山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します! 作:あまざらし
Aクラス 坂柳クラス
Bクラス 一之瀬クラス
Cクラス 龍園クラス
Dクラス 堀北クラス
まだ春休みですが4月になったので都合上(新)2年生扱いとさせて下さい。
4月、校内の野球グラウンドにて。
ロジンバッグを右手に馴染ませオレは深く息をする。
まだ慣れないピッチャープレートの位置確認のため目線を落としマウンドの砂を右足で軽く払った後、そのまま正面を見据えた。
20メートル程先にはお手本のようなバッティングフォームで静止する須藤健。
そしてオレを安心させるようにキャッチャーミットを大きく構える平田洋介。
「健! 全力で行くぞ!」
「おうよ春樹! 一球入魂で来やがれ!」
オレは両腕を大きく振りかぶり左足を上げる。
洋介がミット構える位置は外角低め。
既に何度目かの投球だ。その中で理想的だった右手の握りの感触を思い出しつつ、オレはミット目掛けて全力投球した。
スピードはそこそこ。
恐らく運動に長けた生徒なら、苦も無くボールを捉えることが出来るだろう。
だが、
「ぐっ、まじかよ」
オレの投げたボールの球筋は、健の体手前でふわっと変化した。
軌道が変わったことで待ち構えていたテンポを崩された健は、スイングのタイミングを崩さざるを得なくなる。
(健のタイミングが外れた! もしかして勝っちゃうかも?)
そう思ったオレだが、健は体幹を崩すこと無くスイングをワンテンポずらし、振り上げたバットは『ゴッ』と鈍い音を立てる。
バットの芯で捉えていない音だ。それでも健は持ち前のパワーでボールを弾き返したのだった。
「あ、危なかったぜ──」
「やっぱさすがの健だな。でも春樹も惜し~ぃなあ、まさか健をここまで追い詰めるなんてさ」
これは実践だと綺麗なセンター返しのヒットになるだろうな。
完敗だ。寛治がオレにもフォローしてくれたのは嬉しいけど流石に健に勝てるわけない。
「でも春樹、お前ピッチャーのセンスあるかもな!」
「おう、まあな! 『休養中』とは言えオレは元4番のエースだぜ!」
いつもの山内っぽいテキトーな返事をしたオレ。
だがオカシイ、いつもと様子が違う。健から如何に打ち崩すのが難しかったか力説されるし、今日参加したメンバーからも惜しみない称賛の言葉を貰う……って。
いやいや、ちょっと待って下さいって。一体何が起こってるの??
あの山内の『虚言』満載な自己紹介。
なんだっけ、「中学時代は野球部でエースで背番号は4番だった。けどインターハイで怪我をして今はリハビリ中!」って妄言。
学生野球のエースって普通は背番号1番だろうが! 中学生でインターハイってなんやねん? ってツッコミ待ちのやつ。
もしかして本当だったのか?
まさか、そんなバカな。あの山内が野球部のエースだなんて考えられん……。
この現実が受け入れられずオレは自分の頬をつねってみたが、鈍い痛みがこの不可解な現実が夢ではないと告げる。
そう。ざっくり言えばオレは今、困惑していた。
始まりは春休みになってのこと。
クラスの男子で不定期に集まって様々な球技の練習をしていたんだ。
まだ春だが、秋になれば二年生でも『体育祭』が開催されることをオレは知っている。
だからクラスの能力把握と強化を兼ねて、暇そうな男子に呼びかけを行っていたわけだ。勉強することも大切だが、適度な運動も大切だろうという提案である。
相談当初は消極的な寛治だったが「春休みに上手くいったら、夏には女子を誘ってみるか」という言葉で気が変わり参加することに。
まあ開催日は、スポーツとあって一番意欲的な健の部活が休みの日に合わせているんだけどさ。
スポーツ好きや苦手な人まで募集は問わず。
希望者を募って2時間くらいで遊ぶ親睦会を開催していたんだ。
前前回は健主導のバスケット。
前回は洋介主導でサッカー。
そして、今回は日本のメジャースポーツということで『野球』が選ばれた。
本日の参加者はオレを含めて、洋介、健、寛治、幸村(啓誠)、博士、そして綾小路くん。
ちなみに綾小路くんは前回のサッカーでも参加していた。
オレの予想だけど、綾小路くんは未経験の球技には参加する方針なんだと思う……多分だけど。
人気スポーツということで野球を選択したはいいが、人数不足のため実践的な試合をすることは出来ない。
クラスだけで9人も集まることは無かったし、それに試合するなら18人必要だしな。
ウォームアップのキャッチボールを終えた後、俺達は守備位置を交代交代で担当しつつ、全員が順番にバッティング練習する予定だったんだよな。
当初の予定とは違う流れになったんだけどさ。
きっかけは一番手の投手を決める時のことだ。
「うし、春樹から投げろよ。俺がかっ飛ばしてやっからよー」
「任せろ! いい感じで投げてやるよ!」
寛治から打撃投手ならぬサンドバッグ投手を指名され、オレが投手担当になったんだ。
たまたま調子が良かったのだろうか。
ど真ん中ストレートを投げ、寛治を三球三振に打ち取る。
「す、すまん博士! ちょっと俺、今日は調子悪いみたいだからさ。先やってくれっ!」
こうして寛治の代理で博士が打席に、その後に幸村、そして綾小路くん。
4人が立て続けに打席に立ってオレの投げたボールを当てようとスイングする。
だが、オレは全力投球していないのに4人ともボールにカスリもしないのだった。
ま、綾小路くんは周りに合わせて手を抜いたんだろうな。それとも打席に立つのは人生初だったのかな。
「おいおい春樹。お前、マジになって投げるなよ! 練習にならないだろ!」
「え? あ、あれ。悪い寛治」
でもおかしいな。
寛治からお叱りを受けたが、全力では投げてないのに……。
「い、池くんちょっと待って!
春樹くん。次、僕が挑戦してみてもいいかな? 全力でいいから」
「あ、ああ……。いいぜ洋介」
戸惑いつつも洋介なら大丈夫だろうと、オレは先程より勢いを加えて投げることに。
クセのない構えで静かにオレの投球を待つ洋介。
まず第一球目、洋介はボールを見送る。
そして次の二球目に今までの4人とは異なる展開となった。
狙いを定めた洋介はバットを振り、『チッ』とボールをかすらせる。だが惜しくも結果はファールフライに打ち取られてしまう。
三振とはならなかったものの、オレが洋介を打ち取ったことで健にスイッチが入ったらしい。
それが先程の健との1戦だ。
こうして何故かバッティング練習のはずが、オレの投球に皆が挑む構図になったのだった。
だが今になってようやく落ち着きを取り戻せた。
冷静に分析するなら健の本職は『バスケ』だし、洋介は『サッカー』なのだ。
野球の練習は一切してないはずの健が、一打席目からヒットを放った。
その事実からやっぱり山内が野球部のエースって線は消していいだろう。
ただ野球経験者だった可能性は高いかもしれない。
ならエースではなく……控えポジション。うん、それなら納得出来るかも。
ご、ごめんな山内くん。でもさ山内が野球部のエースってのはどうも現実味がなくてな……。
例えば控えのエース。控えの『切り札』山内春樹とは俺のこと! とか、当時の部活動でも言ってそうじゃないか。
部活でもきっとお調子者であろう山内は当時、愛されていたかもしれない。ただ自室に私物のグローブも無かったし、多分、野球は中学生で卒業したんだろうな。
オレは運動神経抜群な須藤健を苦しめたという事実から、過去の山内の経歴を勝手にそう推測した。
あと健の解説によると、オレの球はどうやら同じフォームなのに時に自然とボールに回転が掛かってて大きな変化をするらしいからな。
ふふふ。
エースとは言わない。だがこれは体育祭も期待できるかもな! 確か次の体育祭は部活に所属する生徒は、その球技に参加不可のルールだったはず。
ホワイトルーム生みたいなチートキャラが不参加なら、さくっとポイントゲット出来るかも。ただこの学校ってチートな人物多数なのがネックなんだけどさ。
でも次の体育祭の種目に『野球』なんてあったかな?
テニスとバレーはあったな。あれ、野球は無かったような……。
えっ嘘でしょ。もしかしてこの特技、活かせないの?
あ、あと補足を加えると、オレというか山内というか。
バッティング技術は大したこと無いかもしれない。
洋介の投球を健が豪快に外野へかっ飛ばす中、バットを振るタイミングが遅くてオレは当てるのが精一杯だったから。
まあでも山内の意外な特技が発覚したし。
それだけでも収穫とするか!
しかしそんな山内の意外な特技を見つけた事に対する胸の高鳴りも、残念ながらそう長くは続かなかった。
近づいてくる乱暴な複数の足音。
その音に混ざって顔を打ち付ける砂を含んだ風が、何処か不穏な空気を運んできたからだ。
「クク、雑魚どもが。どうせ負けるのに今から詳細も分からない体育祭の悪足掻きか?」
偶然なのか、誰かから情報を聞きつけたのか。
龍園とその配下がわざわざグラウンドに出向いて俺達を挑発する。
あ、これ絶対、面倒事になるやつだ。
Cクラスの不良番長、龍園翔がいつものように喧嘩腰で登場したのであった。
2年4月のクラスとクラスポイント
坂柳 Aクラス:1099ポイント
一之瀬 Bクラス:537ポイント
龍園 Cクラス:515ポイント
堀北 Dクラス:358ポイント
3月から4月にかけての1日ポイント反映は原作と同じ増減数で調整しました。