推しCP成立に特大の悲劇がダースで必要とかどうなってるの?   作:夢泉

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3話 暗躍開始

「さて、と。じゃあ最初の大仕事、しちゃいますかね」

 

 ナハトフェルテの破滅の運命。それを決定づけた転機の1つは、肉親を殺めたこと。

 そもそも、なぜ皇子であるナハトフェルテが「ゴミ溜め」でククリと出逢ったのか。

 それは、彼が秘密裏に「処分」されそうだったからだ。

 端的に言えば、皇位継承者争いだな。僅か10歳のナハトフェルテは、たった独りで治安のカケラもない地獄に放り捨てられた。

 皇宮で皇子が死ねば面倒なことになる。けれど、「勝手に遊びに出た」皇子が、陰謀なんて関係ない「物取り」に殺されたとしたら?

 「ゴミ溜め」はラルヴが適当に集めた廃棄物の山が迷路を形成しており、住んでいるラルヴですら全容は把握していない。皇宮育ちの皇子が安全に抜け出し、生きて帰りつくというのは現実味が無いことだった。

 しかし、ナハトフェルテは死ななかった。まさしく王の器であった彼は、見事に生き延び、帰還を果たす。

 

 その日、「貧民街の視察」に同行することとなったナハトは、突如として意識を失った。付き人に裏切られ、暗示の魔法をかけられたのだ。

 彼とて裏切りや魔術には過剰とも言える警戒をしていたが、その隙を巧みに突いた見事な手際であった。

 そして、暗示の効果でナハトの足は勝手に「ゴミ溜め」へと向かう。

 意識が覚めて直ぐ、彼は自分が「ゴミ溜め」にいることを把握した。それが陰謀によるもので、誰によるものかまで理解した。

 すると、彼は初めに、自らが身に纏っている装飾品を剥ぎとる。唯一、王家の者であることを示す宝石だけは躊躇いなく飲み込んだ。それ以外を剥ぎとって、服を汚し、みすぼらしい格好になった。

 そして次に、彼は装飾品を「ゴミ溜め」の様々な場所に投げた。姿を見られないように隠れながら、1つずつ投げていく。

 すると、どうなるか?ラルヴが群がる。彼らにとって宝石は価値のないものだが、上手く扱えば食料を入手することができる、ということくらいは知っていたからだ。

 彼はその様子を観察した。全てを投げ終えるまで、ずっと観察していた。

 そして見つけたのだ。ククリを。自らの生存に最適な条件を満たした「駒」を。

 

 金銀財宝に群がったラルヴ。コイツらは論外。裏切る可能性が高い。

 目先の利益に釣られる者は扱いやすい…というのは、十分な対価を持っている場合に限る。

 作戦の都合上、自らが「王族」だという事は明かす必要がある。当然、それを証明する手段として「指輪」があることも。そうでなければ、危険極まりない王城への道行に協力する者などいないからだ。

 しかし。

 ナハトフェルテを殺して骸を献上することで褒美を得ようとしたら?

 敵対派閥に買収されて寝返ったら?

 第一に、十分な損得勘定も行わず、とりあえずナハトフェルテを殺して腹の中の指輪を奪おうとしたら?

 裏切る理由は幾らでも考えつくのに、裏切らない理由が見当たらない。

 それが、投げた装飾品に一目散に飛びついたラルヴだ。

 

 では、次に。

 装飾品に目もくれず、動かなかったラルヴ。

 これは要するに、全てに絶望して心が壊れた者たちだ。

 言葉巧みに希望を見せて操ることは出来るかもしれない。絶望しきった存在に希望を信じさせるのは手間だが、不可能じゃない。

 しかし。

 そんな存在がまともな戦力になるのか?

 そもそも、痩せ細ってロクな戦闘経験も武器もないラルヴ。当然、魔術も魔法も使えず、大した戦力にならないのが道理。

 これに加えて、絶望で生きる活力すら失っていたら?盾にすらならない足手まといだ。

 

 ならば、どんな存在をナハトフェルテは求めたのか?

 簡単だ。投げ込まれた宝石を認識次第、直ぐに逃げ出した者。

 何の脈絡もなく、唐突に「ゴミ溜め」に投げ込まれた宝石。それを警戒し、距離を取った存在。

 

 その警戒心と判断力をこそ、ナハトフェルテは求めた。

 そして、ククリはその条件を唯一満たしたのだ。

 

 故に、ナハトフェルテはククリに契約を持ちかけた。

 ナハトフェルテが皇帝となる助けをする換わりに、ククリは地獄から抜け出す機会を得る。そういう契約だ。

 

 その後、ナハトフェルテはククリの案内で安全に「ゴミ溜め」を抜け出し、そのまま皇宮へと辿り着く。

 そして、自らを抹殺しようとした姉を…殺した。

 

 ナハトフェルテは腹違いの姉、「ミラムナート・シン・フリュゲニア」を嫌ってなどいなかった。とても好いていたくらいだ。

 けれど、生かしておくわけにはいかなかった。

 殺されかけた恨みではない。彼にとって暗殺も陰謀も、殺し殺されが「普通」の事であった。恨みなど欠片も無い。むしろ、常に暗殺に警戒していた自分を上手く嵌めたものだと、関心すらしていた。

 

 ただ、殺すことに意味があった。

 自分を貶めようとした者の末路。それを知らしめることにこそ大きな意味がある。恐怖は何よりも人の行動を縛る感情だから。

 故に彼は肉親を殺めてしまう。そして、それは彼を引き返せない道へと進ませていく。「肉親の命すら奪った自分」は「引き返すことが出来ない」と強く思うようになる。

 

 これは重要な介入ポイントだろう。

 殺人を止めるわけじゃ無い。或いは、正義の主人公サマなら殺人を未然に防ぐかもしれないが、それでは推しCPが結ばれない。

 この時に「姉を殺してしまった」という事実は、確実にナハトフェルテの心を苛むからだ。いくら覚悟をしていようとも。その手で実際に肉親を殺した事実は重すぎる。

 そんな罪の意識で弱っていく心を支える存在こそがククリであり、2人の仲を深めるためにも、この悲劇を無かったことには出来ないのだ。現時点のナハトはククリのことを手駒…いや、それ以下の使い捨ての道具としか思っていないしな。

 では、どうやって介入するのか。

 

 さぁ、俺の暗躍をご照覧あれ…ってね。

 

 

◇◇◇

 

 

「姉上。俺を亡き者にしようとしたのは貴女ですね」

「どうして…!あの方法なら確実に始末できるって…!」

 

 ナハトとククリの運命の邂逅から丸一日。再びの夜。

 未だ皇宮にナハトは帰還していない…ことになっている。

 彼は皇宮に到着しても自らの生存を明らかにせず、真っ先に姉の部屋へと向かった。

 昔よく遊びに来ていた部屋だから、侵入は容易だったのだろう。

 

「…まぁ、そうでしょうね。王家の者が「ゴミ溜め」の地理など知るわけがない。そして、ラルヴは人殺しだろうと躊躇しない。実際、見事だとは思いました」

「だったら…!」

 

 杜撰に見える計画だが、生存率はゼロに近い。

 ナハトが生きていられたのは、暗殺に備えて日頃から暗示魔術を自分に何度も掛け、耐性を付けていたから。

 その後も彼の機転が無ければ絶対に死んでいた。

 しかも、一見杜撰に見えるところが暗殺としては高評価だったりする。そんな杜撰な計画を実行に移すわけがない、と考えられるからだ。

 絶対に殺せる計画、というのも決して誇張ではない。

 ただ、相手が悪かった。

 

「あの程度の苦難を乗り越える覚悟もなく、王を目指すなど公言していない」

 

 少年はいずれ王となる男。

 100人中100人を殺せる計画だったとしても、彼を殺すには至らない。普通の枠には決して収まらない英雄の器。

 規格外過ぎて、有象無象の「100人」の内になど入ってはいないのだから。

 望んだ結果を引き寄せる判断力と行動力。そして、奇跡を引き寄せる天運。暗示があのタイミングで解けたのも、ククリという人材を見つけたことも、正しく天運としか表現できないものだった。

 

「…どうして。ねぇ、どうしてナハト?どうして、王になるなんて言い始めたの…!」

 

 ナハトフェルテとミラムナート。2人は本当に仲が良かった。

 その関係性が決定的に崩れたのは、ナハトが王を目指すと宣言した日。

 別の皇子の派閥に属していたミラムからすれば、彼は裏切ったと思えたことだろう。

 幾つものすれ違いを経て、仲睦まじかった姉弟は道を違えた。

 かつて笑い合いながらボードゲームを指した腕は、今やお互いの命をチップに政争に興じるまでになってしまったのだ。

 だが。

 例え、この結末を知っていたとしても。幼き日のナハトは「王を目指す」と口にしただろう。

 何故ならば。

 

「この世界を先へ進めるためですよ」

「先に…進める…?」

「そうです。我らが帝国は、この大陸は、ヒトの社会は、常に先へと進み続けています。ヒトは知性を確立して後、止まることなく歩み続けてきました。昔も、今も、これからも」

 

 ナハトフェルテという少年は、視点からして常人とは異なっている。彼の視るもの、感じるもの、考えること、その全てが「人類」という巨大すぎる価値観に基づく。

 

「だが、その速度は確実に遅くなっています。分かりませんか、姉上。世界は、人類は停滞している。不完全な社会、仮初の平穏、未成熟な体制、それらに満足して歩みを止めようとしています」

「何を、言っているの…?」

 

 彼が言っているのは現在劣悪な環境にあるラルヴや貧民…()()()()。それらは()()()()()()()()だ。

 いずれラルヴなんて被差別階級が必要と無くなる社会にしてみせると彼は考えている。そこに偽りは無い。だが、それを最短最速で為すためであれば、最善の道である必要は無いと考えているのもまた事実。

 未来で被差別階級を無くすために、彼は差別をするだろう。

 未来で無為な戦争を無くすために、彼は戦争をするだろう。

 彼の覇道は大量虐殺も許容する。それが人類を先へと進めると確信したのであれば。必ず。

 何故ならば。

 

「全ては俺が先に進むため」

 

 全ては人類(ナハト)が先に進むために必要だから。

 断っておくが、彼は発展の奴隷ではない。世界の人柱でもない。

 人々の為や世界の為に先を目指しているのでは無いのだ。

 単純に、人類が先へ進むこと=彼が先へ歩むこと、なのである。

 根底からして価値観が違う。見えている世界が違い過ぎる。

 

「俺は見えたモノを諦めたくありません。見えたのなら、届くはず。己の全てを懸けて挑み続ければ必ず。見えているのに歩みを止めるのは、俺の死を意味しています」

 

 現代日本で歴史を学ぶように。彼はいずれ人類が到達する遥かな未来から今を逆算して見ている。

 

「俺は見ているのです、未来を。この国が、ヒトが辿り着く場所の景色を」

 

 真実、彼の目には見えているのだ。人類がいずれ到達する未来の光景が。そこに最速で辿り着くために為すべきことが。

 

「見えてしまった。なら、進むしかないでしょう?俺は生きているのですから」

「意味が分からないわ!何を言っているのよ、ナハト!」

「さようなら、姉上。貴女の笑顔が好きでした。けれど、俺の道を阻む障壁は打ち破らねばならないのです」

「ナハト!きゃああああああああ!」

 

 ナハトは姉を…ミラムナート・シン・フリュゲニアを突き落とした。

 彼女の部屋の真下は王家の者が息を休める美しい庭園だ。

 そこに彼女を突き落とす。皇宮に住まう全ての者に己の覚悟と、歯向かった者の末路を知らしめるために。

 

 ――さぁ、介入だ。

 

 

◇◇◇

 

 

「ここ、は…?私は、落とされて…ナハトに…それで…」

「お目覚めですか、ミラムナート・シン・フリュゲニア様?」

「誰…!」

「俺はシューライ。この教会の神父をしている者です」

「神父…?教会…?」

 

 あの後、篇の創り出した影で落ちていく彼女を強奪。

 全く別の死体…この教会の前任の神父によって殺された少女とすり替えてきた。

 真っ暗な夜に真っ黒の影が蠢いていても、ナハトもククリも気付かなかっただろう。

 そもそも、篇の影は元を辿れば「改編」の能力の副産物。故に、これを繕わせることで対象の姿を変貌させることが出来る。

 ちなみに、俺がこの教会の神父に収まっているのも同様の手順だ。人前に出る時は影を繕って俺の姿を神父に見せている。

 「改編」自体が制限の多い力なので、親しい者が見れば直ぐに看破可能で、纏っている影が撃破されれば一瞬で解ける杜撰な物でしかない。

 それでも、あの高さから落ちた死体なんて見分けのつかない悲惨な状況になってしまうし、看破されることは無いだろう。

 

「はっ!服が…!貴様、私に一体何を…!」

「あぁ、安心してください。それは俺ではなく、女手にやって貰いましたから」

「は、はい!アタシがさせていただくまして…!すみませ…です!」

 

 ここで、俺の背後にいた灰色の髪の少女…ニドが下手糞な言葉で発言する。ラルヴなので敬語なんて知らないから、仕方ない面は大きい。むしろ、ここまでよく覚えたものだ。

 神父が身体を壊して手伝いを雇った…という体にして、毎日礼拝に訪れる信者の相手をさせていた甲斐があったというもの。

 彼女は教会に囚われていたラルヴの1人。今後の計画のために1人は女手が必要だと判断して、手元に置いている。

 ニドにミラムの服を着替えさせ、脱がせた服は死体に着せてきたのだ。これで万が一にも入れ替えが露見することは無い。

 

「貴様の目的は何だ!私に何をさせるつもりだ!」

「話が早くて助かります。とはいえ、何もしてもらうつもりは無いのです」

「…は?」

「貴女はここに住んでもらいます。食事を食べて寝て、それで十分。外出さえしないで頂ければ、何の危険も無い事をお約束しましょう」

「何を言って…」

「詳しいことは後程。落ち着いてからゆっくりと話しましょう。今はとりあえず、朝ご飯でも如何ですか?」

 

 彼女が生きていること。必要な事実はそれだけだ。

 これで、姉を殺したというナハトの認識は変わらないまま、世界の事実だけは「改編」された。

 悲劇はそのままに、ハッピーエンドの欠片を集め続ける。

 「シューライ」が為すべきは徹頭徹尾それだけなのだ。

 もっとも、今回は特別に簡単だったが、今後はこうはいかない。主要キャラたちが激戦を繰り広げる中でも同じことを為さねばならず、しかも1度のミスも許されない。

 それでも。

 進もう。推しCPを成立させるために。

 

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