場所を教えてもらった俺は、できる限り装備を外した状態で迷宮区を駆けずり回っていた。
(これ以上キリトに背負わせたくない!)
そう思いながら、走る。
そうしてそれらしき声が聞こえた。
ーー待てっ!!」
その声の方向へ一気に走る。が、声がしたであろう部屋に飛び込んだ瞬間、目の前で、扉がしまった。
「なっ………!」
その衝撃で、俺は弾き飛ばされる。
「っ!」
ーーー俺の目の前には、無慈悲にも閉じられた扉が、あった。
「嘘……だろ?」
ーーー待て。落ち着け。
(まだ、壊滅するって決まったわけじゃない。俺がいることで変わることがあるかもしれない)
そんな儚い希望に縋り、俺は扉が開くのを今か今かと待った。
数分後、中から出てきたのはーーーキリトだけだった。
「キリ……」
その言葉は途中で遮られた。
ーーーーその
騎士に言われたセリフを思い出す。
「ーーーー汝にさらなる試練を」
これが試練。間に合わなかった俺に与えられた
ーーーーーーーーーー
それがあった日から俺はキリトに連絡する事も出来ず、ただ時間だけが過ぎていった。
攻略組から失踪していた二ヶ月間の事を聞かれたが、前線から少し離れたかったと適当な事を言って誤魔化した。
あの騎士は強すぎる、何より、あの場所への行き方を俺は知らない。
しかもこの短剣は性能があまりにも高い。
攻撃力こそ他の短剣より少し高い程度だが、装備しているだけで
この短剣を求めたばかりに新たな死者が出ないようにしたかった。
そうしてキリトと話すことも無いまま、時は過ぎていき、気づけば十二月、そう、"十二月"だ。
モミの木の下での戦闘を控えた俺は、キリトを探し回っていた。
というのも、俺はキリトが何層で戦ったのかを覚えていなかった。そのため、アルゴから位置の情報を買おうとしたが、キリトは莫大なコルで口止めをしているようで情報を教えてくれなかった。
「どうしてもなのか?」
「オレッちとしては教えてやりたいんだけどナ。でも、あんな顔で言われちゃあ、ナ」
「アイツが死のうとしてても、か?」
それを聞いたアルゴの表情が変わる。が、
「……………」
ーーーダメか。
諦めた俺は、またキリトを探しに行こうとした。
「ハル坊!」
「?」
「キリトは三十五層の情報を知りたがってる!」
(素直じゃないな)
そう思いながら、来るクリスマスに備え俺はレベリングをすることにした。
ーーーーーーーーーーーーー
十二月二十四日。俺は三十五層の《迷いの森》へ来ていた。
(デカいモミの木が見えるのに辿り着けないっ!)
俺は背教者ニコラスが現れるモミの木へと向かっているのになかなかたどり着けないでいた。
というのも《迷いの森》はその名の通り、迷うようにギミックが仕込まれている。
ギミックはフィールドが無数の四角いエリアに区切られており、それぞれを結ぶポイントがランダムで入れ替わるというモノだ。
(なんでマップを買わなかったんだ俺は!)
マップがあればそれなりに楽なのだが、入手先がこの迷いの森だけで手に入る限定アイテムな上に、マップがある宝箱もランダムな為、昨日までの探索では見つからなかったのである。(運悪っ)
(こんなことなら、高くついても情報屋から買うべきだった)
遅すぎる後悔をしていると、遠くから剣戟音が聞こえてくる。
(もしかして、クラインか!?)
そう、あたりをつけ音の方へ一気に走る。
ーーーーーいた。
風林火山と聖竜連合が戦っている。
「クライン!」
「ハル!?」
クラインが驚愕の表情を浮かべた後、すぐに気を取り直し、叫んだ。
「キリトが奥のボスと戦りあってる!頼む!」
「任せろ!」
そう言うと、俺は一息にボスへのワープゲートに飛び込んだ。
視界が切り替わるや否や目の前に体力数ドットのキリトに振り下ろされる斧を見る。
「ふっ!」
瞬時に剣を抜き、ソードスキルの構えを取る。
(騎士ほど重くはないな)
そう考えていると、後ろから声がかかる。
「ハル?」
声に反応して後ろを見ると、唖然とした表情のキリトがいた。
「………話は後だ、とりあえず倒すぞ」
「それじゃあ……駄目なんだよ。」
「ドロップアイテムはお前にやる。だからやるぞ」
「………」
その言葉を聞いて、キリトが無言で立ち上がる。
それを肯定と見た俺は、
ーーーさて、仕切り直しだ。
サンタのおぞましい叫びを合図に、俺とキリトは飛び出した。
戦いは十数分で終わりを告げ、剣を収めると同時に、大きな破砕音と共に《背教者ニコラス》は砕け散った。
ウィンドウを開きアイテム新規入手欄を確認する。多くのアイテムの中に《還魂の聖晶石》がないのを見るに、キリトのアイテムポーチに流れたらしい。
「サチ……サチ……」
無意識なのだろう。
「うああ……あああああ………」
《還魂の聖晶石》の文章を読んだキリトから獣のような叫び声が漏れる。
「あああ…………ああああああ!!!」
絶叫しながら何度もブーツでアイテムを踏みつけるキリトを俺は止める。
「やめろ!キリト!」
「うるさい!」
「そんなことをしてもなんにも変わらない!」
ーーーどの口が言うんだか。死んだのは俺のせいなのに。そう自虐的に思いながら、キリトを止め続ける。
数分後、動きが収まったキリトの脇の間から腕を抜くと、キリトが俺に話しかける。
「殺してくれ、ハル」
本来なら口に出なかったはずの本心。それを聞いた俺が出来ることなどひとつしかない。
「殺さない」
「どうして!」
「俺も、黒猫団の連中も、お前に死んで欲しいなんて思わないからだ」
「なん、で」
――――分かるんだ。そう言おうとしたであろうキリトに続けて語りかける。
「二ヶ月間とはいえ、一緒にいた黒猫団の連中はそんなことを言うと思うのか?」
「当たり前だろ、俺のせいで死んだんだから!」
「お前のせいではあるだろう」
「ならっ……」
「でも、その事で今生きているお前に恨み言を吐くような奴らじゃないっていうのはお前が一番分かってる。そうだろ?」
「っ…………なら、どうすればいいんだよ!」
「生きろ」
「生きて、覚え続けろ」
「そんな権利、俺にはない!」
「あるさ。それが死者へのせめてもの手向けだ」
その言葉を聞いて、キリトは押し黙る。
「俺は帰る」
一言そう言って俺は去ろうとする。
「待ってくれ」
「?」
「これをお前に」
そう言ってキリトが《還魂の聖晶石》を投げ渡す。
「いいのか?」
「ああ」
「そうか、わかった」
そう言って俺はワープゲートからフィールドへ戻ると、戦いを終え、疲れきった様子のクラインがいた。
「ハル!キリトは!」
「さぁな、でも、多分大丈夫だろ、俺は先に帰るよ」
(後は、サチさんの遺言に任せることにしよう)
そう思いながら俺は《迷いの森》を後にした。
ちなみにこの後、めちゃくちゃ迷った。