んー。目を見ればわかるがキミには何かアテがあるんだね。念のための確認だ。なぜなら私には『キミが退学に値するとは思えない』からね。
むしろ私のために今後もクラスに貢献し続けるべきだ」
いつもの意味不明な高円寺理論を展開する。
「ああ、アテは『ある』」
「それなら最低でも『6万pt』。それくらいの価値はあるだろうさ。
なぜならキミは私と同じく干支試験で優待者を当てているのだからね。
それだけで全クラスメイトに6万ptが年間加算されるんだ。
本当はもっと高くてもいいと思うが『実現性が低くなる』のはキミも困るのだろう」
「わかった6万ptを高円寺は支払ってくれるんだな」
高円寺がフッと立ち上がりオレに6万ptを支払うと、「もう充分だろミスター山内」と告げてその場を去っていった。
ああ、充分だ。
「洋介と堀北先生。ちょっと相談がある」
そうしてオレの端末の残高を2人に見せる。
「えっ」「ちょっとこれ……」
と声を上げる2人を遮る。「可能性あるだろ?」
オレがそう提案すると、2人はお互い少し考えるように黙る。
「これは春樹くんが誰かから借りたのかい?」
「いや全てオレのものだ。返す金額は1ptもない。今朝の茶柱先生の発表が深く関係している」
大量のポイント。その中で最も影響があったのは、当然、堀北先輩から受け取った1000万ptだ。
だが、この発言で茶柱先生との取引とミスリードしてくれることを願う。
クラスはオレたち3人の様子を窺うように静まり返っている。そんな中で先ほどとは打って変わり目に光が宿った洋介が口を開く。
「わかった。でも6万じゃまだ足りない。僕がもっと多く支払ってもいいんだよね」
「確かに届く可能性は高いわね。……わかった私も払うわ。山内くん、あなたには色々問いただしたいところだけど」
そういってクラスで2人だけが納得する。
「その──僕たちが今確認したのだけれど、春樹くんがプライベートポイントを1500万pt近く所持しているんだ。
だからみんなで力を合わせたら、2000万pt貯まるかもしれない。協力してくれないだろうか」
洋介が頭を深く下げる。
「洋介くんのお願いなら協力する!」
皆が信じられない表情でオレを見る中で、真っ先に手を挙げたのは軽井沢だった。
軽井沢が名乗りを上げることで次々に皆が協力的になる。
「その……6万ptじゃなくてもいいんだよね。私、もっと多く払えるよ」
天使の笑みで協力に応じたのは櫛田桔梗である。
流石、好感度の上げ方ってもんを分かってらっしゃる。
「ああ勿論。凄い助かるよ櫛田ちゃん」
「ううん。でも山内くん凄いんだね。私ビックリしちゃったな」
「まぁ茶柱先生とも色々交渉してな」
笑ってごまかすが全容はまだ話さない。櫛田は要注意だしな。
そうしてその後は洋介と堀北先生が中心となって、
今後の投票先の調整について、そしてクラスメイトからオレへのポイント受け取りについて取りまとめる。
名簿を確認しつつ、1人1人オレがポイントを受け取っていく。
まずは綾小路くんから受け取りか。
「すまないギリギリしか無いんだ」「ありがとう全然問題ない」
彼の内心は分かるはずもなかった。ポイントの内訳を探るだろうか。
綾小路くんなら本気で調べたら堀北先輩に行き着くだろう。それでも問題ない。ここを突破できるのなら。
「アタシちょっと余裕あるから」「ありがとうな軽井沢」軽井沢だったり、
「あの、こ、こちらです。どうぞっ」「佐倉ありがとう」佐倉だったり、
「俺たちの思いを受け取れ! なけなしの50万pt!!」「盛るなよ。25万ptありがとう寛治、健」寛治、健だったり、
「あ、あの大丈夫です?」「ええ……分かってるって山内くん。あと今は別にそんな苦手って訳じゃないからっ」長谷部だったり、
「主、その今月は機材買ってしまって」「いいって博士サンキュー」博士だったり、
「はいっ春樹くん! でも大丈夫?」「ありがとう麻耶、大丈夫だ」麻耶だったり
そうして一巡して、俺の端末は1800万を少し超える金額となっていた。
だいたい300万ptは受け取ったのかな。予定より集まったな。
ポイント受け取りが終わったようなので、オレは皆に一つの提案する。
「今あるオレのポイントは試験当日まで洋介と堀北先生に半分ずつ預けようと思う。
もし2000万pt貯めてオレがAクラス移動したら皆困るだろ?
洋介、堀北先生かまわないか?」
「勿論問題ないよ。でも春樹くん。そんなこと考える人がこんな提案しないよ」
「それは問題ないけど山内くん。まだ終わってないわよ。あと一人いる。
全員からポイントを受け取らないとこの案は無しにする約束なの、忘れてないでしょうね」
堀北先生がそう指摘する。
ポイント受け取りの名簿を眺め確認すると確かに1つだけ空白があった。
空白の箇所は『松下千秋』。
教室を見渡し松下を探したがどうやらこの混雑の最中、教室からいなくなってたらしい。
松下──いったい何を考えているんだ?
オレはとっさに嘘をついた。
先程、外せない用事があって後でポイントを支払う連絡が松下から届いていたと。
そして洋介たちには残り200万ptの入手法がないか再度検討してもらい、オレは「用事がある」と松下を探しに教室を後にした。