山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
送別会当日。
会場の装飾や配置などは一之瀬に任せっきりだったが、会場に入ると壮観であった。
普段の学食とは打って変わりパーティ会場のような装いになっていた。まるで映画で見るパーティ会場のように。
「あっ山内くん! 時間通りだね。今日は頑張ろうね―」
「おう、一之瀬さんも調整ありがとう。あとお疲れさま」
オレと一之瀬は学食担当者を交えての、軽い段取りの事前チェックを行う。
まぁオレは前日までの準備がメインなので、当日は何かあった時の対応しか無いのだが。肩書だけ幹事の雑用係なんてそんなもんである。
それに生徒会に入るような人は、皆やる気に溢れていて優秀だからな。
オレの手なんて不要である。
「山内くんってさ、やっぱりすごい人だったんだね。クラスの子から聞いたんだ。契約を利用して大量のポイントを獲得したなんて」
担当者との相談が終わり二人だけで待機する間、一之瀬はあの試験について触れる。
「でも、今回は運の要素が大きかったからな。それに一之瀬さんのクラスも同じだろ。皆で協力して退学を取り消しに出来たんだから」
「にゃはは……そうなんだけどね。でも私は最後まで何も出来なかったし。それに山内くんがもし私のクラスにいてくれたら、もっと簡単に解決したのかなーって少し思っちゃってさ。
──あ、ごめん。私、配置の相談しなくちゃ」
オレは『またね山内くん』と慌ただしく笑顔で去る彼女を見送った。
刻一刻と開始時間が迫る。
多くの生徒が参加することもあり、オレは送別会開始前だが知り合いと挨拶を交わす。
「本日はお招きいただきありがとうございます。また会えて嬉しいですよ山内くん」
まるで貴族のご令嬢のような振る舞いで挨拶してきてくれた坂柳と握手を交わしたり、
「卒業したら連絡するんだぞ春樹後輩」3年Bクラスの北神沙希先輩に絡まれたり、
「山内くん。本日はとても楽しみにしていますね」
元茶道部部長の相田先輩と共に談笑していたひよりと挨拶をしたり。ひよりって、そういえば茶道部だったもんな。
ついでに食い意地張ってる龍園組の部下を止めたり。
おいお前だよ石崎!
ちょっと待て。まだ始めるな、聞いてるのか! 石崎いいいい
「春樹くん! こっちこっちー」
麻耶や松下を始めとしたCクラスの面々の様子を見に行ったり。
その中には堀北先生や綾小路くんの姿も見える。
「堀北先生も綾小路も来てくれたんだな。綾小路はこの前の試験はお疲れさま。惜しかったよな」
「Aクラスに敗けて悪かったな。ところでこのイベントの主催者って山内なんだろ。率直に凄いな」
「ええ確かに大したものね。でも兄さんを送るならこれくらい必要なのも当然ね」
相変わらずの堀北先生と、珍しく素直に褒める綾小路くん。
「オレは名ばかりの雑用係でメインは生徒会だから。予算もなぜかガッツリ貰ってな。メチャメチャ盛大になった」
「あっ山内くんここにいた!」
「悪いもう始まる時間だ。みんな楽しんでってくれよなー」
もう少しクラスのみんなと話したかったが、オレは生徒会に連行され打ち切りとなる。
そして南雲パイセン司会による送別会が始まる。
「堀北先輩。卒業式は堅苦しい話になりそうですからここで言っておこうと思います。
オレはもっと先輩と直接対決したかったですよ。ホントにね」
「俺だけの送別会じゃないぞ南雲。いいから早く司会進行しろ」
まるで漫談のような二人に会場の空気も緩む。
「はいはい、先輩は相変わらず冷たいんだから。
でも堀北先輩。俺はこんなやり取りも、もう最後と思うとやっぱり寂しいですよ。
ん? 予定より参加人数が多くて、奥のテーブルまだ食事とグラスが届いてないのか。
おい山内ーっ! お前幹事だし5分くらい何か話して間を持たせろ!」
南雲ォオオオオオ!
無茶振りやめろおお、そんなの台本にないだろ!
と言いたいが南雲パイセンに逆らうのも面倒なので、ひとまず壇上に上がるオレ。
「はい、呼ばれました1年の山内春樹です。急に話せって無茶振りでしょ南雲先輩! オレ、怒ってますからね!」
南雲パイセンを始め生徒会メンバーたちは、オレを見てニヤニヤしていた。
仲間だと思っていたオレがバカだったわ……。
でも一之瀬は心配そうにしてる。信じられるのはお前だけだよ一之瀬。
「えー、本日はこうして皆さんにお集まりいただき、参加率が全生徒の9割を超える大規模な送別会となりました。まずはご参加いただき誠にありがとうございます。
しかしなぜオレみたいな1年坊主が幹事をしているのか、皆さん疑問ですよね」
会場の様子を見ると、確かにお前誰だよみたいな表情を多くの人がしている。
「ええそうでしょうとも。というのも元々は、皆さんも記憶に新しい特別試験、混合合宿で一緒になったグループの中で、『小さな』送別会をやろうと企画したことが始まりでした。
それを聞きつけた地獄耳の南雲生徒会長が乗り込んできて、生徒会を巻き込み最善を尽くしてしまった結果がこちらです」
会場を見渡すように促すと、生徒たちは改めて人の多さや会場の豪華さに驚き、そして笑っていた。
「ところで皆さんは混合合宿の試験内容を覚えていますか?
禅、筆記試験、駅伝にそして『スピーチ』。今オレがまさにやっていることです。
ここで下手なこと言って盛り下がったら、オレたちの大グループ1位に傷が付くじゃないですか! 南雲先輩勘弁してくだいよ!」
とオレが生徒会に向けて言うと、
「頑張れー」と近くにいた朝比奈先輩や
「ハードル上げいいぞー山内!」と南雲パイセンが盛り上げてくれる。
「なるほど誰も助っ人に来てくれないんですね。先輩方ありがとうございます。
まだ準備が整っていないようなので、皆さんもあと少し付き合ってもらいますね。
さて、オレが今回の送別会を主催したのには『2つの動機』がありました。
1つは南雲先輩が堀北先輩を惜しんでいたように『別れ』です。
送別会ですし皆さんも当たり前だと思うかもしれません。
でもオレにとっての『別れ』は皆さんとは少しだけ意味が異なります」
会場は意外なことに、オレの言葉に耳を傾けていた。
「卒業生を送り出すだけではなく、オレにとっての『別れ』は自らがいなくなるという意味も含みます。言い換えるなら『退学』という言葉です。
そう、オレは退学による『別れ』が皆さんよりずっと身近でした。
少し昔話をします。
オレは1年Dクラスからスタートしました。
そしてオレたちDクラスは、最初に配布されたクラスポイント1000ptを1ヶ月で全て吐き出す、前代未聞の問題クラスでした。
担任の茶柱先生曰く、過去の歴史を振り返っても前例がないほど酷かったそうです。
あ、ここ笑うところですからね」
そういうと場が少し和やかになる。反応助かる。
「そしてオレは、更にそんなクラスの中で三バカと呼ばれていました。
つまり頭が悪くて使えない男。それがオレ、山内春樹でした。
オレのスタートはここからです。
この学校生活でオレはどん底からのスタートでした」
クラスメイトを見ると皆、思い思いの表情をしている。
「だからこそオレは『別れ』が他の人よりも身近に思えるのです。
今年度、運良くクラスメイトは誰一人退学することなく一年を終えました。
しかし今後はどうなるのか分かりません。
そして普段は敵の立場である他クラスの生徒も、試験を考えなければ大切な友人もいます。誰であっても『別れ』は悲しいのものです。
だから今日という場を企画し、かけがえない時間を皆と交流したい。そう思ったのが1つ目の動機です」
会場は静けさに包まれていた。
こんなにも広い会場で誰も談笑することもなく、オレなんかの話を聞いているのがどこか面白かった。
だが準備もそろそろ出来たようだ。ここからは明るい話題にしよう。
「もう一つの動機は『祝』。つまり祝賀会です。
心当たりないと思ってる皆さん全員に参加資格があるんですよ。
なぜなら皆さんは『無事』今年度を乗り越えたのですから。そして3年生の先輩方はご卒業されるのですから。
先程申し上げたように、オレは『バカな奴』です。
だから皆が大したことないと思っていることも、大げさにお祝いしたくなります。
そう、今日は実はそんな『お祝いの場』でもあるのです」
皆が明るい表情に変わったことを確認し、オレは生徒会の方を向く。
「そしてそんなオレのバカな考えに賛同し、最高に盛り上がる会にすべくご尽力いただいた生徒会の方々に、改めて心より感謝申し上げます。
みなさん是非、盛大な拍手をお願いいたします!」
会場は心地よい拍手喝采に包まれる。
「さてどうやら準備も整ったようですね。皆さんグラスをお持ちください。
南雲先輩と堀北先輩、乾杯の挨拶よろしいでしょうか!」
そうしてオレは壇上を降り、ひっそりと役目を終える。
はぁ緊張した。もう懲り懲りだわ。
「ではやりますか堀北先輩」
「そうだな」
「「乾杯!」」
そして天高くグラスを上げ皆が乾杯する。瞬く間に会場の熱気と轟音が襲う。
皆は今どんな気持ちで乾杯したのだろう。
『先輩との対決が不完全燃焼で心残りなのだろうか』
『後輩たちに何が残せたのかと自問自答しているのだろうか』
『無事に1年を過ごせた喜びだろうか』
『退学した者への悲しみだろうか』
でもこの会場で今一番の幸せ者はきっとオレだ。
『だってこれは山内春樹にとってハッピーエンドの乾杯なのだから』
End
最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想、評価、お気に入り、誤字脱字などなど、皆様の温かい反応が励みになり、予定していた1年生編の最後まで書ききることができました。
2年生編は続きが書けそうなら。原作の2年生編が終わってから判断するかもしれません。伏線を散りばめて消化不良な部分も多いので書きたいとは思っています。とりあえずメイド喫茶の店長は山内だよな!すまんな綾小路くん。