推しCP成立に特大の悲劇がダースで必要とかどうなってるの? 作:夢泉
1話 月と花と蟲と
仮面の男、シューライ。その男は泥の中で生まれた蟲である。
オネアス大陸にて最大の勢力を誇るフリュゲニア帝国。だが、その社会構造は未成熟極まりなく、弱者の苦しみの上にようやく成り立つ国だった。もっとも、時代や人間そのものが未成熟であり、世界そのものが犠牲前提で回っていたに過ぎないのだが。
帝国には貧民街と、その更に下に位置する「ゴミ溜め」が存在していた。
貧民はまだ「ヒト」として認識されている。平民と比べても遥かに劣悪な生活水準で、奇跡でも無ければ抜け出すことは出来ない地獄ではあるものの、それでも「ヒト」として見られているだけマシだった。
ところで、この当時を語る上で欠かせない事がある。それは、「アレと比べればマシだ」という思考こそが、社会体制を支える大きな柱の1つでもあった、という事実だ。
そう。貧民たちが「自分たちの下の存在」と疑いもなく思える存在。それこそが、「ゴミ溜め」に生きる人間以下の畜生。人々はそこに住まう…否、蠢く存在を「
シューライもラルヴの1人として生を受けた…という設定だ。俺はラルヴとして生きた経験なんて無いけれど、
過去や文書、人の記憶さえ改編して、
実際、思い出そうとすればシューライの人生を思い出せる。初めからシューライが存在したことが事実になっているのだから、俺もそれを覚えているのが当たり前なのだ。経験が無いのに知っているという感覚は奇妙だが、慣れるしかあるまい。
ともかく、だ。
シューライはラルヴとして生を受け、ゴミを食べ、ゴミを投げられ、浴びせられる暴力を日々の習慣とし、罵声を子守歌に眠って成長した。
その後はある宗教組織の暗部…の使い捨ての駒として生かされ、何度も死の危機に瀕しながら奇跡的に生き残り続けた。
もっとも、これを奇跡なんて美しい言葉で表現していいかは分からないが。最低最悪の生まれでロクな娯楽も知らずに育ち、周りが次々と使い潰され続ける中で生き残り続ける。しかも、殺人と、口にするのも憚られるような拷問とを日常の当たり前として、だ。
だが、これは「ゴミ溜め」で生まれたラルヴとしては、破格と言っていい程にマシな生き方だった。大抵は大人になる前に死ぬし、成長できても犯罪に手を染めて処刑…ではなく、「処分」される。或いは、下衆な貴族の「玩具」になるか、人々の娯楽のための「見世物」になるか。何にせよ、ロクな生き方など出来るはずもない。
そんな日々で、シューライの心は当然のように壊れかけ…そこで運命の出逢いを果たした。
◇◇◇
それは、三日月が美しい、ある夜のことだ。
シューライは自らが生まれた「ゴミ溜め」に立ち寄る。
何か目的があったわけじゃない。孝行する両親がいるわけでも、支え合う兄弟姉妹がいるわけでもない。知己は全てが僅かな
たまたま任務の人殺しを終えて帰っている途中だっただけ。
そこで、彼は見たのだ。
それこそが、少年―ナハトフェルテ・バル・フリュゲニア―と少女―ククリ―の出逢い。月夜の下、2羽の片翼の鳥が出逢った瞬間に他ならなかった。
蟲は花に恋をしたのではない。月と花が並び合う姿を尊いと感じたのだ。
汚らわしい現実ばかりを見てきた蟲は、生まれて初めて、心の底から「美しい」と思えるモノを見た。
「
その瞬間までは事実だった。自分も、自分の知己も結局は蟲にしかなれなかったから。
けれど、その夜、初めて花が咲いたのだ。
一般的な価値観に照らし合わせれば、美しい
泥まみれの花は決して美しくは無かった。「華」として不十分だった。
けれど。
第三者たる蟲の眼には、月も欠けていることが理解できた。
だから。
欠けた月と不十分な花がお互いに補い合う姿を蟲は幻視した。
繋がれた手を見れば、蟲でなくとも同じ光景を想い描いたことだろう。
それ程までに、少年と少女は運命の2人だったから。比翼の鳥だったから。
蟲は花の蜜を吸いたいのではない。
蟲は月の光に導かれたのではない。
ただ、蟲は月と花を守りたいと。
そう思っただけなのだ。
◇◇◇
以上が、「シューライ」の設定である。
というか、今目の前で2人の出逢いのシーンが繰り広げられている。
尊い…!ひたすらに尊い…!
推しが生きてる!動いてる!喋ってる!
幸せ過ぎる…!
この瞬間を異世界生活の最初にしてくれた篇に感謝せねば。
俺がカップリング「月繭」推しであることを知っていたからこそ、この瞬間をスタート地点にしてくれたのだろう。
やる気が漲ってくるぜ…!
さぁ、俺の異世界生活の始まりだ。
立った1つのカップリングを成立させる。2人を
そのためには、介入すれば回避できたかもしれない未来の悲劇だって見過ごす。
そのためには、他の誰が犠牲になろうとも見捨てる。
そのためには、
2人が一時的に悲劇に見舞われるのだとしても、その悲劇が2人の想いを育む。関係を近づけていく。
最終的に2人をくっつけてラブラブハッピーエンドにするためには、如何なる邪悪も許容しよう。
これは決して正義のヒーローの異世界ファンタジーではないだろう。
俺は善なる存在ではないのだろう。
それでも。
あのカップリングを成立させるために。
さぁ、俺の戦いを始めよう。
連載開始しました。
別の連載もしているのでゆっくりにはなりますが、更新頑張っていきます。
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