山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します!   作:あまざらし

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2年ADチームは『堀北チーム』
2年BCチームは『龍園チーム』


【2年生】春休みの緊急試合 その4

(Side: 綾小路清隆)

 

 試合の先攻、後攻はリーダーによって取り決められた。

 主審である南雲の指示でジャンケンに勝利した堀北率いるADチームが先攻を選択。

 

「綾小路も早くこっちに来いって!」

 

 試合直前。オレの打順は6番目だったので一足先にベンチで待機していると山内に声をかけられる。

 誰もベンチに移動しないことに少し違和感があったが、どうやらまだ外では参加メンバー全員が集合し、そして肩を組み大きな輪を形成していた。

 

 もしかしたらこれが『円陣』と呼ばれるものなのだろうか。

 当然、オレはこの輪の中に入るのは初めての経験だ。

 勝手が分からず、呆然と立ちすくむオレを見かねたのだろうか。

 

「ほら綾小路くんもここで一緒にやろっ」

 

 本日、マネージャーとして試合を見守る櫛田がオレの右肩を掴み、もう一方の空いたスペースは山内が埋める。

 

「あっ、桔梗ちゃんの隣とかずりぃぞ綾小路!」

 

 池に罵倒を浴びせられるも、山内がもう時間がないからと嗜める。

 その後、すぐに山内が皆に呼びかけた。

 

「時間もないし今日の原因を作ったオレが代表して声かけを……。まずは皆、今日は来てくれてありがとう! 全力で楽しむついでに折角だから絶対に勝とうな!」

「とか言って、今日負けたら春樹のポイントが無くなるからだろ~」

「うっさいぞ寛治!」

「あ、春樹くんそろそろ時間だって」

「すまん洋介」

 

 平田から軽い注意を受けた山内は、一呼吸の後、声を張り上げた。

 

「堀北チーム勝つぞ! さぁいこう!!」

「「「「オ──!!」」」」

 

 山内に組まれた左肩が僅かに力を受けて沈む。その気合に答えるように皆が呼応した。

 だがオレは掛け声のタイミングを完全に逃してしまい、皆と合わせることに失敗。一人無言のまま円陣を終える。

 その事実に軽くショックを受けていた。

 思えば池達が近頃実施された野球の世界大会の話で盛り上がっていたな。皆は共通の認識があったのだろうか。

 

 円陣というのは案外難しいんだな……。

 野球の試合に参加することになり、オレは早速だが新たな経験を得たのだった。

 

「こんにちは綾小路くん」

 オレが円陣で気合いの入った選手達を観察していると意外な人物から声がかかる。

 Aクラスのリーダー坂柳だ。

 

「坂柳、お前も今日はマネージャーなのか?」

「いえ。私はこの後、観客席で真澄さんと応援いたします。それにしても彼、山内春樹くんは興味深い方ですね。綾小路くんもそうは思いませんか?」

 

 試すような笑みを浮かべる坂柳から先ほど声出しをしていた山内の印象を求められた。

 山内春樹の印象か。

 他クラスからするとクラス内投票を経て山内は興味深く、あるいは警戒すべき生徒に映るのかもしれない。

 

「明るい奴だとは思うが。坂柳にはそう見えるのか?」

「そうですね。それこそ綾小路くん、あなたの次くらいには気になる生徒です。あなたとは異なる理由ですが。それでは他の目もあるので私はこれで」

 

 軽く会釈をして坂柳はゆっくりとその場を後にした。

 

 『山内春樹』

 

 確かに山内春樹は、今までのどの生徒にも該当しない興味深い人物だ。

 山内と接してから、間もなく1年にもなる。

 

 最近、オレは山内という生徒に対してある仮説を立てていた。

 

 それは多重人格、正式名称は解離性同一障害。

 この症例は簡単に言うならば、自己の中に2つ以上の人格が宿っている状態を指す。

 

 山内春樹は一学期とそれ以降、正確には無人島試験で気を失って以降。

 それ以前の人格が完全に表から姿を消し、もう一つの人格が顔を出した。

 オレはそう予想している。

 

 本人への確認は行っていない。こういった症例は慎重な対応が必要になると考えているからだ。

 

 それにどうやら山内自身は、周りからこう思われたいようだ。

 

『以前の状態の山内が努力することで成長した』と。

 

 だが一学期から山内と関わっていたオレには、それだけでは説明出来ない矛盾が目立つ。

 

 堀北はこのことに気付いた様子はなかった。

 しかし普通の人は誤魔化せても、他人の変化に機敏な人物。例えば櫛田桔梗ならば山内の変化に対して何かしら勘づいていると考えていい。

 

 多重人格は、人格により能力に差異が見られる症例もあるらしい。

 

 その例を証明するように新しい人格の山内は、以前とは比較出来ないほどクラスに貢献している。

 干支試験から始まり、学力試験の成績向上。クラス内投票では自らポイントを削ってクラスメイトを守ったことは記憶に新しい。オレもその恩恵にあずかった一人と言える。 

 目立たないながらも特筆すべき山内の貢献は、佐藤や池を初めとした成績下位の生徒の成績改善だろう。これはオレの想定を明らかに上回っている事象だ。

 だから山内の働きはクラスにとって喜ばしいこと。そう思える。

 

 だが問題はそこではない。

 オレは堀北鈴音、そして平田洋介を一瞥する。

 

 Dクラスのリーダーとなるべき2人の成長。

 山内春樹は『この二人』の成長を阻害している可能性。

 それが今のオレの懸念事項だ。

 

 堀北を強制的に今日の試合に参加させたことも、一つはそれを憂いてのこと。

 

 問題ないならば計画はそのまま進めることになる。

 しかし計画に支障をきたす場合。

 

 その時オレは──ある選択を迫られるだろう。 

 

 

 

 試合が開始され前半は投手戦となった。

 龍園チームの投手は石崎。そして堀北チームは山内だ。

 

 お互いの先発投手はタイプが異なる投手。

 山内を技巧派とするなら、石崎はスピード派だろう。

 

 堀北チームは石崎の球威のある直球に全く歯が立たず、初回は三者凡退に終わる。一方の龍園チームも不思議と慎重な打席が目立ったが、変化の大きい山内のボールには噛み合わず、同じく初回は無失点に。

 こうして打者が一巡する3回までは塁を出す場面もあったが、ゲッツーを挟んだりと守備で内野の活躍も目立ち両者無失点。

 お互い一歩も譲らない展開が続く。

 

 守備については、オレは足の速さを見込まれセンターポジションを守ることとなった。

 ホワイトルームでは野球のルールは知識として教わったが、実践の試合は未経験。

 

 昨日、スターティングメンバーを確定させた後、オレはフライを主体とした守備練習を初めて経験する。遠距離からのボールの落下地点の予測は、コツを掴む必要があったが次第に慣れていった。

 勿論、今日の試合で実際に経験しないと分からないことも多い。だが、ひとまずそれらしい形にはなったはずだ。

 

 展開が変わったのは4回表の堀北チーム。

 石崎のノビのあるストレートに苦戦している堀北チームだったが一巡したことで能力の高い生徒は慣れて適合し始めた。

 1番の平田がセンター前ヒットで出塁すると橋本が送りバントを成功させる。

 鬼頭は惜しい当たりでライトフライでアウトとなり2アウト3塁の場面。

 4番バッターの須藤健が爆発させた。

 

「やったぜオラッ! 鈴音、ちゃんと見てたか!」

「見ててあげたから、さっさと周ってきなさい」

「おう! へへっ、まずは2得点だぜっ」

 

 この日両チーム初となる得点は須藤の2ランホームラン。

 これにより堀北チームが2点を先制。その後、オレが三振に打ち取られ4回表の攻撃は終了する。

 

 

 だが4回裏の龍園チーム。

 今度は龍園チームが反撃の狼煙を上げた。

 

 トップバッターはBクラス所属の柴田だ。

 

「はやっ!」

 

 そんな山内の嘆き声も届かぬ速さで、走力自慢の柴田はセーフティバントを仕掛け一塁へ全力疾走する。

 山内達も事前情報で警戒はしていたが、相手がそれ以上の活躍を魅せる。

 セーフ判定の後、観客席で応援していた多数の女子から黄色い歓声が上がる。柴田は噂に違わぬ人気ぶりだ。

 一方の柴田はマネージャーとしてベンチで待機している一之瀬に向かって手を振っているようだったが。

 

 続く小宮はアウトとなるがその間、柴田が2塁へ進塁することに成功。

 

 この後が問題だった。

 1アウトランナー2塁というチャンスの場面で3番の龍園に打順が巡ってきた。

 

「あ、綾小路、危ないっ!」

「すまん池」

「いいってことよ。あ、やべっ早くボール返さないと!」

 

 5球目の際どい球を龍園は器用に打ち返し、センターレフトの中間方向に打球を飛ばす。

 そのボールを追いかけていた池とオレは危うく衝突しかけたのだ。それが送球の遅れにも繋がり、龍園チームは1点返す。

 

 その後も龍園チームは狙い目とばかりに、アルベルト、神崎と続けて外野に打球を強引に飛ばしエラーにも近いヒットが続く。

 

 本日何度目かのミスだったので、俺達は一度タイムを取って対策を練ることに。

 山内による発案で基本的に中間地点の打球はセンターに位置するオレがボールを捕る。そのサポートに明人と池は回ることになった。

 もしオレが無理な場合は、早めに池や明人に声を掛け合って連携し、お互いで捕球体勢を整えるという方針だ。

 

 結局、初めの連携不足が響く。この回、龍園チームに3点を許し逆転されてしまった。

 

「外野にボール飛ばして悪いな綾小路。でも最後はいい連携出来てたじゃん。その調子、その調子!」

「ああ、悪いな山内」

 

 投手は味方のエラーでストレスを受けやすいポジションだと言われている。

 だが目の前の山内は逆転されたことを気に留めた様子もなく、笑顔でオレに労いの言葉をかけていた。

 まるで平田やBクラスの生徒がよく行う気遣いのように。

 やはり一学期の山内とは全くの別人なんだな。

 

 

 そして4回を終了し、

 

 堀北チーム 2 - 3 龍園チーム

 

 

 4回表の勢いを考えれば、まだまだ堀北チームも逆転を狙えるだろう。

 

 だが堀北チームにはまだ表面化していない重大な問題を抱えている。

 きっと浮き彫りになるのは終盤戦のこと。

 

 それは山内春樹のスタミナ。

 

 このペースだと確実に山内のスタミナは9回まで持たない。

 

 それに……。

 

 オレはベンチからグラウンドを見据える。

 守備位置に向かって歩く龍園は何か企むような余裕な笑みを浮かべていた。

 まだまだ波乱の試合になるだろう。オレはそう確信していた。




一番書きたかったお話
綾小路くん、円陣と野球を体験する。

アンケートご協力ありがとうございました!
とても参考になりました。
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