推しCP成立に特大の悲劇がダースで必要とかどうなってるの? 作:夢泉
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その男、シューライは奇妙極まりない男だった。
そもそも、仮面を付けた男というだけで信用など欠片も出来ないわけだが。
それはそれとして。女を攫ってきた男。しかし、色欲などの欲望の欠片も目線には見受けられず。私を通して全く別の何かを見ているようですらあった。
しかし、それで安心など出来る筈も無く。むしろ疑念は深まる。それは、奴が「別の死体と入れ替えてきた」との顛末を語った時点で取り返しのつかない程に深まった。
そんな人道に反するような事を躊躇なく選択するなど、マトモな精神状態ではない。……弟を罠に嵌めて殺そうとした女が言えた台詞ではない、か。
「……つまり、何か?お前はナハトと、そのラルヴの少女を幸せにしたいがために、私を救ったと?」
「はい」
そして。彼が語った「目的」は、その弟ナハトフェルテに関する事であった。
あの日、男は「ゴミ溜め」でククリなる少女とナハトが共にいる姿に「運命」を見出したと言う。それで、2人を幸せにするべく陰ながら見守っていた。
すると、ナハトが姉を殺そうとしていたので、それは駄目だと私を強奪した、と。
「何だ、ソレは。全く意味が分からない」
「そうですかね?肉親を殺してしまった記憶なんて不幸以外の何物でもないでしょう?」
「ならば、何故、私をここに軟禁する。さっさと王宮に帰せばよかろう」
「いやいや。そんな事したら、貴女が彼を殺すか、彼が貴女を殺すかでバットエンド直行でしょうに」
成程、一理ある。道化のように振舞うくせに、ある程度の理性と知識を持っている。なおさら信用ならない存在だ。
しかし。ここまで怪しさ全開だと、かえって安心感が出て来てしまうのは何故だろうか。
「はっ。一度殺し合った姉弟が「幸せ」になれる日など、共に笑い合える日など来るはずがあるまい」
……だからだろうか。こんな事を口走ってしまうのは。
まるで。私という人間がどんな存在なのか、それを全て見透かされ、丸裸にされているようですらある。
その上で言葉を誘導されているような気さえするが、それを不思議と不快に感じない。
「神父」というのだけは、強ち嘘では無いのかもしれないな。
「そういう言葉が出る時点で、貴女だって彼と昔のように笑い合いたいのでしょう?」
「……無理だ。ナハトが王になると宣言した時点で、私たち姉弟の道は完全に違えた。もはや交わることなど無い」
かつてナハトと共にボードゲームをしながら笑いあった光景が頭に浮かぶ。
あの時は幸せだった。血みどろの政争や権力争い、偽りの笑顔に言葉。後ろ暗く醜悪な全てを知らず、無邪気に笑い合うことが出来ていた。
だが、時は決して戻らない。
「それが、そうでもないのですよ」
「何だと?」
「この大陸は間もなく動乱の時代に突入します。それこそ、貴女が加担した弟殺害計画が完全に霞むほどの悲劇の時代です。その動乱は、分かたれた姉弟の道すら捻じ曲げて重ならせてしまうでしょう」
「その根拠は?」
「それこそ愚問ですね」
そこで、仮面の男は一度言葉を区切ると。
絶対的な確信と、溢れんばかりの愛に満ちた声音で言った。
「王が動き出したのです。世界は変わりますよ」
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「――さて、これで王宮内での安全は一先ず確保したな」
「ナハト。コイツ、どうすれば良い?」
「暗殺者か。見せしめに……いや、もっと有効的な使い道があるな。折角の命だ、無駄には出来ない。俺の覇道の礎となってもらおう」
「……私は、難しい事は、分からない。けど。「家族」は大切なモノ。それくらい、分かる。それを捨ててまで、ナハトは進むの?」
「それこそ愚問だ。切り捨てたからこそ進まねばならない。俺が折れれば、その犠牲に意味がなかったことになってしまう」
「そう」
「……お前は自分が切り捨てられると不安にはならないのか?」
「切り捨てるの?」
「……現状、お前にそれ程の価値は無い。ラルヴ一人の命を捧げても、俺の道行の足しにはならないだろう」
「……?良く分からないけど、早くご飯。お腹、減った」
「本当に、お前は……」
「なに?」
「なんでもないさ。腕によりをかけて作ってやる」
「ナハトが、つくるの?」
「他者が作った食事など食えるか。毒が混入している可能性が大きすぎる」
「そうなんだ。ま、何でも良いよ。食べれれば」
「ふっ。絶対に驚かせてやろう。美食というものを教えてやる」
少年と少女を中心として。
動乱の時代は直ぐそこまで迫っていた。
遅くなって申し訳ないです。