先を知るだけの男   作:emiya halucon

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タイタンズハンド

起床アラームにより起きた俺は、キリトの部屋へ赴き、ノックする。すると慌てたような声が聞こえ、扉が開いた。

 

「ど……どうぞ」

 

シリカが扉を開いたようで、俺のノックにより起きたであろうキリトに開口一番、

 

「昨晩はお楽しみでしたね」

 

「違う!」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

一階に降り、四十七層《思い出の丘》挑戦に向けてしっかりと朝食を取り外に出ると、明るい陽光が街を包んでいた。

視界にはこれから冒険に出かける昼型プレイヤーと深夜の狩りから戻ってきた夜型プレイヤーが対照的な表情で行き交っている。

隣の道具屋でポーション類の補充を済ませ、俺たちはゲート広場へ向かった。

ありがたい事に昨日の勧誘組(やばい大人たち)とは出会わず転移門に到着した。

シリカが転移先の街の名前を知らず、手間取りかけたが、キリト(人たらし)が手を握り、一緒に転送されて行った。

 

ーーーあの人たらしは何人侍らせれば気が済むんだ?

 

そんな事を思いながら俺も転送された。

 

転送されると、キリトがシリカに四十七層の解説をしていた。

 

「この層は通称《フラワーガーデン》って呼ばれてて、街だけじゃなくフロア全体が花だらけなんだ。時間があったら、北の端にある《巨大花の森》にも行けるんだけどな」

 

「それはまたのお楽しみにします」

 

シリカはそう言い、周りの花を見たあと、立ち上がって改めて周囲を見回してここがデートスポットであることに気づいた様で、顔が少し赤くなっていた。

 

「さ……さぁ、フィールドに行きましょう!」

 

顔の赤さを、誤魔化して元気よくシリカが仕切り直し、俺たちはゲート広場を出た。

道を歩いているとシリカが口を開いた

 

「あの……キリトさん。妹さんのこと、聞いていいですか……?」

 

「ど、どうしたんだい急に」

 

「あたしに似てる、って言ったじゃないですか。それで、気になっちゃって」

 

「なるほど、そうやって口説いたのな」

 

「口説いてない!……話を戻すが、まぁ、仲はあんまり良くなかったな」

 

「妹って言ったけど、ほんとは従妹なんだ。ーーー」

 

キリトの話を俺たちは黙って聞いていた。

 

「ーー好きじゃないのに頑張れることなんかありませんよ。きっと、剣道、ほんとに好きなんですよ」

 

シリカがキリトのことを慰め、ようやく冒険開始と言ったところだ。にしても、

 

「年下に慰められる全身真っ黒の不審者か……」

 

「ほっといてくれ!」

 

いつものようなやり取りをしながら数分後。

 

目の前には触〇プレイをされているシリカがいた。

 

「きっ、キリトさんハルさん助けて!見ないで助けて!!」

 

「そ、それはちょっと無理だよ」

 

「まぁ頑張れ」

 

俺とキリトが視界を塞ぎながら言うと、俺たちが加勢する気がないとわかったのだろう、巨大な花のようなモンスターに怒りをぶつける声が聞こえた。

 

「こ、この……いい加減に、しろ!」

 

破砕音が聞こえたので俺は視界をおおっていた手をどける。

 

「……見ました?」

 

「「……見てない」」

 

そんな戦闘(面白シーン)を見たあとも五回ほど戦闘したところで、シリカがようやくモンスターの姿にも慣れ、俺たちは順調に進んでいった。

赤レンガの街道をひたすら進むと小川にかかった小さな橋があり、その向こうに一際小高い丘が見えた。道はその丘の頂上まで続いているようだ。

 

「あれが《思い出の丘》だよ」

 

「見たとこ、分かれ道はないみたいですね?」

 

「ああ、ただ登るだけだから道に迷うことは無いけど、モンスターの量は相当らしいな。気を引き締めていこう」

 

「はい!」

 

「おけ」

 

「お前は余裕だろ」

 

「バレたか」

 

そんな会話をしつつ、大して苦戦せずに頂上へとたどり着いた。

 

「うわあ………!」

 

シリカが歓声を上げる。

 

(やっと着いたな)

 

シリカがあるはずの花がないと叫んでいたが、少しづつ芽が伸びたのを見て、その声は消える。

息を詰めて知っている俺ですら咲く様子を見守っていた。

咲ききったそれにシリカが手を伸ばし、茎に触れるとその茎が砕け、光る花だけがシリカの手に残った。

 

「これで……ピナを生き返らせられるんですね……」

 

「ああ。心アイテムに、その花の雫を振りかければいい。でもここは強いモンスターが多いから、街に帰ってからの方がいいだろうな。もうちょっと我慢して、急いで帰ろう」

 

「はい!」

 

キリトの提案にシリカが応え、俺たちは帰路に着いた

 

(まぁ、本番はこっからだな)

 

先程の橋を渡ろうとした時。キリトがシリカを手で止める。俺たちは道の両脇にある木立を睨めつけ、口を開いた。

 

「「ーーーそこで待ち伏せてる奴、出てこいよ(きな)」」

 

「え………!?」

 

シリカが慌てて木立に目を凝らすが、見えないだろう。()()はそれなりの隠蔽スキル持ちだ。不意に木の葉が動きロザリア御一行(クソビッ〇とその囲い)がでてきた。

 

「ろ………ロザリアさん!?なんでこんなところに………!?」

 

シリカの問いには答えず、ロザリアは唇の片側を吊り上げ笑った

 

「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、剣士サン達。侮ってたかしら?」

 

そこまで言ってようやくシリカに視線を移す。

 

「その様子だと、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」

 

一秒後、ロザリアの言葉が続く。

 

「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」

 

「………!? な……何を言ってるの……」

 

その時、無言だったキリトが進み出て、口を開いた。

 

「そうは行かないな、ロザリアさん。いやーーーー犯罪者(オレンジ)ギルド《タイタンズハンド》のリーダーさん、と言った方がいいかな」

 

ロザリアの眉がぴくりと跳ね、唇から笑いが消えた。

シリカが掠れた声で問い質した。

 

「え……でも……だって……ロザリアさんは、グリーン……」

 

その疑問に俺が答える。

 

「オレンジつっても全員じゃないことが多い。グリーンが街で獲物を見繕って、パーティに取り入って、待ち伏せポイントに誘導する。昨日俺たちの話を盗聴してたのも奴の仲間だ」

 

「そ……そんな……」

 

俺の言葉にシリカは愕然とする。

 

「じゃ……じゃあ、この二週間、一緒のパーティにいたのは……」

 

「そうよォ。あのパーティーの戦力を評価すんのと同時に、冒険でたっぷりお金が貯まって、おいしくなるのをまってたの。本当なら今日にもヤっちゃう予定だったんだけどー」

 

シリカの顔を見ながら、ちろりと舌で唇を舐める。

 

「一番の獲物のあんたが抜けちゃうから、どうしようかと思ってたら、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない。《プネウマの花》って今が旬だから、とってもいい相場なのよね。やっぱり情報収集は大事よねぇ!」

 

そこで言葉を切り、俺たちに視線を向けて肩をすくめた。

 

「でもそこの剣士サン、そこまで解ってながらノコノコその子に付き合うなんて、馬鹿?それとも本当に体でたらしこまれちゃっ「彼女を馬鹿にするなよ」……あ?」

 

俺が言葉を切る形で続ける。

 

「彼女はピナを生き返らせる為にここまで来た。命懸けで」

 

そう、彼女はただのデータであるはずのピナに対してあまりにも誠実だ。ーーー何もかもを隠している俺と違って。

 

「その彼女に対してお前が侮辱できることなんてない」

 

ロザリアを睨み付けてそう言うと、キリトが冷静に続ける。

 

「馬鹿なわけでも、たらしこまれたわけでもない。俺とハルもあんたを探してたのさ、ロザリアさん」

 

「……どういうことかしら?」

 

「あんた、十日前に、三十八層で《シルバーフラグズ》っていうギルドを襲ったな。メンバー四人が殺されて、リーダーだけが脱出した」

 

「……ああ、あの貧乏な連中ね」

 

眉一筋動かさず、ロザリア(クソビッ〇)が頷く。

 

「リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたよ」

 

キリトが冷気と鋭さを感じる声で言った。

 

「でもその男は、依頼を引き受けた俺に向かってろあんたを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言ったよ。ーーーあんたに奴の気持ちが解るか?」

 

「解んないわよ」

 

面倒そうにロザリアは答えた。

 

「何よ、マジんなっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントに死ぬ証拠ないし、そんなんで現実に戻った時罪になるわけないわよ。だいたい戻れるかどうかも解んないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む奴がね」

 

ロザリアの目が凶暴な光を帯びる。

 

「で、あんた、その死に損ないの言うこと真に受けて、アタシらを探してたわけだ。ヒマな人だねー。ま、あんたの巻いた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど……でもさぁ、たった三人でどうにかなると思ってんの……?」

 

そう言ってロザリアが合図を出すと、道の両脇の木から新たに、十人のプレイヤーが出現した。

男たちが、シリカに嫌な視線を投げかけてきた。

それを見てシリカがキリトのコートの陰に身を隠した。

 

「キリトさん、ハルさん……人数が多すぎます、脱出しないと……」

 

「だいじょうぶ。俺が逃げろ、と言うまでは、結晶を用意してそこで見てればいいよ。ハル、一応シリカを頼む」

 

「任せろ」

 

そう言ってすたすたと前に向かって歩き出すキリトをシリカが大声で呼びかける。

 

「キリトさん……!」

 

その声がフィールドに響いた途端ーーー。

 

「キリト……?」

 

族の一人が記憶を探るように視線を彷徨わせる。

 

「その格好……盾無しの片手剣……。ーー《黒の剣士》……?」

 

急激に顔を蒼白にしながら、男は数歩後ずさった。

 

「それにーー短剣を腰に掛けた片手剣使い……《ブラウニー》まで……!」

 

「……ブラウニー?誰が?」

 

ふと俺が疑問を口にすると、盗賊が答える。

 

「おまえだよ!」

 

そんな名前つけられてのか、普通に知らなかったな。呑気に考えているとぽかんと口を開けていたロザリアが、我に帰ったように甲高い声で喚いた。

 

「こ、攻略組がこんなとこをウロウロしてるわけないじゃない!どうせ、名前を騙ってビビらせようってコスプレ野郎に決まってる。それにーーもし本当に《黒の剣士》と、《ブラウニー》だとしても、この人数なら二人程度余裕だわよ!!」

 

その声に勢いづいたように先頭に居たオレンジプレイヤーも叫ぶ。

 

「そ、そうだ!攻略組なら、すげぇ金とかアイテムとか持ってんぜ!オイシイ獲物じゃねぇかよ!!」

 

口々に同意の言葉を喚き、賊たちは一斉に抜剣。それを見たシリカが叫んだ。

 

「キリトさん、ハルさん……無理だよ、逃げようよ!!」

 

動かないキリトを見てシリカが俺に助けを求める。

 

「ハルさん!キリトさんを止めてください!」

 

「だいじょぶ、だいじょぶ、心配するならあっちのオッサン共を心配してやれ」

 

そんな俺たちの会話を聞いて尚、動かないキリトを見て諦めと取ったか、ロザリアと愉快な仲間たちは武器を構え、我先にと走り出した。

 

「オラァァァ」

 

「死ねやぁぁぁ!!」

 

立ち尽くすキリトを囲み、同時に九発もの斬撃を叩き込む。ノックバックによりキリトの体がぐらぐらと揺れる。

 

「いやあああ!」

 

シリカが両手で顔を覆い叫ぶ。

 

「やめて!やめてよ!キリトさんが、し……死んじゃう!!」

 

その言葉に耳を傾けるはずもなく、男たちはひたすらに攻撃を続ける。

その様子を見てキリトに駆け寄ろうとするシリカの肩に手を置き、引き止め、キリトの体力ゲージに向けて指を指す。

体力が回復していることに気づいたのだろう、疑問の表情を浮かべ、シリカがこちらを見る。

やがて、男たちはキリトの体力が減らないことに気付き、戸惑いの表情を浮かべた。

 

「あんたら何やってんだ!さっさと殺しな!」

 

苛立ちを含んだロザリアの命令により、再び攻撃がキリトに降り注ぐが、やはり体力は減らない。

 

「お……おい、どうなってんだよコイツ……」

 

その疑問にキリトがようやく口を開いた。

 

「ーーー十秒辺り四〇〇ってとこか。それがあんたらが俺に与えるダメージの総量だ。俺のレベルは78。ヒットポイントは一四五〇〇………さらに戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルによる自動回復が十秒で六〇〇ポイントある。何時間攻撃しても俺は倒せないよ」

 

それから、キリトは回廊結晶を使い《タイタンズハンド》を全員黒鉄宮の監獄エリアへとぶち込んだ。

ロザリアが少し抵抗したが、キリトが強制的に投げ込んだことにより、監獄エリアへと消えていった。

立ち尽くすシリカにキリトが囁くように話しかける。

 

「……ごめんな、シリカ。君を囮にするようなことになっちゃって。俺の事を言おうと思ったんだけど……君に怖がられると思って、言えなかった」

 

シリカは必死に首を振り否定していた。

 

「街まで、送るよ」

 

そう言ってキリトが歩き出すがシリカが声をかける。

 

「あーーー足が、動かないんです」

 

「ぶっ」

 

「笑わないでくださいよ、ハルさん!」

 

「いや、すまんな」

 

俺が笑いながら言うと、張り詰めていたモノが緩んだようで、そこでようやくシリカも少し笑うことができた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

二十五層の風見鶏亭(かざみどりてい)まで、俺たちはたくさんの事を話した。デスゲームが始まった時の話や、アスナの話、そしてリアルでの話をしているとあっという間に着いてしまい、別れの時が来た。

 

「キリトさん、ハルさん……行っちゃうんですか…?」

 

「ああ……。五日も前線から離れちゃったからな。すぐに、攻略に戻らないと……」

 

「そう……ですよね……」

 

明らかにしょげているシリカを見かねて口を開く

 

「そう辛気臭い顔するなよ、今生の別れってわけじゃない」

 

「…で、でも…!」

 

ーーーそんな保証は無い。そう言おうとしたのだろう。でも、

 

「安心しろ、こいつは死なないさ。そこらのGより生命力がある男だ」

 

「おい、その言葉は聞き捨てならないな」

 

キリトのツッコミを無視しながら話を続ける。

 

「それに死にそうになったら俺が助けるさ。不本意な事にこいつの専属サポーターらしいからな」

 

「まぁ、だからそんなに心配すんな、この程度のゲームさっさとクリアしてやるとも」

 

「ハルの言う通りさ、だから、次は現実世界で会おう。そうしたら、また同じように友達になれるよ」

 

続けてキリトがそう言うと、シリカがそっと目を閉じ、呟いた。

 

「はい。きっとーーーきっと」

 

これがこのゲームで、最初で最後の竜使いとの会話になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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