山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します!   作:あまざらし

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2年ADチームは『堀北チーム』
2年BCチームは『龍園チーム』


【2年生】春休みの緊急試合 その5

 6回表 堀北チームの攻撃

 堀北チーム 2-3 龍園チーム

 

 5回は健を始めとした守備陣の好守が光り、無得点で終えて現在は6回の表。

 俺達の攻撃。

 

 といってもオレの打順だいぶ先。

 だから今はベンチに深く腰掛け、下を向いて息を整えていた。

 

 はあ、シンドイ……。

 

 開始直後と比較すると腕の疲れ、そして徐々に息使いが荒くなっていくことを自覚していた。

 

「お疲れさま~ やったね春樹くん! 皆で用意したんだけど飲み物いる?」

「飲む飲む。ありがたく貰うよ」

 

 麻耶から励ますように明るく声を掛けられる。

 今回のルールとして試合開始から最大20人まではベンチに出入り自由となっていた。

 だから今日は選手として出場予定は無いが、麻耶は櫛田と共にマネージャーとしてサポート役を買って出てくれたわけだ。

 

 やっぱ美少女が応援するとなればさ。

 男はほら単純だから、やる気出しちゃうでしょ。

 

 そう思ってオレはスタメンの様子を確認する。

 打席では本気モードの洋介。

 ネクストバッターズサークルで待機しているどこか捉えどころのない橋本。

 ベンチに目を向ければ何も感情を読み取れない綾小路くん。と、そんな彼と春休み中の出来事を話している明人くん。無言でグラブの手入れをしている鬼頭。

 

 そして櫛田にデレデレな寛治と、堀北先生の忠犬の健。

 

 あれ? 効果あるのってもしかして俺達三バカくらいなの? 

 

 麻耶からドリンクを受け取ったオレは不足した水分を補給したくてノンストップで飲み干す。どうやら全身が潤いを求めていたようだ。

 はあ、生き返るーって、もう疲労はだいぶピークに近いかもな……。

 

 飲み物を即座に空にしたオレを見て驚きながらも、麻耶はそっと近づき隣に腰掛けた。

 

「まだジュースいる?」

「いやもう大丈夫。ところでさ麻耶。ちょっと確認したい事があって」

 

 オレはある人物が今日の試合を観戦しているのか、小さな声で麻耶に確認する。

 

「えっなんで? でも確か……観客席で松下さんや篠原さん達と一緒に応援してたはずだよ」

 

 麻耶の返答でオレは微かなチャンスが垣間見えたからだろうか。

 疲れが軽くなったように錯覚した。

 

「おっホントに! その、悪いんだけどさ。ちょっと急ぎで麻耶に頼み事があって──」

「いいよ、マネージャだもん! 何だろ買い出しとか?」

 

 前のめりで承諾してくれた麻耶に詳細を説明する。

 彼女は一瞬の驚きのあと、普段の明るさを取り戻し、その瞳はいつもに増して煌めいていた。

 

「それじゃ時間もないし──私、行ってくるねっ!」

 

 麻耶は弾んだ声でそう言い残し、立ち上がってベンチを離れた。

 

 己の限界を感じ取ったオレは試合中盤の終わり。

 麻耶にある頼み事をすることにした。

 

 それは一つの賭けだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(Side: 橋本正義)

 

 6回表は1番の平田の打順から始まった。平田はセンターへの強いヒット性のあたりを放つも柴田によるファインプレイでアウト。

 

 そんで次は俺の番だ。

 打席に立ち1球目は見逃したが、石崎の球はだいたい把握出来た。

 確かに球速は速い。だがこっちに届くタイミングにそれほど差が、緩急があまりないんだよな。

 だから目が慣れてきた3打席目ともなると……。

 

『カンッ』

 

 結果はライト前にボールを綺麗に運んでヒット。

 俺は一塁ベースに到達した後、ヘルメットを外すついでに姫さんや真澄ちゃんが座る観客席に向かって挨拶をする。

 どうやら姫さんも俺を見守っててくれたらしく、俺に応えるように小さく手を振っていた。

 

 ま、これで最低限の仕事はしましたよね。

『姫さん』

 

 次に控える鬼頭や須藤も石崎の投球に慣れ始めた頃だろう。だからこのままゲームが進むなら案外ラクに追加点が取れるかもな。

 そんな甘い想定をしてたんだがな……。

 

「おいっ審判! ピッチャー交代だ!」 

 

 龍園が響き渡る声で投手交代を告げる。

 そして石崎に代わり投げるのは、龍園。

 

 龍園翔がマウンドに上がるみたいだ。

 厄介なことにアイツは試合のターニングポイントって奴を的確に捉えてるようだな。

 

 更に次の打席は鬼頭だ。

 鬼頭と龍園。犬猿の仲といっても差し支えない。

 だが俺の不安はすぐに杞憂に終わる。

 

 龍園は3番、4番の鬼頭と須藤に対して、明らかなボール球を投げ敬遠を選択する。どうやらアイツは満塁策を採用したらしい。

 

 それにしても龍園の投球フォームは独特だな。

 アンダースローってやつか。球速は確かに石崎よりも劣るが、弧を描くように腕をしならせ手首をスナップさせる独特な投球。先程2塁から観察した時、打者に届く直前でホップするように球が浮いてやがった。

 

 あれは俺もなかなか打ち崩せないかもしれないな。

 

「小宮、龍園は元々この回からピッチャー交代する予定だったのか?」

 3塁で守備をしている小宮に事前に龍園が投げる想定だったのか確認する。

 

「いや俺は何も聞いてない。そもそも投げられるなんて知らなかったしな。でもま、龍園さんならこれくらい出来ても不思議じゃないだろ」

「そうかい。でも対戦するこちらとしては面倒な相手だな」

 

 なるほど。龍園は誰にも相談はしてないようだな。

 

 プレイが始まったので走塁に集中していると、1アウト満塁で迎えた堀北の打席で事件が起こった。

 龍園の投げたボール。それがホップして堀北の肩付近に直撃したのだ。

 結果は誰が見ても明らかでデッドボール判定。

 

 堀北は痛みに顔をゆがめ、左肩を触りその場でうずくまる。

 激痛でしばらく立ち上がることができないようだった。

 

 問題はその後だ。

 

「おい龍園てめぇ! わざとだろ!」

「あぁ? 何いってんだ。避けねぇのが悪いんだろが」

「あんだとこらああああ」

 

 敬遠で一塁にいる須藤健が暴走した。

 ただベンチで待機していたDクラスの仲間はある想定してたのだろう。

 即座に山内、三宅そして平田が須藤を抑えて騒動を収める。櫛田や綾小路も既に堀北をサポートしているようだった。

 

「おい須藤、今回は警告だからな。次やったらお前は退場だ」

「は、はい。スンマセン」

 

 主審の南雲生徒会長に警告を受ける須藤。

 俺は他クラスではあるが須藤は堀北に惚れてる。これは単純明快だ。

 愛する人を傷つけられたお前の気持ち、理解出来なくもないが。野球のルールの範囲だしな、少し冷静になれよ須藤。

 俺は心の中でぼやく。

 

 死球によって押し出しの得点となる俺はホームベースを踏むと騒動から戻ってきた山内に声を掛けられた。

 

「ナイスヒット! 橋本のお陰で同点だな!」

「おっありがとな山内。でもお前はまだ投球大丈夫なのか?」

 

 そう。山内は5回を終えて体力を随分と消耗しているようだった。

 順調に進むならいいが。もし回が進み、投球数が増えるなら9回まで持つか怪しい。

 

「なに。ダメそうなら鬼頭に頼むさ。龍園を抑えたらな」

 

 山内は止まらぬ汗をタオルで拭きつつも、鬼頭に交代するつもりはなさそうだ。

 

 鬼頭ね……。確かに山内の言葉通り、昨日の練習で鬼頭はいい球を投げてはいた。しかし山内はアイツを龍園クラスに投げさせると乱闘になりそうだからと、先発ピッチャーを申し出たのだ。

 その指摘は間違ってない。

 鬼頭と龍園なら、きっと一悶着あるだろうからな。

 

「そうか。でも龍園の球は厄介そうだが大丈夫か?」

「確かにあの球は厄介だろうな。でもま、次の綾小路を見てからだな」

 

 龍園という強力なリリーフの登場で、この試合で勝つ見込みがあるのか。

 思わず山内に確認したくなって聞いてみたが予想外の答えだ。

 

 1死満塁のチャンスの場面で打席に立つ綾小路。

 山内はその綾小路を驚くほど期待した表情で応援しているのだから。

 

「綾小路って野球得意なのか?」

「あ、いや──多分、普通だと思うぞ」

「じゃあ、なんで綾小路を……?」

「……えっと、そうだな。ま、なんかアイツは運と逆境をモノにする奴っぽいからな。攻略の糸口になればって、そう思ったんだよ」

 

 俺が綾小路について追求しだすと、山内の返答は妙に不自然になり、戸惑いが見え隠れしていた。

 やはり綾小路には何かあるのか? 

 軽井沢の件もあるし、やっぱり興味深い奴だよな。綾小路は。

 

「ま、実際同点だが、このままだと劣勢かもな」

「かもなって……山内は勝ちたくないのか?」

 

 なにせ一番頑張ってるのは間違なくこの山内だ。

 池が間抜けにも情報を漏らしていたが、敗れた時のポイントだって山内の負担が大きいらしいからな。

 

「そりゃ勝ちたいさ。でも全力でやったって負ける時は負ける。そうだろ?」

「ああ、でも──」

「それに手は打ったさ。引ける確率は低い『切り札(ジョーカー)』だけどな」

 

 山内は俺を見て屈託なく笑った。

 確率は低いと言いつつ、まるで絶対にそのジョーカーって奴が裏切らない自信に満ちた表情をしていて。

 

 やっぱりな……。

 

 姫さまや他クラスのリーダー陣が山内を警戒したり、高く評価していることは俺だって気付いている。

 でも俺だったら。

 山内と同じ状況になり1000万pt以上のプライベートポイントを入手したら是が非でも使いっこない。必死に隠して2000万ptの足がかりにするだろう。

 

 そして最後、『必ず俺はAクラスで卒業してやる』

 

 なのにコイツときたら迷いなくクラスのためにポイントを吐き出したらしいじゃないか。

 

 だから思ったんだ。

 他人の裏切りを微塵も疑ってないように振る舞うコイツは……。

 

 やっぱり『嫌い』かもなってさ。

 

 山内の期待した通りなのかどうかは分からない。

 でも、綾小路の結果には驚いていたから想定外なのだろう。

 

 龍園は綾小路にもデッドボールを当てたのだ。ただ堀北とは異なり、当てられた綾小路は平然としていて周囲を驚かせていたが……。

 そして次の三宅が犠牲フライで更に1点を追加。こうして意外にも俺達のチームはこの回一挙に3点を獲得。

 

 その裏の龍園チームの攻撃でも続投した山内はアルベルトにホームランを打たれる。

 だが幸運にも無走者だったため、失点は最小限に防ぐことに成功した。

 

 続く7回は下位打線でお互いが0点。

 点差だけなら俺達のリードだ。だから優勢に見えなくもない。

 

 だが7回の守備を終えて山内はもう疲労を隠すことは出来ず、肩で息をしていた。

 

 そんな山内の姿を見て俺は思う。

 

 きっとコイツは苦手なタイプだ。

 一つも秘められた才能の片鱗すら見えてこない。

 

 もう底が知れててこれ以上の調査なんて無駄だ。

 そんなことは分かりきっているのに、どうして俺はコイツから目が離せないのだろう。

 

 

 7回終了時点

 

 堀北チーム 5-4 龍園チーム




次回で試合終了。

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1位:松下千秋
2位:山内にヒロインは不要
3位:佐藤麻耶
4位:椎名ひより
5位:坂柳有栖
6位:一之瀬帆波
7位:その他

35~43話で実施
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