山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
放課後すぐ教室を離れたこともあり、カフェはまだ閑散としていた。
俺達二人は奥の席を確保して、現在はカフェでくつろいでいる所だ。
向かいに座る少女は、オレの無駄話に「うん、そうだね……」とどこか上の空で小さく縮こまっている。
だから相手の顔をちらっと見た瞬間、ふとこう思ってしまった。
内心、『山内くんの話、つまらないな』って彼女は思っているのではないかと……。
いやいや。
彼女の性格を考えるにそうじゃないと思いたい。だが、いつもの表情豊かな彼女の様子とはまるで異なることも事実だった。
相談相手は、同じクラスのみーちゃん(王 美雨)。
みーちゃんはCクラスの中では珍しい学力優秀組の一人で、中国からの留学生ということもあり語学が堪能な生徒だ。
オレも勉強会で質問する機会もあったし、他の友達含めて一緒に遊んだことも何度かあった。
だが誰とでも仲良くなる櫛田や麻耶たちとは違い、比較的みーちゃんは交友関係を選ぶ子。そうだな、今のオレとみーちゃんは友達の友達のような間柄だろう。
だから意外だったのだ。
何の用だろ?
リラックスしてもらうために雑談していたが、俺達で会話が弾みそうな共通の話題はもう尽きた。
本題についてオレが尋ねると、もじもじと緊張しているみーちゃんも覚悟を決めたようで相談内容を口にする。
「あの、平田くんのことに関してなの」
なるほどその件か……。
ひょっとして綾小路くんにはまだ相談してない?
オレが最初の相談相手なのか。綾小路くんへ相談後にオレにも相談しにきたのか。何れにせよ原作とは異なる展開だ。『不安』な感情を表に出さないようにオレは答える。
「なるほどそういうことか。でも今は洋介に告白はやめた方がいいかもしれない」
「えええええ~~わかっちゃうのかな? そ、その、私が平田くんを好きだって……」
「ま、その切り出し方だとね。誰にも聞かれたくないなら尚更そうかなって」
本当は原作で知ってたからだけど。
分かりやすい人もいるけど基本的には誰が好きとか正直わからない。櫛田じゃないんだし。
多少怪しいとかはわかるけどさ。
「でも、なんでオレに?」
「う、うん。前ね、平田くんが言ってたんだ。『山内くんが一番頼りになる』って。ほら、この前の試験でクラスのみんなを助けてくれたでしょ?」
「い、いや。あれは一心不乱だったというか……」
誰かに退学をなすりつけたくなかったというか。
そっか。あの試験で洋介の中での山内の評価。綾小路くんよりも信頼されてるかもしれないのか? ……可能性あるな。
何故なら平田洋介にとって最も重要なのは『クラスを守ること』だから。
洋介の望みは恐らくこうだ。
・Aクラス入りは無理に目指す必要はない。
・何より大切なことは、このクラスの”みんな”と卒業すること。
・クラスを平穏にすること。
だが未来に実施される特別試験で、そんな彼の願望は脆くも崩れ落ちる可能性は高い。
それに来年度のオレは、Aクラスを目指す立場になるはず。
そう、オレはクラスの誰かを退学させることに、”賛成する”かもしれないのだ。
冷酷に思えるかもしれない。だが、松下の要望であるAクラス入りを何より最優先にするのなら、その選択が最適な場合もあり得るから。
もしその時が来たらきっと洋介はオレに幻滅して、その後、闇に落ちてしまうかもしれないな。
原作のときのように。
困ったな……。
オレが退学する未来が無くなり、平田洋介の闇堕ちイベントがスキップされた事。
これはクラスにとって平和で喜ばしく映る。でも、単に問題を先送りしているだけという見方も出来てしまう。
将来的にこのクラスが弱体化してなければいいけど……。
「そ、その告白やめた方がいいっていうのは、私って平田くんに嫌われているのかな……」
オレが黙って考え込んでいたからだろうか。
勝手に自己解釈し、しょんぼり落ち込むみーちゃん。
あ、今は洋介よりみーちゃんの相談に乗らないとな。
「いや、それはないと思う。みーちゃんはむしろ洋介も好きな方だと思うよ。だってクラスのために頑張ってるしさ」
言葉を選びながらオレがフォローすると、分かりやすく嬉しそうな表情をするみーちゃん。
表情コロコロ変わってかわいい。
「じゃあどうして? も、もしかして平田くんって既に好きな人が!?」
「いやそんな話は聞いてないけど。でもそうだよな、なんて言ったらいいのかな」
回答に困る質問だ。
平田洋介という人物は絶対的な頼れるクラスのリーダーである。
そして洋介にとってクラスメイトは最優先で助けるべき存在だが、一方でクラスメイトとの関係はどこまでも中立。
クラスにとって彼は独占出来ない扱いなのだ。
アイドル親衛隊がアイドルに触れてはならないような。
ただかつて例外が一人だけ存在していた。『軽井沢恵』である。
それは虐められていた過去があっての特例中の特例。契約上彼氏になったに過ぎない。
しかしみーちゃんはそんな事情を知るはずもないし、ましてや軽井沢みたいな洋介と冷めきった仲になりたいわけでもないはずだ。
だから詳細を話さず、説得する必要があるのが面倒なんだよね。
でも危なかったなみーちゃん。
オレ以外だと綾小路くんか当事者しか知らないだろこの情報。
もしも他の人に相談して「みーちゃんなら可愛いから大丈夫!」って雑な言葉で勧められたら最後。
勢い任せで告白まで進んじゃったら、玉砕コースだったろうね。
オレは少し言葉を選び、過去に遭遇した事例を話すことにした。
「これは他言無用で頼むな。洋介が軽井沢と別れて二週間くらい後のことだったかな。
名前は伏せるが他クラスの女子に洋介が呼び出されてさ。
後で尋ねたら告白の呼び出しだったんだ。『付き合うのか?』って聞いたら洋介は断ったって。今は恋愛は考えられない、クラスのことしか考えられないって。アイツはそう言ってたよ」
他には「僕には恋愛をする資格がない」とかボヤいてたけど。そこまで言う必要はないだろう。少なくとも今のみーちゃんには。
「そんなことが……あったんだ……」
「うん、一回だけな」
(本当は何度も似たような場面に遭遇しました)
だってライバル多いこと知ったら、みーちゃん焦りそうだし。
それに洋介はモテるのだ。
だから望まなくても、勝手に視界に入って来てしまう。
そのうちさ、女子に呼び出されて『まさか告白では?』ってオレが少しドキドキしながら校舎裏に行くんだよ。
で、
「平田くんに告白したいんだ。でも、渡す勇気がないから彼にラブレター届けてくれないかな?」
みたいな依頼受ける事になったらどうしよう。
容易に想像できるのが悲しいな。
さて話を戻そう。
「だからさ、今は誰が告白しても同じ結果になると思う」
「う、うん。わかった。私も今すぐに告白する勇気はちょっとないし」
納得はしつつも望みは低いことを知ったみーちゃんは意気消沈している。
折角オレに相談してくれたのに落ち込んでしまったようだ。なにか、なにかフォローせねば……。
「洋介ってクラスの事で忙しいからさ。自分より他人を優先する性格だし、みーちゃんもそういうとこが好きになったんだろ?」
「は、はい。で、でも私なんかじゃきっと……。ライバルも多いでしょうし」
あ、うん。多いと思う。想像以上に……。
「それは否定しない。でもみーちゃんが洋介と同じクラスなのはプラスだと思う。アイツにとってクラスって大切な存在だから。でもクラスを優先するあまり、今は恋愛する余裕もない。
だから洋介を振り向かせるには……クラス内で洋介の負担が減ったらアイツの考えも変わるかもな。
例えばそう、洋介の代わりに”みーちゃん”がクラスを導く! とか」
提案したはいいが、みーちゃんは全身全霊で首を横に振っていた。
ま、小動物みたいなみーちゃんにクラスのリーダーポジは少し荷が重いよな。
「あとは堀北先生だけじゃなくて誰か他の人もクラスの中心になって。で、洋介が自分のことに集中出来れば、チャンスだと思うな。
みーちゃんが焦る気持ちは理解できる。でも行動に移すのは今じゃないと思う。
チャンスが来るまでみーちゃんはクラスをサポートする良き理解者であり、良き友人に徹する。そうやって洋介と時間をかけて少しずつ絆を深めていく。それが最善だとオレは思うよ」
ま、そのうち堀北先生が名実ともに激強リーダーになってくれるでしょ。
うんうん。
で、洋介の代わりで思いつくのは誰かって?
そんな奴いな――ウソウソ、じゃあ『櫛田桔梗』キミに決めた!
「わ、分かった、今日はありがとね。でも山内くんってやっぱり凄い人なんだね。平田くんが頼りになるってアドバイスしてたのもわかるかも。初めの印象が強くて、ちょっと誤解してたみたい」
あの頃の山内なら『平田なんかより俺に乗り換えない?』くらいは言ったか。
そして閃いたとばかりにキラキラした目でみーちゃんは続けるのだった。
「その、山内くんはリーダーになりたくないの?」
「え、そんなつもりないけど?」
何を言い出すんだ急に。
「昔ね、山内くんが『女子は平田ばっかり、俺のほうが上手く出来る』って授業中にぼやいてたでしょ。実は聞いちゃって」
その発言は昔の山内だろうね。
退学回避して尚、まだオレを苦しめるとは山内よ……。
「あ、あの頃のオレは若かったんだよ。今は身の程を知ったからさ。忘れて欲しいってか、出来ると思うのオレに?」
原作知識でズルしただけなんです。だからみーちゃん、そんな純粋な瞳でこっちを見ない下さい。お願いします。
「うん、出来ると思う山内くんなら。
勿論、平田くんもすごく優しくって頼れる人だと思うよ。
でもね、時たま何故か不安定で心配になることもあるの……。お、おかしいよね。
でも私たちは頼るしかないし。勿論、今は堀北さんもいるけど。やっぱり最後は平田くん頼みなところもあるから」
へー、みーちゃんって洋介の脆さを察知してるのか。
よく観察している。これが愛の力って奴か。
「それにこの前の試験の山内くん。クラスのためにとっても熱くて必死で、誰よりも頑張ってくれたでしょ?
だからね、きっと私は賛成するよ。山内くんがリーダーになること。
リーダーじゃなくてもね。もし山内くんが平田くんの傍でサポートしてくれたら、時折感じる平田くんへの不安も消し飛ぶんじゃないかなって私思うんだ」
「……いやその、えっとー」
正面に座る、心のこもったみーちゃんの言葉。
何故かそれを受け止めるのは、愛の告白よりも小っ恥ずかしかった。
短い付き合いではあるが、冗談でみーちゃんがこういう発言をしないことくらいオレもわかる。
だからこそ真剣に語り終え、みーちゃんの顔がほころんだその仕草に、オレの耳が急速に熱く、そして嵐のような恥ずかしさが襲うのであった。
ああ、どうしようかな。
オレはなんと返すべきか苦悩していた。
山内くんを昇進させることで平田くんと結ばれようとする天然小悪魔みーちゃんが生まれてしまった。
恋する乙女は最強!?
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