山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します!   作:あまざらし

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【1年生】春休みのある日 その4

 

 衝撃的な情報を公開した博士は、夕方になって一足早く自分の部屋へと去っていった。

「拙者、『火星の魔女』をリアタイ視聴せねばならぬので失敬」

 という言葉を残して。

 

 博士とはもう長い付き合いなので、以前も似たようなことがあった。

 その時オレは自室にあるテレビを指差し、

「ここで見てっていいよー」と提案したんだが、

「主、申し訳ないが音響設備がゴミでござる」って博士から即座に拒否された悲しい過去がある。

 それからはもう彼を引き止めていない。

 

 人のこと言えないけど博士ポイント大丈夫か? 

 

 一方、残されたオレと松下は……。

 ひとまず松下に『OAA』の説明をした後、改めて休憩がてらティータイムと洒落込んでいた。

 

 ま、クラス全体で2000万pt吐き出したからポイントは無いけどね。

 でもオレだって箱買いしたティーバッグの紅茶とクッキーくらいは用意するって。どちらもスーパーのセール品なんだけどさ。

 

 でもさ、無事にミッションクリアしてお金じゃ買えない幸せがここにはある。

 贅沢なんて不要。

 そうだよな。

 

 なっ、松下。

 

「あっ、〇〇(有名ブランド)の新作バッグ素敵。いいなぁ……」

 

 ファッション誌に見入る松下は、高校生らしからぬ言葉を自然な口調でさらりと呟く。

 

 おい、ハッキリ聞こえてんだよ。

 

 テーブルの向かい側で松下が発した控えめな声も、この静かな部屋では障害なく鮮明に届くのだ。

 

 オレが無言で睨みつけていることも分かってはいるのだろう。

 それでも余裕ある彼女の表情は、悪戯が成功して満足しているように見えた。

 

 松下の表情から察するに、今のは演技でいいんだよな? 

 女は皆、生まれながらにして女優という言葉はあるが……。

 最近、コイツに関しては本当に女優なのでは? と疑っている。 

 

 ま、仮にモノをねだる演技だとしてもさ。相手、間違ってるんだよね! 

 

 お前も知ってるだろ……松下。

 こっちは所持ポイント2万ptだぞ! 

 

 それとも何か。本当に欲しくて呟いたの? 

 もしかして1人6万pt徴収された腹いせなの? 

 

 やはり世の中──『金』。

 南雲パイセンに頭下げるか。

 

 冗談はさておき、いい機会だし今日は来年度に向けて松下と軽く相談しておくか。

 プライベートポイントにもクラスポイントにも関係するしな。

 

 今後の方針について話し合う準備のため、オレは一冊のノートを取りに勉強机へ向かう。

 この世界に来てすぐの頃、思い出せる限りの原作知識を綴ったノートだ。

 

 途中で松下の側を通ったので、チラッと雑誌のページを盗み見ると、

 たっかっ──彼女がボヤいてたと思われる白いバッグは想像したより桁が一つ違った。

 

 そういや松下って裕福な家庭のお嬢様だったよな……。

 オレは改めて住む世界が違う人ばかりの場所に迷い込んだなと実感するのだった。

 

「山内くん、そのノートは?」

「ああ、これから起こる特別試験とかをメモったノート」

「でもそれって……私が見てもいいものなの?」

「勿論、だから今持ってきたんだしな」

 

 鍵の掛かった引き出しからノートを取り出して戻る頃には、松下は既に紅茶を空にしていた。

 流石にオーパーツじみたノートを彼女も無視できないのか、今は視線がノートに釘付けになっている。

 

 正直、オレも人に見せるかは悩んではいた。

 でも退学回避した今、きっとこのノートが必要になるのはオレよりも松下だろうからな。

 

 オレがノートを手渡すと、松下の顔に緊張が走る。

 そして彼女は呼吸を整えて、重大な秘密に迫るかのように、慎重に最初のページをめくった。

 だが、すぐに松下は拍子抜けした表情を見せる。

 

「なにこれ? もしかして昔の思い出のノートなんじゃない?」

「あー、そうかもな。メモする直前に部屋を探し回ったんだけど、ページが余ってるノートがそれしか無くてな」

 

 松下の指摘は恐らく正しい。

 オレがメモ書きしたノートの最初のページ。

 そこには『やまうちはるき』だったり、『山内はるき』という文字が繰り返し綴られ、自分の名前を練習した痕跡があった。それは力強くも不器用な文字で『子供』が頑張って練習したような筆跡だった。

 

 うんうん、きっと、ちびっこ山内くんは素直で頑張ってたんだな。

 何でそれ以降のノートが存在しないの? って名推理は止めようぜ……。

 

 その後は『山』だったり『川』だったり常用漢字が数ページに渡って練習されていたが、空白が10ページ以上あったので使わせてもらうことに。

 

 白紙の紙でいいなら一枚一枚が分離できるルーズリーフ形式のものはすぐに見つかった。おそらく高校の授業では、山内はこちらでノートを取っていたのだろう。

 だがルーズリーフは誤ってページが混ざりメモの時系列がズレてしまったり、万が一でも散らばって他人に見つかる可能性もある。

 それを避けたかった当時のオレは、唯一見つけたこの思い出のノートに原作知識をメモしたのだった。

 

「山内くんのメモ通りなら、一学期は大した特別試験はないみたいだね」

 ひとまず原作とズレが発生しにくいだろう、一学期や夏休みの特別試験を重点的に松下は確認しているようだった。

 

「ああ、最初の関門はその次、二回目の『無人島試験』だろうな」

「その試験、特に1位の報酬は破格みたいね」

 

 最初の特別試験『パートナー試験』は学力が重視される試験のため、オレも松下も問題ないだろう。

 パートナー次第では上位も狙えるはず。

 ただ堀北先生に1年Dクラスの交渉材料として、パートナー確定は待つよう指示される可能性は高そうだけどな。

 

 それに綾小路くんの賞金首2000万ptと同じことにならない限り、パートナー試験の最大ペナルティである『退学』は発生しないだろうし。

 

 そうそう賞金首。

 オレは『ホワイトルーム』や『賞金首』のことなど、重要なイベントもノートに書き留めてはいる。

 ただオレがメモをした時期は松下に協力依頼をする直前のこと。

 つまり当時のオレは、将来的に松下がこのノートを見ることをある程度見越して書いていた。

 

 だから、たとえば賞金首の内容だったら『首』『南-月-①』とだけ書いてある。

 原作を読んでいる人なら、南雲、月城代理、ごく一部の一年生が集まり、秘密裏に綾小路くんを退学させたら2000万ptの賞金が貰える試験が実施されていると理解出来ればいい程度の。

 

 たぶん松下には解読困難だと思う。先程、当然のようにこの点の質問を受けたがオレは言葉を濁したところだし。

「知らない方がいい情報だから秘密」と。

 

 物語に関連する重要な情報は、オレだけが思い出せるような少ない単語にしている。

 特に『ホワイトルーム』関連のワードが必要になる時、略称を駆使して、ただの単語の羅列や創作クイズと勘違いするような工夫をしていた。

 

 一方でルールが細かい特別試験について。

 これはルールを覚えている限り箇条書きで詳細にメモしてある。

 だから松下も細かい疑問点はあるだろうけど、試験の概要は問題なく理解できるはず。

 

 あとこれで勘のいい松下なら気づいたかもな。

 オレが読んだ小説の主人公が『誰』なのかってことを。

 後で変に松下が巻き込まれないよう補足説明しておくべきだろうな……。

 

 でも、原作だと松下も少しは綾小路くんと関わるし。

 松下に演技してもらって彼と関わるのが得策なのだろうか? 

 フラッシュ暗算の試験も終わったことだし。

 でも下手に手を出したら危険だしな……。

 

 結局、松下との会話に思考を割かれて答えを出せなかったので、綾小路くんのことは一旦、保留にすることにした。

 

 ノートを見終わった後、主に特別試験の情報を大量に詰め込んだ松下から、質問形式で疑問点を解消していく流れに。

 その質問の内容から松下は”あの試験”の結果も把握しているようだ。

 

 だからオレは松下に再確認することにしたんだ。

 

 要約するなら『今も優先事項は変わらないのか』と。

 

 オレの質問に、普段は即答する松下が珍しく思い悩んでいるようだった。

 何かに迷っているのか。あるいは動揺しているのか。

 

 無言のままの彼女の仕草からは、真意を測ることは出来ない。

 

 だがついに彼女は決断を下し、長い静寂を打ち破って一つの『答え』をオレに伝える。

 

 その回答を受けて、オレは胸の奥にあったモヤッとしたものが晴れていくのを感じた。今、オレの顔はきっと、どこかほっとした表情をしていると思う。

 だって原作の松下なら、恐らく別の回答をしただろうから。

 

 そして彼女の下した決断は、少なくともまだ猶予が残されているという事なのだから。

 

 

 そろそろ日も暮れるため、今回の集まりは解散することに。

 松下が部屋を去ろうとしたその時、ふと確かめるようにオレに近づき、こう口にする。

 

「綾小路くん。彼を探るのは止めた方がいいってことだよね」と。

 オレが内心驚いて「何で分かったのか」と尋ねると、

 

「だって、あなたの顔にそう書かれているんだもの」

 

 そう断言した彼女は、静かにオレの部屋を後にしたのだった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

(Side:椎名ひより)

 

 その頃、ケヤキモールのカラオケルームの一室にて。

 

「ひより。お前の目利きも大したもんだな。あの雑魚がとんだ牙を隠してやがったとは」

「それはもしかして『山内くん』のことでしょうか。彼の友人を前にして随分な物言いですね龍園くん」

 

 龍園くんは、恐らく三学期に実施された追加特別試験のことを言いたいのでしょう。

 山内くんの行動はどうやら龍園くんにとっても想定外だったということでしょうか。

 

「クク、そう怒るなよ。俺だって流石に心を入れ替えたぜ。

 もう山内を侮っちゃいねぇよ。そこでだ、『桔梗』の証言は正しいと見ていいのか」

 

 追加特別試験で山内くんのクラスは2000万ptを集めてクラスメイトの退学を阻止。

 その事実だけは分かりますが、他クラスはその内訳までは分かりません。

 探ろうにもクラスメイトが全力でポイントの出どころを悟らせないでしょう。

 

 しかし、これまでのクラスポイントを考慮するなら、恐らくですがあの時の山内くんのクラスは全体で集めても精々500万ptが限界だったと推測します。

 つまり逆算すると、不足分の1500万ptという大量のポイントを『誰かが』集めたということになる。

 

 俄には信じられないことです。

 ですが通常ならポイントの入手経路の特定は困難な状況。

 諦めざるを得ません。

 

 ただ、あの試験では当初、不可解なルールが一つ存在していました。

 

『1年Cクラス山内春樹は今回の試験を免除(強制的に不参加)とする』

 

 基本、全員参加のはずの特別試験で唯一免除を言い渡されたのが、話題の山内くん。

 だから彼の当時の行動を追跡すると、一つだけ本命として浮かんでくる推理があります。

 

「証言通りの可能性は高そうです。彼が試験に復帰する前日の放課後、茶柱先生と教員室を退出していた姿を他クラスの生徒が目撃したそうなので。ですから櫛田さんの説明に違和感はないと思います」

 

 山内くんが事前に特別試験に有利な契約を結んでいた。それを契約破棄をすることで大量のポイントを入手したという櫛田さんの発言。

 その信憑性が増したということ。

 

 ですがこれが本当に真実なのか、私はまだ確信を持てないのです。

 具体的な事柄には触れられませんが。

 櫛田さんを含め、全てのクラスメイトにすら公開されていない秘密があるのかもしれない。そんな通常ならば見過ごしてしまうような推測が、何故か頭の片隅にチラつく。

 

 きっと真実は山内くんにしか分からないでしょう。

 いえ、或いはもう一人。あの人なら……。

 

「ただの雑魚に1500万ptを集めるなんて芸当、出来やしねえんだ。念の為、山内の奴がどんな契約で大量のポイントを奪い盗ったか探らせてもいいが……。

 だがまぁ、だいたいの予想は出来る」

 

 私が考え込んでいると、龍園くんはポイントの入手手段よりも別のことに考えをシフトしているようです。

 そして彼は私に挑戦的な笑みを浮かべこう告げました。

 

「お前だって分かってんだろ。

 Aクラスを目指す上で『アイツ』は邪魔だってことくらい。

 だが、仲間になるってんなら話は別だ。歓迎してやろうじゃねぇか。

 クク、猶予をくれてやるぜ──ひより。戦略は問わねぇ、色仕掛けでも何でもな。ポイントもアテが出来そうだしな。

 だから、お前がアイツを調略して俺達のクラスに引き入れて来い。

 それが無理なら──山内春樹は俺の手で潰してやる」

 

 飲み終えた手近なペットボトルをぐしゃりと握りつぶす龍園くん。

 相変わらず過激な演出をされる方です。

 

「私の大切なお友達に、そういった過激な発言は控えて欲しいですね。龍園くん。

 ですが──『彼』が私達のクラスに移動するのは悪くない案です」

 

 そう、それは私が望むことの『1つ』なのですから。




春休み編で書く予定だったエピソードはここまで……
でしたが年末・正月付近に追加でお祭りっぽい話を書きたいなと思ってます(ボツになるかも)
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