新たな武器を手に入れてから二ヶ月がたったある日、俺は攻略組とラフィン・コフィンのアジトへと向かっていた。
事の始まりは一週間程前、罪悪感に耐えかねたラフコフの
そこからは早いもので、捜索に費やしてきた八ヶ月が嘘のように、あれよあれよと事が進み今に至る。
「アスナ、やっぱりやめておこう」
「どうして?今だからこそやるべきよ」
「奇襲される可能性がある。それも、相手が万全の状態で」
朧気な記憶でも覚えている犠牲を俺は回避したかったが、アジトを突き止めた攻略組は止まってくれなかった。血盟騎士団のアスナも同じように。
「それは何度も聞いた、だからこうしていつ襲われても良いように警戒して進んでるんじゃない」
「だが、簡単に捕縛できるとは思わない」
「……その場合はやむなしよ」
「ーーーやれるのか?」
そう言うとアスナが覚悟を決めた瞳を見せる。
「…そうしなければならないならね」
その目を見て、俺は最後の説得を諦めた。
「………わかった、もう何も言わん。アスナの命令通りに動こう」
「助かるわ」
そういうと、俺は後ろにいるキリトの元へ向かった。
「キリト」
「どうした?」
「……もし、犠牲者が出そうになったら伝えてくれ。俺の速度ならまず間に合う」
「……わかった、無理はするなよ」
「お前が言うなよ、お人好し」
「そっちこそ」
いつもの軽口を叩き合い、お互いに心を落ち着かせる。
そして、襲撃が始まる。
上にあった足場からラフコフの構成員が飛び降りてくる。
たったそれだけで攻略組全体が混乱状態に陥った。
「ははははっ!」
「うぁぁぁ!!!」
辺りから悲鳴や笑い声が聞こえてくる。
「死ねぇ!ブラウニー!」
その混乱に乗じて一直線にラフコフが向かってきた。
その攻撃を受け止め、反撃を食らわす
(落ち着け、捕縛優先だ。誰も死なせずにくぐり抜ける!)
攻撃を捌き、死角から襲ってくる別のラフコフの攻撃も躱す。
それを繰り返した結果、周辺のラフコフの武器の耐久値は順調に削れており、一部の武器は壊れ始めていた。
(この調子なら!)
戦う方向になった時、俺が考えついた方法はこれだった。ヒット&アウェイで武器を壊す。これを繰り返すことだ。
相手をしているラフコフ達の武器が壊れ、周辺の鎮圧が終わろうとした時、
ーーーー誰かの悲鳴が聞こえた
「嫌だぁぁぁぁ!!!」
その声が響いたと同時に、
声の方向へ向くと、戦闘開始時にいたはずの聖龍連合のプレイヤーが一人消えている。
(ーーーそんな)
考える暇もなく、後ろからラフコフのメンバーが飛びかかる。
「死ねぇぇぇ!」
狂気を含んだ嗤い声に驚いた俺は反射的にソードスキルを放ってしまった。
ーーー《メテオブレイク》七連撃のソードスキル。
その一撃目で相手の武器は壊れ、続く六連撃が残った体力を吹き飛ばした。
「ヒヒヒっ!人殺しっ!」
そうして狂気的な笑みを浮かべながらそのプレイヤーは破砕音と共にこの城から退場した。
(殺、した。俺が、この手で)
覚悟なんてできちゃいなかった。
攻略組が警戒していれば変えられるかもしれない。そんな甘い考えは一瞬にして打ち砕かれた。
(ーーキリトは)
呆然としながらふとキリトの方を見る。
ーーーそこには驚いた顔で、どこかを見るキリトがいた。
その視線の先を見ると多くのアイテムが落ちている。
落ちているアイテムは他のプレイヤーのアイテムだ。おそらく、ラフコフの。
それを見た瞬間、俺は腰の短剣を抜いた。
(やらなきゃ)
辺りから悲鳴が聞こえる。
(俺が)
狂気じみた嗤い声が聞こえる。
(やるんだ)
周りの悲鳴と嗤い声がいっそう強くなった瞬間、駆けだした。
近くにいたラフコフ五人を通りすがりざまに斬り殺す。
彼らの装備は余りにも貧弱で、一度のソードスキルで儚く砕けて言った。
破砕音を聞きつけた他のラフコフが迫ってくる。
「うぉぉぉっ!!」
それをーーー容赦なく斬る。全力のソードスキルは、武器ごとラフコフを両断した。
そんなことを続けて、ラフコフのメンバーが目に見えて減りだした頃、三つの影がフィールドから逃げ出そうとしているのが見えた。
この襲撃の主犯格である幹部たちだろう。
そう当たりをつけ、俺は迷いなくそのうちの一人の首を狙って飛びかかった。
ぎぃぃん!っという耳障りな音が響き、俺の一撃が
「oh……誰かと思えば、ブラウニー様じゃないか」
そのニヤついた顔を見ていると、怒りが沸いてくる。
「逃げられると思うなよ。PoH」
逃げ出そうとしていたのはやはり幹部格の三人だった。
それを見て、俺も武器を構えるが、おもむろにPoHが構えを解く、それに続いて、横の二人も武器をおろした。
「……なんのつもりだ」
「いや、お前の顔を見てやめようと思ってなァ」
「なに?」
「気づいてないのか?お前、俺たちと同じ顔してやがるぜ?ーーーーま、ここで殺しても面白くなさそうなんでな、撤退させてもらうぜ」
「まて!」
「イッツショータイム、ブラウニー」
背を向けて走り去る三人を追おうとするが、後ろからラフコフのメンバーが襲いかかってくる。
降り掛かってきた刃を弾き蹴り飛ばし、怒りのまま叫んだ。
「逃げるなぁ!
本人しか知らないハズの名前を叫ぶ。
その叫びは周りの音にかき消されたが、確かにPoHには聞こえたようで、彼は驚いた様子でこちらを見た後、去っていった。
その背を追おうとして、蹴り飛ばしたラフコフが斬りかかってくる。
「邪魔だ!」
一切の躊躇いなく剣を振るうが、目の前のこいつはこちらを殺すのではなく、留めて置くことが目的のようで、武器を破壊することすら出来なかった。
それを認識した俺は、無力化ではなく、体力を全損させることにした。
(こんな奴ら生きてたってろくなことをしない)
脳裏に浮かぶのは、まだ会ったことの無い
(目の前のこいつが同じような事をしない保証がどこにある)
ドス黒い感情が滲み出る。
(ーーーそれなら、ここで確実にーー)
武器を
ーーーーよりも前に、誰かが目の前のそいつを捕縛した
驚いて視線を向けるとそこにはキリトがいた。
「……もういい。もう、終わった」
そう言われて周りを見ると、攻略組は武器を収めて、他のラフコフのメンバー達を捕縛している。
(今、俺は、何を)
ーーーーーーーーーーーーー
襲いかかって来たメンバーを捕縛したキリトに質問する。
「何人、死んだ?」
「攻略組が九人、ラフコフのメンバーが、三十四人だ」
キリトが暗い顔でそういった。
ーーそのうちの十三人は俺だ。
そういうとキリトが驚いた様子でこちらを見る。
「……お前は、何人だ?」
キリトにそう質問すると、キリトの体がビクッと反応し、視線を下に向け、しばしの逡巡の後、口を開いた。
「……二人だ」
「……そうか」
(変わらなかった……か)
それを聞いた俺はポーチから転移結晶を取り出す。
「ハル、どこへ行くつもりだ?」
キリトが不安そうな顔でこちらを見る。
「……さぁな」
「ちょっとまーーー」
キリトの声を無視して、俺は転移先を指定した。
俺はもう、その場に居られなかった。
ーーーーーーーーーーー
視界の光が止み、いつもの街並みが見えた。
ゆっくりと歩き、いつも泊まっている宿へと向かって歩いていく。
頭の中からPoHの言葉が消えない。
(同じ顔、だと?)
ーーそんなわけが無い。と、思いたかった。
あの時の俺は、人を殺す事を躊躇しなかった。それどころか、死んでしまえばいいなどと思っていた。
(もしかしたら、あの時、俺は本当に同じ顔をしていたのかもしれない)
(ーーー殺人鬼と、同じ顔を)
そうしていつの間にか泊まっている部屋に着き、中に入った瞬間、体からフッと力が抜け、扉にもたれ掛かる形で倒れる。
何かの状態異常にかかったのかと視界に写るカーソルを見るが何のアイコンもなかった。
そこでようやく気づいた。俺は今、想像以上に疲弊しているんだと。
それも、身体的ではなく精神的に。
唐突な眠気が俺を襲い、俺の意思に反し瞼が落ちていく。
(出来れば、殺したくなかったなぁ………)
そんな後悔と共に、俺の意識は途切れた。
書き溜め消えたので更新ペース落ちます。