山内くんに転生したのでBADEND回避を目指します!   作:あまざらし

6 / 46
【1年生】干支試験編 その3

 干支試験開始の翌日。

 

「健。そっちのグループのメンバー表見せてもらってもいいか?」

 初日のグループ集会を無難に乗り切ったオレは、

 空き時間に健と寛治のグループ表も念のため確認させてもらっていた。

 

「今回、春樹やる気満々だな! やっぱ、プライベートポイント50万ptは魅力的だよな~」

 寛治も50万ptの使い道をあれこれ妄想しているようだ。

 

 試験前、オレたちズッコケ三バカ組は空き時間に豪華客船中を探索しては、今どき小学生でもやらないバカなことを仕出かしていた。

 

 炎天下の海上クジラ探しゲームとかあまりにも不毛だったな。次の日には日焼けするしで散々だったが、それはそれで楽しめた。

 

 クラスや周りの評判が極端にマイナスにならない限り、オレも馬鹿なことも拒否しないで一緒に遊ぶ。

 何のしがらみのない友人関係も良いものだよな、オレはその時、童心に帰っていた。

 

 とはいえ特別試験も開始され、豪華客船で大方やりたいことも済んだ後だったので、

 こうして俺達も自室でくつろいでいるわけである。

 さて、

 

 牛グループ

 Aクラス:沢田恭美、清水直樹、西春香、吉田健太

 Bクラス:小橋夢、二宮唯、渡辺紀仁

 Cクラス:時任裕也、野村有事、矢島麻里子

 Dクラス:池寛治、佐倉愛里、須藤健、松下千秋

 

(えーと、2番目だからBクラスの小橋かな……)

 

「ひひひ、佐倉がいて春樹羨ましいだろー」

 気持ち悪い挑発をしながら近づいてくる寛治の言葉を受け、

 そういえば佐倉も一緒のグループだったけなと思い出す。

 

 ということは、このグループ途中終了するのか。

 試験結果は、記憶にないな……。

 

「わかったわかった! 羨ましいから、これ以上くっつくなって!」

 寛治を追いやりつつ、オレは念のため健に確認する。

 

「ちなみに二人共優待者じゃないよな」

「ああ、俺が優待者だったら、絶対バレずに50万ptゲットできたのによ―

 本当、運が無かったぜ!」

 

 そうは言うが健や寛治だったら、バレていた可能性が高そうだしこれでよかったなと思う。口には出さないが。

 

「春樹? それ教科書か?」

 寛治がテーブルにおいていた教科書を見つける。

「ああ、堀北先生に借りててな。ちょっと暇な時に軽く読んでた」

 

「鈴音の教科書だとっ!!」

 須藤健のやかましい声が部屋中に響き渡る。

 あっしまった……

 

「おいっ! 春樹! その教科書っ」

「駄目だぞ……。誰にも貸さないで今日返すって堀北先生との約束だしな」

 オレは健の願いを遮るように拒絶する。

 ちなみに嘘である。そんな約束はしてない。

 しかし健に貸したら面倒なことになるのだけは分かる。

 

「ちっ、まあ今は鈴音も忙しいだろうからな……。

 そうだ寛治。そろそろ昼の時間だよな。春樹も来いよ」

 健は少し気落ちしつつ、今を楽しむ選択をしたようだ。

 オレは教科書返却という予想外の外出をすることとなった。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 堀北先生に教科書を返却し部屋へ戻る途中。

 向かい側から知り合いがおどおどと歩いてきた。

 

 同じクラスの『佐倉愛里』だ。

 

 佐倉か。

 彼女は山内春樹にとっても、多少、縁のある子だったな。

 まぁ山内が告白してフラレただけの関係とも言えるが……。

 

 今のところ同じルートを歩む気はしないが、

 気になることもあったので、オレは佐倉に声をかける。

 まあ他人との会話が苦手な佐倉にとっては、拷問のような時間かもしれないが。

 

「なあ佐倉。悪いけど今ちょっと時間あるか?」

 オレは努めて明るく呼び止める。

 

 ビクッと震えその場で立ち止まる佐倉愛里。

 怯えた表情でコチラを見つめ、両足が小刻みに震えていた。

 いやすまんて。

 

 「は、はい……なんでしょう」

 しかし気弱な性格で断ることも出来なかったか、佐倉よ……。

 

 これ傍から見たら、訴えられかねないよな。

 彼女はもう捕食されそうな小動物にしか見えなかった。

 えっとー、佐倉をリラックスさせるには……。

 オレは彼女を持ち上げつつ、本題に移ることにした。

 

「佐倉、綾小路と仲いいだろ?」

「えっ! あ、綾小路くん?」

 戸惑いながらも声のトーンが若干上がる佐倉。仲がいいと言われて喜んでいるようである。

 ふっ、チョロいな佐倉。オレは何故か悲しかったが。

 

「そう。綾小路からオレ、山内のこと何か聞いてないか?」

「綾小路くんから? うーん、何か言いかけてたみたいだけど……」

 もう佐倉と会話してたのか。綾小路くん。

 

「ちなみに悪口とかじゃなかったか」

「う、うん。そんな感じじゃ、なかったと思うよ……ごめんね。その、ちゃんと聞いてなくて」

 

 謝らなくていいよ。知ってるから。

 綾小路くんがメアドの件、何もしないこと。

 ひとまず原作通りのようだ。

 

 それにしても佐倉か。

 山内春樹と佐倉愛里にはもう一つ共通点がある。

 悲しい共通点が。

 

 その事実が無意識に奥底に追いやった記憶を抉り、付け焼き刃なオレのおどけた演技は剥がれ落ちていた。

 

「なぁ佐倉。佐倉は、この学校好きか?」

 咄嗟にでた質問だった。

 

 もしかしたらオレが佐倉に一番確認したかったこと。

 本当はこれだったのかもしれない。

 

 突然の質問に彼女は一度、言いよどむ。

 意図を測りかねているようだった。

 

 でも引っ込み思案ではあるが、根は真面目なのだろう。

 少し間をおいて、佐倉はボソボソと語りだす。

 

「私ってほら、あんまりクラスに貢献できてない、よね……。

 でも最近ね。こんな私でも少しずつ頑張りたいって思えるようになったんだ。だからね。好き……かな。学校」

 

 自分の気持ちを他人に伝え慣れてないのだろう。一言紡ぐたびにチラリと不安そうにコチラの様子をうかがっていた。

 

 だから今の言葉。

 彼女にとっては大きな勇気が必要だったはずだ。

 言い終わり安堵したのか、佐倉には微かな笑みが零れていた。それがオレには尊く、魅了的に映る。

 

 でも。

 残念ながら、山内だけではない。

 目の前の佐倉もいずれ『退学』する運命なのだ。

 

 引っ込み思案の少女が自分の意見を言えること。

 残念ながら、”そんなこと”この学校では特段、評価されないのだ。

 

 原作のシーンが蘇る。

 

(クラスの中で、要らない子がいるとしたら……

 多分、それは私、なんじゃないかな……)

 

 そうだよな。当たり前だよな。

 ”みんな”この学校に残りたいよな。

 聞くまでもない。

 

 そう、オレは理解していた。

 この世界を楽しみたくて、今まで奥底に追いやった不都合な真実を。

 

 もしもオレ、山内春樹が追加特別試験の退学を回避出来たとして。

 

 ”その時は、誰かが代わりに退学してしまうことを……”

 

 あの日のDクラスは誰も退学する生徒を『助けられないこと』なんて、初めからオレは分かっていたのに。

 

 今更ながら感情が揺れ動く。

 

 2000万を……。

 いや、無理だ。だったらどうすればいいんだ。

 

「佐倉、オレも分かるよ。この学校、オレも好きだ」

 

 果たしてオレはうまく言えただろうか。

 視界は遠く、オレは彼女に焦点が合わせられなかった。

 質問してるのに失礼だよな。

 

「ありがとう、変なこと聞いてごめんな。それじゃあ」

 

 無理やりに笑顔を作ると、逃げるようにオレはその場を離れた。

 何の解決策も思いつかない、平凡な自分から逃げるように。

 




ターニングポイントとなるお話を書きたかった。
少し修正。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。