シリカの一件から三ヶ月と少しーーー
俺は四十八層主街区《リンダース》に来ていた。
なぜここに来たかは二日前に遡るーーー
俺は五十九層の迷宮区にてレベリングをしていた。
七十体程倒し、一度休憩を取るために安全地帯へと向かい、入手したアイテムを確認する。
(大したアイテムは……これは?)
ページをスクロールしていくと、見慣れないアイテムを見つけた。
(ウィンドニウム鉱石、か。何に使うんだ?)
そのアイテムを見た俺はかなりモンスターを倒したのもあり、撤退することにした。
迷宮区から出てすぐにアルゴに連絡し、鉱石のことを聞いたところ、情報量一万コルと引き換えに確かな情報を教えてくれた。
(軽めで攻撃力が高い直剣が作れる、ね。なら、リズベットに頼もう)
まぁ、そんな感じでこの階層に来ているわけだ。
リズベットとは店の開業からすぐの付き合いで、ある時、武器の修繕をどこでしようかと迷っていると、頭の中にリズベット武具店が浮かんだことが始まりだ。
そんな回想はともかくさっさとリズベット武具店に向かおうとすると、すぐ近くのカフェの近くを走るリズベットを見つけた。
(なんでリズベットが?…………あ、主人公に振られたやつか)
最近、虫食いになりつつある記憶を呼び起こしながら、リズベットを追うことにした。
街を囲む城壁の手前にある等間隔に植えられている木の下で立ち止まったリズベットを見つけ立ち止まる。
声を押し殺し泣き続けるリズベットに声をかける。
「リズベット」
「……なんで、あんたが」
「お前に頼みたいことがあってな。転移してきたらちょうどお前が走ってるのを見たんだ」
「……それで、追ってきたわけ?」
「そゆこと」
それを聞いたリズベットは自嘲気味に口を開く。
「あたしね、振られちゃった」
「あたしだけが好きだと思ってたのに、あたしよりもっと凄い人がその人のことを好きだったの」
凄い人とはアスナの事だろう。まぁ、美人だし、強いしでそこらの奴では叶わないことは確かだろう。
「そんでキリトを諦めたわけか」
「あんたの知り合いだったの!?……ていうかなんで分かるのよ」
「勘だ。あのリズベットがこんな短期間で惚れるのなんかあの変人中性イケメンしかいない」
「あの、って………あんたあたしのこと何だと思ってるわけ?」
「変人に惚れる変人」
「殺す!」
「お許しください!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーーまぁ、わかってやってくれ。キリトは人との繋がりを極端に恐れてる」
ーーー俺のせいで。喉元に出かかったその言葉を飲み下して続ける。
「お前と、似たような理由だ」
「ーーーそう」
そんな問答をしているといつの間にかリズベットの涙も収まっていた。
「……元気づけてくれてありがと」
「おう」
「あんたのヘッタクソな慰めのお陰で、立ちなおれた気がするわ」
「ヘタクソて……」
「だってヘタクソじゃない」
「はいはい」
「そういや、さっき依頼って言ってたわね?何すればいいワケ?」
「そんじゃ、振られたばっかで悪いが武器の作成を頼む」
「掘り返すならアホみたいにコルとるわよ」
「すんませんでした」
そんな会話をしていると後ろから
「リズベ……ハル?」
「よう、必然だな」
「なんだそれ」
いつものような会話をしていると、リズベットが口を開く。
「ハルは追ってきたからまだしも、キリトはなんでここがわかったの?」
「あの「どうせ、この街の一番高い塔から見渡したんだろ?」
「……よくわかったな。キモイぞ」
「お前みたいな人たらしのやることなんざ誰でもお見通しなんだよなぁ」
「煽ってるのか?」
「そう思いたいならどうぞ」
「やるか?」
「受けて立つが?」
キリトの余計な一言により今くだらない戦いが始まーー
「ちょっと待ちなさい!しょうもないことで喧嘩しないで!」
…っと思ったが観客に止められたので素直にやめた。
「そういや、キリト」
「?」
「お前はもう少し周囲の事を見た方がいい」
「???」
さも何を言っているのか分からないという顔をしているキリトを連れ、俺たちはリズベット武具店へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リズベット武具店に入ると、中にはアスナがいた。
「リズベット!……なんでハルくんも?」
「ちょうどリズベットに依頼があってな。たまたま見つけたんで、拾ってきた」
「そんな猫みたいな扱いしないでよ」
リズベットが抗議の声を上げるが、それを無視して、リズベットに依頼を伝える。
「ーーーーーなるほど。この鉱石で剣を作って欲しいわけね」
「ああ、多少短くてもいい、軽くて攻撃力の高い直剣が欲しい」
「言っとくけど、ランダムだからそう上手くは行かないわよ」
「アインクラッドで最高の鍛冶師殿が作るものなら粗悪品は出来ないだろ?」
「おだてても何も出ないわよ。………そこまで言われたらいいのを作らないとね」
「そんじゃ頼むぜ鍛冶師殿」
「任せなさい」
リズベットがハンマーを振り下ろし、金属を叩きつける規則正しい音が響く。叩く度に鉱石の形が変わっていき、やがて剣の形になった。
数秒かけ、オブジェクトのジェネレートが完了し、一本の剣が姿を現した。
ダークリパルサーのような美しさは無く、刀身が緑がかっていた。直剣にしては少し短く、短剣よりは長い、なんだが中途半端な剣だった。
それをリズベットが軽々しく持ち上げポップアップウィンドウを開いた。
「名前は……《ディタミネーション》ね。あたしが聞いたことない剣だから、今のところは情報屋の名鑑にも載ってないはずよ。ーーーどうぞ、試してみて」
(ディタミネーション、決断か。俺にはとことん似合わんな)
無言でその剣を受け取りその軽さに驚きつつも、剣を振るう。
「お気に召した?」
リズベットが俺に訊ねる。
「ああ。……軽くて使いやすい。いい剣だ」
「なら良かったわ」
「………ねぇ」
「………?」
「そういえば、あんたいっつも腰に短剣引っさげてるのはなんで?」
「………お前には言っとくか。多分キリトにも見せてもらっただろう?」
「……ええ」
「俺にも似たようなものがある」
そう言って俺は《カルンウェナン》と《ディタミネーション》を構え、
驚いた顔をしながらリズベットが口を開く。
「……キリトやアスナにあんたといい、あたしの周りは凄いやつが多いわね」
「リズベットも十分凄いさ。戦うこととは別のことで誰かを支えてる」
「あんただって知らない間に誰かを支えてるハズよ」
「いや、俺はそんなことない、いつも自分の都合ばっかりだ」
「それは「そういや、お代はいくらだ?」
リズベットが言いかけた言葉を遮って話をそらす。
「………いらないわ」
「いいのか?」
「ええ、さっきのやつ秘密なんでしょ?情報量よ」
「ありがとう」
「はぁー、一日に二回もタダ働きするとは思わなかったわ」
「タダにしたのはそっちだろ」
「うるさい」
そんな会話をしながら、俺はこの先にあるラフィンコフィンとの戦いを考えていた。