山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します!   作:あまざらし

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【2年生】春休みの緊急試合 その2

 野球グラウンドに突然乱入した龍園達。

 俺達Dクラスの皆が戸惑う中、意外な人物がその空気を一変させた。

 

「おっ、綾小路もいるじゃん。お前がいんなら仲間に入れてくれよっ! お前程じゃないけど俺も得意だしさ、一緒に野球やろうぜ!」

 

 龍園の部下、石崎である。

 一塁で守備をしていた綾小路くんを発見し、彼は嬉しそうに綾小路くんの元へ駆け寄るのだった。

 

「石崎、まずオレは野球は得意ではない。それに厳しいと思うぞ。一応、クラスの集まりだからな」

「いいじゃんいいじゃん、そんな細かいことはさ!」

 

 石崎は綾小路くんにだいぶ懐いてるみたいだ。まるで飼い主にじゃれる大型犬のように。

 

「おいっ石崎、お前は少し黙ってろ」

「はぃ龍園さん! すんません!」

 

 石崎と綾小路くんが仲良くなっているということは……。

 綾小路くんと深く関わることを避けていた成果なのか、原作の流れを辿っているようだ。 

 

 二年生になると石崎やひよりは、綾小路くんを龍園クラスに勧誘するんだよな。

 

 オレは原作の流れを思い出しながら、騒動の中心の一塁ベンチに近づく。すると何やら緊迫した様子の洋介と龍園の二人の会話がクリアに耳に届き始めた。

 

「軽く30万だ。勝った方が30万ptでどうだ」

「えっ? なんのことだい?」

「クク──とぼけるなよ。野球で試合をして負けたチームは勝ったチームにプライベートポイント30万pt払うんだよ」

「そんな特別試験でもないのに……大切なポイントを賭けることなんて出来ないよ」

 

 龍園に対して、言葉を選びながら洋介はやんわりと断る。

 洋介の傍にいる健は相手を威嚇しながらも衝動を抑えるように動かず、龍園の部下の山田アルベルトと睨み合っている。

 

 この一触即発の雰囲気の中、オレが近づいたのを感じ取ったのか。龍園は蛇の目ような冷酷な眼差しでこちらを捕らえた。

 

 えっ、怖っ

 

「お前はどうなんだ山内? ご自慢のへなちょこボールじゃ自信はねぇか?」

「えっ、オレ? 自信というか……」

 

 30万ポイント? 

 そんな大金を、俺達のクラスがすぐに用意できるわけがないだろう! 

 

 そう返答しようと思った時だ。

 

「おい、お前ら面白そうな話をしてるみたいだな」

 

 新たな刺客、金髪を風になびかせた少々感じの悪いイケメン生徒会長、南雲雅が颯爽と登場する。

 げえっ! 次は南雲パイセンかよ!? 

 率直に言えば、オレはもう逃亡したかった。

 

「あ、そのー南雲先輩こんにちは」

「先輩、お久しぶりです」

「おう、山内に平田に……そして龍園。勿論、覚えてるぜ」

 

 それによく見ると、新たな来客は南雲パイセンだけじゃなかったようだ。

 Bクラスのリーダー、一之瀬帆波もパイセンの後ろに遠慮がちに付き添っていた。

 二人一緒ってことは生徒会の仕事なのかな? 

 

 でもおかしいな。こういう揉め事の時って一之瀬はすぐ仲裁に入るのに……。

 不思議に思ってオレは一之瀬を観察する。

 

 彼女は元気なさげに俺達から視線を逸らし、何かをじっと見つめていた。

 視線の先を追うと──奥側のベンチに腰掛け、騒動とは無縁の場所で水分補給をしている綾小路くんの後ろ姿が、主人公がいるのだった。

 

 なるほどね。もう一之瀬は恋心を自覚してるね。

 

 この恋愛模様って、南雲パイセンはもう勘づいてるんだっけ? 

 綾小路くんへの想いが一之瀬の心の中で明確になったのは、ごく最近のはず。だからパイセンにはまだ伝わってないよな。

 ってことはだ。今、南雲パイセンにバレるのは不味いか……。

 

「一之瀬さんも久しぶり! やっぱり生徒会で疲れてる? 南雲先輩のせいで」

「や、山内くんっ。えへへ、そう見えるかな……ぜ、全然そんなことないよっ!」

 

 オレが呼びかけた途端、一之瀬の表情がはっと変わる。

 ふぅ、これで彼女も少しは普段通りになったかもしれない。

 

「おいおい山内。勝手に風評をばらまくなよ。それにな……」

 ニヤッと笑う南雲パイセンを見て、オレは嫌な胸騒ぎがした。

 彼は何かを仕掛けようとしているような、具体的には生徒会の仕事を押し付けられそうな。

 

「そう思うんだったらお前が──」

「あぁ? 生徒会役員様たちがお出ましかよ。口出しすんじゃねぇぞ、こっちはただ交渉してるだけだぜ生徒会長さんよ。権威があろうと関係ねぇ……ごちゃごちゃ抜かすなら潰すぜ」

 

 龍園は無視された事が我慢ならなかったのだろうか。

 タイミングよく龍園が南雲パイセンに割って入り、生徒会勧誘キャンセルを発動させた。

 

 おいおいまじかよ。南雲パイセンの発言を防ぐとか見直したわ龍園。

 オレは心の中で龍園を褒め称える。

 

「おい、別に横取りするつもりはないぜ龍園。それにアイツらと『試合』やりたいんだろ。だったら黙って見とけよ」

 

 そして南雲パイセンはオレ一点を見つめる。

「受ければいいだろ山内。お前ならポイントも余裕だろ?」

 

 ん? 何言ってんだ。このパイセン。

 やっとこさ雀の涙のポイントが1日に入ったばっかりなんだぞ! 

 35,800ポイント。それが俺達Dクラスに今月支給されたポイントだ。

 

 何も言い返さず、パイセンにじとーっとした眼差しで語りかけるオレ。

 それでもイマイチな反応だったので、オレはアプリを起動し、残りプライベートポイント5.3万ptの表示をパイセンにだけ見せて無言の訴えを続けた。

 

『ポイント早く払って下さい南雲パイセン!』と

 

 その圧、そして願いが通じたのだろう。

 やっとのことで、パイセンもポイント支払いの滞納を思い出したみたいだ。

 オレが悪質な取り立て屋じゃなくて良かったですね南雲パイセン。トイチで請求するとこでしたよ? ま、怖くてそんな事出来るわけ無いけどね。

 

 パイセンはアプリを起動して、流れるようにオレの端末にかざしポイント送信の手続きを行う。

 

「悪かったな山内。生徒会が立て込んでて忘れていたぜ。ほらよっ」

「確かに。あ、ありがとうございます!」

 

 こうしてオレは口約束だった送別会報酬の150万ポイントが手に入ってしまった。

 信じられない。こうもあっさり150万ptゲットだなんて! 

 

 南雲! 南雲!! うおおお……南雲っ!!! 

 さすが南雲パイセンやっ! 世界一!! 

 

 オレはパイセンの評価がすごく上がった。

 

 やっぱり今日は大大吉なんじゃないか? 

 

 龍園と南雲パイセン。悪の二大巨頭みたいな奴らがオレをサポートしてくれるとか。

 明日は雪かもしれない。

 

「これでいいだろ山内。試合、受けてやっても」

「え……」

 

 まさか150万ptって試合を拒否させないために今、渡したんです?

 オレ正直、失望しましたよ南雲パイセン! いや嘘です。むしろパイセンらしいな。

 

 しかし悲しきかな。オレはただの元雇われ人間。

 権威による威圧感漂うオーラを放つ南雲生徒会長に逆らうことは不可能なのです。

 

「ええ、勿論です。これなら受けて大丈夫です!」

「は、春樹くん!?」

「ええっ! 山内くん受けていいの? 考え直した方が……」

 

 オレが折れたことで洋介や一之瀬から悲鳴が聞こえるも、時既に遅く。

 龍園が獲物を逃すまいと、次の一手に動き出した。

 

「クク──言質は取ったぜ山内。これでDクラスは参加だ。そうだ一之瀬、テメェらのクラスも一枚噛めよ」

「いや私達のクラスは……」

 

 当然のことながら、龍園の言葉に一之瀬は難色を示す。

 だが、龍園が一之瀬に近づき何かこそっと耳打ちする。すると一之瀬の表情が驚きに変わった。

 

「えっ……でもそれじゃ……」

 

 彼女が何を言われたのかは不明だ。

 ただ、その耳打ちした内容が一之瀬にとって魅力的だったことは傍から見ても理解出来た。初め参加に難色を示していた一之瀬が、今は参加を検討しているからだ。

 

「深読みすんじゃねぇよ、これはただの遊びだぜ一之瀬。同学年で仲良し小好し。お前も望むとこだろ」

 

 そして一之瀬は決意を固めたのか、一呼吸して龍園を見つめた。

「わかった。Bクラスも……参加するよ!」

「ちょっと待って二人とも。仮に試合を行うとしても今回は、僕たちDクラスと君たちCクラスの戦いだろ? Bクラスは関係ない」

 

 洋介がBクラスは関係ないと冷静な指摘をする。

 だが龍園はその言葉を受け入れるつもりは毛頭ないようだった。

 

「クク──誰がクラス限定って言ったよ。『野球で試合する』俺はそれしかまだ決めてないし、メンバーの選定だってしてねぇだろ。だがまぁ、メンバーは俺達の学年に限定してやる」

「そんな……」

 

 意気消沈する洋介を他所に、龍園の視線は失言をしたオレに狙いを定める。

 

「もう手遅れだぜ。『山内』の発言で試合の交渉は成立しちまったからなぁ。

 こっちは仕方なくBクラスの雑魚と組んでやる。お前らDクラスは、負けたくなけりゃ坂柳のとこにでも命乞いするんだな。

 2日後の朝10時にこのグラウンドだ。一之瀬! Dクラスとの細かい条件はテメェでまとめとけ。いくぞ石崎!」

「うす! じゃっ、またな~綾小路!」

「ちょっと待って龍園くん!」

 

 洋介の言葉は届かず、龍園達はそのまま立ち去っていった。

 こうして龍園が全てをかき乱し、2年合同クラスで野球対抗戦が緊急開催されることになってしまったのだった。

 

 他ならぬオレのせいで。ごめんよ洋介……。

 

 そして諦めた俺達は一之瀬と相談しつつ条件がまとまる。

 

「帆波、新2年のADクラスとBCクラスで2日後に野球で対決。野球部員は参加不可。負けたチームが勝ったチームの代表者にプライベートポイント30万ptを支払う。相違ないな」

「そうですね。合ってます」

「下級生たちが『本気』で試合するんだ。当日、生徒会長として公平に審判をしてやるから安心しろよ。詳細が決まったからには長居するのも悪いだろ、もう行くぞ帆波。だってお前は──敵側だろ?」

「は、はい。じゃあ何か急な話になっちゃったけど……皆またね!」

 

 軽く手を振る一之瀬を連れて、さっさと退散する南雲パイセン。

 南雲め、さては図ったな。

 

 オレは綾小路くんの実力を探る南雲パイセンの罠の予感がした。

 

 こうして新2年生のADクラス VS BCクラスのクラス対抗野球が急遽開催される。

 

 オレはまず洋介やクラスメイトに謝り協力を仰ぎ、練習もそこそこに急いで交渉へと向かうのだった。




次回、交渉編
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